仲野 翔悟

【特定技能ビザ】農業分野の試験概要と繁忙期雇用

農業は,日本の産業の中でも過疎化や少子高齢化の影響を受けやすく,慢性的な人手不足に悩まされている産業のひとつです。
従来から,技能実習生を中心とした外国人の雇用が多い産業ではありましたが,特定技能ビザの施行によって,農業分野の外国人材の雇用は加速しています。
本記事では,農業分野にて特定技能外国人を雇用する際の基礎知識から,特定技能試験の概要や繁忙期のみの雇用を実現する方法まで紹介します。
最後まで読んで頂くことで,農業分野で特定技能外国人の雇用をする際の判断材料にして頂けると思いますので,ぜひお付き合いください。

1. 農業分野の特定技能ビザについて

まずは,特定技能制度での農業の業務区分や特定技能ビザ申請のための要件について見ていきましょう。

農業で特定技能外国人が,従事可能な業務区分は「耕種農業全般」と「畜産農業全般」の2種類です。
特定技能外国人が就労する際には,許可を取得した業務区分に含まれる業務への従事のみが認められるため,例えば,耕種農業全般に従事する特定技能外国人が,畜産農業の業務に携わることは認められていません。

1-1 業務区分

特定技能「農業」の業務区分は,次の表のとおり2つのみで,対応する技能実習制度の作業で技能実習2号を良好に修了した外国人については,特定技能ビザを取得するための要件を満たすため,新たに農業技能評価試験を受験する必要はありません。

特定技能制度(業務区分) 技能実習制度(作業名)
耕種農業全般
(栽培管理,農産物の集出荷,選別等の業務)
施設園芸
畑作・野菜
果樹
畜産農業全般
(飼養管理,畜産物の集出荷,選別等の業務)
養豚
養鶏
酪農

なお,特定技能の2つの業務区分のどちらで就労する場合でも,関連業務として,運搬業務,販売業務,冬季の除雪作業などに付随的に従事させることは認められています。

1-2 外国人の要件

〇技能試験と日本語試験に合格
農業の技能を証明するための農業技能評価試験と日本語能力試験N4以上,または国際交流基金日本語基礎テストA2レベル程度の結果を取得することで,農業の特定技能ビザ申請のための要件を満たすことができます。

〇技能実習2号を良好に修了
農業の該当職種にて,技能実習2号を良好に修了した外国人については,技能試験や日本語試験を受験せずに,特定技能ビザの申請をすることができます。

1-3 受入れ機関の主な要件

特定技能の他業種と同様に,個人事業主または法人のいずれでも,特定技能外国人の受入れ機関となることが認められますが,次にあげる事項については,最低限遵守していることが求められます。

〇日本人と同等程度の報酬の支払い
雇用する特定技能外国人への報酬は,同程度の経験をもつ同じ職場の日本人従業員と差異をつけることは認められていません。

〇特定技能外国人への支援体制を確保
特定技能外国人を雇用するためには,日本での生活や職場での困りごとに対応できる相談体制や,役所関係の手続き補助,銀行口座開設等をサポートする義務的支援を適正に実施できる体制を準備する必要があります。
なお,受入れ機関にて,支援体制を準備できない場合は,登録支援機関へ義務的支援の全てを委託することも認められています。

〇1年以内の非自発的離職者・行方不明者が無いこと
過去1年以内に受入れ機関の都合で退職した従業員や,外国人の行方不明者があった場合,特定技能外国人を雇用することは認められません。

〇5年以内に法令違反が無いこと
過去5年以内に,入管法に関わらず,日本国内の全ての法令に対する違反歴がある場合は,特定技能外国人の雇用が認められません。

〇特定技能外国人と違法な契約が無いこと
雇用契約を締結するにあたり,契約期間を満了せずに退職する場合の違約金や保証金の取り決め,登録支援機関に支援業務を委託する際に発生する費用を特定技能外国人に負担させる取り決めなど,違法な契約を締結した場合,特定技能外国人の雇用は認められません。

1-4 特定技能協議会

農業分野の特定技能協議会は,農林水産省が主体で運営されており,協議会員の相互連絡や特定技能に関する情報共有などを目的として運営されています。
特定技能の他業種と同様に,特定技能協議会への加入は必須となっており,初めて特定技能外国人を雇用してから4ヶ月以内の加入が義務である点について,留意してください。

加入手続きについては,農林水産省のホームページにある「個人用」と「法人用」の加入申請ページより,必要事項を記入して,申請後,1~2週間程度で,登録したメールアドレス宛へ加入通知書が届きます。
なお,特定技能協議会の加入に際して,入会金やその他会費などは発生しません。

2. 特定技能「農業分野」の試験概要

特定技能の他業種と同様に,農業分野でも技能評価試験が実施されており,農業未経験者でも試験に合格することで,農業の特定技能ビザ取得のための技能要件を満たすことができます。

2-1 試験の種類

農業技能評価試験は,「耕種農業全般」と「畜産農業全般」の2種類の業務区分ごとに実施されており,特定技能外国人として就労を希望する業務区分の試験に合格する必要があります。

試験については,日本国内での農業の実務経験3年以上の人材であれば7割が合格できる程度の試験内容とされていますが,いずれの試験も,他業種と比べ合格率が高く,2021年11月に国内で実施されて試験のデータでは,耕種農業全般の試験で約84%,畜産農業全般の試験で約96%の合格率となっています。

そのため,国内に在留している外国人留学生や他業種で技能実習を修了した外国人が,農業の特定技能評価試験に合格して,特定技能外国人として就労するケースも少なくありません。

2-2 試験内容

農業技能評価試験は,業務区分ごとに,別々の試験内容の出題がなされます。
それぞれ,60分間の制限時間内に,学科試験と実技試験,日本語の聞き取り問題が出題され,多肢選択の中から解答をします。

試験は,コンピューターを使用して問題に解答するCBT方式または,ペーパーテスト方式で実施されますが,ほとんどの試験ではCBT方式での実施となっています。
実技試験についても,実際に作業を行う試験は無く,全ての試験がCBT方式またはペーパーテスト方式のみで行われる点について,誤解が多いところになりますので、注意してください。

なお,それぞれの業務区分で出題される範囲については次の通りです。

〇耕種農業全般の出題範囲

学科

  • 耕種農業一般
  • 安全衛生
  • 栽培作物の品種
  • 特徴
  • 栽培環境(施設・設備・資材・機械)
  • 栽培方法・管理 ・病害虫・雑草防除
  • 収穫・調整・貯蔵・出荷等
実技

  • 土壌の観察
  • 肥料・農薬の取扱い
  • 種子の取扱い
  • 環境管理、資材
  • 装置・機械の取扱い
  • 栽培に関する作業
  • 安全衛生等

〇畜産農業全般の出題範囲

学科

  • 畜産農業一般
  • 安全衛生
  • 品種
  • 繁殖
  • 生理
  • 飼養管理等
実技

  • 個体の取扱い
  • 個体の観察
  • 飼養管理、器具の取扱い
  • 生産物の取扱い
  • 安全衛生等

2-3 実施場所

国内試験は全国各地で,ほぼ毎日実施されているため,他業種と比べても受験の機会に恵まれています。

海外試験についても7か国で実施されており,開催国によって違いはありますが,ほとんどの国でほぼ毎月の受験機会があります。

2-4 受験方法

受験場所を問わず,専用の予約サイトより受験予約をします。
予約サイトは,プロメトリック社が運営しているため,初めての予約をする際には,受験者の個人情報を提出して,プロメトリックIDを取得する必要があります。
プロメトリックIDについては,IDを取得した試験合格者のみが閲覧することのできる求人情報ページへアクセスする際にも必要なため,忘れずに保管してください。

その後,受験を希望する会場と日時を選択し,受験料の支払いをすることで受験をする資格を得ることができます。

試験当日は,本人確認書類の原本と印刷した受験票を提示する必要があり,それらをスマートフォン画面で提示することは認められていないため,忘れた場合は受験ができない点に注意が必要です。

2-5 試験対策

農業の特定技能試験については,一般社団法人全国農業会議所が運営する「農業技能測定試験」のサイトに学習用のテキストが用意されております。

試験のサンプル問題や,各国語版の学習用テキストに加え,日本語の聞き取り問題の音声まで用意されているため,試験前にはサイトより教材をダウンロードして,学習することをお勧めします。

特定技能ビザの試験については,【特定技能ビザ】全14分野の試験内容のページもご確認ください。

3. 繁忙期雇用の方法

農業では,栽培している農作物の繁忙期のみ,人手を充足したいという雇用主も多いのではないでしょうか。
繁忙期のみ特定技能外国人を受入れする方法は,主に次の3つの方法が考えられます。

3-1 繁忙期のみ直接雇用

特定技能外国人は,技能実習生と違い,雇用契約期間は受入れ機関と特定技能外国人の双方合意の下,自由に設定することができます。

そのため,繁忙期のみの雇用契約を結び,繁忙期以外の期間は母国に帰国してもらうことや,繁忙期と閑散期が逆の受入れ機関で上手く協力し,それぞれの繁忙期で特定技能外国人を雇用することが可能です。

なお,受入れ機関が変更になる場合は,特定技能ビザの切り替え申請が,必要になる点については注意が必要です。

3-2 派遣社員として雇用

農業の特定技能外国人は,派遣業態での就労が認められています。
そのため,派遣会社を通して,特定技能外国人を繁忙期のみ受入れすることも可能です。

直接雇用をする場合と比べ,費用は高額となる可能性がありますが,登録支援機関の許可を取得している派遣会社もあるため,特定技能外国人への支援業務も含めて依頼することで,労務管理の手間を減らすことができるでしょう。

3-3 請負業者に依頼

農業では,JAなどが請負業者となり,複数の請負現場にて,特定技能外国人を就労させるような受入れの方法も実現できます。

雇用契約については,請負業者と外国人の間で締結するため,請負業者が繁忙期の違う複数の請負現場と請負契約を締結していれば,就業場所が変更となった場合でも,新たに特定技能ビザの切り替え申請をする必要はなく,入管庁への就業場所変更の届出等のみで就労を継続させることができます。

3-4 注意点

〇労働基準法が一部適用外
農業で就労する外国人には,日本人を雇用する場合と同様に,労働時間・休憩・休日の規定が適用されません。
そういった事情も関係してか,適用される労働基準法を遵守しておらず,法外な低賃金で外国人技能実習生の雇用をしていた受入れ機関が,摘発されるようなケースもあるのが実情です。

特定技能外国人の雇用開始後は,四半期ごとに賃金台帳などを添付した定期報告書を入管庁へ提出する義務があるため,特定技能ビザ申請の際に締結した適正な雇用条件を遵守していないような場合には,雇用の継続ができなくなる可能性もある点には注意が必要です。

〇不法就労の防止
派遣社員としての就労も認められている農業分野においては,特に,不法就労については細心の注意が必要です。

不法就労に該当するケースには,特定技能ビザの許可を取得したのとは違う業務で就労するケースや,有効期限切れのビザにて就労する場合などが想定されます。
派遣社員の特定技能外国人を受入れする場合でも,適正なビザを得て就労をしているかについて,確認を徹底する必要があります。

なお,不法就労の外国人を受け入れした場合は,外国人本人のみならず,受入れ機関も処罰の対象となり,3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられる可能性がある点に,注意が必要です。

4.まとめ:【特定技能ビザ】農業分野の試験概要と繁忙期雇用

本記事で紹介した通り,特定技能ビザの農業分野は,技能評価試験も合格率が高いなどの理由で,他業種と比べても特定技能ビザ申請の要件を満たすのが比較的容易な分野です。
また,農業分野の慢性的な人手不足は年々深刻さを増しています。
これらの事情を勘案すると,今後も,特定技能外国人が急速に増えていくことが見込まれます。

特定技能外国人の受入れを検討している機関には,紹介した繁忙期雇用の方法なども参考にして頂き,最善の方法で受け入れることを目指していただければと思います。

私たち行政書士法人第一綜合事務所では,これまで農業分野の特定技能ビザ申請を数多く行ってまいりました。
既に特定技能外国人を受け入れている場合のみならず,新たに受け入れる場合についても,お客様のご希望をお伺いしながら最善策をご提案しております。
ご相談は無料で承っておりますので,ご気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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