【特定技能】ビルクリーニング分野の内容と技能試験
2019年に施行された特定技能制度では,ビルクリーニング業を含む14業種で外国人の雇用が認められました。
外国人の雇用が可能なビザが少ないビルクリーニング業では,特定技能制度がきっかけとなって,外国人の雇用を考え始めた企業も多いのではないでしょうか。
本記事では,ビルクリーニング業の特定技能の内容や,技能試験の情報を中心に紹介しています。
最後まで読んで頂くことで,ビルクリーニング業で特定技能外国人を雇用する際の判断材料にして頂けると思いますので,お付き合いください。
Index
1. ビルクリーニングでの特定技能ビザ取得状況
日本政府は特定技能制度の施行から5年間の間に,ビルクリーニング業での特定技能外国人の受入れ見込み数を37,000人と公表しており,特定技能14業種の中でも,4番目に多い数字です。
しかし,入管庁の公表によると,2021年9月末時点で,日本のビルクリーニング業で就労している特定技能外国人の数は,日本全体で487人に留まっています。
特定技能外国人の全体数が38,337人であるため,ビルクリーニング業の特定技能外国人は,全体のわずか1%程度です。
ビルクリーニング業での低い外国人雇用状況を受け,受入れ機関や登録支援機関,技能実習の監理団体へ外国人受入れについての情報提供を行う「ビルクリーニング外国人受入支援センター」も設置されるなど,外国人受入れ数を増加させるための活動も活発に行われています。
これらの事実を考慮すると,ビルクリーニング業での特定技能外国人の受入れ人数は,今後増えていくことは間違いないでしょう。
2.「特定技能」ビルクリーニングの業務内容
ビルクリーニング業では,特定技能外国人が,建築物内部の清掃業務全般(床・天井・内壁・トイレ・洗面所等)に従事することが認められています。
また,関連業務として,次のような業務にも従事することが認められます。
- 資機材倉庫の整備作業
- 建物外部洗浄作業(外壁,屋上等。ただし高所作業を伴う窓ガラス外壁清掃作業は除く)
- 客室整備作業(ベッドメイク含む)
- 建築物内外の植裁管理作業(灌水作業等)
- 資機材の運搬作業(他の現場に移動する場合等)
参照:出入国在留管理庁(特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領)
なお,上記業務に住宅内部の清掃を目的として従事することはできず,関連業務に従事する割合が清掃業務を超えることも認められません。
3.「特定技能」ビルクリーニングの協議会
ビルクリーニング業の特定技能協議会は,協議会員の相互連絡や情報共有などを目的として設立されており,初めて特定技能外国人の受入れを開始してから,4ヶ月以内に加入する必要があります。
また,協議会の目的達成のために,次の事項について協議または情報共有を行うとしており,協議会員は必要に応じて,協議会からの要請に協力する必要があります。
- 特定技能外国人の受入れに係る制度の趣旨や優良事例の周知
- 受入れに係る人権上の問題等への対応
- 特定技能所属機関等に対する法令遵守の啓発
- 特定技能所属機関の倒産時等における特定技能外国人に対する転職支援(特定技能所属機関が支援義務を果たせない場合における情報提供等の必要な協力)
- 就業構造の変化や経済情勢の変化に関する情報の把握・分析
- 地域別の人手不足の状況の把握・分析
- 前号を踏まえた大都市圏等への集中回避に係る対応策の検討・調整(看過しがたい偏在が生じた場合の協議会による大都市圏等での受入れの自粛要請や大都市圏等の特定技能所属機関による特定技能外国人引抜きの自粛要請等を含む。)
- 特定技能所属機関に対する構成員であることの証明
- 円滑かつ適正な受入れのために必要なその他の情報,課題等の共有・協議等
- 上記事項に掲げるもののほか,上記の目的を達成するために必要なこと
参照:厚生労働省(ビルクリーニング分野特定技能協議会設置要綱)
なお,特定技能外国人を受入れする企業は「建築物製造業」または「建築物環境衛生総合管理業」の登録もしている必要がある点について注意してください。
4.特定技能ビザ取得の外国人の要件
外国人が,ビルクリーニング業で特定技能ビザを取得するためには,次の2つのいずれかの要件を満たす必要があります。
4-1 技能試験・日本語試験に合格
ビルクリーニング業の特定技能1号評価試験の合格,および日本語能力検定N4以上に合格または国際交流基金日本語基礎テストの結果により,特定技能ビザ申請のための,技能基準と日本語基準の要件を満たすことができます。
詳しい内容は,【特定技能ビザ】全14分野の試験内容をご確認ください。
4-2 技能実習2号を良好に修了
ビルクリーニング職種で,「技能実習2号を良好に修了」した外国人については,特定技能外国人として就労するための「技能と日本語の能力」を無条件で認められるため,特定技能ビザの申請要件を満たすことができます。
5.「特定技能」ビルクリーニングの技能試験
ビルクリーニング業の技能試験は,日本と海外3ヶ国で実施されており,公益社団法人全国ビルメンテナンス協会のサイトより試験日などの確認をすることができます。
日本国内の試験は,年に2回程度の頻度で実施されており,2021年11月に実施された試験のデータでは,合格率は84%となっています。
〇試験内容
写真・イラストの多肢選択より解答する判断試験と,指示された内容の作業を行う実技試験があります。
2つの試験で,それぞれ60%以上の点数とることで合格することができます。
〇申し込み方法
受験の申し込みは,公益社団法人全国ビルメンテナンス協会のサイトで,申し込み受付期間中のみ行うことができます。
申し込みページより,必要事項を入力し,2,200円(税込)の試験料を支払うことで受験資格が得られます。
〇学習テキスト
公益社団法人全国ビルメンテナンス協会のサイトには,漫画形式の多言語学習テキストが用意されており,誰でも無料でダウンロードすることができます。
また,必要に応じて試験対策用のDVDも用意されており,購入することができます。
〇出張試験
ビルクリーニング業では,希望により出張試験を実施することができます。
出張試験では,試験の実施場所を用意することなどを条件に,試験官を呼び寄せて試験の受験ができるため,試験日程や場所が合わない受験希望者にはお勧めの方法です。
なお,出張試験を選択した場合は,通常の試験とは別に次の事項について注意が必要です。
・20名以上の受験者を確保
・出張試験実施日に,17歳以上であること
・定期開催されている試験への参加が困難であること
〇費用
・定期試験と同様に2,200円(税込)
※出張試験を申請する機関が,受験者全員分の受験手数料をまとめて支払う必要があります。
〇日程
出張試験を申請する機関と試験を実施する「公益社団法人全国ビルメンテナンス協会」
が調整し,厚生労働省との協議を経て決定する。
〇会場の準備
出張試験の申請者は,試験会場や試験で使われる材料などを全て,準備する必要があります。
6.ビルクリーニング業で特定技能外国人を雇用するメリット
〇長期的なキャリアプランが立てやすい
特定技能(1号)ビザでは,最長で5年間の就労が認められています。
また,技能実習ビザでも,ビルクリーニング職種があるため,同じく最長5年間の在留が可能な技能実習ビザと合わせて,同じ外国人を10年間雇用することができます。
そのため,技能実習ビザで雇用した外国人の中から優秀な人材を選抜し,特定技能外国人としてさらに5年間雇用するという選択も可能です。
特定技能ビザが施行される前は,ほとんどの場合,技能実習を修了したら帰国するという選択肢しか残されていませんでした。
しかし,今後はビルクリーニング業も,実質的に無期限就労が可能な特定技能(2号)ビザの対象となる可能性もあるなど,長期的な就労機会が増えると予想できます。
加えて,特定技能(2号)ビザでの就労期間は,永住ビザの申請要件である「原則として引き続き10年以上,日本に在留しており,期間中,就労資格(在留資格「技能実習」及び「特定技能1号」を除く。)または居住資格をもって,引き続き5年以上在留していること」という要件を満たすため,特定技能外国人にとっては,長期的に就労するより強いモチベーションとなるでしょう。
〇日本語能力が高い
現状,既に国内にいる人材を中心に「技能実習2号を良好に修了」して,特定技能ビザの要件を満たしている外国人も多く見られます。
技能実習2号を良好に修了した外国人は,約3年間以上は日本での生活をしていた経験があるため,既に日本語レベルの高い人材も多く,且つビルクリーニング職種での技能実習を経験した外国人の場合は,現場で使われる日本語に慣れているため,現場で使える日本語能力も高いと言えるでしょう。
また,試験の合格を経て,特定技能ビザを取得し,初めて来日する外国人の場合でも,日本語能力試験N4は取得しているため,ある程度の日本語能力は担保されています。
〇従事可能な業務の自由度が高い
従来,ビルクリーニング業で,就労する外国人の多くが保持していた技能実習ビザでは,ビザ取得時に許可を得た技能実習計画で認められた作業内容のみへの従事しか認められておらず,業務範囲も限られていました。
一方で,特定技能ビザでは,清掃業務を主たる業務としている必要はありますが,関連業務として,技能実習よりも広い範囲の業務に従事することが可能です。
7.まとめ:【特定技能】ビルクリーニング分野の内容と技能試験
本記事では,ビルクリーニング業の内容や特定技能ビザの要件を満たすための,技能試験について紹介をしました。
現在,ビルクリーニング業では,特定技能外国人の受入れが大幅に遅れているため,技能試験の学習テキストや相談窓口などが,特定技能の他分野よりも手厚く用意されており,技能試験の高い合格率からもそのことが伺えます。
人材不足が深刻なビルクリーニング業では,今後,外国人の雇用はいっそう重要になるでしょう。
この機会に,本記事の内容も参考にして,他企業よりも早く優秀な特定技能外国人の雇用を実現することをお勧めします。