仲野 翔悟

インドネシアの二国間協定の誓約事項と受入れフロー

インドネシアの二国間協定の誓約事項と受入れフロー

本記事では、日本とインドネシアの間で締結されている二国間協定の内容を中心に紹介します。
二国間協定での誓約事項や,特定技能外国人を受入れする際のインドネシア独自のルールなども解説した内容になっているので,ぜひ最後までご一読ください。

1.特定技能の二国間協定とは

特定技能の二国間協定は,特定技能外国人の保護や特定技能制度の運用を円滑にすることなどを主な目的としています。

なお,二国間協定が締結されていない国の外国人が,特定技能ビザを取得することも可能です。
この点,誤解があるポイントなので注意してください。

2.インドネシア政府が誓約した重要事項

二国間協定で,インドネシア政府が誓約している次の重要事項について,解説していきます。

  • インドネシア労働市場情報システムにて求人・求職者情報の公開
  • インドネシア労働市場情報システムの使い方などについて公表
  • 特定技能外国人へシステム利用・更新の周知
  • 受入れ機関に対する改善命令情報などをインドネシア国内で公表
  • 日本政府が作成した登録支援機関の一覧をインドネシアで公開
  • 全ての特定技能外国人を海外労働者管理システムに登録するように周知
  • 特定技能外国人に対する出国前説明会の実施
  • 日本政府からの情報照会依頼に対応
  • 日本に在留している特定技能外国人に対して推薦状の発行

それぞれ見ていきます。

〇インドネシア労働市場情報システムにて求人・求職者情報の公開
インドネシア政府は,政府が運用しているインドネシア労働市場情報システム(IPKOL)をインドネシアにいる特定技能外国人の求人・求職にも使用することを希望しています。

そのため,IPKOLに登録された求人情報や日本での就労を希望する特定技能外国人の情報を,システムで情報公開をすることが誓約されています。

一方で,特定技能外国人の求人や求職をする際に,IPKOLを使用することは義務ではないため,実際にIPKOLを使っての求人・求職は実例が多くないのが実情です。

〇インドネシア労働市場情報システムの使い方などについて公表
日本では認知度が低いIPKOLの使い方などについて,インドネシア政府が公表することが誓約されています。

しかし,IPKOLの使い方については公表されている情報が乏しく,システムもインドネシア語でのみ使用できるなど,日本向けのシステム利用や使い方についての広報が未だに進んでいないのが実情です。

なお,IPKOLのサイトについては「インドネシア労働市場情報システム(IPKOL)」よりアクセスが可能です。

〇特定技能外国人へシステム利用・更新の周知
特定技能外国人へのシステム利用・更新の周知をすることが,誓約されています。

一方で,新型コロナウイルス感染症の影響により,インドネシアにいる特定技能外国人の採用案件が低水準に留まっていたこともありシステム利用者が増えていません。

また,インドネシアにいる特定技能外国人を呼び寄せする場合は,以前技能実習を行っていた受入れ機関に戻る場合や,人材紹介会社を通して受入れ機関を探す場合も少なくないため,システム利用が進まない要因にもなっています。

〇受入れ機関に対する改善命令情報などをインドネシア国内で公表
受入れ機関が入管法などに抵触して,改善命令などを受けた場合はインドネシア国内でも情報を公表することが誓約されています。

そのため,不正を行った受入れ機関については,インドネシア人の特定技能外国人を採用することが難しくなる可能性がある点には,注意して下さい。

〇全ての特定技能外国人を海外労働者管理システムに登録するように周知
特定技能外国人となる全てのインドネシア人は,海外労働者管理システム(SISKOTKLN)へ登録する必要があります。

SISKOTKLNは,インドネシア国外で就労するインドネシア人がトラブルに巻き込まれた際などに,政府が当該インドネシア人の保護をする際などに役立つシステムです。

インドネシアにいる特定技能外国人が,日本へ出国する際は,事前にSISKOTKLNへ登録しておくことが義務となっている点には注意して下さい。

なお,SISKOTKLNのサイトについては「海外労働者管理システム(SISKOTKLN)」よりアクセスが可能です。

〇特定技能外国人に対する出国前説明会の実施
インドネシアにいる特定技能外国人が日本へ出向する前には,出国前説明会を実施することとされています。

出国前説明会については,特定技能ビザで実施義務である「事前ガイダンス」とは別で実施される点は,勘違いしやすいため注意して下さい。

〇日本政府からの情報照会依頼に対応
特定技能ビザの申請などに際して,インドネシアの紹介会社の情報を含めて日本政府から情報照会依頼があれば,インドネシア政府は対応する義務があります。

そのため,インドネシアでの登録情報なども照会される可能性があり,日本の入管に申告した情報と齟齬がある場合などは,日本で行う特定技能ビザ申請結果に影響する可能性がある点には注意して下さい。

〇日本に在留している特定技能外国人に対して推薦状の発行
日本に在留している特定技能外国人が特定技能ビザへの切り替えをする際に,推薦証が必要な際には発行をすることが誓約されています。

なお,現在のところは,インドネシア人が特定技能ビザを入管に申請する際に,インドネシア政府から入手した推薦証の提出は求められていません。

3.日本政府が誓約した重要事項

日本政府が誓約した事項は,次の通りです。

  • 受入れ機関に対する改善命令情報などをインドネシア政府に共有
  • 登録支援機関の一覧をインドネシア政府に共有
  • 受入れ機関にインドネシア労働市場情報システムへの登録を周知
  • 受入れ機関へシステム利用・更新の周知
  • 特定技能外国人が推薦状を取得する必要があることの周知
  • 在インドネシア日本大使館のビザ発給ルールについての取り決め徹底
  • インドネシア政府からの各種情報照会依頼に対応

それぞれ見ていきます。

〇受入れ機関に対する改善命令情報などをインドネシア政府に共有
受入れ機関が不正などを行った場合は,インドネシア政府にも共有されることが誓約されています。

また,インドネシア政府も共有された情報をインドネシアでも公表するとしているため,特定技能ビザの運用については,入管法を遵守することが必須です。

〇登録支援機関の一覧をインドネシア政府に共有
入管が許可をした登録支援機関については,インドネシア政府にも情報共有されます。

許可を受けていない登録支援機関を介しての手続きは,日本側のみならずインドネシア側でも把握されるため,必ず適正な許可を受けた登録支援機関を使用して下さい。

〇受入れ機関にインドネシア労働市場情報システムへの登録を周知
インドネシア労働市場情報システム(IPKOL)への登録は義務ではありませんが,求人・求職などで利用することを周知することが誓約されています。

そのため,入管のホームページでも,求人・求職の際にIPKOLを使用することの案内がなされています。

〇受入れ機関へシステム利用・更新の周知
IPKOLには,受入れ機関が登録するだけでなく,実際に利用して情報の更新をすることも誓約されている周知内容の一部です。

4.特定技能外国人の受入れフロー(呼び寄せ)

特定技能外国人を「呼び寄せする場合」の手続きフローを紹介します。

呼び寄せの場合の手続きフローは次の➀~⑥です。

① 採用する人材を確保
② 雇用契約の締結
③ 特定技能ビザの取得
④ 海外労働者管理システムへ登録
⑤ 在インドネシア日本大使館での手続き
⑥ 日本へ入国・就労開始

それぞれ紹介します。

① 採用する人材を確保
特定技能外国人として受入れする人材を,人材紹介会社などを使って確保します。

技能実習2号を修了している外国人については,同じ職種の特定技能ビザを試験の受験なしで取得できるため,以前受入れしていた優秀な元技能実習生を,特定技能ビザで呼び戻すことも可能です。

② 雇用契約の締結
採用したい人材が決定したら,受入れ機関と特定技能外国人の双方合意の下で,雇用契約を締結します。

③ 特定技能ビザの取得
締結した雇用契約書や特定技能ビザのその他の必要書類を,日本の入管へ申請します。

申請した内容に問題が無ければ,約2ヶ月で特定技能ビザが取得できます。

④ 海外労働者管理システムへ登録
海外労働者管理システム(SISKOTKLN)に,特定技能外国人が自身で登録します。

登録完了後に,インドネシア政府からインドネシア在外労働者保護庁の移住労働者証(E-KTKLN)が発行されます。

⑤ 在インドネシア日本大使館での手続き
発行したE-KTKLNや特定技能ビザを,在インドネシア日本大使館へ提出することで,日本で就労するための正式な特定技能ビザが発行されます。

在インドネシア日本大使館での手続きが済めば,インドネシア側での全ての手続きは完了です。

そのため,航空券の手配は,この時点で行うことをおすすめします。

⑥ 日本へ入国・就労開始
日本に入国したら空港で特定技能ビザ(在留カード)が発行されます。

発行日から雇用契約期間などにも拠りますが,通常は発行日から1年間の間,特定技能外国人として就労する許可が貰えます。

5.特定技能外国人の受入れフロー(日本にいるインドネシア人)

日本にいるインドネシア人の手続きフローは次の➀~⑤です。

① 採用する人材の確保
② 雇用契約の締結
③ 海外労働者管理システムへ登録
④ 特定技能ビザの取得
⑤ 就労開始

それぞれ解説します。

① 採用する人材の確保
他社で就労している外国人や,自社で受入れしている技能実習生などが,採用する人材の候補者になります。

社外からの人材を受入れる場合は,この段階で特定技能ビザの要件を満たすかについても必ず確認をする必要があります。

② 雇用契約の締結
受入れ機関と特定技能外国人の双方合意の下で,雇用契約を締結します。

雇用契約の説明はインドネシア語で行い,勘違いのないようにする必要があります。

③ 海外労働者管理システムへ登録
海外労働者管理システム(SISKOTKLN)へ登録して,インドネシア在外労働者保護庁の移住労働者証(E-KTKLN)を取得します。

E-KTKLNを取得後は,駐日インドネシア大使館にて海外労働者登録手続きを行う必要があります。

④ 特定技能ビザの取得
特定技能外国人と事前ガイダンスなどを実施した後に,特定技能ビザの必要書類を揃えて入管へ特定技能ビザの申請をします。

申請前に保有しているビザの有効期限から2ヶ月間を過ぎると,日本に在留できなくなるため,余裕をもって特定技能ビザの申請をする必要があります。

⑤ 就労開始
特定技能ビザを取得した日から通常1年間は,特定技能外国人として就労可能です。

なお,特定技能ビザの就労可能期間は最大で5年間です。

6.注意事項について

〇特定技能外国人を受入れする際に送出し機関の仲介は不要
インドネシア人を特定技能外国人として受入れする際に,送出し機関の仲介は不要です。

そのため,呼び寄せの場合に,特定技能ビザの申請書作成のための情報取り次ぎなどを送出し機関へ依頼する場合はありますが,ベトナムやフィリピンなどのように送出し機関を必ず仲介する必要はありません。

〇2つのシステムの登録要否
特定技能ビザの取得手続きの中で,インドネシア労働市場情報システム(IPKOL)と海外労働者管理システム(SISKOTKLN)の2つのシステムがあります。

混同しやすいシステムですが,IPKOLについては登録が義務ではなく,国内にいるインドネシア人を特定技能ビザで受入れする場合は登録不要です。

一方で,SISKOTKLNについては,全ての特定技能外国人が登録する必要がある点に注意して下さい。

7.まとめ:インドネシアの二国間協定の誓約事項と受入れフロー

インドネシアの二国間協定では,インドネシア政府が運用しているオンラインシステムの利用推進などについて,強く言及されている点が特徴です。

特に,SISKOTKLNについては,特定技能外国人を保護するためにも重要な役割を果たすため,特定技能ビザ取得前に必ず登録するように周知して下さい。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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