渡邉 直斗

企業内転勤ビザとは?必要書類や活動内容,許可要件などを解説!

企業内転勤ビザとは?許可の要件や申請の注意点を専門行政士が解説!

海外拠点の社員を日本へ転勤させる場合、適切な在留資格(ビザ)の取得が必要です。その代表的な選択肢の一つが、グループ企業内の異動で利用される「企業内転勤」ビザです。
ただ、この「企業内転勤」ビザ、他の就労ビザに比べて、転勤前の勤務期間や、日本と海外の企業の関係性(どこまでがグループ企業と認められるか)など、クリアすべき要件が細かく定められています。「ちょっと複雑で分かりにくい…」と感じているご担当者様も多いのではないでしょうか。
この記事では、「企業内転勤」ビザの特徴や許可を取るために特に注意したいポイント、申請手続きの具体的な流れを、ビザ専門の行政書士ができるだけ分かりやすく丁寧に解説します。

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企業内転勤ビザとは?

「企業内転勤」ビザとは、日本の会社や団体が、海外の支店や関連会社の社員を、日本にあるオフィスへ転勤させるときのために用意された在留資格(ビザ)です。
転勤なので,一定の期間を決めて日本で働いてもらうためのビザ、とイメージしていただくと分かりやすいと思います。
「企業内転勤ビザ」は就労ビザの一つなので、日本で働いてお給料をもらうことが認められます。

ただし、どんな仕事でもOKというわけではありません。
日本で行う活動は、「技術・人文知識・国際業務」(技人国)と呼ばれる別のビザで認められている活動と、基本的に同じである必要があります。

企業内転勤ビザで可能な活動内容

では、その「技術・人文知識・国際業務」に該当する活動とは具体的にどんなものでしょうか。
大きく分けて以下の3つの分野が定められています。

【技術 (自然科学の分野)】
いわゆるエンジニアやIT技術者、開発者など、理系(理学、工学など)の専門知識や技術が必要な仕事です。
(例:システムの開発、機械の設計、研究開発)

【人文知識 (人文科学の分野)】
企画、営業、マーケティング、経理、人事など、文系(法律学、経済学、社会学など)の専門知識が必要な仕事です。
(例:事業企画、法務、財務分析)

【国際業務】
翻訳、通訳、語学の指導、海外との取引業務など、外国の文化や考え方(感受性)をベースにしたスキルが必要な仕事です。
(例:海外マーケティング、通訳・翻訳、デザイン)

「単純作業」は認められません!

ここで、とても大切な注意点があります。
企業内転勤ビザは、上記のような専門業務を行うためのものです。そのため,いわゆる単純作業と呼ばれる業務だけに従事することは認められていません。

【単純作業の例】

  • 工場のライン作業
  • お店での接客
  • オフィスの清掃 …など

もし、決められた範囲外の仕事(単純作業など)をさせてしまうと、企業側は「不法就労助長罪」に、本人も「資格外活動罪」に問われる重大なリスクがあります。
転勤後の業務内容については、法律の範囲内で適切に行われるよう、厳密に管理する必要があるのです。

「転勤」と認められる企業間の関係とは?

企業内転勤ビザでいう「転勤」とは、文字通りの転勤(例:A社の海外支店 → A社の日本本社)だけでなく、
日本のグループ会社への「出向」といったケースも広く含んでいます。

ポイントとなるのは、「どこまでがグループ企業(系列企業)として認められるか?」です。

原則として、「親会社」「子会社」「関連会社」の関係にある企業グループが対象となります。

申請の際には、海外の会社と日本の会社との間に、資本関係(株主構成)や役員の兼任など、強いつながりがあることを立証しなくてはなりません。
これは、感覚的な説明ではなく、「登記事項証明書」や「株主名簿」といった公的な資料をしっかりと揃えて、客観的に立証する必要があります。

ちなみに、転勤先となる「日本の事業所」には、一般的な民間企業だけでなく、JETRO(日本貿易振興機構)のような公社・独立行政法人や、外国の政府関係機関、地方公共団体なども含まれます。

企業内転勤ビザの許可要件とは?

企業内転勤ビザの許可を得るためには、入管法などで定められたいくつかの重要な基準(要件)をすべて満たす必要があります。

専門用語では「在留資格該当性」や「上陸許可基準」と呼ばれますが、ここでは一つずつ、かみ砕いて見ていきましょう。

1.【重要】転勤前の「継続勤務期間」

まず、最も重要な要件の一つが、転勤直前の「勤務経験」です。

  • 日本へ転勤する直前に、海外の親会社や支店などで、継続して1年以上勤務していること。
  • その海外での仕事内容が、日本で担当する予定の業務(「技術・人文知識・国際業務」に該当するもの)と関連していること。

上記の①②どちらもクリアする必要があります。

【知っておきたいメリット】 企業内転勤ビザは「学歴」は問われません!
就労ビザの代表格とも言える「技術・人文知識・国際業務」ビザでは、原則として「大学卒業以上」の学歴が求められます。
しかし、「企業内転勤」ビザの場合、この学歴要件がありません。大切なのは、あくまで「海外の拠点で1年以上、関連業務に従事していたこと」です。
これを「在職証明書」などでしっかり証明できれば良いため、学歴に関わらず優秀な人材を日本へ呼べる、というのがこのビザの大きなメリットとも言えます。

2.給与(報酬)に関する要件

転勤して日本で働く際の給与(報酬)にも、ルールが定められています。

  • 「同じ仕事をする日本人社員」が受け取る報酬と、同等額以上であること

これは、不当に安い賃金で外国人を雇用することを防ぐための決まりです。

給与の支払い方については、柔軟に認められています。
例えば、基本給は海外の本社が支払い、日本の事業所は住宅手当などの手当を支払う、というケースでも大丈夫です。
両方から支払われる報酬の「合計額」が、日本人の同等職と比べて同等以上であれば、要件を満たします。

申請の際は、「賃金規定」や前年度の報酬実績がわかる資料(源泉徴収票など)を提出し、この基準をクリアしていることを証明することになります。

3.「転勤期間」が決められていること

このビザは、あくまで「期間を定めた」転勤のためのものです。

  • ビザを申請する時点で、「いつからいつまで日本で勤務するのか」という期間が決まっていること

転勤の期間が決まっていない状態では申請できません。
なお、一度に許可される在留期間は、入管法で「5年」が最長と定められています。ただし,要件を満たせば更新することは可能です。

企業内転勤ビザの申請手続きに関する注意点

ここからは,企業内転勤ビザの申請手続きについて,実務上の注意点などを解説していきます。

申請に必要な書類とは?

申請に必要な書類は、受け入れる日本の事業所の規模やカテゴリーによって異なりますが、一般的に以下の書類を準備することになります。

区分 準備する書類の例
申請人
(転勤者)
履歴書、パスポート、写真、外国にある事業所からの辞令、継続して1年以上の勤務期間を明示した在職証明書など。
受入れ機関
(日本側)
会社の登記事項証明書、定款、事業内容を明示した資料、直近の決算に関する文書(損益計算書など)など。
報酬・契約関係 労働条件通知書、賃金規定、源泉徴収票、給与支払いの状況を前年と比較できる書類など。

※申請に必要な書類については出入国在留管理庁のホームページも確認してください。

企業内転勤ビザに関するよくある疑問

Q1. 入社したばかりの新入社員も転勤させられますか?


A1. できません。
企業内転勤ビザを取得するには、転勤の直前に、海外の拠点で継続して1年以上の勤務実績が必須要件です。
そのため、入社したばかりの新入社員の方(勤務歴が1年未満)は、この条件を満たせません。
もし新卒採用などで日本に呼びたい場合は、「企業内転勤」ビザではなく、「技術・人文知識・国際業務」ビザなど、別の就労ビザの取得を検討することになります。

Q2. 取締役(役員)として転勤する場合、どのビザになりますか?


A2. 仕事内容によって、ビザの種類が変わってきます。
海外の親会社などから日本の会社へ「取締役」として転勤する場合、日本での主な仕事内容がポイントになります。

  • 日本での活動が、主に会社の経営や管理業務(重要な意思決定や事業の運営)である場合
    ⇒「企業内転勤」ではなく「経営・管理」ビザが該当します。
  • 役員の肩書はあっても、主な業務はエンジニアリングやマーケティングなど、現場の専門業務である場合。(経営管理がメインではない場合)
    ⇒「企業内転勤」ビザが該当します。

どちらのビザを目指すべきか、活動の実態に合わせて判断する必要があります。

Q3. 日本に来たあと、国内の別の支店へ異動(再転勤)は可能ですか?


A3. 「誰の命令か」によりますが、注意が必要です。
このビザは、もともと「海外のA拠点」から「日本のB拠点」への転勤を前提に許可されています。
そのため、日本国内で「B拠点」から「C営業所」へ再度異動する場合、その異動命令の出どころが重要になります。

【OKなケース】
その異動が、もともとの転勤元(海外のA拠点)の命令、またはA拠点とB拠点の共同の命令によるもの。

【NGになる可能性があるケース】
日本のB拠点(転勤先)が、単独の判断でC営業所への異動を命じる場合。

Q4. 「企業内転勤」ビザのまま、別の会社に転職できますか?


A4. いいえ、転職する場合はビザの変更が必須です。
「企業内転勤」ビザは、あくまで「同じ企業グループ内での異動」を前提としたビザです。
親会社、子会社、関連会社間のみ有効で,まったく別の会社(グループ外の企業)へ転職する場合、このビザのまま働き続けることはできません。
転職先の仕事内容に合わせて、「技術・人文知識・国際業務」ビザなど、別の就労ビザへ変更の申請を行い、許可を得る必要があります。

企業内転勤ビザのメリットとは?

海外のグループ会社から人材を日本へ呼ぶ際、よく比較検討されるのが「技術・人文知識・国際業務ビザ」(通称「技人国」ビザ)です。
この「技人国」ビザと比べたとき、「企業内転勤」ビザには、企業の人事戦略にとって大きなメリットがあります。

比較項目 技術・人文知識・国際業務ビザ 企業内転勤ビザ
学歴・実務要件 原則として大卒または特定の分野での実務経験が求められる。 学歴要件は要求されない。転勤前の1年以上の継続勤務経験が基準となる。
雇用契約 日本の会社と新たに雇用契約を結ぶ必要がある。 同一法人の内部異動であれば、改めて雇用契約を結ぶ必要はない。
審査基準の立証 申請人個人の学歴や業務経験の詳細な立証が毎回必要。 企業グループ間の出資関係や関連性を一度立証すれば、その後の転勤申請で立証が比較的容易になる。

最大のメリットは原則として「学歴」が問われないことです。
取得要件の項目でも触れましたが,通常の「技人国」ビザでは、原則として「大学卒業以上」といった学歴、または関連業務での実務経験が求められます。
しかし、「企業内転勤」ビザは、この学歴要件がありません。
あくまで海外の拠点で1年以上、関連業務に継続して従事していたことが重視されます。

企業内転勤ビザを人事戦略の切り札に!

このコラムでは企業内転勤ビザについて解説してきましたが,いかがでしたか?
企業内転勤ビザの「学歴に左右されない」という点は、企業にとって大きな強みです。

例えば、「学歴はないけれど、現場で高いスキルと経験を持つ優秀な社員」や、「現地採用で長年活躍し、日本でさらに育成したい社員」を、スムーズに日本へ転勤させることが可能になります。
これは、日本でゼロから採用活動を行うコストや手間を大幅に削減できることを意味します。

海外からの即戦力人材の活用や、グローバルな人事異動を計画されている企業様にとって、この「企業内転勤」ビザは、事業戦略を実現するための選択肢として切り札になるはずです。

外国人雇用について専門家をお探しの方は,ぜひ第一綜合グループへご相談ください。
ビザ専門の行政書士と,外国人労務専門の社会保険労務士がトータルでサポートさせていただきます。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 渡邉 直斗

・日本行政書士会連合会(登録番号第19260365号)
・大阪府行政書士会(会員番号第7712号)
兵庫県出身。大阪オフィス長として,大学や自治体,企業向けのセミナーにも登壇。外国人ビザ申請,国際結婚,帰化許可申請などの国際業務を専門としている。

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