渡邉 直斗

偽造在留カードと不法就労助長罪の関係について

偽造在留カードと不法就労助長罪の関係について

偽造在留カードが社会問題となりつつあります。
これを受け,法務省出入国在留管理庁も注意喚起しています。

ここでは,外国人を雇用される企業様を対象に,偽造在留カードと不法就労助長罪の関係を記載していきます。

“偽造在留カードなんて関係ない”と思われる方も多いかも知れません。
しかし,偽造在留カ―ド問題は,意外と身近なところで起きています。
そして,ちょっとした手抜かりが企業のブランドイメージまでをも失うことに繋がります。
最悪の場合には,罰金刑等に問われ,許認可資格のはく奪,金融機関等からの信用失墜など,大打撃を受けることになります。

そのため,外国人を雇用する企業様にとって,偽造在留カードと不法就労助長罪は,最重要事項としてご理解いただく必要があると言っても過言ではありません。

とても大切な内容です。
ぜひ,ご覧ください。

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1.偽造在留カードの摘発事例

2012年7月9日の入管法改正に伴い,外国人登録法は廃止され,現在の在留管理制度がスタートしました。

当時の公表資料によれば,偽造防止対策として在留カードには,ホログラムが印刷されており,また,出入国在留管理庁が提供する在留カード等番号失効情報照会を用いれば,その在留カードが有効なものか失効しているのかを確認することができるという,画期的な内容でした。
さらに,在留カードに埋め込まれているICチップ情報を読み込むことで,真正なカードと確認することができると謳われていたため,これで偽造在留カードの問題は無くなる,そんな期待を抱いたのでした。

しかし,そんな期待を裏切るかのように,次々と偽造在留カードの摘発が報道されるようになってきました。
年々偽造在留カードの摘発事例は増え,2019年には過去最高の摘発数を記録しています。
そして,近時の傾向としては,組織的に,また巧妙になっているのが特徴です。

2020年9月29日 神戸新聞より一部抜粋
「在留カードの偽造密売ビジネス化“1日に200枚作った”不法残留摘発4千件超」
捜査関係者によると,カード偽造容疑で逮捕された女は「1日に200枚作ったこともある。寝る間もないほど忙しかった」と話したといい,需要の高さをうかがわせた。兵庫県警が7月に手掛けた別の不法就労助長事件でも,不法残留者を違法に雇った疑いがある神戸市の会社から偽造カードのコピーが見つかった。

2020年9月9日 佐賀新聞より一部抜粋
「偽造在留カードを提供,ベトナム人の男を容疑で再逮捕8日,鳥栖署など」
再逮捕容疑は昨年11月26日,JR箱崎駅西側ロータリーで20代のベトナム人男性に,行使の目的で,この男性の名前や顔写真などが印刷された偽造在留カード1枚を提供した疑い。
同署によると,男は今年7月29日に同法違反(不法残留)の疑い=同罪で起訴済み=で現行犯逮捕されていた。ベトナム人男性とはSNSを通じて知り合い,カードは有償で手渡していた。カードの製造方法などを調べている。

2020年9月6日 朝日新聞デジタルより一部抜粋
「兵庫)偽造在留カード,需要増の背景は」
捜査本部は4月,製造拠点とみられる埼玉県川口市の集合住宅の一室を捜索。プリンターや材料のカード2千枚,ホログラム1万2千枚などを押収した。パソコンには約1800件の客に関するデータが入っていたという。
捜査関係者によると,偽造在留カードはSNSで注文を募り,ベトナム人らに1枚1万~2万円で販売。2人はほかにも運転免許証や健康保険証,年金手帳なども偽造し,4月までの約半年に400万円の報酬を受け取っていたとみられる。

2.なぜ偽造在留カードが出回るのか!?このタイミングの外国人雇用にご注意ください!

外国人を雇用される企業様には,偽造在留カードにまつわる裏側の世界を知っていただく必要があります。
裏側の世界を知っていただくことで,偽造在留カードを所持する外国人の雇用を防いでいただきたい,そんな風に私たちは考えています。

ところで,なぜ一部の外国人は偽造在留カードを手にしようとするのでしょうか。
それは,正規の在留資格を持たない外国人にとって,日本で働くことが難しくなっているからと考えられています。
換言すると,入管庁がかねてより案内してきた“外国人を雇用する際の在留カードの確認”が日本企業に浸透してきたと評価できるかも知れません。

正規の在留資格を持たない外国人は,このような適正手続きをおこなう日本企業からすり抜けるための便法として,偽造在留カードを行使しているのです。
このような日本の在留管理制度を揺るがす悪事は,断じて許すことはできません。

では,企業は外国人を雇用する際に,常にこの偽造在留カードの危険にさらされるのでしょうか。

結論から言うと,外国人を雇用する際には,偽造在留カードの問題を意識することは必要です。
なかでも,現実的に偽造在留カードが行使されている局面は,以下のようなケースです。

・既に就労ビザをもっており貴社へ転職してくるケース
・留学や家族滞在のビザをもってアルバイトとして勤務するケース

このようなケースでは,特に注意が必要です。
これらのケースに共通するのは,入管への申請を何らすることなく,就業を開始する局面です。

つまり,正規の在留資格を持たない外国人にとって,偽造在留カードを行使しやすい局面というになり,企業にとっては特に注意が必要な場面ということができます。

3.過失がない場合には不法就労助長罪に問われない!?

外国人を雇用する際に,企業で必要となる対応については,「知らなかったでは通用しない不法就労助長罪とは?」 でご紹介をしておりますので,ぜひご覧ください。

さて,不法就労助長罪に問われないために企業がすべきこととは,一体どのような内容なのでしょうか。
それを紐解くには,入管法73条の2の不法就労助長罪について理解するのが近道です。

第73条の2 次の各号のいずれかに該当する者は,3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
一  事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせた者
二  外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三  業として,外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
2 前項各号に該当する行為をした者は,次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として,同項の規定による処罰を免れることができない。ただし,過失のないときは,この限りでない。

不法就労助長罪とは,端的にいうと企業が不法就労活動をさせたり,手助けした場合に問われる罪です。

ここでいう不法就労活動には,オーバーステイの人を企業が雇用した場合はもとより,偽造在留カードを所持し,正規在留者を装っている外国人を雇用した場合をも含みます。
つまり,企業は偽造在留カードを所持している外国人に騙され,誤って雇用したケースでも不法就労助長罪に問われてしまうということです。

では,企業はどのような場合であっても免責されることはないのでしょうか。
ここでポイントになるのが,上記の73条の2第2項の但書の理解です。

73条の2第2項では,不法就労活動について,知らないことを理由として免責されないとする一方で,不法就労活動に至った経緯について企業に過失がない場合には,責任を問わないとしています。

したがって,企業は偽造在留カードを所持している外国人を雇用してしまった場合でも,知らなかったという理由は通用しないものの,不法就労活動に至った経緯について,過失がない場合には免責されます。

ところで,本条文の「過失のないとき」というのは,企業が外国人を雇用するにあたって,尽くすべき手段をすべて尽くして確認したことを意味するとされています。
言い換えると,企業側に手抜かりがあった場合には,過失認定を免れることはできないということです。

外国人を雇用する企業にとっては,非常に厳しい内容となっています。

4.不法就労助長罪に問われないために企業がすべきこと

先のチャプターで記載した不法就労活動に至った経緯について,企業に過失がないと認定を受けるためには,下記の4つの事項を実施していただく必要があります。

上述のとおり,一つでも抜け,漏れがあれば,企業は過失の認定を受ける可能性があるのでご注意ください。

不法就労助長罪に問われないために企業がすべきこと

① 在留カードの原本確認
② 在留カードの両面コピーの保存
③ 在留カード等番号失効情報照会の実施
④ 在留カード等番号失効情報照会の実施ページの保存

(参考)出入国在留管理庁 在留カード等番号失効情報照会
https://lapse-immi.moj.go.jp/ZEC/appl/e0/ZEC2/pages/FZECST031.aspx

本チャプターは,とても重要です。
繰り返しになりますが,一つの抜け,漏れでも過失の認定を受けてしまう可能性が高くなります。
貴社の外国人の雇用フローに,①から④を必ず入れるようにしてください。

なお,最近は様々な会社から「在留カードの偽造チェッカー」という商品も出ていますので,外国人を雇用される企業様において導入を検討されることも一つの方法でしょう。

もっとも,このチェッカーを利用した場合であっても,上記①から④の対応は,抜け,漏れなく実施していただく必要はありますので,お間違いの無いようにご注意ください。

5.入管が公表する偽造在留カードのチェック方法

ここからは,入管が公表する偽造在留カードのチェック方法をご案内いたします。

①在留カードの顔写真の左側にある「MOJ」に注目してください。
在留カードを上下に傾けて,「MOJ」の文字が緑色からピンク色に変化すれば真正な在留カードです。

②在留カード左端にある縦型の模様に注目してください。
在留カードを上下に傾けて,縦型の模様が緑色からピンク色に変化すれば真正な在留カードです。

③在留カードの顔写真の下にある銀色のホログラムに注目してください。
見る角度を90度変えて,ホログラム上の文字が白色から黒色に反転すれば,真正な在留カードです。

④暗い場所で在留カードの表面から強い光を直に当ててみてください。携帯のライトでも十分です。在留カードの表面から光を当て,「MOJMOJ…」の透かし文字が確認できれば,真正な在留カードです。

(参考)出入国在留管理庁 在留カード及び特別永住者証明書の見方
http://www.immi-moj.go.jp/newimmiact_1/pdf/zairyu_syomei_mikata.pdf

6.まとめ

本ページでは,偽造在留カードと不法就労助長罪の関係について記載してきました。

心情的には,偽造在留カードの行使を受けた企業は騙されているわけですし,その企業がなぜ責任を問われるのかわからない,というのも理解できます。

しかし,これは法律で決まっていること。
企業の皆様には,外国人を雇用する際に,当たり前に必要な手続きとしてご理解をしていただく必要があります。

所感では,現在の不法就労助長罪については,過失の有無に関して,立証責任を企業側に負わせていると考えられることから,外国人を雇用する企業にとっては,とても厳しい内容になっていると感じています。

また,その射程範囲について確立された裁判例がないことから,実務運用次第では,不法就労助長罪の適用範囲が拡大される恐れがあると警戒感を強めております。

一方で,生産年齢人口の減少が確実な我が国において,外国人材の力は必要不可欠です。
そのため,今後は益々外国人を雇用する企業は増えることが予想されますし,本記事に記載しております外国人材の雇用管理体制の構築は,企業のコンプライスの観点からも一層重要になってくるでしょう。

外国人を雇用する企業の皆様には,上記の内容をご理解いただき,外国人の雇用でエラーをしないよう,安心で安全な雇用管理体制を構築していただく必要がございます。

本記事が,外国人を雇用する企業の方々のお役立ていただければ幸いです。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 渡邉 直斗

・日本行政書士会連合会(登録番号第19260365号)
・大阪府行政書士会(会員番号第7712号)
兵庫県出身。大阪オフィス長として,大学や自治体,企業向けのセミナーにも登壇。外国人ビザ申請,国際結婚,帰化許可申請などの国際業務を専門としている。

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