仲野 翔悟

【特定技能ビザ】漁業分野の試験概要と雇用形態

漁業は船上での過酷な作業や,自然環境にも仕事が左右されやすい業種であるなどの理由で,日本人の定着率が低い産業としても知られています。
加えて,外国人の受入れも進んでおらず,技能実習制度でも漁業分野で雇用されている外国人数は,全技能実習生のわずか1%程度です。
そんな中,特定技能ビザが施行されたことで,制度上,漁業分野で外国人が従事できる業務内容も広がりました。
外国人雇用のハードルが下がったことで,外国人雇用に興味を持ち始めた方も多いのではないでしょうか。
本記事では,特定技能の漁業分野の試験概要や雇用形態などを中心に紹介します。
最後まで読んで頂くことで,漁業分野で特定技能外国人の雇用をする際の判断材料にして頂けると思いますので,ぜひお付き合いください。

1. 特定技能「漁業分野」について

まずは,特定技能の漁業について,業務区分からご紹介していきます。

1-1 業務区分

特定技能「漁業」には,次の表のとおり2つの業務区分があります。
それぞれに対応する技能実習制度の職種・作業で,「技能実習2号を良好に修了」した外国人は,漁業技能測定試験の合格をしなくても,特定技能ビザを取得する要件を満たします。

また,特定技能制度は,技能実習制度と違い「漁業」の業務区分が作業ごとに分けられていません。
そのため,例えば「漁船漁業職種・かつお一本釣り漁業作業」の技能実習を修了した外国人が漁業の特定技能ビザを取得した場合は,技能実習中は従事できなかった他の作業への従事も可能となります。

特定技能制度(業務区分) 技能実習制度(職種) 技能実習制度(作業)
漁業
(漁具の製作・補修,水産動植物の探索,漁具・漁労機械の操作,水産動植物の採捕,漁獲物の処理・保蔵,安全衛生の確保等)
漁船漁業 ・かつお一本釣り漁業
・延縄漁業
・いか釣り漁業
・まき網漁業
・ひき網漁業
・さし網漁業
・定置網漁業
・かに・えびかご漁業
養殖業
(養殖資材の製作・補修・管理,養殖水産動植物の育成管理,養殖水産動植物の収穫(穫)・処理,安全衛生の確保等)
養殖業 ほたてがい・まがき養殖

なお,どちらの業務区分においても,同じ職場の日本人従業員が通常行う業務に,付随的に従事することは関連業務として認められています。

認められる関連業務例は,次のとおりです。

〇漁業
漁具の積込み・積下し,漁獲物の水揚げ,漁労機械の点検,船体の補修及び自家原料を使用した製造・加工・出荷・販売等

〇養殖業
梱包・出荷及び自家原料を使用した製造・加工・出荷・販売等

1-2 外国人の要件

〇技能試験と日本語試験に合格
漁業技能測定試験と日本語能力試験N4以上,または国際交流基金日本語基礎テストA2レベル程度の結果を証明することで,漁業の特定技能ビザを申請するための要件を満たすことが出来ます。

〇技能実習2号を良好に修了
漁業の該当職種・作業にて,「技能実習2号を良好に修了」を良好に修了した外国人は,特定技能ビザ申請にあたり,技能試験と日本語試験が免除されます。

1-3 受入れ機関の主な要件

法人・個人事業主のどちらも特定技能の受入れ機関となることが認められています。
いずれの場合でも,次の要件については遵守していることが求められます。

〇日本人と同等程度の報酬の支払い
特定技能外国人に支払う報酬は,同程度の経験をもつ日本人従業員と,同等以上の賃金を支払う必要があり,外国人であるという理由だけで賃金差を設けることは認められません。

そのため,特定技能外国人を受入れするにあたり,法律で義務付けられた支援を実施するための費用などを勘案すると,特定技能外国人の受入れは,日本人を雇用するよりも高額となるため,安い労働力として外国人を雇用したい機関には向かない制度と言えるでしょう。

〇特定技能外国人への支援体制を確保
特定技能(1号)ビザをもつ外国人を雇用する場合は,受入れ機関が生活相談や行政の手続き補助などを含めた支援業務を実施する必要があります。

もし,受入れ機関で支援業務を遂行することができない場合は,登録支援機関へ支援業務を委託することも認められています。

なお,将来的に漁業分野も特定技能(2号)ビザの取得が認められる分野に追加される可能性があります。
特定技能(2号)ビザを取得した外国人を雇用する場合は,支援業務を実施する必要はありません。

〇1年以内に非自発的離職者・行方不明者を発生させていないこと
特定技能ビザの申請をする際に,入管庁へ直近1年間の非自発的離職者と行方不明者を報告する必要があります。
もし,非自発的離職者と行方不明者が,発生していた場合は特定技能外国人の雇用が認められません。

〇5年以内に法令違反をしていないこと
受入れ機関が特定技能ビザの申請時より,5年以内に法令違反を犯していた場合は,特定技能外国人の雇用が認められません。
なお,法令違反は,入管法に限らず日本の全ての法律が該当する点に注意が必要です。

〇特定技能外国人と違法な契約が無いこと
特定技能外国人との雇用契約締結時に,労働基準法に反する契約は勿論のこと,契約満了前の退職に対して違約金や保証金の契約をすることも認められません。

1-4 特定技能協議会

漁業の特定技能協議会へは,特定技能外国人を初めて雇用してから4ヶ月以内に加入する必要があります。

漁業の協議会員は,「1号構成員」と「2号構成員」に分けられており,1号構成員は受入れ機関,2号構成員は主に漁業関連の一般社団法人や漁業組合が構成員です。

受入れ機関は,協議会へ加入するために,次の書類を添付の上で申請書を2号構成員に提出します。

    ◯添付必要書類

  • 特定技能雇用契約書
  • 雇用条件書
  • 1号特定技能外国人支援計画書
  • 支援委託契約書(登録支援機関を使用する場合)
  • 派遣計画書(派遣形態の場合)
  • 就業条件明示書(派遣形態の場合)
  • 派遣先の概要書(漁業分野)(派遣形態の場合)
  • 派遣許可書(派遣形態の場合)

2号構成員が受領した申請書類については,一般社団法人大日本水産会へ提出されて,審査が行われます。

審査結果については,再度,2号構成員を経由して,入会の申請をした受け入れ機関へ通知されます。

2. 特定技能「漁業分野」の雇用形態

漁業の特定技能では,次の2つの雇用形態が認められています。

2-1 直接雇用

特定技能外国人を自社で直雇用する方法です。
もし,受入れ機関を変更する場合には再度,特定技能ビザの切り替え手続きをする必要があります。

2-2 派遣雇用

漁業では,特定技能外国人を派遣社員として受入れすることも認められています。
派遣社員として雇用される特定技能外国人は,特定技能ビザの切り替えをしないで,複数の事業所で就労することも可能です。
また,派遣事業者は,受入れ機関の要件とは別に,次の要件を満たす必要がある点に注意してください。

    〇要件

  • 派遣事業の許可を取得していること
  • 漁業または,漁業に関連する業務を行っている機関
  • 地方公共団体または,漁業に関連する業務を行っている機関が資本金の過半数を出資している機関
  • 地方公共団体の職員または,漁業に関連する業務を行っている機関,若しくは,その役員または職員が役員であること
  • 地方公共団体または,漁業に関連する業務を行っている機関が,業務執行に実質的に関与していること

〇注意点
①特定技能外国人を雇用する派遣事業者には,地方公共団体または漁業協同組合,漁業生産組合,若しくは漁業協同組合連合会,その他漁業に関連する業務を行っている者が関与している必要があります。
②特定技能外国人を派遣することが認められる地域は,派遣事業の責任者が,日帰りで特定技能外国人からの苦情処理を行うことのできる地域であることが求められます。

3.特定技能「漁業分野」の試験概要

3-1 試験の種類

漁業技能測定試験は,漁業・養殖業の業務について,監督者の指示を理解し的確に遂行できる能力や,自らの判断により遂行できる能力を測り,業務に必要な知識などを確認するための内容となっています。

2つある業務区分ごとに試験が設置されており,それぞれの難易度は,技能実習評価試験の専門級と同程度とされています。

3-2 試験内容

漁業と養殖業のそれぞれの試験内容は次の通りです。

〇漁業
学科試験:漁業全般及び安全衛生に係る知識及び業務上必要となる日本語能力を測定

実技試験:図やイラスト等から漁具・漁労設備の適切な取扱いや漁獲物の選別に係る技能を判断する試験により業務上必要となる実務能力を測定

〇養殖業
学科試験:養殖業全般及び安全衛生に係る知識及び業務上必要となる日本語能力を測定

実技試験:図やイラスト等から養殖水産動植物の育成管理や養殖生産物の適切な取扱いに係る技能を判断する試験により,業務上必要となる実務能力を測定

3-3 申し込み方法

プロメトリック社の運営する申込サイトより,IDを発行して,必要事項を入力後に受験申請することで受験票を発行することができます。

3-4 試験対策

試験の実施団体でもある一般社団法人大日本水産会のサイトより,試験勉強のための学習テキストを無料でダウンロードすることができます。

それぞれ,日本語とその他4か国語に翻訳されたテキストが用意されています。

特定技能ビザの試験については,【特定技能ビザ】全14分野の試験内容のページもご確認ください。

4.まとめ:【特定技能ビザ】漁業分野の受入れ要件と雇用形態

本記事で紹介した通り,漁業分野の特定技能では,特定技能外国人を派遣社員として雇用することも認められているなど,他分野と比べても,受入れ方法の選択肢が多く用意されています。

一方で,協議会の加入申請手続きや,派遣事業者となるための手続にも他分野には無い要件が求められているなど,特定技能外国人を受入れするまでの手続きは簡単ではありません。

今後,特定技能外国人の受入れを検討している機関は,本記事の内容も参考にして,早めの受入れ計画を立てることをお勧めします。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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