仲野 翔悟

N1特定活動ビザ(特定活動46号)の解決事例をご紹介します!

政府は,外国人留学生の日本国内での就職率の向上を目指し,留学生の就職支援の観点から,新たな施策を打ち出しました。
それが,2019年5月30日から施行されたN1特定活動ビザ(特定活動46号)と言われるものです。
これにより,要件を満たす方については,サービス業についても就業のチャンスが拡大しました。
本コラムでは,以下の事例をもとに,留学生と企業にとっての新たな選択肢である,N1特定活動ビザについて解説していきます。

台湾人のAさんは,東京都内の大学(商学部)に通う4年生です。
有名レストランYでホールのアルバイトをしていますが,卒業後もこの店で働きたいと考えるようになりました。
正社員として登用されたのちは,常勤で,ホールでの接客の他,店舗の経理業務を任せたいと言われています。
しかし,Aさんは同じように留学をした台湾人の先輩から,飲食店での接客の仕事は留学期間中のアルバイトでしかできない,と言われていました。
お客様のメインは日本人ですが,ビザを取得することはできないのでしょうか。

1.N1特定活動ビザでどんな仕事ができるの?

そもそも,N1特定活動ビザでは,具体的にどのような仕事ができるのでしょうか?
結論から言うと,N1特定活動ビザでは,今まで「技術・人文知識・国際業務」で認められてこなかった,現業メインでのフルタイム就業が可能になります。
これは,N1特定活動ビザの最大のメリットであると言えます。

では,具体的にはどのような業務に従事することが出来るのか。
詳細な説明に先立ち,まずはN1特定活動ビザで従事可能な活動の大枠を捉えましょう。
N1特定活動ビザで従事可能な業務について,出入国在留管理庁公表のガイドラインでは次のように記載されています。

「日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務」

「日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務」とは,単に雇用主等からの作業指示を理解し,自らの作業を行うだけの受動的な業務では足りず,いわゆる「翻訳・通訳」の要素のある業務や,自ら第三者へ働きかける際に必要となる日本語能力が求められ,他者との双方向のコミュニケーションを要する業務であることを意味します。

つまり,高い日本語能力を用いて他者とコミュニケーションをすることを基礎にして成り立つ業務であり,代表的なものとして接客業が挙げられます。
これによって,これまで技術・人文知識・国際業務の在留資格では従事困難であった接客業や小売業の現場での在留資格取得が可能になりました。

ただし,N1特定活動ビザであれば,無制限に現業に従事できるという訳ではありません。N1特定活動ビザの業務には,「本邦の大学又は大学院において修得した広い知識及び応用的能力等を活用するものと認められること」という限定がついています。

これは,従事しようとする業務内容に,技術・人文知識・国際業務の在留資格の対象となる学術上の素養等を背景とする一定水準以上の業務が含まれていること,又は,今後そのような業務に従事することが見込まれることを意味します。

したがって,技術・人文知識・国際業務のように一定水準以上の業務をメイン業務とする必要はないものの,全くの単純作業のみに従事することはN1特定活動ビザでも認められず,業務の一部は一定の専門性を要する業務でなければならないということです。

もっとも,今後一定水準以上の業務に従事することが見込まれる場合でも良いとなっていますので,例えば,入社当初はレストランのホールスタッフとして採用し,ゆくゆくはお店の経理も任せるようにするといった場合も可能になります。

上記の前提を踏まえて,ガイドラインに記載の具体例をご紹介します。

ア 飲食店に採用され,店舗において外国人客に対する通訳を兼ねた接客業務を行う
もの(それに併せて,日本人に対する接客を行うことを含む。)。
※ 厨房での皿洗いや清掃にのみ従事することは認められません。

イ 工場のラインにおいて,日本人従業員から受けた作業指示を技能実習生や他の外
国人従業員に対し外国語で伝達・指導しつつ,自らもラインに入って業務を行うもの。
※ ラインで指示された作業にのみ従事することは認められません。

ウ 小売店において,仕入れや商品企画等と併せ,通訳を兼ねた外国人客に対する接
客販売業務を行うもの(それに併せて,日本人に対する接客販売業務を行うことを含む。)。
※ 商品の陳列や店舗の清掃にのみ従事することは認められません。

エ ホテルや旅館において,翻訳業務を兼ねた外国語によるホームページの開設,更新作業を行うものや,外国人客への通訳(案内),他の外国人従業員への指導を兼ねたベルスタッフやドアマンとして接客を行うもの(それに併せて,日本人に対する接客を行うことを含む。)。
※ 客室の清掃にのみ従事することは認められません。

オ タクシー会社に採用され,観光客(集客)のための企画・立案を行いつつ,自ら通訳を兼ねた観光案内を行うタクシードライバーとして活動するもの(それに併せて,通常のタクシードライバーとして乗務することを含む。)。
※ 車両の整備や清掃のみに従事することは認められません。

カ 介護施設において,外国人従業員や技能実習生への指導を行いながら,外国人利用者を含む利用者との間の意思疎通を図り,介護業務に従事するもの。
※ 施設内の清掃や衣服の洗濯のみに従事することは認められません。

2.N1特定活動ビザの要件

ここまでで,N1特定活動ビザでどのような仕事に従事可能か理解できましたか。
では次に,N1特定活動ビザはどのような条件を満たせば取得出来るのか,その要件について確認していきましょう。

N1特定活動ビザの要件として,法務大臣告示では以下の4つが挙げられています。

① 常勤の従業員として雇用され,日本の大学又は大学院において習得した知識や能力等を活用することが見込まれること
② 日本の大学(短期大学を除く)を卒業し,又は大学院の課程を修了して学位を授与されたこと
③ 高い日本語能力を有すること(試験又はその他の方法により日本語能力試験N1レベル相当が確認できること)
④日本人と同等額以上の報酬を受けること

まず1つ目,こちらは前記「1. N1特定活動ビザでどんな仕事ができるの?」で解説をした通り,活動内容に「技術・人文知識・国際業務」的業務が含まれていることを指しています。

次に2つ目と3つ目の要件についてですが,
そもそも,N1特定活動ビザの制度趣旨は,日本の大学を卒業した優秀な外国人留学生の日本国内での就職を支援することでした。

この制度趣旨に則して,その対象となる留学生は,以下の学歴要件と日本語能力要件の両方を満たしていなければなりません。

①学歴要件 ※下記のいずれかに該当
・日本の4年制大学を卒業
・日本の大学院の過程を修了
(注)短期大学は含まれない

②日本語能力要件 ※下記のいずれかに該当
・日本語試験N1合格
・BJT480点以上
・外国の大学等において日本語を専攻

最後に報酬の要件については,多くの就労ビザと同様,日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けることが必要とされています。
これは,外国人であることを理由として報酬に関して不利益的取り扱いを禁止する趣旨で設けられているもので,会社に賃金規定がある場合は,日本人大卒者・院卒者と同一の基準に従って,給与を決定しなければなりません。

以上がN1特定活動の主な要件です。
ここまでのまとめとして,一度本コラムの冒頭の事例に戻り,解決の道筋を追ってみましょう。

①常勤の従業員として雇用され,本邦の大学又は大学院において習得した知識や能力等を活用することが見込まれること

Aさんは,常勤の従業員としてレストランYに雇用される予定でした。
また,接客のみならず,店舗の経理についても任される予定とのことです。
Aさんは,商学部ですので,経理業務に必要な出納に関する知識を大学で学んでいました。
したがって,本邦の大学において習得した知識・能力を活用する業務への従事が予定されています。

②日本の大学(短期大学を除く)を卒業し,又は大学院の課程を修了して学位を授与されたこと
Aさんは東京都内にある四年制大学を卒業予定ですので,日本の大学を卒業するものとして,②の要件を満たします。

③高い日本語能力を有すること,④日本人と同等額以上の報酬を受けること,の2つの要件については,雇用契約書の写しと日本語能力試験N1の証明書の写しを提出することとしました。

結果,Aさんは無事に留学ビザからN1特定活動ビザへの在留資格変更許可を得ることができました。

3.N1特定活動ビザの注意点

ここからは前記要件以外で,N1特定活動について押さえておくべき注意点をご紹介します。

〇雇用形態
まず,N1特定活動ビザが許可される雇用形態は,フルタイムでの直接雇用に限定されています。
つまり,短時間のパートタイムやアルバイトでの雇用や,派遣形態での雇用では,N1特定活動ビザは許可されません。
この点は,技術・人文知識・国際業ビザとは少し異なる点になりますので,注意が必要です。

〇社会保険加入
社会保険に加入義務のある法人や5人以上の常勤従業員がいる個人事業は,社会保険に加入している必要があり,そのことがガイドラインにて明文化されています。

〇在留期間の指定
N1特定活動の在留期間は,最大5年が付与されます。
しかし,原則として「留学」の在留資格からの変更時と初回の更新時には「1年」の在留期間が決定されます。
これに対し,「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は会社規模等によって初回変更時から5年の付与がされ得ます。

〇転職時の在留資格変更
技術・人文知識・国際業務とは異なり,N1特定活動ビザを有する外国人が転職する場合でも「N1特定活動」から「N1特定活動」に在留資格の変更が必要となります。

技術・人文知識・国際業務の在留資格の場合,転職の際には,地方出入国在留管理局に対して退職の届出と,新しい就職先の届出を,それぞれの事実が発生した日から14日以内に届け出れば足ります。
そして,転職先での仕事内容が在留資格に合致しているかどうかは,在留期間の更新許可申請の際に判断されることになります。

これに対して,N1特定活動ビザの場合は,在留資格を取得する際に,就職先となる特定の所属機関が指定されます。
転職によって所属機関が変わる場合は,指定の活動が変更になることから,転職の都度,在留資格変更許可申請を行い,入管の審査を受けなければなりません。

4.N1特定活動ビザのまとめ(メリット・デメリット)

N1特定活動ビザの新設は,日本の留学生及び企業に大きなメリットをもたらしました。
それは,留学生にとっては就職先の多様化であり,企業にとってはこれまで手が出せなかった外国人材の採用可能性です。

制度の中には,採用当初は短い在留期間しか付与されないことや,転職の際に在留資格変更が必要になるといった,マイナーな不都合も存在します。
しかし,これらのメリットとデメリットを比較すれば,留学生にとっても,企業にとってもメリットが優位に立つ制度と言えるのではないでしょうか。

現在,日本は深刻な人材不足に直面し,特定技能制度の新設など,N1特定活動ビザ以外にも,続々と現業系の仕事へのアクセス経路が増えています。
そのため,留学生,もしくは留学生を雇用予定の企業にとって,どの在留資格が最適であるかの判断は複雑かつ困難になってきています。

どの在留資格を申請すべきか分からない!とお困りの際には,ぜひ行政書士法人第一綜合事務所までご相談ください。
お客様にとっての最適解をご案内致します。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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