渡邉 直斗

上陸特別許可を専門行政書士が解説

【事例】
日系ブラジル人女性のAさんは,日本に住む実母と生活するために短期滞在ビザで来日しました。
しかし,定住者ビザへの変更申請が不許可となり,その後オーバーステイに・・・。
Aさんは入管に在留特別許可の申出をしましたが,許可は得られず退去強制令書が発付されました。
Aさんにはオーバーステイ中に知り合った日本人男性の交際相手がおり,日本滞在中に結婚し,ご夫婦の間にはお子様が生まれました。
Aさんは退去強制令書発付処分の取消を求めて裁判所に訴訟を提起しましたが,第一審で敗訴。その後,退去強制令書が執行され,Aさんはお子様を連れてブラジルに帰国しました。
この場合,Aさんは日本に滞在中にオーバーステイに陥っているため,日本から出国した日から5年間の上陸が拒否されます。
しかし,上陸拒否事由がある場合でも,特別に上陸が認められるケースがあり,実務上,上陸特別許可といわれています。
もっとも,上陸特別許可については,入管法に規定はあるものの,具体的にどのようなケースで認められるかは,法律上明らかではありません。
今回は,当社での解決事例に沿って,上陸特別許可を専門行政書士が解説していきます。

1.上陸特別許可についての入管法の規定

外国人が日本に上陸しようとする場合,上陸しようとする空港または海港で必ず上陸審査を受けて上陸許可を受けなければなりません。上陸許可の要件は大きく分けて4つ法定されており(入管法7条1項),そのなかの一つに上陸拒否事由に該当していないことが定められています。

Aさんの場合,入管法第5条第1項9号ロの上陸拒否事由に該当するため,5年間日本への上陸を拒否されることになります。上陸拒否事由には,代表的なものとして薬物事犯,売春防止法違反,1年以上の懲役刑の有罪判決(執行猶予付判決を含む)を受けたことなどが定められています。

(参考条文)

・入管法第7条第1項4号
入国審査官は,前条第二項の申請があつたときは,当該外国人が次の各号…に掲げる上陸のための条件に適合しているかどうかを審査しなければならない。
四 当該外国人が第五条第一項各号のいずれにも該当しないこと(以下略)
・入管法第5条第1項9号ロ
次の各号のいずれかに該当する外国人は,本邦に上陸することができない。
九 次のイからニまでに掲げる者で,それぞれ当該イからニまでに定める期間を経過していないもの
ロ 第二十四条各号…のいずれかに該当して本邦からの退去を強制された者で,その退
去の日前に本邦からの退去を強制されたこと…のないもの 退去した日から五年

もっとも,上陸拒否事由に該当する場合でも,法務大臣が相当と認める場合には,上陸を許可することができるとされています。法務大臣の裁決の特例として,入管法では以下のように定められています。

(参考条文)

入管法第12条第1項
法務大臣は,前条第三項の裁決に当たって,異議の申出が理由がないと認める場合でも,当該外国人が次の各号のいずれかに該当するときは,その者の上陸を特別に許可することができる。
一 再入国の許可を受けているとき。
二 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に入ったものであるとき。
三 その他法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるとき。

実務上,もっとも多く上陸特別許可が認められる類型が,3号の「法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるとき」です。

このように,入管法は上陸を認めることができない事由を定める一方で,特例として上陸を認める場合があることを定め,個別の事案で救済を図っているのです。

上陸拒否事由については,入管法の上陸拒否事由とは? で解説していますので,ご参照ください。

それでは,次のチャプターで,どのような場合に上陸特別許可が認められているか見ていきましょう。

2.上陸特別許可が認められるケース

では,どのような場合に,上陸特別許可が認められるのでしょうか。

上陸拒否事由を定めておきながら,あまりにも広く特例を認めてしまうと,上陸拒否事由を定めた意味がありません。そこで,実務上は,人道上配慮すべき特別な事情がある場合に限り特例を認めるという,かなり限定的な運用がされています。しかも,この要件を満たしていれば特例を認めるというように要件が法定されているわけではなく,法務大臣の相当広範な裁量によって決定されます。

ただ,入管当局も上陸特別許可の運用を明確にするために,毎年1度,許可事例と不許可事例を公表しており,また,実務運用の積み重ねによってある程度の基準が明らかになってきています。それが以下の4つの基準です。

①日本人,特別永住者,永住者,定住者と法的に婚姻が成立しており,婚姻の信憑性の立証が十分になされていること
②在留資格認定証明書交付時において,婚姻後1年以上が経過していること
③在留資格認定証明書交付時において,退去強制後2年以上経過していること
④執行猶予付き有罪判決を受けた後に退去強制された場合は,執行猶予期間をおおむね経過していること

Aさんの場合,退去強制を受けて日本を出国してから半年ほどしか経過していなかったため,③の基準を満たしていませんでした。しかし,この基準は上述のとおり,法定されているものではありません。基準を満たしていれば必ず許可されるわけではなく,反対に,基準を満たしていない場合でも許可されるケースはあります。結局のところ,これらの4つの基準は,①上陸を許可すべき人道上の特別な配慮が求められること(必要性),そして,②上陸を許可しても日本の国益や公益に反しないこと(許容性)を基準化したものに過ぎないのです。

Aさんのケースでは,ご主人様からAさんの状況を詳細にヒアリングさせていただいた結果,Aさんは上陸特別許可を受けてしかるべきと判断し,退去強制後6ヶ月で入管に申請を提出しました。

3.上陸特別許可の解決事例を行政書士が解説

では,具体的にAさんのケースで,どのような書類を提出し,どのような事実を立証したのかをご紹介します。

上陸特別許可といっても,外国人を日本に招聘する通常のケースと同様に,在留資格認定証明書交付申請を入管に提出します。許可がおりた場合は,在留資格認定証明書に「7-1-4」あるいは「5-1-9ロ」などと赤字で条文番号が記載されます(上陸拒否の特定事由に該当するとの理由では上陸を拒否しないという意味です。)。

申請内容は通常の配偶者ビザの申請書類に,上陸の必要性と許容性を証明するための資料を付け加えるイメージです。

Aさんの場合,婚姻成立の事実を証明する資料のほか,婚姻実体を示す資料として,Aさんが出国されてからのご夫婦の交流状況を示すために,6か月分のLINEの履歴を全て提出しました。また,ご主人様が2ヶ月に一度のペースでAさんとお子さんにブラジルまで会いに行っていましたので,ご主人様のパスポートコピー,渡航時の家族写真を提出しました。ご主人様は日本で働きながら,片道2日以上もかかる距離を移動されていたことを考えると,本当にどうにかしたいという気持ちが私達にも伝わりました。

また,ブラジルでのAさんの生活環境を詳細に説明しました。実は,Aさんは日本に滞在している間,将来への不安や家庭環境の悪化から精神疾患を患っていました。ブラジルに帰国されてからも発作を繰り返し,いつ自傷行為に及ぶか分からない状況で,医師の診断を定期的に受けている状況でした。これを証明するため,医師の診断書も提出しました。さらには,ブラジルの治安,衛生環境などを事細かに調べ,これも立証資料として提出しました。実際,近隣に強盗が入るなど,幼いお子さんを育てながらではとても生活できるような環境ではありませんでした。

上陸の許容性を証明する資料としては,Aさんの無犯罪証明書を提出しました。Aさんは縁組によって何度か名前を変えていましたので,その変遷も証明し,全ての過去の氏名について犯罪記録がないことを証明する書類を提出しました。

ご主人様が大手企業で勤務されていましたので,日本で安定した生活を送ることができるという観点から,この事実もプラスに働いたと思います。

また,Aさんの反省文,ご主人様の嘆願書はもちろんのことですが,ご主人様のご両親にも嘆願書を書いていただきました。上陸特別許可の申請においては,できるだけ多くの方に嘆願書を書いていただくことをおすすめします。入管の審査官も人の子ですので,必ず心証に残りますし,日本に戻ってきた際に申請人の在留状況を監督できる生活環境にあることを証明できます。

通常の配偶者ビザの申請であれば,40~50ページほどの申請書類になるのが一般的ですが,Aさんの申請は上記のような書類を提出した結果,総数200ページを超える申請書類になりました。審査期間は6ヶ月に及んだものの,一度目の申請で在留資格認定証明書が交付されました。Aさんが出国してからわずか1年で上陸特別許可を得た案件でした。

4.入管が公表している上陸特別許可の事例

本チャプターでは,令和5年12月に入管が公表した「上陸を特別に許可された事例及び上陸を特別に許可されなかった事例について」それぞれ見ていきましょう。

(1)配偶者が日本人の場合

上陸特別許可の許可事例

上陸拒否
事由
上陸拒否
期間
退去強制からの
経過年月
婚姻期間 夫婦間
の子
刑事処分等 許可内容
1 退去強制
(不法残留)
5年拒否 約1年6月 約4年7月 なし なし 在留期間:日本人の配偶者等
在留期間:1年
2 退去強制
(不法入国)
10年拒否 約3年8月 約8年7月 あり なし 在留期間:日本人の配偶者等
在留期間:1年
3 懲役刑等
(1年以上)
長期拒否
(無期限)
約4年8月 約6年3月 なし 入管法違反(不法入国)により,懲役2年6月,執行猶予4年の判決 在留期間:日本人の配偶者等
在留期間:1年
4 懲役刑等
(1年以上)
長期拒否
(無期限)
約9年7月 約4年10月 なし 入管法違反(不法残留)及び風営法違反により,懲役2年6月,執行猶予4年の判決 在留期間:日本人の配偶者等
在留期間:1年

上陸特別許可の不許可事例

上陸拒否
事由
上陸拒否
期間
退去強制からの
経過年月
婚姻期間 夫婦間
の子
刑事処分等
1 退去強制
(不法残留)
5年拒否 約10月 約1年7月 なし なし
2 退去強制
(不退去)
10年拒否 約8年5月 約8月 なし 器物損壊等により、過去2回の起訴猶予処分
3 懲役刑等
(1年以上)
長期拒否
(無期限)
約5年2月 約5年7月 あり ・窃盗及び入管法違反(不法残留)により、懲役6年、罰金50万円の判決・窃盗により、懲役4年の判決
4 懲役刑等
(1年以上)
長期拒否
(無期限)
約10年8月 約27年6月 なし あへん法違反及び関税法違反により、懲役3年6月の判決

(2)配偶者が正規に在留する外国人の場合

上陸特別許可の許可事例

上陸拒否
事由
上陸拒否
期間
退去強制からの
経過年月
婚姻期間 夫婦間
の子
刑事処分等 許可内容
1 退去強制
(不法残留)
5年拒否 約1年10月 約5年11月 あり なし 在留期間:
永住者の配偶者等在留期間:1年
2 退去強制
(不法残留)
10年拒否 約2年10月 約1年1月 なし なし 在留期間:
永住者の配偶者等在留期間:1年
3 懲役刑等
(1年以上)
長期拒否
(無期限)
約15月 約5年3月 あり 道路交通法違反、自動車運転過失傷害及び入管法違反(不法残留)により、懲役2年6月、執行猶予5年の判決 在留期間:
永住者の配偶者等在留期間:1年

上陸特別許可の不許可事例

上陸拒否
事由
上陸拒否
期間
退去強制からの
経過年月
婚姻期間 夫婦間
の子
刑事処分等
1 退去強制
(不法入国)
5年拒否 約4年5月 約10年2月 あり なし
2 退去強制
(特定の犯罪)
10年拒否 約4年2月 約12年6月 あり 傷害の罪により、懲役10月、執行猶予3年の判決
3 懲役刑等
(1年以上)
長期拒否
(無期限)
約9年2月 約4年7月 なし 偽造有印公文書行使の罪及び入管法違反(不法残留)により、懲役3年の判決、執行猶予4年の判決

(3)「上陸を特別に許可された事例及び上陸を特別に許可されなかった事例について」行政書士の解説

入管の公表データは,(1)配偶者が日本人の場合と(2)それ以外について,分けていることがわかります。
この点から,上陸特別許可については,日本人,特別永住者,永住者,定住者と法的に婚姻が成立していることという基準はありますが,日本人との婚姻が審査上は最も優位にあることがわかります。

さらに,上陸拒否に至った事情についても関係しており,悪質性の高いもの,著しく入管行政の混乱を招く類のものについては,厳しい判断がなされていると考えられます。
この点は,日本人との間に子どもがいても変わらないことを読み解くことができます。

次に(2)を見ると,就労ビザでの許可事例はなく,就労ビザで上陸特別許可を得るのは,実務上,困難であると推認されます。
当社の経験則でも,就労ビザでの上陸特別許可事例はありません。
また,永住者の配偶者等の事例のみが許可事例としてあることから,配偶者が日本に高い定着性を有しているであろうことが予想されます。

なお,それぞれの案件内容について,公表されてはいませんが,上陸特別許可の基準を知るという意味では本データは有益です。

5.上陸特別許可の当社の事例

当社で取得した上陸特別許可の案件について,4事例をご紹介させていただきます。

①刑事事件を起こし懲役3年執行猶予5年の有罪判決を受けた案件

日本人夫と中国人妻の事例でしたが,本件は入管法第5条第1項4号に該当し,長期拒否,永久拒否に該当する上陸特別許可の案件でした。

(参考条文)
・入管法第5条第1項4号
次の各号のいずれかに該当する外国人は,本邦に上陸することができない。
四 日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない。
5-1-4

日本人と婚姻関係にはあったものの,中国人妻の罪状が重く,初回の申請時より入管の審査官の心証はよくありませんでした。
二度の不許可を受けましたが,その間も依頼人と連絡を密にとり,審査上有利となり得る情報を集めました。

その結果,三度の上陸特別許可の申請で無事,許可を取得することができ,現在はご家族で仲睦まじく日本で生活されておられます。

画像右上の「5-1-4」は,入管法第5条第1項4号事案であることを意味しています。

②オーバーステイで摘発を受け退去強制された案件

本事例は,日本人夫と韓国人妻の事例でしたが,子どもはおらず,また退去される直前に婚姻をした事例でした。
また,韓国人妻には別の刑法犯罪の嫌疑をかけられた過去があり,入管の心証は非常に悪かった印象です。

・入管法第5条第1項9号ロ
次の各号のいずれかに該当する外国人は,本邦に上陸することができない。
九 次のイからニまでに掲げる者で,それぞれ当該イからニまでに定める期間を経過していないもの
ロ 第二十四条各号…のいずれかに該当して本邦からの退去を強制された者で,その退
去の日前に本邦からの退去を強制されたこと…のないもの 退去した日から五年
210611_02

本件については,当社へご相談前,日本人夫がご自身で,これまで8回上陸特別許可申請を行い,不許可を受けていました。
当社にご相談いただいてからは,過去の違反事実の洗い出し,またこれまでの8回の上陸特別許可を精査し,申請に臨みました。

その結果,当社で2回目の申請で,無事上陸特別許可を取得することができました。

画像右上の「5-1-9(ロ)」は,入管法第5条第1項9号ロ事案であることを意味しています。

③他人のパスポートで入国し,刑事事件を起こし,3年の実刑を受けた後,退去強制された案件

これまでの行状に大きな問題があったことから,苦戦することが予想されました。

(参考条文)
・入管法第5条第1項4号
次の各号のいずれかに該当する外国人は,本邦に上陸することができない。
四 日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない。

本件については,ご自身で上陸特別許可の申請を行ったことはなく,当社でも特に困難な案件と認識し,申請に臨みました。
日本人とは結婚していたものの,婚姻期間は2年程度,お子様はいない状況でした。

困難極める状況でしたが,日本人妻の協力,そして事件からかなりの時間が経過していたこと,またその後の外国人夫の素行について問題の行動がなかったことから,一度目の上陸特別許可申請で許可を取得することができました。

④本国の法律によって5年の執行猶予付き有罪判決を受けた案件

既に婚姻して10年近くの時間が経過していたため,ご夫婦の関係の成熟性は認められたものの,常習性のあると考えられる犯罪類型であったため難しい案件でした。
また,過去の事件を隠ぺいする意図はなかったものの,上陸拒否者であることを申告することなく,短期ビザで日本へ入国していた過去もありました。

これまで多くの上陸特別許可案件を解決してきた弊社の行政書士の間でも,今回の案件についてはかなり厳しいという意見が多くを占めました。

入管法第5条第1項4号
次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
四 日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者。ただし、政治犯罪により刑に処せられた者は、この限りでない。

入管法第5条第1項4号の案件で,よくご質問をいただく内容があります。
それは, 1年以上の刑を受けた場所が日本ではなく本国でも上陸拒否に該当しますか,というものです。

結論からいうと, 1年以上の刑に処せられた場所が日本以外でも,入管法第5条第1項4号の上陸拒否者に該当します。
また,上記の場合で執行猶予が付いていたとしても,入管法第5条第1項4号に該当し,上陸拒否者として日本に入国することはできません。

さて,今回の案件ですが,入管へ書類を提出してからの審査期間は実に5ヶ月にのぼりました。
そして,無事1回目で上陸特別許可を取得することができたのです。

上陸特別許可を取得できた要因は決して1つではなく,奥様のご家族の状況,ご夫婦の安定した関係性,奥様の本国への渡航困難性など複合的な要因があげられますが,振り返るとご夫婦の執念とも言える気持ちの強さだったと思います。

最初は上陸特別許可の可能性が低いと思う案件であっても,丁寧に事例検証をしていくことで,許可は取得できると改めて感じた案件になりました。

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⑤大麻の使用で有罪判決を受けた案件

20年近く前に大麻を使用し,有罪判決を受けたことから,入管法第5条第1項5号の拒否事由に該当した案件です。

入管法第5条第1項5号
次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
麻薬、大麻、あへん、覚醒剤又は向精神薬の取締りに関する日本国又は日本国以外の国の法令に違反して刑に処せられたことのある者

入管法第5条第1項5号は,4号と異なり,刑の重さは問われていません(4号は,「一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者」が対象)。
つまり,過去に薬物犯罪があることを拒否事由としています。

なぜ,このように通常の犯罪よりも厳しく入国の制限をかけているのでしょうか。
それは,薬物犯罪については再犯の可能性が高く,入国を許してしまうと,日本でのまん延の危険性を孕んでいると考えられているからです。
そのため,薬物犯罪で有罪判決を受けた場合には,上陸特別許可の申請に苦労することも珍しいことではありません。

今回の案件については,薬物犯罪ということもあり,特に積極的な事由の積み重ねを行いました。
日本人配偶者の産後鬱や,日本での家族の支援状況などから,日本での生活の必要性を重点的に主張していきました。
また,入管への申請後も,入管に対して随時状況をアップデートする資料を提出し,入管の審査官への連絡も小まめに行いました。

その結果,2回目の申請で,無事に上陸特別許可を取得できました。

弊社で案件をお受けした当初は,産後鬱の事情を聞いていなかったことから,深くヒアリングを行い,入管に強く主張できるポイントを探る重要性を感じさせられた事例です。

⑥複数の薬物事件で有罪判決を受けた案件

10年以上前に薬物に関連して複数の有罪判決を受けていたことから,入管法第5条第1項5号の上陸拒否事由に該当していました。

入管法第5条第1項5号
次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
麻薬、大麻、あへん、覚醒剤又は向精神薬の取締りに関する日本国又は日本国以外の国の法令に違反して刑に処せられたことのある者

今回のケースはとても特殊で,依頼者に日本移住の予定はなく,短期的な来日を希望されていました。
その理由は,日本に居る日本人配偶者の親族が余命いくばくもないといった状況だったことから,上陸特別許可を希望されていました。

依頼者の思いをお伺いし,何としてもご希望を実現したいと当社としても前例のないケースに取り組むこととなりました。

今回,上陸特別許可のターゲットとした在留資格は「短期滞在」であるため,他のケースのような在留資格認定証明書の申請ではなく,在外公館(外国にある日本大使館や領事館)で直接申請をする必要がありました。

事前に現地日本領事館や入国管理局と複数回の交渉を行い,領事館⇒外務省⇒法務省⇒地方入管という流れで審査を進めてもらいました(「査証事前協議制度」といいます。)。
そして,無事に人道的な配慮が必要であると認められ,「Sクリアランス査証」という特別な査証(VISA)の発給を早急に受けることが出来ました。

今回の上陸特別許可は,実務的に見ても非常に難易度が高く,珍しい事案です。
前例だけに捉わず,常にお客様のために出来ることが無いかを追及するという,専門家としての大切な姿勢を改めて学ばせていただいた事案となりました。

⑦上陸特別許可の取得後の手続きについて

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上陸特別許可を取得すると,入管から在留資格認定証明書とは別に,このような書面が送られてきます。
法令様式ではないため,入管によって形式は異なりますが,内容は同じです。

上陸拒否事由がある方が日本に上陸する場合には,事前に下記の事項を入管にお知らせする必要があります。
(1)上陸日時(日本到着日時)
(2)入国(空)港(日本の到着空港)
(3)入国便(使用する飛行機の便名)
(4)出国(空)港(出発及び経由する空港)
(5)空港への出迎え人のお名前と電話番号

上記の事項を入管に連絡していないと,上陸審査でとても時間が掛かってしまいます。
当社ご依頼のお客様につきましては,上陸サポートまで行いますのでご安心ください。

6.上陸特別許可を専門行政書士が解説のまとめ

上陸特別許可は法務大臣の裁量が相当広く認められる審査で,許可率は低く,入管諸申請の中でも最難関の申請といわれています。
何度も何度も申請してようやく許可されるケースがほとんどで,中には退去から10年以上経っても許可がおりないという方もおられます。

特に,薬物事犯や売春防止法違反によって退去強制を受けた方は,許可が難しい傾向にあります。

Aさんのように1度の申請で許可がおりるケースは稀です。

Aさんの場合は,ご夫婦の間に日本国籍のお子さんがいたこと,そして退去強制後にご主人様が何度もブラジルまで会いに渡航しているという事実が大きかったと思います。

この記事を読んでいただいている方の中には,何度も申請して不許可を受けている方もおられるかと思います。

当社では,上陸特別許可の事案をこれまで数多く解決してきました。
許可見込みを含め,今後の方策をご相談いただくことが可能です。
ご自身,または配偶者が上陸拒否事由に該当し,お困りの場合には,お気軽に当社までお問い合わせください。

本記事が少しでも救いになれば幸いです。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 渡邉 直斗

・日本行政書士会連合会(登録番号第19260365号)
・大阪府行政書士会(会員番号第7712号)
兵庫県出身。大阪オフィス長として,大学や自治体,企業向けのセミナーにも登壇。外国人ビザ申請,国際結婚,帰化許可申請などの国際業務を専門としている。

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