介護分野の特定技能ビザの活用方法
2019年に施行された人手不足解消のための特定技能ビザの該当分野には,介護も含まれています。
本記事では,介護分野にて特定技能ビザを活用して外国人を受入れするための要件や注意点などを中心にご紹介します。
Index
1. 特定技能の介護とは?
特定技能ビザは12分野において取得が認められており,特に介護は政府が最も特定技能ビザ取得を推進している分野のひとつです。
従来ある介護分野での就労が可能な「技能実習」や「EPA」と違い,特定技能では転職が可能であり,介護技能評価試験などに合格することで特定技能ビザを取得できます。
そのため,他分野で就労していた元技能実習生などが試験に合格をして,介護職に転職するケースも見られるようになりました。
今後も介護分野の特定技能ビザは高いニーズがあると予想されます。
2.介護分野での特定技能ビザ取得状況
特定技能ビザが施行された2019年に,日本政府は今後5年間で,約6万人の外国人を介護分野の特定技能ビザで受入れすると発表しており,12分野の中で介護分野が最多です。
しかし,2022年6月末に入管庁から公表された数字を見ると,特定技能外国人の介護分野での受入れ人数は約1万人に留まっています。
新型コロナウイルス感染症の影響などで,直近では介護分野の特定技能外国人の数は予想を下回るペースで推移しておりましたが,日本の生産年齢人口の減少を考慮すると,介護分野での特定技能ビザが今後増加していくことは間違いありません。
3.介護分野の特定技能ビザ取得要件
介護分野で特定技能ビザを取得するには,特定技能ビザを希望する外国人と受入れ機関のそれぞれが満たさなければならない要件があります。
3-1.外国人の主な要件
介護分野で特定技能ビザを取得するために外国人が満たすべき要件を紹介します。
➀技能実習2号を良好に修了
介護分野において技能実習を2年10ヶ月以上修了した外国人については,技能実習2号を良好に修了した外国人として,介護分野の特定技能ビザ申請をすることができます。
技能実習を2年10ヶ月以上修了した上で,介護技能実習評価試験の専門級(実技試験のみ可)の合格証明書を特定技能ビザ申請の際に提出すると,技能実習2号を良好に修了したとみなされます。
仮に,介護技能実習評価試験の専門級に合格できなかった場合でも,技能実習中の実習評価について,受入れ機関と監理団体に評価調書を発行してもらうことで,技能実習2号を良好に修了したとみなされます。
②技能試験と日本語試験に合格
介護技能評価試験,介護日本語評価試験,および日本語能力検定N4以上に合格(国際交流基金日本語基礎テスト合格を含む)することで,介護分野の特定技能ビザ申請をすることができます。
特に,介護分野では,日本語能力検定N4以上に加えて「介護日本語評価試験」の受験も必須である点は,他分野と異なるため注意が必要です。
そのため,既に他職種の「技能実習2号を良好に修了者」が介護分野で特定技能ビザを取得するためには,「介護技能評価試験」と「介護日本語評価試験」の合格が必要となります。
介護分野での最新の試験情報については,【特定技能ビザの試験内容】全12分野の解説もご確認ください。
③介護福祉士養成施設を修了
介護福祉士養成施設を修了した場合でも,介護分野の特定技能ビザ申請をすることができます。
介護福祉施設に通う期間については,入学前の学歴によっても期間が変わります。
④EPA介護福祉士候補者として在留期間(4年間)満了
EPA介護福祉士候補者として在留期間を満了した場合には,介護分野の特定技能ビザ申請をすることができます。
在留期間の満了をしていない場合でも,EPA介護福祉士候補者として就労・研修を3年10ヶ月以上修了し,直近の介護福祉士試験の結果で5割以上の点数をとることができれば,介護分野の特定技能ビザ申請が可能です。
ただし,EPA介護福祉士候補者は,フィリピン,インドネシア,ベトナムと日本が締結している経済連携協定に基づいて日本の介護施設で就労・研修をしながら介護福祉士の資格を目指す制度であるため,上記3ヶ国の外国人のみが該当します。
3-2.受入れ機関の主な要件
介護分野で特定技能ビザの外国人を雇用したい機関は,主に下記の受入れ要件を満たす必要があります。
①介護の特定技能協議会への加入
初めて介護分野で特定技能外国人を受入れ後,4ヶ月以内に介護分野の特定技能協議会へ加入する必要があります。
介護分野の特定技能協議会は,厚生労働省が運営しており厚生労働省のホームページの案内に従い,加入手続きを行う必要があります。
加入手続きの主な流れは次のとおりです。
申請手続きマニュアルの案内に従い,申請手続きをして1~2週間ほどの審査期間を経て,加入が認められた場合には,入会証明書が発行されます。
②日本人と同等程度の報酬
特定技能ビザの外国人を受入れする場合は,職場で同じ作業に従事している日本人と同等以上の報酬を支払わなければなりません。
特定技能ビザ申請の際には,報酬の算出根拠となった比較対象日本人の情報も提出する必要があり,雇用開始後も定期で比較対象として情報を提出した日本人の給与明細などを提出する必要があります。
③外国人受入れに支障のない経営状態
特定技能ビザの外国人を雇用するためには,受入れ機関がある程度良好な経営状況であることが求められます。
これは,雇用された外国人が雇用契約期間中に解雇されることを避けるためのルールで,もし特定技能ビザ申請を行う前年度末に債務超過がある場合は,公的資格を有する第三者による改善の見通しについての評価調書等の書面提出が求められることがあります。
④出入国,労働,社会保険及び租税に関する法令遵守
過去5年以内に出入国,労働,社会保険及び租税に関する法令についての違反がある場合は,特定技能ビザの外国人受入れをすることができません。
⑤1年以内の離職者・行方不明者なし
雇用契約の1年前,または契約後に非自発的離職者,若しくは行方不明者を発生させた場合は,特定技能ビザの外国人受入れをすることができません。
なお,受入れ機関に帰責性のない行方不明は該当しません。
⑥特定技能ビザの外国人を支援することができる体制
中長期のビザをもつ外国人の受入れ,または管理を適正に行った実績があり,特定技能ビザの外国人が十分理解できる言語での支援体制があることが求められています。
なお,ここでいう中長期在留者には,文化活動,留学,研修,家族滞在,永住者,日本人の配偶者等,永住者の配偶者等,定住者は含まれませんので注意が必要です。
仮に自社にて支援体制を準備できない場合は,登録支援機関へ支援を委託することができます。
行政書士法人第一綜合事務所も登録支援機関として,登録されています(登録番号19登-000525)。
4.介護分野の特定技能ビザ申請に必要な書類
特定技能ビザを活用して,介護分野で外国人を雇用するためには,多くの書類を準備する必要があります。
- 申請書
- 特定技能外国人の報酬に関する説明書
- 雇用契約書・条件書
- 雇用の経緯に係る説明書
- 徴収費用の説明書
- 健康診断個人票
- 受診者の申告書
- 1号特定技能外国人支援計画書
- 登録支援機関との支援委託契約に関する説明書
- 特定技能所属機関概要書
- 登記事項証明書
- 業務執行に関与する役員の住民票の写し
- 労働保険料等納付証明書(未納なし証明書)
- 社会保険料納入状況回答票又は健康保険・厚生年金保険料領収証書の写し
- 税務署発行の納税証明書
- 法人住民税の市町村発行の納税証明書
- 個人住民税の課税証明書
- 住民税の納税証明書
- 源泉徴収票の写し
- 国民健康保険被保険者証の写し
- 国民健康保険料納付証明書
- 国民年金保険料領収証書の写し
※これらに滞納がある場合は,公的義務履行に関する誓約書でその理由を説明することで特定技能ビザ申請をすることができる場合があります。
- 専門性・技能を証明する書類
※特定技能ビザの取得要件で示した①から④のいずれかに該当する資料を指します。 - 介護分野における特定技能外国人の受入れに関する誓約書
- 介護分野における業務を行わせる事業所の概要書
上記が,介護分野で特定技能ビザを申請する際に必要な書類です。なお,その他に個々の事情によっても別途必要な書類が必要な場合があります。
5.介護分野で特定技能ビザを取得する際の注意点
介護分野で特定技能ビザの申請をする際には,手続きを開始する前に下記について特に注意する必要があります。
①受入れ方法により入社までの流れが異なる
特定技能の他分野と同様に,介護分野で特定技能外国人を受入れするまでの流れは,次の図のとおり主に次の2つに分けられます。
①海外にいる外国人から人材選定
↓
②雇用契約の締結・申請書類作成・事前ガイダンス実施
↓
③ビザ申請・取得
↓
④現地日本大使館での手続き等
↓
⑤入国・生活オリエンテーション実施
↓
⑥就労開始
↓
⑦協議会加入(最初の受入れから4ヶ月以内)
①国内にいる外国人から人材選定
↓
②雇用契約の締結・申請書類作成・事前ガイダンス実施
↓
③ビザ申請・取得
↓
④生活オリエンテーション実施
↓
⑤就労開始
↓
⑥協議会加入(最初の受入れから4ヶ月以内)
上記のとおり「海外にいる人材」と「国内にいる人材」では,入社までの流れがことなるため注意が必要です。
②特定技能2号ビザへは移行できない
特定技能ビザには,特定技能1号ビザと特定技能2号ビザという2つのビザがあります。
しかし,特定技能2号は建設分野と造船・船用工業分野の2種類のみ認められており,残念ながら介護分野で特定技能2号ビザ取得はできません。
また,将来的に特定技能の上記2分野以外で,特定技能2号が認められた場合でも介護は特定技能2号の対象分野には入りません。
理由は,介護分野には,既に「介護ビザ」というほとんど特定技能2号と同じメリットを享受できるビザが既に存在しているためです。
そのため,介護分野の特定技能外国人については,最終的には介護ビザの取得を目指す方が多い印象です。
③全ての介護施設で特定技能外国人を受入れできるわけではない
介護分野の特定技能ビザでは,入浴や食事の介助を中心とした介護施設での幅広い業務に従事することができますが,住宅型老人ホームや訪問介護,介護サービス付きの高齢者住宅などでは就労することはできません。
④介護分野の受入れ人数上限がある
介護分野では,特定技能ビザの外国人を受入れすることのできる人数上限が決まっており,事業所単位で日本人などの常勤介護職員数の総数を超えることはできません。
6.介護系ビザのメリット・デメリット比較
介護分野では,特定技能以外にも主に次の4つのビザがあります。
それぞれのビザを活用する受入れ機関にとっての主なメリット・デメリットをまとめた下記表をご確認ください。
メリット | デメリット | |
介護ビザ | ・無期限雇用が可能 ・家族帯同可能 |
・人材の質が高い ・ビザ取得の難易度が高い |
特定技能 | ・入社までの期間が短い | ・最長5年の受入れとなる |
特定活動 (EPA) |
・実質転職不可のため雇用が安定 ・技能実習生や特定技能より高いレベルの人材が多い(要件が厳しいため) |
・ベトナム,インドネシア,フィリピンの3ヶ国の外国人のみがビザ取得可能 |
技能実習 | ・実質転職不可のため雇用が安定 ・外国人の要件が緩い |
・受入れ費用が高額 |
介護分野にて,特定技能ビザを活用して外国人を受入れする際には,一度,他のビザでの受入れも検討してみるのが良いでしょう。
>>介護ビザの要件 はこちら
7.介護分野の特定技能ビザの活用方法のまとめ
2019年に施行された特定技能ビザでは,技能実習生やEPAで就労しており,期間中に介護福祉士に合格するなどして就労継続することが叶わなかった外国人に対しても,就労継続の機会を与えるなど,介護分野で就労する外国人の増加に大きく寄与しています。
紹介したように,特定技能ビザ以外にも介護分野で就労可能なビザはあるため,受入れ機関と外国人の双方にとって一番良いビザを選択することが肝心です。
介護分野のビザの相談は,行政書士法人第一綜合事務所までお気軽にご相談ください。
ご相談は無料で承っております。