今井 幸大

技能実習ビザから就労ビザへ変更ができる場合とは?

勤務している技能実習生が“このまま会社に残れる方法はないのだろうか?”
そんなお悩み,疑問をお持ちの経営者の方は,多いのではないでしょうか。
インターネット情報では,技能実習制度の趣旨に鑑み,ビザ変更は認められないという記載が多く目に付きます。
一方で,技能実習生が帰国することなく就労ビザが許可された事例を紹介しているページもあります。
この矛盾する情報は,一体どちらが正しい情報なのでしょうか。
このような疑問を解消するため,技能実習ビザから就労ビザへ変更ができる場合について,本ページで詳細を解説していきます。

1.技能実習制度の目的

入管審査の内部基準である入国・在留審査要領において,技能実習制度は下記のとおり説明されています。

技能実習制度は,開発途上国又は地域等の青壮年を一定期間受け入れ,我が国で培われた技能,技術又は知識を修得,習熟又は熟達することを可能とし,当該青壮年が帰国後に我が国において修得等した技能等を活用することにより,当該国又は地域等の発展に寄与する「人づくり」に貢献する制度である。

要約すると,日本の技能・技術・知識を学んでもらい,日本で学んだ技能等を母国に持ち帰って,母国の経済発展を担ってもらうことが技能実習制度の趣旨ということです。
そのため,母国に帰国することなく,日本でビザ変更することは通常想定されていません。

しかし,技能実習ビザからのビザ変更について,実務上,一切認められていないわけではありません。

次のチャプターで,詳細を解説します。

2.技能実習ビザからビザ変更が認められる場合がある!?

入管の審査基準では,原則として技能実習ビザからの在留資格の変更を認めないとされています。
一方で,身分関係の成立又は出国準備を理由とする場合には,技能実習ビザからの変更であっても,ビザ変更が許可される可能性があることに言及しています。
身分関係の成立とは,例えば結婚した,出産したという事情を意味します。

実際,当社で取り扱った事例においても,日本人と結婚した技能実習生について,配偶者ビザへの変更許可を多数得ています。
詳細は,【解決事例】技能実習生と国際結婚して配偶者ビザを取得する方法 に記載していますので,ご覧ください。

ところで,本コラムのメインテーマである技能実習ビザから就労ビザへの変更については,上記に記載がありません。
そのため,一見すると認められていないようにも思えます。

次のチャプターで詳細を見ていきます。

3.技能実習ビザから就労ビザへ変更するための要件

上記で見たとおり,身分関係の成立又は出国準備を理由とする場合については,技能実習ビザからのビザ変更が認められる可能性があります。

では,その他のビザ変更については,どのように考えられているのでしょうか。
それぞれの場面に分けて見ていきましょう。

(1)技能実習ビザから就労ビザへの変更

以下の要件を全て満たしている場合には,技能実習ビザから就労ビザへの変更が認められる可能性があります。

①契約機関等の事業内容が,監理団体や実習実施者などの技能実習生の受入れに関するものであること
②技能実習時に修得した技能等について,本国からの技能実習生に対する指導等を行い,申請人が技能移転等,母国の経済発展の貢献に資する活動を行うものと認められること
③申請人がN2相当以上の日本語能力を有すると認められること
④就業場所における技能実習生の在籍数等からみて,十分な業務量が確保されていると認められ,技能実習生と同様の作業を行うものではないことが明らかであること
⑤申請人が技能実習計画上の到達目標を達成していること

少し難しい記述なので,噛み砕いて説明します。

例えば,優秀な技能実習生を就労ビザに変更して,継続雇用するようなケースを想定してください。
これまで学んだ知識,経験をもとに,在籍する技能実習生に指導するような場合です。

そのような場合で,N2以上の日本語能力があり,技能実習計画上の到達目標を達成していれば,技能実習ビザから就労ビザへの変更が認められる可能性があります。

注意点としては,技能実習の趣旨を相反しないことです。
技能実習制度の趣旨は,日本の技能・技術・知識を学んでもらい,日本で学んだ技能等を母国に持ち帰って,母国の経済発展を担ってもらうことです。
そのため,継続雇用される外国人の指導によって,母国への技術移転が強化されたと言える必要があります。

次の注意点は,業務量が十分であることです。
たとえ在籍する技能実習生を指導するような業務内容であっても,受入企業の技能実習生の数が少ない場合には,そもそも指導の必要性は低くなりますし,母国への技術移転が強化されたとは言えません。
そのため,技能実習ビザから就労ビザへビザ変更する場合には,受入企業は技能実習生が多数在籍しているような企業でなければ許可を得ることは困難でしょう。

最後の注意点は,就労ビザへの変更に合理性があることです。
繰り返しになりますが,技能実習制度は帰国を前提としています。
そのため,技能実習ビザの申請段階では,帰国することを前提に入管へ書類は提出されているはずです。
つまり,技能実習ビザから就労ビザへ変更をするということは,事後的に何らかの事情によって,当初の予定に変更が生じたということです。
この事後的に生じた理由について,入管の審査では重視されています。
したがって,就労ビザへの変更することについて,合理的な理由がない場合には,技能実習ビザから就労ビザへのビザ変更で許可を得ることは困難です。

少々細かな要件が続きましたが,ご理解いただけたでしょうか。

近時の人手不足もあり,技能実習生の継続雇用を望まれる声を多数耳にします。
しかし,就労ビザでの継続雇用であれば,上記の全ての要件を満たす必要があります。
また,就労ビザへ変更する場合には,就労ビザの要件,例えば学歴,経験等の要件を充足する必要があります。

就労ビザの代表格,技術人文知識国際業務ビザの要件については,【技術人文知識国際業務ビザ】のコラムに記載していますので参考にしてください。

なお,技能実習ビザから直接就労ビザへ変更はしないものの,帰国してすぐに行う就労ビザの在留資格認定証明書交付申請についても,本内容と同様の基準とされています。
技能実習生については一旦帰国した場合であっても,日本へ招へいするためには,様々な要件をクリアする必要があるということです。

(2)技能実習ビザから特定技能1号への変更

認められています。

その理由としては,主に2つです。
①特定技能1号は,在留期間の上限を5年間としているから。
②特定技能1号で5年経過した後は,本国へ帰国し,技能実習により修得等した技能等をそれぞれの国において活かし,本国の経済発展に貢献することが期待されるから。

このような理由で,技能実習ビザから特定技能1号への変更は認められています。

(3)技能実習ビザから特定技能2号への変更

認められています。

その理由は,下記のとおりです。
①技能実習に基づく活動により本邦において修得等した技能等の本国への移転に努めるものと認められることとの基準を設けているから。

このような理由で,技能実習ビザから特定技能2号への変更は認められています。

(4)技能実習ビザから介護ビザへの変更

上記同様,技能実習制度の趣旨に反しないと判断された場合には,介護ビザへの変更の許可可能性があります。
介護ビザへの変更の場合には,実務上,「技能移転にかかる申告書」を他の申請書類と共に,入管へ提出するのが一般的です。

4.技能実習ビザから就労ビザへ変更ができる場合のまとめ

出入国在留管理庁が令和3年3月31日に公表した資料によれば,技能実習生は在日外国人の在留資格別割合で13.1%を占め,その数は37万8200人に上ります。
日本の生産年齢人口の減少と相まって,今後も技能実習生のニーズは高まることが予想されます。
また,技能実習生の増加によって,帰国することなくビザ変更を希望する外国人も増加することが見込まれます。

技能実習ビザから就労ビザへの変更を希望される多くは,“技能実習の際の業務を継続して行いたい”というものです。
しかし,このような場合には,就労ビザの要件に該当せず,ビザ変更の許可を得るのは困難です。

技能実習の際の業務を継続して行いたい場合には,特定技能ビザへの変更を検討してください。
この場合,技能実習の際の職種名,作業名をお調べきただき,特定技能へ移行できる職種かどうかご確認いただく必要があります。
特定技能への移行職種であれば,技能試験,日本語試験を受けずに,特定技能ビザへ変更できる可能性があります。

話は変わり,技能実習ビザの時とは違う業務で,上記「3(1)技能実習ビザから就労ビザへの変更」の要件を全て満たす場合には,ビザ変更が許可される可能性があります。
もっとも,技能実習ビザから就労ビザの変更については,確認すべき点が多く,難易度の高い申請と言っても過言ではありません。
そのため,ビザ申請前に,国際業務専門の行政書士事務所へご相談されることをお勧めします。

行政書士法人第一綜合事務所では,初回のご相談を無料で承っております。
技能実習ビザから就労ビザへの変更について無料相談をご希望の場合には,ご遠慮なくお問い合わせください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

特定行政書士 今井 幸大

・日本行政書士会連合会(登録番号第18080677号)
・東京都行政書士会(会員番号第11843号)
東京都出身。東京オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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