仲野 翔悟

外食業で特定技能外国人を雇用する方法と注意点

外食業の就労ビザに特定技能が加わり,これまではアルバイトで就労する外国人が多かった外食業でも,外国人の正社員雇用の事例が増えています。
一方で,就労ビザでの外国人雇用が少なかった外食業では,今後,外国人雇用のノウハウが少ないまま,特定技能外国人を雇用し,入管法に抵触してしまうようなケースが増えることが懸念されます。
そのため,本記事では外食業を営む企業に向けて,特定技能外国人を雇用する方法から,事前に知っておくべき注意点を紹介します。
最後まで読んで頂くことで,外食業で特定技能外国人の雇用をする際の判断材料にして頂けると思いますので,お付き合いください。

1.外食業で特定技能ビザを取得する2つの方法

外食業において特定技能ビザを取得するには,外国人自身が「技能実習生2号を良好に修了」しているか,「技能試験と日本語試験に合格」している必要があります。

1-1技能実習生2号を良好に修了

「医療・福祉施設給食製造職種」の技能実習を2年10ヶ月以上修了した上で,外国人技能実習評価試験の専門級(実技試験のみ可)合格証明書を特定技能ビザ申請の際に提出すると,技能実習2号を良好に修了したとみなされます。

もし,外国人技能実習評価試験の専門級に合格できなかった場合でも,技能実習中の実習評価について,受入れ企業と監理団体に評価調書を発行してもらうことで,技能実習2号を良好に修了したとみなされます。

もっとも,特定技能外食業分野へ移行できる技能実習の職種が「医療・福祉施設給食製造職種」のみであるため,「技能実習生2号を良好に修了」した外国人が外食業分野へ移行するケースは少ないのが現状です。

1-2技能試験と日本語試験に合格

外食業特定技能1号技能測定試験の合格,および日本語能力検定N4以上に合格または国際交流基金日本語基礎テストの結果により,特定技能ビザ申請のための,技能基準と日本語基準の要件を満たすことができます。

外食業において特定技能ビザの取得を目指す外国人のほとんどが,国内外で実施されている,技能試験と日本語試験に合格する必要があるため,公開されている学習テキストなども参考にし,ビザ申請前に余裕のある受験計画を立てる必要があります。

特定技能ビザの試験については,【特定技能ビザ】全14分野の試験内容のページもご確認ください。

なお,他業種にて,技能実習生2号を良好に修了した外国人については,日本語試験が免除されますので,その点についても併せてご確認ください。

2.受入れ企業が必要な準備

〇協議会加入
受入れ企業は,農林水産省が主体の「食品産業特定技能協議会」に加入する必要があります。

協議会は,協議会員の相互連絡や情報共有の促進,特定技能の制度趣旨や優良事例の周知,人手不足状況の把握などの必要な対応などを協議し,対策を講じていくことを目的として設立されました。

協議会加入のタイミングは,初めて特定技能外国人を受入れてから4ヶ月以内です。
協議会加入に際して費用は発生せず,農林水産省の協議会ページより,加入申請後,通常2週間~1ヶ月程度で,協議会に加入することができます。

〇各役所等で取得が必要な書類
表の中に記載した書類は,特定技能ビザ申請にあたり,受入れ企業が各役所等で取得する必要のある書類です。
これら以外にも,特定技能ビザ申請に際し,追加書類の取得を求められる場合もあります。

  • 登記事項証明書
  • 業務執行に関与する役員の住民票の写し
  • 労働保険料等納付証明書(未納なし証明書)
  • 社会保険料納入状況回答票又は健康保険・厚生年金保険料領収証書の写し
  • 税務署発行の納税証明書
  • 法人住民税の市町村発行の納税証明書

〇特定技能外国人の支援体制を整える
特定技能外国人を雇用する際には,ビザの申請・更新業務,特定技能外国人への支援業務や四半期ごとの定期報告など,多くの業務が発生します。
自社で特定技能外国人を支援するか,登録支援機関に支援を委託するか,いずれかの手段を取る必要があります。

3.外食業で特定技能外国人が従事可能な業務

外食業で特定技能外国人の雇用ができるのは,日本標準産業分類の「飲食店」または「持ち帰り・配達飲食サービス業」に該当する企業です。
具体的には,食堂,レストラン,テイクアウト専門店,宅配専門店,仕出し料理店などが受入れ企業として想定されます。

また,従事可能な業務は,飲食物調理,接客,店舗管理など,外食業全般の業務です。
それ以外にも,日本人従業員が従事している業務(農産物の生産,配達作業など)があれば,付随的に従事可能とされています。

なお,風営法に規定された,風俗営業にかかわる事業所では就労することができず,接待業務に従事することも認められていません。

4.外食業で特定技能外国人を雇用する際の注意点

①特定技能外国人を正社員として直接雇用する
外食業で特定技能外国人を雇用する場合,正社員として直接雇用しなければ特定技能ビザを取得することができません。
アルバイトで雇用していた外国人の場合も,特定技能ビザを取得させるためには,雇用形態の変更が必要となります。
また,派遣形態では特定技能ビザは取得できませんのでご注意ください。

②日本人と同等の賃金を支払う
雇用する特定技能外国人に支払う賃金やその他の待遇は,日本人を雇用する場合と同等の水準である必要があります。
外国人という理由だけで,賃金格差を設けることは許されていません。

特定技能外国人を雇用する際には,本人へ支払う賃金などの他に,委託する登録支援機関へ支払う費用,ビザ取得費用なども発生するため,場合によっては日本人を雇用するよりも費用がかかります。
そのため,特定技能外国人を安い労働力として雇用することはできませんので注意してください。

③特定技能外国人の受入開始後は四半期ごとに定期報告書を提出する
特定技能外国人の雇用開始後は,雇用状況などについて,四半期ごとに入管庁へ報告書を提出する必要があります。

1月1日から3月31日までが,第1四半期で,その後,第4四半期まで,年4回の提出義務があり,報告書の提出は,翌四半期の初日から14日以内が期限で,提出が遅れた場合には,遅延理由書が求められます。

また,報告書には,タイムカードや賃金台帳なども添付する必要があります。
もし,添付資料などから,ビザ取得の際に提出した雇用契約内容と齟齬が見つかり,改善がなされない場合は,受入れ停止などの措置がなされる可能性もあるため,雇用契約内容通り,適正な特定技能外国人の雇用を継続する必要があります。

特定技能外国人の就労開始後は,義務的支援なども含めて,継続的な制度運用業務を行うことが必要なため,報告書についても失念しないよう注意が必要です。

④接待業務に従事禁止
風営法に規定された事業所での就業は勿論のこと,接待業務に従事させることは,全業態で禁止されています。
これらが発覚した場合は,今後外国人の受入れができなくなる可能性があります。

⑤デリバリー業務のみの従事禁止
外食業で就業する特定技能外国人が付随的に,デリバリー業務に従事することはできますが,デリバリー業務を主な業務とすることは認められていません。
主な業務は,あくまで,飲食物調理,接客,店舗管理などの外食業全般の業務です。

5.外食業で特定技能ビザ以外の就労可能ビザ

外食業では,本記事で紹介している,「特定技能ビザ」以外にも,外国人を雇用することのできるビザがあります。

①就労制限のないビザ
次の4つのビザは「身分系ビザ」と呼ばれ,これらのビザをもつ外国人は,日本での就労制限がないため,外食業でも従事する業務に制限なく,就労することができます。

  • 永住者
  • 永住者の配偶者等
  • 日本人の配偶者等
  • 定住者

なお,「配偶者等ビザ」については,離婚や死別によって,ビザの有効性が失われている場合もあるため,雇用の際には注意が必要です。

②アルバイトで就労可能なビザ
家族滞在ビザ,留学ビザをもつ外国人は,「資格外活動許可」を取得することで,原則として週28時間以内のアルバイトをすることができます。
今後は,留学生が特定技能ビザの試験に合格し,留学ビザから特定技能ビザに変更するようなキャリアパスも想定されますが,留学ビザでのアルバイト期間に,週28時間以上のオーバーワークをしていたことが発覚すると,ビザ変更や更新ができない可能性もあるため,注意が必要です。

資格外活動許可について,詳しい内容は,資格外活動許可を徹底解説【留学生担当者様向けコラム】をご確認ください。

③技術・人文知識・国際業務ビザ
技術・人文知識・国際業務ビザ,通称「技人国ビザ」でも,外食業で,外国人を雇用できる可能性があります。
もっとも,技人国ビザは特定技能ビザとは異なり,ホールスタッフ等に従事する場合はビザの取得ができません。

外食業を営む会社でマーケティング業務や会計業務に従事する場合には,技人国ビザを取得できる可能性はありますが,上記のようにホールスタッフや調理補助等では,技人国ビザは取得できません。

なぜなら,技人国ビザは教育機関で学んだ専門的な技術や知識を活かすことを前提としたビザであるため,外食業の現場で従事する場合には,ビザの該当性を満たさないからです。

そのため,レストランなどで外食業全般の業務に従事する,一般社員としての雇用は現実的ではありません。

なお,入管庁へ虚偽の申請をして,ビザを取得した場合には,不法就労助長罪や在留資格等不正取得罪などに問われる可能性がありますので,細心の注意が必要です。

不法就労助長罪について詳しい内容は,知らなかったでは通用しない不法就労助長罪とは?をご確認ください。

④N1特定活動ビザ
N1特定活動ビザは,特定技能ビザと同じく,2019年に施行された,比較的新しいビザのひとつです。
技人国ビザでは,外国人雇用が困難な外食業でも,N1特定活動ビザであれば一定の要件を満たした外国人の受入れが可能です。

具体的には,日本の大学卒業以上の学歴と日本語試験N1合格程度の日本語能力をもつ外国人であれば,「日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務」に従事することが可能です。
日本語での接客業務などはこれに該当し,「業務の一部は一定水準以上の業務をしなければならない」などの制約はありますが,N1特定活動ビザが取得できれば,外食業であっても外国人材の就労が可能です。

N1特定活動ビザについて,詳しい内容は,【解決事例】N1特定活動ビザ(日本の大学卒業者の就労ビザ)をご確認ください。

6.まとめ:外食業で特定技能外国人を雇用する方法と注意点

本記事で紹介したとおり,特定技能ビザを取得するためには,多くの手続きが必要で,日本人従業員と比べると,従事可能な業務にも制限があります。

一方で,特定技能ビザによって,日本人従業員の確保が難しい外食業の企業にも,外国人雇用の門戸が開かれ,優秀な特定技能外国人には,将来的に,無期限の就労や家族帯同を認める動きもあります。

また,外食業では,特定技能ビザ以外の就労可能ビザもあるため,受入れ企業や外国人の要件,ビザ取得にかかる費用・労力などを総合的に判断し,双方にとって,最適なビザ選択をされることをお勧めします。

行政書士法人第一綜合事務所は,外食業を営む企業様の顧問も数多く務めております。
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この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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