今井 幸大

特別高度人材制度(J-Skip)を徹底解説

2023年4月から,「特別高度人材制度」(J―Skip)が新たに導入されました。
ざっくり言いますと,学術研究や企業経営等の分野で高度な専門性を持つ外国人の中でも極めて優れた知識・技能を持った外国人の方に,日本にどんどん来て働いてもらいたい。
そのために在留資格(ビザ)取得の条件も緩和するし,いろんな特典も付けましょう――という制度です。
本コラムでは「特別高度人材制度」(J―Skip)が出来た背景や,制度の詳細を解説します。

1.特別高度人材とは?

特別高度人材とは,極めて優秀な外国人のことです。
この制度の前提となるのが「高度専門職」という在留資格です。
>>高度専門職 条件 はコチラ

高度専門職は,日本の経済成長を促すために2015年に創設されました。

  • 我が国の産業に新たなイノベーションをもたらす
  • 日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促す
  • 日本の労働市場の効率性を高めることが期待される

高度専門職のイメージは上記のような人材です。
要するに日本的な働き方や研究の仕方や企業活動に風穴を開ける存在として,優秀な外国人に日本に来てもらいたいということです。

今回の新制度創設は,これまでの高度専門職の制度とは異なり,「学歴または職歴」と「年収が一定の水準以上」であれば「高度専門職」の在留資格が付与されるようになったのが大きな特徴です。

2.特別高度人材制度創設の背景

2015年の高度専門職創設から8年で特別高度人材制度が創設された背景には,岸田首相をはじめ現政権が「新しい資本主義」への適応と,「コロナ後の新しい社会を見据えた人材への投資」を喫緊の課題として捉えていることが挙げられます。

世界最先端の知識・技能を持った優秀な人材は「世界中で取り合い」になります。
岸田首相は2022年,「シンガポール,インドネシア,ニュージーランドなどの国々ではより高度な人材を取り込むため,在留資格制度(の見直し)、優遇する制度を取り入れている。(中略)日本も高度な人材を集めようという努力は続けてきましたが,世界の状況を見る限り,まだまだ足りない」という趣旨の発言をしています。
(出入国在留管理庁ホームページより部分的に引用)

そして「教育未来創造会議」において,関係閣僚に対し,「世界各国で人材獲得競争が進む中,留学生に限らず,高度人材受入れについて,世界に伍する水準の新たな制度の創設を含め,改革を進めていく必要があります。本会議と『新しい資本主義実現会議』及び『外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議』が連携して,年度内に具体化してください」と指示しました。(教育未来創造会議議事録より引用)

これを受けて誕生したのが特別高度人材制度です。

3.特別高度人材と認められる要件

「高度専門職」制度は,活動内容を,「高度学術研究活動」(大学教授や研究者等),「高度専門・技術活動」(企業で働く技術者等),「高度経営・管理活動」(企業の経営者等)の3つに分類。その特性に応じて「学歴」,「職歴」,「年収」などの項目ごとにポイントを設け,ポイントの合計が70点以上であれば,高度外国人材と認められ,高度専門職ビザを付与する仕組みでした。

特別高度人材制度では,ポイント制とは別に,学歴または職歴と,年収が一定以上であれば,「特別高度人材」として高度専門職ビザが取得できるように要件を拡充したのです。

求められる職歴や年収は,「高度学術研究活動」の従事者(大学教授や研究者等),もしくは「高度専門・技術活動」の従事者(企業で新製品開発をする技術者,国際弁護士等)は,

学歴が修士号以上取得しており年収2,000万円以上
従事しようとする業務等の実務経験10年以上で年収2,000万円以上

のいずれかの条件を満たすことが必要です。

また,「高度経営・管理活動」の従事者(グローバルな事業展開を行う企業等の経営者等)
であれば

事業の経営又は管理に係る実務経験5年以上で年収4,000万円以上

であることが条件です。

高度外国人材の受入れに係る「新たな制度」の創設について(出入国在留管理庁ホームページより)

4.特別高度人材に対する優遇措置とは

上記の表にある通り,特別高度人材と認められると,その人だけでなく家族にも優遇措置があります。

特別高度人材に最初に付与される在留資格は,原則として「高度専門職1号」です。
高度専門職1号の在留資格があると,

  • 複合的な在留活動の許容
  • 5年間の在留
  • 永住許可要件の緩和(通常の在留資格では「引き続き」10年間の日本在留が必要だが,最短で1年に短縮される)
  • 配偶者の就労
  • 一定の条件の下での親の帯同
  • 一定の条件の下での家事使用人の帯同
  • 入国・在留手続の優先処理

などの優遇措置があります。

特別高度人材と認められると,これに加えて,

  • 大規模空港等に設置されているプライオリティレーンの使用

が可能になります。

高度専門職1号よりも優遇措置がある「高度専門職2号」という在留資格があります。
高度専門職2号は高度専門職1号に付与される優遇措置に加えて

  • 「高度専門職1号」で認められる活動のほかにも,その活動と併せて一般に就労に関する在留資格で認められるほぼ全ての活動を行うことができる
  • 在留期間が「無期限」になる

という優遇措置があります。

つまり日本での活動や在留期間にほぼ制限がなくなるのです。

高度専門職1号から2号への移行は,通常は3年以上の活動が必要ですが,
特別高度人材と認められると1年間の活動で高度専門職2号への移行が可能となりました。

ほかにも,「特別高度人材」と認められると特別な優遇措置があります。

「家事使用人」としての外国人の帯同に関して。
従来の高度専門職ビザでは,家事使用人の帯同は「雇用主と共に出国する予定であること」や、「雇用主が13歳未満の子等を有していること」などの要件が必要でした。

家事や育児を家族が担う日本とは異なり,外国には家事や育児はハウスキーパーやベビーシッターなどの「家事使用人」に託す文化もあります。
「特別高度人材」と認められるような,いわばリッチな外国人なら特に,馴染みの家事使用人に家族や自分の身の回りを任せた方が心地よいと感じるのではないでしょうか。

このような事情を考慮し,特別高度人材と認められた場合は,

  • 世帯年収が3,000万円以上の場合,外国人家事使用人を2人まで雇用可能
  • 13歳未満の子が居る等の家族要件を課さない

などと,要件が緩和されました。

特別高度人材の配偶者の就労要件についても,緩和されました。
日本人に滞在する外国人の扶養家族(配偶者)という身分で在留資格を得た外国人は,通常は日本国内での就労活動が制限されます。
夫や妻の「扶養家族」として,日本への在留を許可したのだから,主に家事・育児を担うだろう。日本で働くには別に法で定められた在留資格をとらなければならないという発想です。

ですから外国人の「配偶者」として在留資格を得た外国人の就労は,通常は

  • 「資格外活動」の許可を得て,週28時間までの就労が可能
  • 他の外国人と同様に「人文知識・国際業務」や「技術」などの専門的・技術的分野で就労可能な在留資格を新たに取得して就労する

のいずれかの条件に当てはまる必要がありました。

特別高度人材制度では,上記の条件を大幅に緩和
配偶者は,「研究」「教育」「技術・人文知識・国際業務」及び「興行」に該当する活動に加え,「教授」「芸術」「宗教」「報道」「技能」に該当する活動についても,「経歴等の要件を満たさなくても週28時間を超えて就労を認める」としました。
つまり,「特別高度人材の配偶者」であるという身分をもって,日本で従来の制限なく働けるようになったのです。

優秀な外国人材を日本に呼び込むには,その家族の就労についても寛容なスタンスでないと実現不可能である,という発想からだと思います。
海外には「自分のキャリア形成」と「家族生活の幸福」や「配偶者等のキャリア形成」が同等,もしくはファミリーの生活を優先する価値観の文化を持った国もたくさんあります。
超優秀な外国人材が「家族と共に日本で働いてみよう」と思うためには,その配偶者の就労にも配慮する必要があるのでしょう。

5.特別高度人材の在留資格申請手続きの流れ

特別高度人材として認められると,「特別高度人材証明書」が交付され、在留カードの裏面に「特別高度人材」と記載されます。

特別高度人材の在留資格申請は,大きく分けて

ア.現在外国に滞在しており,新たに高度専門職1号の在留資格を得て日本に入国を希望する。その際「特別高度人材」として申請する
イ.すでに別の在留資格で日本に滞在しており,在留資格を高度専門職1号に切り替えたい。その際に「特別高度人材」として申請し,優遇措置を受けたい
ウ.すでに高度人材ポイント制によって高度専門職1号の在留資格を取得し,日本に滞在している。特別高度人材としての優遇措置を希望する

の、3パターンに分かれます。

アの場合は,該当する入管に高度専門職1号の「在留資格認定証明書」の申請をします。
同時に日本で行おうとする活動に関して特別高度人材の要件を満たす(学歴・職歴・年収)ことを立証する資料を提出しなければなりません。

在留資格認定証明書とは,外国人の方が日本に来て行う予定の活動内容が,どの在留資格に該当するのか等,その人が日本に上陸するための条件に適合していることを明らかにする書類です。

本コラムで想定しているのは,「特別高度人材」と認められてポイント制を使わずに高度専門職1号の在留資格を取得したい場合ですので,学歴や職歴もしくは年収が特別高度人材に該当することを証明する資料を提出して,在留資格認定証明書を取得する必要があります。

イの場合は,外国人の方がすでに日本での在留資格を持っているわけですから,資格を高度専門職1号に変更するための「在留資格変更許可申請」をします。
アの場合と同様,特別高度人材の要件を満たすことを証明する資料を提出します。

ウの場合は,さらに2パターンに分かれます。

  • 高度専門職1号ビザでの在留期間の満了までおおむね3か月以内の場合

在留期間更新許可申請」をします。
この場合も特別高度人材に該当する旨を申し出る必要があります。
ちなみに,すでに高度専門職1号の在留資格を持っておられる方は,年収が減るなどして「特別高度人材」の要件に該当しないからといって,ただちにその在留資格で日本に居られないということはありません。

  • 高度専門職1号での在留期間の満了までの期間が上記以外の場合

新たに「就労資格証明書交付申請」を行います。
その際に,自分が特別高度人材である旨の認定をしてもらうことになります。
就労資格証明書とは,日本に滞在する外国人が現在持っている在留資格で定められた活動内容と,実際に行っている就労活動が合っていることを入管に証明してもらう書類です。
本来,必ず取る必要はありませんが,特別高度人材として認められたい場合はこの申請をすることになります。

6.特別高度人材制度(J―Skip)のまとめ

本コラムでは,新設された「特別高度人材制度」について解説しました。
超優秀な外国人材を日本に受け入れるための制度で,「狭き門」ではあります。

ですが,外国人の方の知識や技術を日本で発揮するチャンスとなる制度でもあります。
従来の高度専門職のポイント加点要素だった日本語能力が問われないことから,日本語はできないが英語などの外国語でコミュニケーションしている外資系・IT企業などで働く方。
あるいは,経営者には学歴は問われないことから,例えば大学は中退したが4000万円以上バリバリ稼いでいる経営者の方などには,日本で安定して働けるメリットがあるでしょう。

清潔さ,治安の良さ,四季の自然の美しさなど,外国人の方が日本で暮らすことで得られる幸せもあると思います。

優秀な人材を求める企業担当者の方にも,本コラムで特別高度人材について知っていただければ幸いです。
外国人材をスカウトする際,「配偶者の就労の幅が格段に広がった」「家事使用人の帯同がスムーズにできる」「最短1年で永住申請も可能」――等,日本に来るための様々な優遇措置が取られるとアピールできることは,手持ちの札が何枚も増えることになります。

特別高度人材制度(J―Skip)は始まったばかりの制度ですので,わからないことがあって当然です。
私たち行政書士法人第一綜合事務所は,在留資格申請等の国際業務の専門家です。
豊富な経験を持つだけでなく,外国人や在日外国人に関して日々変わる新制度の情報収集にも努めています。

特別高度人材制度について,少しでも興味のある方は,弊社の無料相談もございますので是非ご連絡ください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

特定行政書士 今井 幸大

・日本行政書士会連合会(登録番号第18080677号)
・東京都行政書士会(会員番号第11843号)
東京都出身。東京オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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