【解決事例】オーバーステイの解決方法 ~出国命令制度編~
約4ヶ月の交際期間を経て,結婚の準備を整えはじめた二人。しかし,そこには大きな問題がありました。外国人である彼は,留学生の時に留学ビザの更新が不許可になってしまったのをきっかけに,オーバーステイの状況にありました。
はじめて彼女にカミングアウトをしましたが,日本人である彼女は今の状況が理解しきれません。
その後,日本人の彼女はインターネットでオーバーステイの場合の解決方法を調べてみることにしました。しかし,専門用語が多く,ご自身での対応が困難と考え,当社にご相談に訪れたという事案です。
婚約者がオーバーステイでどうしてよいかわからない…。
このようなご相談を当社は全国各地から受けております。経験側上,オーバーステイ状態が長引くと,生活に困窮してしまい,その結果,別の犯罪を引き起こしてしまう事例なども見てきました。もっと早く相談をしてくれていれば…。時に救えなかった無力を感じることもございます。
オーバーステイについて,ビザの期限がオーバーしただけと簡単に考えられる方がおられます。しかし,オーバーステイが法違反であることに違いはありません。また,オーバーステイは時に社会的に弱者となってしまう危険をはらんでいることから,二次犯罪を誘発しやすいと言われています。
一人でもオーバーステイの方が本記事を読み,オーバーステイの状況から脱して欲しい。
そのような思いを抱きながら,本ページでは,オーバーステイの解決方法の一つである出国命令制度を解説していきます。
Index
1.オーバーステイとは?
在留期間の更新(延長)又は在留資格の変更を受けないで, 在留期間経過後も日本に在留していることをオーバーステイと言います。オーバーステイは,不法滞在や不法滞留と言われ,入管法の違反類型の一つです。
また,オーバーステイは,入管法第24条4号ロで退去強制事由(いわゆる強制送還の理由)にもあげられており,ケースによっては警察に逮捕されることもあります。
今回の事例は,留学生の時に留学ビザが不許可になってしまい,そのままオーバーステイになってしまったというものです。
既にオーバーステイの状況であることから,迅速な対応が求められる案件です。
2.帰国するか日本在留を希望するかの選択!!
オーバーステイの方はまず入管に出頭しなければなりません。入管へ出頭することを「出頭申告」と言います(いわゆる「自首」のこと。)。入管に出頭すると,帰国をするか,引き続き日本での在留を希望するかを出頭した外国人が選択することになります。
引き続き日本での在留を希望する場合には,退去強制手続きの中で,違反の態様,家族関係,生活状況さらには国際関係,国内事情など,日本社会に及ぼす影響を含め総合的に判断され在留の許否が決定されることになります。在留特別許可を得ることが出来れば,引き続き日本で在留することが認められます。
他方で,在留特別許可が認められない場合には,(一部例外はあるものの),入管法第5条第1項9号ロのとおり,原則退去されてから5年間は日本へ入国することは出来ません。
一方で,自らの意思で帰国を選択する場合には,出国命令制度の対象者になるか入管で判断されます。
出国命令対象者に認定をされれば,通常5年の上陸拒否期間が1年に短縮される等,多くのメリットがあります。
もっとも,帰国または在留希望の意思表示は,出頭申告の際の一回のみとなっています。そのため,在留特別許可の可能性が高いのであれば,退去強制手続きの中で,在留特別許可を求めるべきですし,在留特別許可の可能性が低いのであれば,出国命令制度を利用し,上陸拒否期間を1年に短縮するのが賢明な判断とされています。
3.オーバーステイが解決できる出国命令制度とは?
出国命令制度は,不法滞在者を5年間で半減させるという計画に基づき,平成16年の入管法の改正に伴い創設された制度です。不法残留者のうち一定の要件を満たす場合について,通常の退去強制手続を執ることなく,また身柄の収容をされないまま簡易な手続きで出国を可能にする制度です。
出国期限の指定によって,その期間の日本での在留が合法とされ,また出国後に再度日本に上陸する場合,上陸拒否期間が1年となる等,通常の退去強制の手続きを受けた場合に比べ,多くのメリットがあります。
4.どのような場合に出国命令制度が認められるか?
入管法第24条の3第1項に出国命令制度を利用できる場合の要件が記載されています。
以下では,それぞれの要件について解説します。
①速やかに日本から出国する意思をもって,自ら入国管理官署に出頭したこと。
→警察や入管から摘発を受けてから帰国の意思を示しても,本要件には該当しません。また,在留特別許可を求めて出頭申告をした場合にも,本要件には該当しません。
②不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと。
③入国後に窃盗罪等の所定の罪により懲役又は禁錮に処せられていないこと。
→オーバーステイ以外の退去強制事由がある場合には,本要件には該当しません。
④過去に退去強制されたこと又は出国命令を受けて出国したことがないこと。
→過去にオーバーステイや退去強制を受けていないことが要件になっています。もっとも,過去にオーバーステイ歴はあるものの,その後の手続きで在留特別許可を得た場合には,退去強制歴も出国命令制度による出国歴もないため,本要件に該当します。
⑤速やかに日本から出国することが確実と見込まれること。
→出頭申告時に航空チケットなどを準備している場合と文献等での記載が見受けられますが,出頭申告の際は帰国日が決定していないため,航空チケットをご持参いただく必要は実務上ありません。後日に入管担当者から航空チケットの購入時期は指示されますので,パスポート,帰国費用を準備していれば本要件に該当します。なお,帰国費用が準備できない場合には,本要件に該当しない可能性がありますのでご注意ください。
5.オーバーステイが解決できる出国命令制度のメリットは?
ここでは,上記で記載した出国命令制度のメリットについて,詳細を解説します。
①出国命令制度の認定を受けることができれば,法律上,収容されることはありません。
出国命令制度が出来るまでは,自ら入管へ出頭をした場合には,仮放免(いわゆる保釈)を認めたうえで帰国を認める運用がされていました。
しかし,平成16年の入管法の改正に伴い創設された出国命令制度は,全件収容主義(入管法第39条)の例外を明示的に設けました。
そのため,出国命令制度対象者の認定を受けることが出来れば,入管に収容されることなく帰国することが出来ます。
②出国命令対象者は,上陸拒否期間が1年に短縮されます。
入管法第5条第1項9号ロのとおり,通常は退去された日から5年間は日本へ入国することはできません。
しかし,出国命令対象者に認定された場合には,上陸拒否期間が1年に短縮されます(入管法第5条第1項9号)。
③早期解決を図ることができます。
審査期間が長期化していることもあり(1年以上かかるケースもあります。),在留特別許可を求める場合には,長期間に亘り不安定な立場になってしまうことは避けられません。また,在留を希望した場合には,退去強制処分を受けてしまうかも知れないという恐怖から,精神的に参ってしまう方も少なくありません。
他方,出国命令制度を利用する場合には,出国命令対象者の認定判断は,1ヶ月以内に回答があることが多いです。在留を希望する場合と比較すると,審査期間が短くなる結果,精神的な負担は軽減されます。また,上陸拒否期間が1年に短縮されることから,結果的に早く確実な解決を図れる場合も往々にしてあります。
あくまでも事例にはよりますが,1年間の待機期間さえ乗り切ることができれば,結果的に出国命令制度を利用した方が早期解決を図れる事例を多く見てきました。
6.オーバーステイでも出国命令制度を利用すれば早期再入国も可能
ご家族を日本においての出国が困難とお考えの方もおられます。そのような方は,退去強制の手続きの中で在留特別許可の取得を目指すというのも一つの選択肢です。その際には,在留特別許可の可能性を検討する必要が出てきます。万が一,在留特別許可の取得が出来なければ,上陸拒否期間は5年となり,その不利益は計り知れません。
オーバーステイの解決をどのように図るかは,専門家の意見を取り入れ,リスクを十分に理解した上で慎重な判断をすることが肝要です。
当社のお客様で,出国命令制度を利用され,1年後に日本に再入国を果たされた方はたくさんおられます。一時は,途方に暮れていた方も,今は日本でご家族揃って生活をされておられますので,お困りの際は当社までお問い合わせ下さい。
7.オーバーステイの解決方法 ~出国命令制度編~のまとめ
今回の事例では,出国命令制度を利用し,オーバーステイの早期解決を目指すことになりました。
その理由として,交際期間も短く,加えて生計基盤が脆弱であったため,在留特別許可を狙ったとしても,配偶者ビザが認められる可能性は低いと考えたことに基づきます。
仮に,この際の判断に失敗してしまうと,ご夫婦は長期間の別離を余儀なくされてしまいます。
時に,厳しいご決断をお願いすることもございますが,早期の再入国を実現するためには,出国命令制度を利用するのも有効な手段です。
後日,当社の行政書士同行のもと,オーバーステイの彼は出頭しました。
そして,計画通りに,出国命令制度を利用し,日本から出国をしてから,一年後の再入国を果たしました。
今ではお子様も生まれ,ご家族揃って,安定した生活を過ごされています。
オーバーステイになってどうして良いか悩んでいる方,入管の摘発や警察に逮捕されてからでは,選択肢が限られてしまいます。
私たちは最善策をご提案致します。
本記事が,オーバーステイで困っている方の参考になれば望外の喜びです。