渡邉 直斗

【解決事例】外国にある関連会社等から企業内転勤ビザで招へいする方法

日本にあるA社の人事担当の方から,以下のようなご相談を頂きました。

「タイの子会社であるB社から,日本の親会社であるA社に社員の転勤を考えています。これまで,技術・人文知識・国際業務ビザを取得してきました。今回は6名に辞令が出される予定ですが,一部の転勤者については,高校卒業が最終学歴であるため,技術・人文知識・国際業務ビザは取得することが出来ません。
これまで自社でビザ申請を行ってきたのですが,外国人従業員の数も増えて来たことから,専門家に依頼したいと思っています。どのように進めるのが良いか教えて下さい。」

就労ビザには,それぞれの在留資格に応じた要件が課されています。

就労ビザの代表格である技術・人文知識・国際業務ビザの場合,学歴や実務経験が必要とされています。今回の事例について見ると,一部の転勤者の方については最終学歴が高校卒業であるため,学歴要件を満たしていないと判断されます。また,実務経験についても満たしていないという事でした。
このようなケースでは,他の就労ビザを取得できる可能性はないのでしょうか。

今回のような事例で,私たちが検討する一つが企業内転勤ビザです。
しかし,企業内転勤ビザの要件,とりわけ関連会社の理解などは難しいとされています。

そこで本ページでは,企業内転勤ビザをみていきます。

1.企業内転勤ビザの要件は?

まず,企業内転勤ビザで認められる活動内容を確認しましょう。

(1)在留資格該当性

入管法には,以下のような活動内容が規定されています。

本邦に本店,支店その他の事業所のある公私の機関の外国にある事業所の職員が本邦にある事業所に期間を定めて転勤して当該事業所において行うこの表の技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動

そして,技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動とは,以下のとおりです。

入管法別表1の2「技術・人文知識・国際業務」の項の下欄
「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項,芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで,企業内転勤の項及び興行の項の下欄に掲げる活動を除く。)。」

要約しますと,企業内転勤ビザで認められる活動内容とは,同一企業等の内部で外国の事業所から日本の事業所に一定期間転勤して,理系分野(技術)または文系分野に属する業務内容(人文知識),もしくは,通訳・翻訳業務,語学の指導,海外取引業務等(国際業務)を行う場合を指します。

(2)上陸基準省令

企業内転勤ビザを取得するためには,雇用開始後に予定する業務内容が上記の活動内容に合致すること(在留資格該当性)に加え,我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定められている基準に適合することが求められています(上陸基準省令適合性)。

上陸基準省令については,下記のように分類することができます。

①実務要件

申請に係る転勤の直前に外国にある本店,支店その他の事業所において上記「技術・人文知識・国際業務」の業務に従事している場合で,その期間(企業内転勤の在留資格をもって外国に当該事業所のある公私の機関の日本にある事業所において業務に従事していた期間がある場合には,当該期間を合算した期間)が継続して1年以上あること。

少し読みづらいので要約すると,企業内転勤ビザにいう「転勤」というためには,1年以上,外国にある本店,支店などで,技術・人文知識・国際業務ビザの業務に従事している必要があります。つまり,企業内転勤ビザを取得することを目的として新規雇用しても,1年以上の在籍実績がなければ,日本で企業内転勤ビザは取得することは出来ません。

②報酬要件

日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。

これは技術・人文知識・国際業務ビザの場合と同様の解釈です。端的に記載をすると,同じ会社で同じ業務をする日本人と比較して,報酬が低廉でないことを求めています。

2.企業内転勤のポイント ~「転勤」と認められる範囲は?~

「転勤」は,日常用語では同一会社内の異動をいうことが多いですが,企業内転勤ビザの「転勤」は,系列企業内の出向等も含まれます。

「系列企業内」とは,財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則第8条にいう「親会社」,「子会社」,及び「関連会社」を指します。単なる業務提携関係の異動では,「転勤」に該当しないことに注意が必要です。
具体的には,次のような関係図における異動の場合には「転勤」に該当することになりますが,他にも細かな要件の検討が必要となりますので,どのケースに該当するかの判断は,専門家を交えて相談されることをお勧めします。

(1)本店・支店間の異動

(2)親会社と子会社間の異動

(3)子会社間等の異動

(4)関連会社への異動

 

3.企業内転勤ビザの必要書類について

会社の性質や規模毎に4つのカテゴリーに区分されており,必要書類はカテゴリーに応じて異なります。
企業内転勤ビザを申請する場合の必要書類は,以下の法務省ホームページをご覧ください。

(在留資格認定証明書交付申請)
http://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/shin_zairyu_nintei10_13.html

(在留資格変更許可申請)
http://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/shin_henko10_12.html

(在留期間更新許可申請)
http://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/shin_zairyu_koshin10_13.html

4.今回の事例

それでは,今回の事例について見ていきましょう。

今回の事例では,最終学歴や実務経験を満たさず,これまで取得していた技術・人文知識・国際業務ビザには該当しませんでした。そして,活動内容をお伺いすると,技術カテゴリーに該当する活動であったため,当社で企業内転勤ビザの要件への適合判断を行いました。

その結果,日本の親会社A社とタイの子会社の出資関係は明らかであり,企業内転勤で求められる出資比率を充足していることがわかりました。また,6名の転勤者については,タイの子会社で,少ない方で3年,長い方で7年の勤務実績があることがわかりました。

今後のA社の人事設計などをお伺いした上で,企業内転勤ビザで入国を目指すのが目的に適うと判断し,当社で企業内転勤ビザの申請準備を進めました。
結果的に,6名の企業内転勤ビザの許可,そして今後の人材の異動がスムーズになったととても喜んでいただけた案件です。

5.外国にある関連会社等から企業内転勤ビザで招へいする方法のまとめ

企業内転勤ビザは,「技術・人文知識・国際業務」で要求される学歴要件や実務要件は満たさなくとも,海外の関連会社等で実務経験を1年以上有していれば,優秀な人材を招へいできることや,新たに外国人を雇用するよりも能力担保された優秀な社員を日本で業務に就かせることができる就労ビザです。

就労ビザの種類は多くありますが,どの就労ビザが受入企業にとってメリットが高いかという観点での検証は不可欠です。

企業内転勤ビザは,上述のとおり立証が複雑なことや出資関係の要件が厳しいこともあり,就労ビザ全体の中では申請件数は多くはありませんが,実は多くのメリットもあります。国境を越えた人事異動の際には,ぜひ検討をしていただきたいビザの一つです。

企業内転勤ビザをご検討されている方で,これからどのように手続きを進めたらよいのか不安を抱えている企業様は,一度当社までお問い合わせ下さい。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 渡邉 直斗

・日本行政書士会連合会(登録番号第19260365号)
・大阪府行政書士会(会員番号第7712号)
兵庫県出身。大阪オフィス長として,大学や自治体,企業向けのセミナーにも登壇。外国人ビザ申請,国際結婚,帰化許可申請などの国際業務を専門としている。

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