ベトナムの二国間協定の誓約事項と受入れフロー
特定技能制度の運用にあたり,日本とベトナムの間では二国間協定が締結されています。
本記事では,二国間協定での誓約事項と,ベトナム人を特定技能ビザで受入れする際のフローについて解説します。
Index
1.特定技能の二国間協定とは
二国間協定が締結されている目的は,特定技能制度の運用に関しての誓約事項を定めることで,制度の運用を円滑にして,かつ特定技能外国人が不利益を被らないようルール決めをすることなどが主な目的です。
2.二国間で共有される主な情報内容
ベトナムとの二国間協定では,次の事項について情報共有されることが決定しています。
- 特定技能外国人やその親族から金銭を徴収する行為
- 人権侵害に該当する行為
- 手続き上の不正に関する行為
- 認められない手数料の徴収などの行為
これらの事項が定められている理由として,ベトナムでは特に外国人労働者から不当な金銭的搾取を行う事例などが多いことが挙げられます。
そのため,ベトナム技能実習生が借金苦を理由に失踪する原因にもなっています。
また,情報共有される事項は,全て入管法にも抵触する事項であるため,違反した場合は,情報共有されるだけでなく,特定技能外国人の受入れができなくなります。
3.ベトナム政府が誓約した重要事項
次の事項については,二国間協定でベトナム政府が誓約した主な内容です。
- ベトナム送出し機関許認可に際しての厳密な審査
- 日本政府からの情報提供により送出し機関の調査実施
- 改善命令を行った受入れ機関や登録支援機関の情報をベトナムで公表
- 推薦者表の審査・発行
- 日本政府の依頼に応じて送出し機関の情報提供
それぞれ解説します。
〇ベトナム送出し機関許認可に際しての厳密な審査
ベトナム人を特定技能ビザで呼び寄せする際には,適格性などについて厳しく審査することが誓約されています。
ベトナムの送出し機関は,許認可を受けた後でも,営業停止などが発表されることが珍しくなく,特定技能の二国間協定でも許認可する際の審査の厳格化が約束されています。
特に,特定技能外国人採用に対しての受入れ機関へのキックバック有無などについては,厳しく確認を受けます。
〇日本政府からの情報提供により送出し機関の調査実施
特定技能外国人が,不当に金銭的な搾取などを受けていることが発覚した場合は,日本政府がベトナム政府へ送出し機関の調査依頼をする可能性があります。
ベトナム人の特定技能外国人を呼び寄せする場合は,送出し機関を仲介することが義務であるため,手続き上の不正などについても調査の対象とされます。
〇改善命令を行った受入れ機関や登録支援機関の情報をベトナムで公表
特定技能外国人にかかわる日本側の機関(受入れ機関・登録支援機関)への改善命令があった場合は,ベトナム政府へ報告され情報が公表されます。
〇推薦者表の審査・発行
ベトナム人が特定技能ビザを取得するためには,推薦者表が必要となります。
そのため,ベトナム政府は,国内外にいるベトナム人から申請を受けた場合は,申請書類の審査と推薦者表の発行をする義務があります。
〇日本政府の依頼に応じて送出し機関の情報提供
日本政府より依頼を受けた場合は,ベトナム送出し機関の情報提供をすることを誓約しています。
4.日本政府が誓約した重要事項
次の事項は,日本政府が誓約した主な重要事項です。
- 許可を得た送出し機関が仲介したベトナム人を受入れ
- ベトナム政府からの送出し機関の情報を日本国内で公表
- 改善命令を行った登録支援機関の情報をベトナム政府に報告
- 特定技能外国人が入居する寮の適正な運用
- ベトナム政府からの要請により受入れ機関や登録支援機関の調査をする
- 欠格事由に該当するベトナム人が特定技能の試験受験を禁止する
それぞれ確認して行きます。
〇許可を得た送出し機関が仲介したベトナム人を受入れ
ベトナム政府より許認可を得た送出し機関が仲介したベトナム人のみに,特定技能ビザの取得を許可することを誓約しています。
また,特定技能外国人をベトナムから呼び寄せる際には,必ず送出し機関を通じて推薦者表の発行をする必要があるため,送出し機関の仲介は必須となります。
〇ベトナム政府からの送出し機関の情報を日本国内で公表
ベトナム政府より連絡を受けた送出し機関の情報について,日本国内で公表します。
特定技能ビザに必要な推薦者表を取得できる許認可を受けた送出し機関の情報や,許認可が取り消しとなった送出し機関の情報公開などが含まれます。
〇改善命令を行った登録支援機関の情報をベトナム政府に報告
登録支援機関などへ改善命令を行った場合などに,ベトナム政府へも報告されます。
〇特定技能外国人が入居する寮の適正な運用
受入れ機関が実費以上の住居費を特定技能外国人から控除することの禁止や,住居の居室の面積が1人につき7.5㎡以上あることなどのルールが適正に守られることを保証することを誓約しています。
〇ベトナム政府からの要請により受入れ機関や登録支援機関の調査をする
ベトナム政府からの要請により,受入れ機関や登録支援機関の調査を行い,その結果を報告することを誓約しています。
〇欠格事由に該当するベトナム人が特定技能の試験受験を禁止する
ビザを有していない不法滞在者など対しては,特定技能の試験を受験させないことを誓約しています。
5.特定技能外国人の受入れフロー(呼び寄せ)
特定技能外国人を呼び寄せる際の受入れフローは,次の7ステップです。
② 採用する人材を確保
③ 雇用契約の締結
④ 推薦者表の取得
⑤ 特定技能ビザの取得
⑥ 在ベトナム日本大使館での手続き
⑦ 日本へ入国・就労開始
順番に確認して行きます。
① 労働者提供契約の承認(受入れ機関と送出し機関)
受入れ機関と許認可を受けた送出し機関の間で,業種や募集人数,労働条件などを定めた「労働者提供契約」を締結する必要があります。
締結後は,送出し機関を通じて,ベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(DOLAB)より労働者提供契約の承認を得ます。
② 採用する人材を確保
承認を受けた労働者提供契約の内容に基づいて,送出し機関がベトナム国内で人材の募集を行います。
③ 雇用契約の締結
労働者提供契約に基づいて,受入れ機関と採用が決定した特定技能外国人が,雇用契約を締結します。
雇用契約を締結する際には,特定技能ビザを取得するために必須の事前ガイダンスを兼ねる場合が多いです。
なお,事前ガイダンスについては,テレビ電話などを使用して実施することも認められているため必ずしも受入れ機関の担当者が現地に赴く必要はありません。
④ 推薦者表の取得
雇用契約書やその他の必要書類をDOLABへ提出して,推薦者表を取得します。
推薦者表は,ベトナム国内での必要手続きを完了した証明書として,特定技能ビザの取得申請のための必要書類です。
推薦者表についての質問は,次の連絡先へ問い合わせすることができます。
ベトナム社会主義共和国労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局
電話番号:+84-24-3824-9517
メールアドレス:nbcadna.dolab@gmail.com
⑤ 特定技能ビザの取得
推薦者表や特定技能の申請に必要な書類などを,日本の受入れ機関に郵送して,その他の必要書類と共に入管へ特定技能ビザの申請をします。
特定技能ビザの申請は,申請する特定技能外国人に代わって,申請等取次者の資格をもつ受入れ機関の役職員や登録支援機関などが代行することが可能です。
⑥ 在ベトナム大使館での手続き
日本で無事に特定技能ビザが発行されたら,特定技能ビザの原本をベトナムにいる特定技能外国人へ郵送します。
その後,特定技能ビザを在ベトナム日本大使館へ持参することで,日本へ出国するための正式なビザの発給を受けることができます。
⑦ 日本へ入国・就労開始
日本へ入国したら日に空港にて,特定技能ビザ(在留カード)が発行され,通常は入国日より1年間の在留期間が付与されます。
空港で特定技能ビザを受け取った日より,正式に特定技能外国人としての就労が可能となります。
6.特定技能外国人の受入れフロー(日本にいるベトナム人)
既に日本にいるベトナム人が特定技能ビザを取得する際の受入れフローは,次の5ステップです。
② 雇用契約の締結
③ 推薦者表の取得
④ 特定技能ビザの取得
⑤ 就労開始
それぞれ確認します。
① 採用する人材を確保
特定技能外国人として採用する人材の選定を行います。
採用する人材の選定には,人材紹介会社を使う場合や元々技能実習生として受入れしていた外国人をそのまま特定技能ビザにて継続雇用することが想定されます。
② 雇用契約の締結
雇用契約の内容などについて,特定技能外国人と合意をして雇用契約の締結をします。
この際に,事前ガイダンスを兼ねて,特定技能ビザに必要な他の必要事項についても説明を行うことをお勧めします。
③ 推薦者表の取得
特定技能ビザへの切り替え申請のための必要な書類である「推薦者表」を駐日ベトナム大使館より取得します。
推薦者表の申請は,申請書や住民票などの必要書類を駐日ベトナム大使館へ郵送することで,1~2週間ほどで取得することができます。
なお,技能実習ビザと留学ビザ以外のビザをもつベトナム人については,推薦者表は不要となる点は,勘違いが多いので注意して下さい。
推薦者表についての質問は,次の連絡先へ問い合わせすることができます。
駐日ベトナム大使館労働管理部
電話番号:03-3466-4324
メールアドレス:vnlabor@vnembassy.jp
④ 特定技能ビザの取得
取得した推薦者表と特定技能ビザに必要な書類を,入管へ提出して審査に問題が無ければ特定技能ビザを取得することができます。
⑤ 就労開始
特定技能ビザ(在留カード)を取得した日より,特定技能外国人としての就労を開始することができます。
7.まとめ:ベトナムの二国間協定の誓約事項と受入れフロー
本記事では,ベトナムとの二国間協定の誓約事項や受入れフローを紹介しました。
技能実習生でも,徴収する費用や人権面などで度々問題が取り上げられるベトナムとの二国間協定では,特に,特定技能外国人を保護する内容の誓約事項が多い印象です。
そのため,特定技能外国人を受入れする際には,入管法などに抵触するような不正があればベトナム政府にも報告されて,今後の受入れが困難になる点には特に注意が必要です。