渡邉 直斗

外国人美容師のビザ申請

日本で働く外国人が増えているのに,美容室では見かけないと思いませんか?
実は,外国人が日本の美容室で働くために必要な在留資格(ビザ)を取得する上で制約があったのです。
しかし,2021年から「外国人美容師育成事業」が始まったことで,外国人美容師が就労ビザを持って日本で働く道が開けました。
本コラムでは,外国人の方を自分の美容室で受け入れたいと思う方,日本の美容室で働きたいと思う外国人の方のために,必要な要件とビザ申請の流れを解説します。

1.外国人美容師育成事業とは?

前提として,日本で美容師として働くためには誰でも日本で指定された美容師の養成施設を卒業し,美容師国家試験(国家資格)に合格して美容師免許を取得する必要があります。
この過程は,外国人の方でも同じです。
これまでも,外国人の方が美容師の免許を取ることは出来たのですが,ハードルになっていたのは,外国人の方が実際に日本で美容師として働く時の在留資格(ビザ)の問題です。

外国人が「日本で報酬を得て働くこと」を理由にして日本に上陸・滞在するためには,「在留資格=就労ビザ」が必要です。
ところが,日本で就労ビザの種類の中に,「美容師」が取得できる就労ビザがありませんでした。
このため,外国人の方が日本で美容師として働けるのは「永住者」や「日本人の配偶者・子」などの身分関係の在留資格を持った人のみ。外国人留学生もアルバイトとしてなら美容室で働くことは出来ましたが,美容師免許もないのでヘアカットは出来ません。

このように,外国人の方は養成施設を出て美容師免許も取ったのに,就労ビザが取得できないので日本で美容師として働けない――という問題がありました。

この点が今回の特例措置で変わりました。
特例措置として2021年より「外国人美容師育成事業」が始まり,2022年10月からは実際に東京都内で外国人美容師が日本で就労することが可能になりました。
今後,就労できる地域は拡大することが見込まれています。

外国人美容師育成事業の目的は以下とされます。

外国人美容師育成事業は、日本の美容製品の輸出促進や、インバウンド需要に対応するため、日本の美容師養成施設を卒業して美容師免許を取得した外国人留学生に対し、一定の要件の下、美容師としての就労を目的とする在留を認め、日本式の美容に関する技術や文化を世界へ発信する担い手を育成する事業
引用:内閣府国家戦略特区HP

目的の中に「日本での雇用促進(日本で働く外国人を増やす)」という言葉はありません。
なぜなら,「日本の美容を海外へ」が目的だからです。
外国人の方に日本で美容に関する知識や技術を学んでもらって育成しましょう。
そのために「在留を認め」ますよと。将来的には母国に帰って日本の美容技術・美容製品を積極的に広めてもらいたいのです――というのが,この事業の建て付けです。

この事業は下記で述べる「国家戦略特区」の中だけで行えます。
日本全国どこでも可能ではないことはご理解ください。

特例措置としての事業ですので,他の就労ビザと異なる複雑な仕組みがあります。

引用:内閣府国家戦略特区HP

上記の図にある用語を解説します。

※「育成機関」とは,
外国人美容師を受け入れる「日本国内の」美容室のことです。「理容院」は「育成機関」に含まれないのでご注意ください。
「育成機関」という言葉通り,外国人が日本式の美容を習得するための勉強の場という位置づけです。
ですから,育成機関になるには様々な条件があります。
事前に自治体に「育成機関になりたい」と申請し,外国人美容師一人一人について「当店ではこんな風に美容師を育てる」という「育成計画」を作成・提出して,認められなければなりません。

さらに育成機関では

  • 外国人美容師を雇用契約に基づく労働者として受入れ
  • 「特定美容活動」に従事させ
  • 監理実施機関と連携

する必要があります。

育成計画通りに育成が進んでいるか等は,毎年報告もしなければなりません。
1美容室あたり育成(雇用)できる外国人美容師は3人までです。
それ以上の雇用はできません。

※「特定美容活動」とは
在留資格(就労ビザ)の観点から言うと,外国人美容師が日本で就労することを認める根拠となる資格が「特定美容活動」であるということになります。
在留資格の中には,法務大臣が「個々の外国人について特に指定する活動(特定活動)」があり,その一つに外国人美容師の育成のための就労が加わったということです。

  • 国家戦略特区の中で
  • 管轄する地方公共団体により認定された「育成計画」に従って
  • 予め認められた「育成機関」との契約に基づき
  • 育成機関の指揮監督を受けて
  • 実質的な美容に関する知識・技能を要する業務に従事する

ことが特定活動だとされています。

少し難しい言葉が並んでいますね。
平たく言えば,受け入れる美容室に対して「しっかり面倒を見て育成してくださいね。
受付などの雑用ばかりやらせたり,きちんと雇用契約しなかったり――してはいけませんよ」ということです。

※「監理実施機関」とは
この事業では,外国人美容師と育成機関の間に入る役割として,外国人美容師のサポート役であり,育成機関でしっかり教育が施されているか等のお目付け役である「監理実施機関」を置かなければならないとしています。
監理実施機関もまた,下記のいくつかの要件を備え,地方自治体から認可を受けなければなりません。

  • 監理に必要な事務を行う人員等が確保されている
  • 監理を健全に行うに足る財産的基盤を持つ
  • 外国人美容師と育成機関のマッチングをする無料職業紹介の認可を受けている
  • 営利を目的としない日本の法人(非営利団体である)
  • 外国人美容師の苦情・相談を受ける窓口を設け,適切に対応できる体制がある

などが,監理実施機関の要件です。

2.育成機関になるには

日本の美容室が育成機関になるには,いくつかの要件があります。

  • 外国人美容師育成事業に則った活動が出来る場所(国家戦略特区内)に美容室がある
  • 美容師法第12条の3(美容師の従業員数が2人以上の開設者は,管理者を置かなければならない)で規定する「管理美容師」を配置している
  • 健全かつ安定的な経営状況である
  • 労働に関する法律,社会保険に関する法律を守っている
  • 「欠格要件」に該当しない

禁錮以上の刑に処せられた。出入国管理法令や労働に関する法律や,その他社会保険関連法令に違反した—―等の経験がある方は,そこから5年が経過していないと欠格要件とみなされます。
ほかにも,暴力団員であるとか,未成年であるとか,破産手続き開始決定を受けて復権していない――等の欠格要件があります。

そして,育成機関になるための外国人美容師「育成計画」を策定する上でも要件があります。

  • 育成期間を示す
  • 日本での住居を確保する
  • 母国に一時帰国することが可能な休暇の取り決めをしている
  • 日本で生活して行けるよう指導し,生活に目を配り,相談を受ける人を任命する
  • 日本での報酬や,労働・社会保険への加入を担保する財産的基盤を示す
  • 外国人美容師との面接,生活・労働等に関する相談に対応できる
  • もし日本で美容師として活動できなくなった場合,どう対応するか決めごとがある
  • 外国人美容師に「特定美容活動」以外の業務(物品販売や客引き等)を行わせないという誓約がある

育成機関となりたい美容室は,上記に留意した育成計画を策定し,地方自治体に提出。コピーを外国人美容師に交付しなければなりません。

地方公共団体は提出された書類を元に,育成機関としての要件を満たしているか,育成計画が本事業の趣旨=「日本の美容を海外に発信できる外国人美容師を育てる」に合致しているか等を判断します。
育成計画を認定したら,監理実施機関を経由して育成機関である美容室と外国人美容師双方に通知をします。

3.日本で外国人美容師が働くための要件

本事業は主に「留学生」ビザで日本の美容師養成施設で学び,美容師免許を取得した方が,日本で働くために在留資格を「特定美容活動」ビザに切り替える場合を想定しています。
その際,外国人美容師の側にも,クリアすべき要件があります。

  • 日本の法律で指定された美容師養成施設(専門学校)を卒業。かつ成績優秀で,素行が善良である
  • 日本で美容の知識・技術を学び,高めようとしている。帰国後は日本式美容に関する技術・文化を世界に発信する意思がある
  • 日本語能力がある
  • 日本での美容師の活動をする時点で満18歳以上である
  • 日本での美容師免許を取得,もしくは取得する見込みがある

などです。

美容師免許を取得出来れば,結果として成績優秀と見なされるとは思いますが,養成施設での成績が著しく低いと,就労ビザを取る段階で成績要件に抵触する可能性があります。
養成施設の授業に欠席続きだと,「素行要件」に抵触するかもしれません。

仮に,欠席の理由が「美容室その他でアルバイトをしていたから」だとなると,今度は「留学生なのにオーバーワーク(週28時間を超過)していた」(ビザの資格外活動)となるので,これも就労ビザ取得の弊害になります。

さらに,日本語能力も必要とされています。
目安となるのは,「日本語能力試験」のN2(日常的な場面で使われる日本語理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語を,ある程度理解することが出来る)以上とされます。
いわゆるカタコトの日本語レベルでは,特定美容活動ビザが取得できない可能性がありますのでご注意ください。

4.外国人美容師はどこで働ける?

前述のように,外国人美容師の方が働けるのは
地方自治体から認められた育成機関のみ
育成機関になれるのは「国家戦略特区」のみ
という制約があります。

国家戦略特区とは,安倍政権時に,大胆に法の規制や税率を緩め,経済活動が活発になるよう実験的な事業をやってみようと,設定された区域です。
だから「特定美容活動」もしてみようとなったのですね。

現在は以下です。
引用:内閣府国家戦略特区HP

東京圏:東京都,神奈川県,千葉市,成田市
関西圏:大阪府,京都府,兵庫県
新潟市
養父市
福岡市,北九州市
沖縄県
仙北市
仙台市
つくば市
愛知県
広島市,今治市

となります。
前述のように,現段階で仕組み作りも含めて準備が整っているのは東京都です(令和5年3月31日)。

美容室のオーナー等で「外国人美容師を育成してみたい」と思う方は,ご自分の美容室が上記の地域になければ,そもそも育成機関として名乗りを上げることができません。
また,上記の地域内に美容室であっても,管轄する地方自治体が運用に前向きか,「監理実施機関」となる非営利団体の準備が出来ているか等,状況を分析してから臨むことにはなります。
これらのことは,日本で働きたい外国人美容師の方にとっても同じです。

なお,外国人の方が学ばねばならない美容師の養成機関は,国家戦略特区内である必要はありません。
日本国内であればどこの養成施設であっても問題ありません。

5.外国人美容師ができる業務

「国家戦略特別区域外国人美容師育成事業実施要領」に基づいて述べますと,外国人美容師が出来る業務は以下です。

  • シャンプー
  • カット
  • トリートメント
  • ブロー
  • セット・アイロン
  • カラー
  • パーマ・縮毛矯正
  • ヘッドスパ
  • まつげエクステンション
  • ネイル
  • エステティック
  • 着物着付け
  • メイク
  • 洋装ブライダル
  • 出張美容
  • 美容所の経営管理に関すること
  • その他関係自治体が必要と認める業務
  • その他の付随業務

一般的に美容師が行う業務はほぼ全て出来ることになります。

思い出していただきたいのは,この事業は「外国人美容師の育成」が目的であることです。育成機関となる美容室は,外国人美容師一人ひとりに対して,「日本式の美容を習得した一人前の美容師」となるための育成計画を策定しなければなりません。
現場では,計画で描いた上記のような業務をいろいろ経験できる機会を設けなければなりません。

とうことは,受付とか,チラシを配るとか,掃除をするとかいう業務は,「付随業務」として認められていますが,終日「それだけ」をする安価な労働力として外国人を使ってはいけないということになります。

6.いつまで日本で働ける?

外国人美容師の就労は「育成」のための特例措置と位置付けられています。
ですから,今のところ外国人美容師の在留資格(就労ビザ)は期間限定です。

雇用者である育成機関との雇用契約期間,あるいは在留資格(就労ビザ)の期間は最大5年間です。
5年を超えて日本に就労ビザで滞在することは出来ない仕組みになっています。

7.外国人美容師のビザ申請手続きの流れ

前述のように,外国人美容師の就労ビザの資格は「特定美容活動」です。
就労ビザ申請までの流れを以下にまとめました。

この事業は基本的には,「留学生ビザ」で日本に入国し,所定の養成施設を卒業して美容師の国家資格を得た方を想定しています。
日本の美容室(育成機関)での採用内定がもらえたら,その美容室がある地域を管轄する入管に対して,留学生ビザから特定美容活動の就労ビザに切り替える手続きをする必要があります。
特定美容活動の就労ビザを取得できたら,少なくとも年1回は監理実施機関から「日本式美容」の修得状況の評価を受け,地方自治体から在留期間の更新許可を得て,就労ビザの更新をすることも必要になります。

なお,「私は留学生ではないけれど,身分関係の在留資格で日本に滞在している。美容師として日本で働きたい」と願う方もおられると思います。
外国人美容師育成事業におけるQ&A(内閣府)によると,そのような方も,美容師の養成施設卒業,日本語能力がある等,一定の要件を満たし,地方自治体が育成計画を認定していれば,この事業の対象になる=日本で美容師として働ける――可能性があるようです。

7.日本で働きたい外国人美容師の方は弊社にご相談を

外国人美容師育成事業は始まったばかりで,今も様々な制約・条件があります。
よく分らないことの方が多いと思います。

弊社では,積極的に外国人美容師に関わる情報を収集しており,6月には監理実施機関である「一般社団法人外国人美容師監理実施機関」でセミナーを行う予定です。
無料相談もございますので,外国人美容師の就労について「前向きだが分からないことが多い」という方は行政書士法人第一綜合事務所までご相談ください。

8.外国人美容師のビザ申請まとめ

外国人美容師の日本での就労は,美容室(オーナー)側,外国人留学生側,両方が関心ある分野でしょう。

本コラムでは

  • 外国人美容師育成事業で,日本での外国人美容師の就労が可能になった。
  • ただし,就労可能な地域(国家戦略特区のみ)である。
  • 外国人の日本での雇用増進より,日本式美容を海外に発信することが目的である。
  • なので,期間が最大5年以内である。
  • 美容室側が申請・育成計画策定・計画の進捗状況報告などの事務負担を負う。
  • 監理実施機関や地方自治体が総合的に関与する事業である。

などの特徴を紹介しました。

今は東京都内で展開されている同事業ですが,今後は数的にも地域的にも,もっと広がるでしょう。
一番魅力的なのは,「日本式の美容の技術・緻密さを,海外に知ってもらう機会が設けられた」という点ではないでしょうか。

我こそはと思いつつ,詳しい手続きが分からないと思っておられる日本の美容関係の方,是非行政書士法人第一綜合事務所までご相談ください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 渡邉 直斗

・日本行政書士会連合会(登録番号第19260365号)
・大阪府行政書士会(会員番号第7712号)
兵庫県出身。大阪オフィス長として,大学や自治体,企業向けのセミナーにも登壇。外国人ビザ申請,国際結婚,帰化許可申請などの国際業務を専門としている。

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