今井 幸大

製造業で外国人を雇用する際の就労ビザとは?在留資格のプロが解説

製造業で外国人を雇用する際の就労ビザとは?在留資格のプロが解説

日本は労働人口が減少し続けており,特に製造業では人材の確保が大きな経営課題となっている企業も少なくありません。外国人材の雇用は,深刻な人材不足の解決策の一つでもあります。しかし,外国人材を雇用する際には,どのような仕事に従事してもらいたいか?を整理しておく必要があります。日本人の場合,本人の能力や適性に応じて部署や担当業務の配置換えを行うことが一般的ですが,外国人材の場合,本人が持っている就労ビザの種類によって従事できる業務内容が限定されるものがあります。従事できない業務に従事させてしまった場合,外国人本人だけでなく企業側も罰せられる可能性があるため注意が必要です 。
このコラムでは,外国人が製造業で働く場合の主な就労ビザ5種類について,その詳細と注意点を解説します 。うっかり不法就労とならないよう,製造業の採用ご担当者様はぜひ最後までご覧ください 。

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製造業で働くことができる就労ビザは5種類

製造業で働くことができる就労ビザは,以下の通り5種類あります。

就労ビザの種類 単純作業の可否 在留年数の上限
技術・人文知識・国際業務 できない 制限なし
企業内転勤※1 できない 制限なし
特定活動46号(通称:N1特活) 一部できる 制限なし
特定技能 一部できる 最長5年※2
技能実習※3 一部できる 3~5年

※1:修行しながら就労できる「企業内転勤2号」の導入が決定しています。
※2:特定技能「1号」から「2号」へ変更することで,年数の制限なく5年を超えて就労できるようになります。
※3:技能実習制度は廃止され,新たに「育成就労」制度の導入が決定しています。

5種類それぞれの就労ビザについて,見ていきましょう。

(1)技術・人文知識・国際業務ビザ

「技術・人文知識・国際業務」ビザは,大学や専門学校などで学んだ高度な専門的知識と技術を活かした仕事を行うための就労ビザです。

【技術・人文知識・国際業務ビザの主な要件】
以下の,①②③いずれかの要件を満たす必要があります。
①日本または海外の大学または大学院を卒業・修了して学位を取得している
②日本の専門学校を卒業して「専門士」または「高度専門士」の学位を取得している③関連する実務経験を10年以上有している

技術・人文知識・国際業務ビザは就労ビザの代表格とも言えるビザですが,製造業の場合は職種が限定されるので注意が必要です。
たとえば工場で勤務する場合,生産管理や設計,研究開発などいわゆる「ホワイトカラー」と言われる業務内容であれば,技術・人文知識・国際業務ビザを取得することができるでしょう。一方で,組み立てや溶接作業,流れ作業が業務の大半である場合は技術・人文知識・国際業務ビザの取得はかなり難しくなります。

(2)企業内転勤ビザ

企業内転勤ビザは,外国にある事業所から日本の関連事業所へ一定の期間,転勤する方のためのビザです。
従事できる業務内容は,「技術・人文知識・国際業務」ビザと同等で,単純作業などはできません。
外国にある事業所で1年以上勤務していることが条件で,外国にある事業所でも「技術・人文知識・国際業務」ビザに該当する専門的な業務に従事していなければなりません。
また,転勤の期間を定める必要があり,「無期限」とすることはできません。ただし,転勤の期間を更新することで,実質的にはビザの延長も可能です。

(3)特定活動46号(通称:N1特活)ビザ

特定活動告示46号ビザは,大学で修得した幅広い情報と,高いレベルの日本語能力を活用した仕事をするために用意された就労ビザです 。
このビザは,いわゆる単純作業も一部可能ですが,一定レベル以上の知識や日本語力を必要とする業務に限定されます 。日本語でのコミュニケーションが不要な作業では,ビザの取得は難しいでしょう 。

【OK例】工場で自らの指示出しなども含む相互間コミュニケーションを取りながら行うライン作業
【NG例】工場で一方的な指示のみを受けて行うライン作業

【特定活動46号ビザの主な要件】
以下の,①及び②の要件を満たす必要があります。
①学歴として,以下A,B,Cいずれかに該当する場合
A:日本の4年制大学または大学院を卒業・修了して,学位を取得
B:認定専修学校専門課程を修了して「高度専門士」の学位を取得
C:短大または高等専門学校を卒業後,大学の単位をとって「学士」の学位を取得

②日本語能力として,以下D,E,Fいずれかに該当する場合
D:日本語能力試験「N1」に合格
E:BJTビジネス日本語能力テストのスコアが480点以上
F:大学または大学院で「日本語」を専攻して卒業(修了)した

このビザは,当初は「日本の4年制大学の卒業または大学院の修了」が要件となっていましたが,法改正があり,これまで対象外だった短期大学や高等専門学校を卒業した外国人,高度専門士の称号を持つ外国人についても,条件付きではありますが,対象となる範囲が拡大されました。

(4)特定技能ビザ

特定技能ビザは,日本国内で人材を十分に確保できない特定の業種で,一定レベル以上の専門知識や技術を持っている外国人を労働力として受け入れるために用意されたビザです。このビザの取得には,分野別の特定技能試験や日本語能力試験に合格したことの証明が必要です。対象業種には製造業も含まれており,他には介護や建設業,飲食業などがあります。2024年に法改正があり,対象業種が拡大されました。

【特定技能ビザの主な要件】
外国人は①又は②,受け入れ企業は③の要件を満たす必要があります。
①約3年間の技能実習を修了している
②分野別の技能試験と,日本語能力試験「N4」(もしくはJFT-Basic)に合格している
③法令を遵守している,2期連続で赤字になっていない,外国人に対して生活支援を行う等

(5)技能実習ビザ

技能実習ビザは,日本の技術や知識を習得して,本国の発展に活かしてもらうために用意されたビザです 。

就労が主目的ではないですが,企業の労働力を担っている実態があるので就労ビザとしてご紹介しました。
技能実習ビザの取得には,労働力としてではなく技術の習得・移転が目的であることを証明する必要があります 。

【技能実習制度は廃止されることが決まっています】
技能実習は制度上,転職することができません。このため,劣悪な環境で外国人実習生を囲い込み,それに耐えきれず行方不明になってしまう実習生が多発しました。これらの状況から国際的にも批判が強まり,日本政府としては技能実習制度を廃止し,新たに「育成就労制度」を導入することを決め,運用の検討が進められています。

技術・人文知識・国際業務ビザで従事可能な製造業の仕事内容

技術・人文知識・国際業務ビザで働くことができる製造業の仕事内容は,「技術」「人文知識」「国際業務」の3つの分野に分かれます。基本的には,大学などで学んだスキルが,仕事の分野と関連している必要があります。
3つの分野について,それぞれ具体的な仕事の例を紹介します。

(1)技術分野

「技術」分野の仕事内容は,以下のようなものが当てはまります。

  • 製品の品質検査や検証を行って管理する業務
  • 製造の工程や生産を管理する業務
  • 新しい素材や技術を研究する業務
  • 製品化に向けて工場で行う開発や設計する業務

(2)人文知識分野

人文知識分野は,製造業以外の業種でも一般的に見られる仕事内容が当てはまります。

  • 商品の販売先を開拓する業務(営業)
  • 製造した製品をPRする業務(広報,宣伝)
  • 会社のお金を管理する業務(経理)
  • 組織が円滑に動くよう仕組みの整備や管理をする業務(総務,人事)

(3)国際業務分野

国際業務分野は,通訳・翻訳など外国人ならではの仕事内容が当てはまります。
・海外の取引先と日本人従業員との通訳業務
・工場内での外国人従業員と日本人従業員との通訳業務
・見積書,契約書,仕様書,マニュアルなど重要な書類の翻訳業務

就労ビザ以外のビザでも働くことはできる

就労ビザ以外でも,製造業で働くことができる場合があります。
以下の資格を持つ外国人は,就労ビザを取得せずに製造業で単純作業に従事することができます。

持っているビザ 就労制限
日本人の配偶者等 なし
永住者の配偶者等 なし
定住者 なし
永住者 なし
特定活動(ワーキングホリデー) なし
家族滞在 週28時間以内まで可能※1
留学 週28時間以内まで可能※1※2
特定活動(就職活動) 週28時間以内まで可能※1

※1:別途「資格外活動許可」を取得している必要があります。
※2:夏休みなどの長期休暇中は上限の時間が拡大され,1日8時間(週40時間)以内の就労ができます。

【参考】研修で来日させる場合も就労ビザが必要?

製造業では,海外に工場など拠点を作って,現地で採用した外国人従業員に業務内容を教育するために日本の工場へ呼び寄せて研修する場合もあります。この場合,報酬が発生するかしないかによって,取得するビザが変わります。

【報酬が発生する場合】
上記で紹介した就労ビザ5種類のうち,いずれか適切なビザを取得する必要があります。

【報酬が発生しない場合】
就労ビザではなく「研修」ビザで来日することになります。
なお,研修ビザでは実務を伴う作業ができない点にも注意が必要です。
研修ビザについて詳しくは,別コラム「研修ビザとは?」でも解説していますので,ぜひお読みください。

【まとめ】製造業で外国人を雇用する際の就労ビザ

本コラムでは製造業で外国人を雇用する際の就労ビザについて解説してきましたが,いかがでしたでしょうか?
製造業で外国人を雇用する際は,日本人を雇用する場合と異なる点が多々あります。特に,従事する業務内容によって,雇用できる外国人が限定されることを理解しておくことが重要です。従事してもらいたい業務が行える人材でないと,たとえ優秀であっても働かせることができないのです。外国人を雇用する際は,事前に履歴書や証明書などで以下の情報を必ず確認しましょう。また,公正な採用活動であると言えるように,目的をしっかり説明することも必要です。

【3つの確認事項】
①在留カードで現在持っているビザの種類を確認
⇒「特定活動」は複数種類があります。どの種類かはパスポートに貼られた「指定書」で確認できます。

②本人の学歴,職務経験,日本語能力などの経歴を確認
⇒どの就労ビザであれば取得できそうか,検討しやすくなります。

③本人の家族構成を確認
⇒日本人や永住者と結婚している場合,ビザを変更することで就労制限がなくなります。就労ビザは,従事できる業務の範囲が法律で限定されています。範囲外の業務に従事させた場合,外国人本人だけでなく,雇用した企業側も「不法就労助長」として法律的な罰則を受けることがあります。

外国人労働者に単純作業をさせていた会社の経営者が,警察に逮捕されたというニュースを一度は見たことがあるのではないでしょうか。
意図的に不法就労させるケースは論外として,『外国人は日本人と同じように働くことができない』ということを知らずに,不法就労させてしまうケースも少なくありません。

初めて外国人を雇用する際は,就労ビザに詳しい行政書士など専門家へご相談ください。入管法は頻繁に改正されるため,正確な情報をキャッチすることが重要になります。行政書士法人第一綜合事務所は,ビザ申請を専門に扱う行政書士事務所で,特に就労ビザに関しては業界トップクラスの実績がございます。初回のご相談は無料ですので,お気軽にご利用ください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

特定行政書士 今井 幸大

・日本行政書士会連合会(登録番号第18080677号)
・東京都行政書士会(会員番号第11843号)
東京都出身。東京オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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