仲野 翔悟

「特定技能」業務区分と「技能実習」移行職種の関係性

特定技能外国人が就労可能な業務区分と,技能実習生の移行職種には関係性があります。
そのため,対応する移行職種で技能実習2号を修了した外国人は,それだけで特定技能ビザの要件を満たす可能性があります。
本記事では,特定技能の業務区分と技能実習の移行職種の関係を中心にご紹介します。

1.特定技能の業務区分とは

特定技能の全14分野では,それぞれ業務区分が設定されています。

特定技能外国人は,技能要件を満たした業務区分の業務への従事のみが認められています。

また,14分野のうち8分野では,同じ分野内に複数の業務区分があり,同じ分野内であっても技能要件を満たしていない他の業務区分の業務に,特定技能外国人が従事することは認められません。

一方で,技能実習2号を良好に修了した移行職種が,特定技能の業務区分に対応している場合には,試験を受けずに特定技能ビザ取得のための技能要件を満たします。

2.技能実習の移行職種とは

技能実習の移行職種とは,技能実習2号または3号への移行が認められる職種のことです。

特定技能ビザの取得要件のひとつに「技能実習2号を良好に修了」があり,特定技能の業務区分に対応する職種にて,技能実習を2年10ヶ月以上の期間修了した外国人は,当該業務区分の特定技能ビザ取得をする際に,改めて試験などを受験する必要はありません。

一方で,移行職種でない職種で技能実習ビザを取得した場合は,技能実習1号(1年間)のみの技能実習が認められるため,修了しても特定技能ビザ取得のための要件を満たすことはできません。

なお,宿泊業など,移行職種であっても特定技能ビザ取得要件を満たさない職種もあるので,特定技能ビザの取得予定がある際には要件の事前確認が肝心です。

また,移行職種は3年間の技能実習が修了する前に,専門級の技能試験(実技試験のみ可)の受験が義務である点も特徴です。

但し,専門級の技能試験(実技試験のみ可)に合格できなかった場合でも,評価調書を作成することで特定技能の技能要件を満たすことができる点には注意が必要です。

3.「特定技能」業務区分と「技能実習」移行職種の関係性

14分野それぞれの業務区分を紹介していきます。

技能実習の職種と作業が空欄の業務区分については,対応する移行職種がないため,特定技能ビザ申請のために必ず特定技能の技能試験合格が必須となります。

また,特定技能ビザの日本語要件は介護分野以外では共通のため,いずれかの職種で技能実習2号を修了することで,分野や業務区分の変更をする際にも改めて日本語試験を受験する必要はありません。

3-1介護分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
身体介護等 介護 介護

介護職種の技能実習2号を修了した外国人は,介護分野の介護(身体介護等)の業務に従事するための特定技能ビザを取得できます。

技能実習2号修了者以外は,介護技能評価試験の合格と日本語能力試験N4または国際交流基金日本語基礎テストA2レベル以上の結果に加えて,介護日本語評価試験に合格することで特定技能ビザの取得要件を満たせます。

なお,特定技能外国人は訪問介護などの訪問系サービスへの従事はできない点には注意してください。

3-2ビルクリーニング分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
建築物内部の清掃 ビルクリーニング ビルクリーニング

ビルクリーニング職種の技能実習2号を修了した外国人は,ビルクリーニング分野での特定技能ビザ取得要件を満たします。

3-3素形材産業分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
鋳造 鋳造 鋳鉄鋳物鋳造
非鉄金属鋳物鋳造
鍛造 鍛造 ハンマ型鍛造
プレス型鍛造
ダイカスト ダイカスト ホットチャンバダイカスト
コールドチャンバダイカスト
機械加工 機械加工 普通旋盤
フライス盤
数値制御旋盤
マシニングセンタ
金属プレス加工 金属プレス加工 金属プレス加工
工場板金 工場板金 機械板金
めっき めっき 電気めっき
溶融亜鉛めっき
アルミニウム陽極酸化処理 アルミニウム陽極酸化処理 陽極酸化処理
仕上げ 仕上げ 治工具仕上げ
金型仕上げ
機械組立仕上げ
機械検査 機械検査 機械検査
機械保全 機械保全 機械系保全
塗装 塗装 建築塗装
金属塗装
鋼橋塗装
噴霧塗装
溶接 溶接 手溶接
半自動溶接

素形材産業分野では,13の業務区分がありそれぞれに対応する技能実習の職種・作業で技能実習2号を良好に修了した外国人については,特定技能の技能試験と日本語試験を免除されます。

3-4産業機械製造業分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
鋳造 鋳造 鋳鉄鋳物鋳造
非鉄金属鋳物鋳造
鍛造 鍛造 ハンマ型鍛造
プレス型鍛造
ダイカスト ダイカスト ホットチャンバダイカスト
コールドチャンバダイカスト
機械加工 機械加工 普通旋盤
フライス盤
数値制御旋盤
マシニングセンタ
金属プレス加工 金属プレス加工 金属プレス加工
鉄工 鉄工 構造物鉄工
工場板金 工場板金 機械板金
めっき めっき 電気めっき
溶融亜鉛めっき
仕上げ 仕上げ 治工具仕上げ
金型仕上げ
機械組立仕上げ
機械検査 機械検査 機械検査
機械保全 機械保全 機械系保全
電子機器組立て 電子機器組立て 電子機器組立て
電気機器組立て 電気機器組立て 回転電機組立て
変圧器組立て
配電盤・制御盤組立て
開閉制御器具組立て
回転電機巻線製作
プリント配線板製造 プリント配線板製造 プリント配線板設計
プリント配線板製造
プラスチック成形 プラスチック成形 圧縮成形
射出成形
インフレーション成形
ブロー成形
塗装 塗装 建築塗装
金属塗装
鋼橋塗装
噴霧塗装
溶接 溶接 手溶接
半自動溶接
工業包装 工業包装 工業包装

産業機械製造業分野では,18の業務区分があります。

なお,素形材産業分野,産業機械製造業,電気・電子情報関連産業分野はまとめて製造業3分野とも呼ばれ,同じ業務区分が多いなどの関係性もあります。

3-5電気・電子情報関連産業分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
機械加工 機械加工 普通旋盤
フライス盤
数値制御旋盤
マシニングセンタ
金属プレス加工 金属プレス加工 金属プレス加工
工場板金 工場板金 機械板金
めっき めっき 電気めっき
溶融亜鉛めっき
仕上げ 仕上げ 治工具仕上げ
金型仕上げ
機械組立仕上げ
機械保全 機械保全 機械系保全
電子機器組立て 電子機器組立て 電子機器組立て
電気機器組立て 電気機器組立て 回転電機組立て
変圧器組立て
配電盤・制御盤組立て
開閉制御器具組立て
回転電機巻線製作
プリント配線板製造 プリント配線板製造 プリント配線板設計
プリント配線板製造
プラスチック成形 プラスチック成形 圧縮成形
射出成形
インフレーション成形
ブロー成形
塗装 塗装 建築塗装
金属塗装
鋼橋塗装
噴霧塗装
溶接 溶接 手溶接
半自動溶接
工業包装 工業包装 工業包装

産業機械製造業分野では13の業務区分が設定されています。

なお,業務区分の「電子機器組立て」と「電気機器組立て」については,名称が似ているため,特定技能外国人の採用をする際には間違えて資格外の外国人を採用しないよう気を付ける必要があります。

3-6建設分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
型枠施工 型枠施工 型枠工事
左官 左官 左官
コンクリート圧送 コンクリート圧送施工 コンクリート圧送工事
トンネル推進工    
建設機械施工 建設機械施工 押土・整地
積込み
掘削
締固め
土木    
屋根ふき かわらぶき かわらぶき
電気通信    
鉄筋施工 鉄筋施工 鉄筋組立て
鉄筋継手    
内装仕上げ 内装仕上げ施工 プラスチック系床仕上げ工事
カーペット系床仕上げ工事
鋼製下地工事
ボード仕上げ工事
カーテン工事
表装 壁装
表装 内装仕上げ施工 プラスチック系床仕上げ工事
カーペット系床仕上げ工事
鋼製下地工事
ボード仕上げ工事
カーテン工事
表装 壁装
とび とび とび
建設大工 建設大工 大工工事
配管 配管 建築配管
プラント配管
建築板金 建築板金 ダクト板金
内外装板金
保温保冷 熱絶縁施工 保温保冷工事
吹付ウレタン断熱    
海洋土木工    

建設分野では,19の業務区分がありますが,6つの業務区分については技能実習の移行職種ではありません。

そのため,該当の業務区分に従事するためには,それぞれの業務区分の建設分野特定技能1号評価試験の合格が必須となります。

3-7造船・舶用工業分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
溶接 溶接 手溶接
半自動溶接
塗装 塗装 金属塗装
噴霧塗装
鉄工 鉄工 構造物鉄工
仕上げ 仕上げ 治工具仕上げ
金型仕上げ
機械組立仕上げ
機械加工 機械加工 普通旋盤
フライス盤
数値制御旋盤
マシニングセンタ
電気機器組立て 電気機器組立て 回転電機組立て
変圧器機組立て
配電盤・制御盤組立て
開閉制御器具組立て
回転電機巻線製作

造船・舶用工業分野では,6つの業務区分がありますがその全てが製造業3分野にもある業務区分です。

そのため,溶接職種を例にすると技能実習2号を修了した外国人は,製造業3分野と造船・舶用工業分野での就労が可能となります。

3-8自動車整備分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
自動車の日常点検整備,定期点検整備,分解整備 自動車整備 自動車整備

自動車整備職種の技能実習2号を修了した外国人は,自動車整備分野での特定技能ビザ取得要件を満たします。

3-9航空分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
空港グランドハンドリング 空港グランドハンドリング 航空機地上支援
航空貨物取扱
客室清掃
航空機整備    

航空分野では,2つの業務区分の内,航空機整備では対応する技能実習の職種がないため,特定技能評価試験の合格が必須となります。

なお,航空機整備の特定技能評価試験は,過去にモンゴルで一度だけ開催されたのみで,今後の開催計画についても発表されていません(2022年4月現在)。

3-10宿泊分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
フロント,企画・広報,接客, レストランサービス等の宿泊サービスの提供    

宿泊分野では,宿泊の技能実習2号を修了した場合でも宿泊業技能測定試験の合格が必須となります。

なお,宿泊を含め全ての技能実習の職種での技能実習2号を修了した実績があれば,日本語要件については満たすことができます。

3-11農業分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
耕種農業全般 耕種農業 施設園芸
畑作野菜
果樹
畜産農業全般 畜産農業 養豚
養鶏
酪農

農業分野では2つの業務区分があり,技能実習ではそれぞれ2つの職種と3つの作業に分かれています。

そのため,技能実習では,養豚の作業に従事していた外国人が養鶏の作業に従事することは認められませんでしたが,特定技能では畜産農業全般として3つの作業全てへの従事が可能となりました。

また,農業分野の農業技能測定試験は比較的簡単で開催頻度も多いため,試験に合格することで耕種農業と畜産農業の2種類の業務に従事する特定技能外国人も少なくありません。

3-12漁業分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
漁業 漁船漁業 かつお一本釣り漁業
延縄漁業
いか釣り漁業
まき網漁業
ひき網漁業
さし網漁業
定置網漁業
かに・えびかご漁業
養殖業 養殖業 ほたてがい・まがき養殖

漁業分野では2つの業務区分があり,技能実習では8種類に分かれていた漁船漁業の作業も特定技能になると全ての作業に従事可能となります。

3-13飲食料品製造業分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
飲食料品製造全般 缶詰巻締 缶詰巻締
食鳥処理加工業 食鳥処理加工
加熱性水産加工食品製造業 節類製造
加熱乾製品製造
調味加工品製造
くん製品製造
非加熱性水産加工食品製造業 塩蔵品製造
乾製品製造
発酵食品製造
水産練り製品製造 かまぼこ製品製造
牛豚食肉処理加工業 牛豚部分肉製造
ハム・ソーセージ・ベーコン製造 ハム・ソーセージ・ベーコン製造
パン製造 パン製造
そう菜製造業 そう菜加工
農産物漬物製造業 農産物漬物製造

飲食料品製造業分野では,業務区分が分かれていないため,表の中にあるいずれかの技能実習の職種の技能実習2号を修了することで,酒類を除く全ての飲食料品製造業に従事することが認められます。

3-14外食業分野

特定技能(業務区分) 技能実習(職種) 技能実習(作業)
外食業全般 医療・福祉施設給食製造 医療・福祉施設給食製造

飲食物調理や接客,店舗管理の業務に従事することが可能な外食業分野では,技能実習の医療・福祉施設給食製造職種で技能実習2号を修了することで,特定技能ビザの取得要件を満たすことができます。

4.まとめ:「特定技能」業務区分と「技能実習」移行職種の関係性

本記事では,特定技能の業務区分と技能実習の移行職種の対応関係を表にして紹介しました。

基本的には対応する技能実習の移行職種で技能実習2号を修了すると試験などの受験が不要になります。
一方で,対応する技能実習の移行職種が無い業務区分などもあるため注意が必要です。

「特定技能」業務区分と「技能実習」移行職種の関係性について,ご質問等がございましたら,お気軽に行政書士法人第一綜合事務所までお問い合わせください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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