仲野 翔悟

宿泊業で特定技能外国人を雇用する要件と注意点

宿泊業は,不規則な勤務形態や休日日数が少ない傾向があるなどの理由で,飲食業と共に,日本人の離職率が高く,人材確保が難しい業界とされています。
このように人手不足にあえぐ宿泊業界において,2019年に特定技能ビザがスタートしました。
特定技能ビザでは,ホテリエとして必要となる日本語能力が不足しているという声もありますが,他方で,人手不足解消の手段として,特定技能ビザを検討されている企業も多いのではないでしょうか。
本記事では,宿泊業の企業に向けて,宿泊業での特定技能外国人を受け入れるための要件や業務内容,雇用の際の注意点とともに,特定技能ビザ以外で,外国人の雇用が可能なビザについてもご紹介します。
最後まで読んで頂くことで,宿泊業で特定技能外国人の雇用をする際の判断材料にして頂けると思いますので,お付き合いください。

1.「宿泊業」特定技能外国人の要件

まずは,どのような外国人が特定技能ビザを取得できるか見ていきましょう。

宿泊業で,特定技能ビザを取得するためには,外国人が,技能試験と日本語試験に合格する必要があります。

それぞれ,宿泊業技能測定試験,および日本語試験(日本語能力検定N4以上,または国際交流基金日本語基礎テスト)の受験が必要です。

なお,宿泊業にて,技能実習2号を良好に修了した外国人については,日本語試験の合格は不要ですが,宿泊業技能測定試験の合格は必須な点について,注意が必要です。

〇宿泊業技能測定試験
宿泊業技能測定試験については,過去にミャンマーでの開催実績がありますが,現在のところ,国内のみで実施されています。

宿泊業技能測定試験の国内試験は,受験日に17歳以上で,有効なビザをもつ全ての外国人に受験資格があり,宿泊業技能測定試験の管轄機関である,「一般社団法人宿泊業技能試験センター」のホームページより,受験申込をする必要があります。

事前に,「マイページ登録」をして,申し込み可能な受験日に登録し,7,000円の受験料を支払うことで,受験可能となります。

試験当日は,「フロント業務」「広報・企画業務」「接客業務」「レストランサービス業務」「安全衛生その他基礎知識」の5つのカテゴリーから,試験問題が出題されます。

また,試験には,「実技試験」と「学科試験」があり,実技試験は,試験官の質問に答える形式で実施されます。

試験合格後,宿泊業での就職先が内定後した場合は、外国人と,受入れ企業の双方が,一般社団法人宿泊業技能試験センターへ申請することで,合格証明書を取得することができます。

申請承認後,受入れ企業が,1名につき、11,000円(税別)の発行手数料を支払った後に,合格証明書が受入れ企業に送付されます。

合格証明書は,入管庁へ特定技能ビザの申請をする際の提出必須書類のため,必ず取得する必要があります。

〇日本語試験
日本語試験については,国内外で年に2回のみ開催される日本語能力検定でN4以上に合格,若しくは,毎月開催の国際交流基金日本語基礎テストでA2レベル程度の結果を取得する必要があります。

国際交流基金日本語基礎テストは,開催頻度が多く,受験結果も5営業日以内に知ることができるため,特定技能ビザ申請の計画を立てやすいです。

また,不合格の際の再受験の機会も多いため,特定技能ビザの申請要件を満たすためには,国際交流基金日本語基礎テストの受験をお勧めします。

なお,日本語試験の要件について,宿泊業を含む全ての業種で「技能実習生2号を良好に修了」した外国人は,一定の日本語能力があると見なされるため,宿泊業での特定技能ビザを申請するにあたり,日本語試験の要件は免除されます。

特定技能ビザの試験については,【特定技能ビザ】全14分野の試験内容 のページもご確認ください。

今後の展望として,2022年以降,宿泊業は,「特定技能2号」の対象分野となる見込みで,特定技能2号ビザを取得できれば,実質無期限の就労や,家族帯同が可能となります。
特定技能2号ビザを取得するための,試験内容などを含めた要件は,現在のところ,発表されていません。

2.「宿泊業」受入れ企業の要件

①宿泊業の特定技能協議会へ加入
特定技能外国人を受入れる企業は,雇用開始後,4ヶ月以内に宿泊業の特定技能協議会へ加入する義務があります。
また,登録支援機関に特定技能外国人の支援を委託している場合は,登録支援機関も受入れ企業同様,雇用開始後,4ヶ月以内に協議会への加入が必要となります。

宿泊業の特定技能協議会への加入は,「観光庁」ホームページの案内を参考に,郵送にて手続きをする必要があります。

②旅館・ホテルの営業許可
受入れ企業は,旅館またはホテルの営業許可を取得している必要があります。簡易宿泊や下宿の営業許可を取得していても,特定技能外国人を雇用することはできない点に注意が必要です。

③日本人と同等程度の報酬
特定技能外国人を雇用するためには,職場で同じ業務に従事している日本人と同等以上の報酬の契約を締結する必要があります。

特定技能ビザの申請をする際には,特定技能外国人の宿泊業での経験年数や業務内容などに加え,報酬を決定する際に参考にした,同じ職場の日本人従業員の情報も提出する必要があります。

また,特定技能外国人が就労開始後に定期で実施する,入管庁への定期報告の際にも,参考にした日本人の給与明細などを提出するため,虚偽の情報を基に特定技能外国人の報酬を決定することは許されません。

④健全な経営状況の証明
特定技能外国人を雇用するためには,受入れ企業の決算書や貸借対照表の情報をもとに,健全な経営状況を証明する必要があります。

これは,特定技能外国人が受入れ企業の経営状況を理由とした,解雇などの不利益を被ることを防ぐためのルールです。

経営状況が,特定技能外国人を雇用するのに相応しくないと判断された場合は,経営状況改善の見通しに関する書面の提出や受入れ不可の判断がなされる場合もあります。

⑤過去5年以内に法令違反がないこと
過去5年以内に,入管法に関する違反のみならず,労働法やその他法律に違反歴がある場合は,特定技能外国人を雇用するのに不適当な企業とみなされるため,特定技能ビザの申請を行うことができません。

⑥1年以内の離職者・行方不明者がいないこと
特定技能ビザの申請時に,受入れ予定企業の過去1年以内の,「従業員の離職状況」や「外国人の失踪の有無」を申告する必要があります。

なお,過去1年以内に,会社都合での解雇や行方不明者を発生させていた場合は,特定技能ビザの取得ができない点には注意してください。

⑦特定技能外国人のための支援体制確保
特定技能外国人を受入れするためには,入社前に実施するガイダンスや入社後の定期面談など,法律で定められた支援業務を実施する必要があります。

また,特定技能外国人が理解することのできる言語での相談対応を含む,支援体制の確保について,特定技能ビザ申請の際に審査されます。

なお,受入れ企業にて,支援体制の確保が困難な場合は,登録支援機関へ支援を委託することができることになっています。

3.宿泊業で特定技能外国人が従事可能な業務内容

宿泊業で,特定技能外国人が従事可能な業務は,フロント業務,企画・広報業務,接客業務,料飲提供業務を含む,宿泊サービス全般の業務です。
そのため,長らく宿泊業で外国人従業員が就労ビザで働くことができなかった料飲部門や宴会サービス等での就労が特定技能ビザを保有することで可能になりました。

また,関連業務として,施設内での販売業務や備品の点検・交換業務などを付随的に行うことも許されています。

なお,特定技能外国人に求められている業務内でも,たとえば「フロント業務のみ」のような就業は想定されておらず,宿泊業の特定技能ビザで認められている幅広い業務に従事させる必要がありますので,その点には注意してください。

4.宿泊業で特定技能外国人を雇用する際の注意点

①風営法に抵触する業務禁止
特定技能外国人は,風営法に規定されている風俗営業にかかわる事業所での就労や,接待業務へ従事することは認められていません。

②受入れ可能な宿泊施設の業態に制限がある
特定技能外国人を雇用することができる宿泊施設は「旅館・ホテルの営業許可」を取得している事業者のみです。
そのため「簡易宿所」のカテゴリーに当てはまる,民宿やゲストハウスなどで,特定技能外国人の雇用は許されていません。
この点,誤解が多いところになりますので,注意をしてください。

5.宿泊業で特定技能ビザ以外の就労可能ビザ

①就労制限のないビザ
次の4つのビザについては,身分系ビザに分類され,就労制限が無く日本人と同じ条件での就労活動が認められています。

  • 永住者
  • 永住者の配偶者等
  • 日本人の配偶者等
  • 定住者

採用したい外国人が既に,これらのビザを保持している場合は,あえて特定技能ビザへ変更する必要はなく,業務範囲等についても,気にすること無く雇用することが可能です。

②アルバイトで就労可能なビザ
家族滞在ビザ,留学ビザを保持している外国人は,資格外活動許可を取得することで,原則28時間以内の制限付きではありますが,宿泊施設でのアルバイトが可能です。

資格外活動許可では,特定技能ビザと同様に,風営法で規定されている業務に従事することは許されていない点に注意が必要です。

③技術・人文知識・国際業務ビザ
特定技能ビザが施行される以前は,就労ビザをもつ外国人の多くが,技術・人文知識・国際業務ビザ,通称「技人国ビザ」を取得していました。

しかし,技人国ビザは,教育機関で学んだ専門的な技術や知識を活かすことを前提としたビザであるため,客室清掃や料飲提供などの業務に従事する場合はビザの取得ができません。

宿泊業を営む会社でも,企画・広報業務に従事する場合には,技人国ビザを取得できる可能性がありますが,客室清掃や料飲提供などの業務では,ビザの取得はできません。

なお,技人国ビザの外国人を客室清掃などの業務に従事させた場合は,「不法就労助長罪」に問われ,3年以下の懲役,または300万円以下の罰金が科せられる可能性がありますので,細心の注意が必要です。

④N1特定活動ビザ
N1特定活動ビザは,特定技能ビザと同じく,2019年に施行された,比較的新しいビザのひとつです。

技人国ビザでは,外国人雇用が困難であった宿泊業でも,日本の大学卒業以上の学歴と日本語試験N1合格程度の日本語能力をもつ外国人であれば, N1特定活動ビザでの就労が可能になりました。
N1特定活動ビザでは「日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務」に従事することが認められています。

ホテルのフロント業務などが該当するため,「業務の一部は一定水準以上の業務に従事する」ことを守れば,宿泊業での外国人雇用が可能です。

N1特定活動ビザについて,詳しい内容は,【解決事例】N1特定活動ビザ(日本の大学卒業者の就労ビザ) をご確認ください。

6.まとめ:宿泊業で特定技能外国人を雇用する要件と注意点

本記事では,宿泊業で特定技能ビザを取得するための要件を中心に,注意点やその他の就労可能ビザについて紹介しました。

行政書士法人第一綜合事務所では,これまでにホテル,旅館を運営する企業様向けのセミナーなどもおこなってきました。

特定技能ビザの申請のみならず,外国人材の採用,受入体制の構築,また既に外国人材を雇用されている企業様には,外国人業務監査等の業務をおこなっております。
外国人材の雇用,活用をご検討中の企業様は,お気軽に行政書士法人第一綜合事務所までお問い合わせください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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