コラム

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経営管理ビザの更新が不許可にならない方法

1.経営管理ビザの更新不許可を防ぐためには ビザの更新は自分で簡単にできると思っている外国人の方もいらっしゃいますが,経営管理ビザの更新の場合,自身の在留状況の他に,会社の決算状況も審査されます。思わぬ落とし穴に気付かず,経営管理ビザの更新が不許可になってしまったという相談もあります。 経営管理ビザの更新の要件をご理解いただくことで,経営管理ビザの更新不許可のリスクは低減できます。 そこで以下においては,経営管理ビザの更新にあたり,事例を交えながらどのような準備をしなければならないかをご説明したいと思います。 2.経営管理ビザの更新申請では「事業の継続性」が重視される 経営管理ビザは,外国人が日本で事業の経営または管理の活動を行うために与えられるものですから,ビザ更新においては,事業そのものが今後も確実に継続する見込みがあるかどうかが審査されます。なぜなら,事業が継続しなければ,事業の経営・管理を行う活動も継続しないからです。 事業の継続性は,決算状況を中心に判断されます。もっとも,事業活動においては様々な要因で赤字決算となり得るので,経営管理ビザの更新申請の審査においては単年度の決算状況(フロー)だけではなく,貸借状況(ストック)等も含めて総合的に判断されます。 具体的には,直近二期の決算状況に応じて以下のように取り扱われます。 3.直近期末に剰余金がある場合 剰余金とは,資産から負債を引いた額が,資本金を上回っている金額をいいます。資本金は事業を行うために会社に出資された金額ですから,剰余金があるという事は,儲けが出ていることを指します。 直近期末において貸借対照表で剰余金がある場合には,原則として,事業の継続性に問題がないと判断され,原則として経営管理ビザの更新が認められます。 もっとも,剰余金があったとしても,直近期の売上が極端に低い場合は,当該外国人の経営活動が実際に行われていたのか疑義を抱かれてしまいますので,売上が低くなってしまった経緯を説明した説明書を提出すべきでしょう。 4.直近期末に欠損金がある場合 (1)直近期末において債務超過となっていない場合 欠損とは,資産から負債を引いた額が,資本金を下回っている状態を指します。事業を行うために会社に出資された資本を下回ってしまっているということは,事業によって損をしている状況です。 債務超過とは,負債が資産を上回っている状態を指します。会社に出資された資本を食いつぶし,さらに借金をしている状況ですから,一般的には事業存続が危機的な状況と言えます。 直近期末において欠損金を計上したものの,債務超過とはなっていない場合は,欠損を計上した経緯とその改善見込み,また今後の事業計画を提出し,今後の事業の継続性があることを立証しなければなりません。 (2)直近期末において債務超過となってしまったが,直近期前期末では債務超過となっていなかった場合 債務超過となった場合,事業の存続が危ぶまれる状況ですから,事業の継続性は認めがたいといえます。ただ,直近期前期末では債務超過になっていなかった場合,すなわち,債務超過が1年以上継続していない場合であれば,債務超過となってしまった経緯,1年以内に債務超過状況を改善するための事業計画を提出し,事業の継続性があることを合理的に説明することができれば,経営管理ビザの更新が認められる可能性があります。ただし,この場合には,中小企業診断士や公認会計士等の公的資格を有する第三者が債務超過の状況改善の見通しについて評価を行った書面の提出が求められることになります。 (3)2期連続債務超過である場合 債務超過となって1年以上経過しても債務超過の状態から抜け出すことができなかった,すなわち2期連続で債務超過となってしまった場合は,事業を存続させるにあたり非常に厳しい財務状況にあること,また今後の改善が見込まれないと判断され,事業の継続性が原則として否定されます。 2期連続債務超過に陥ってしまった場合には,増資や他の企業による救済の道を探るべきでしょう。 5.経営管理ビザ更新の際に注意しなければならない他のポイント (1) 事業内容が変わった場合 経営管理ビザの在留資格認定証明書交付申請・在留資格変更許可申請の際に提出した事業計画で示した事業内容と実際の事業内容が大きく変更されている場合があります。事業開始をしたところ,開業当初に想定していた需要を見込めなかったとか,予定していた取引先との交渉が決裂したなど,事業活動には様々な要因で当初予定していた事業を行うことができなくなってしまうこともあります。 当初予定していた事業内容を変更した場合には,経営管理ビザ更新の際に,現在行っている事業内容,事業内容を変更せざるを得なかった経緯,変更した事業についての事業計画などを記載した説明書を提出しましょう。 (2) 事業所を移転した場合 経営管理ビザを取得した後も,事業所の要件を満たしている必要があります。 事業所を移転した場合には,まずは本店移転登記を行い,14日以内に入管に届出を行いましょう。 また,経営管理ビザ更新の際には,本店移転登記後の登記簿謄本のほか,事業所の賃貸借契約書や写真を提出して,事業所としての要件を満たしていることを示しましょう。 (3) 長期間出国していた場合 経営管理ビザを取得した外国人の方で,日本以外の国でも会社を経営していたり,世界規模でビジネスを展開している方は,必然的に海外出張の機会が多くなります。 経営管理ビザを更新するにあたり,何日以上日本にいなければならないといった滞在日数の要件はありませんが,日本滞在期間が短い場合は経営管理ビザの更新の不許可リスクが高まります。なぜなら,経営管理ビザは日本で事業を行うために与えられているビザであり,出国が多いとそもそも事業の経営活動を行っていないのではないかと疑義を抱かれるからです。 そこで,長期間出国している場合は,経営管理ビザの更新申請の際に,長期間出国しなければならなかった理由,今後の日本滞在予定など合理的な理由を説明しなければなりません。 もっとも,インターネットがつながっていればどこでもビジネスができる時代ですから,従業員を雇用しているケースでは,長期間の出国があったとしてもテレビ会議等を利用して経営活動を行っているなど,具体的な経営活動状況を示すことによって,経営管理ビザの更新許可の可能性は高くなるでしょう。 6.今回の事例における対処方法 今回のAさんの事例についてみてみましょう。…

【解決事例】外国にある関連会社等から企業内転勤ビザで招へいする方法

1.企業内転勤ビザの要件は? まず,企業内転勤ビザで認められる活動内容を確認しましょう。 (1)在留資格該当性 入管法には,以下のような活動内容が規定されています。 本邦に本店,支店その他の事業所のある公私の機関の外国にある事業所の職員が本邦にある事業所に期間を定めて転勤して当該事業所において行うこの表の技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動 そして,技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動とは,以下のとおりです。 入管法別表1の2「技術・人文知識・国際業務」の項の下欄 「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項,芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで,企業内転勤の項及び興行の項の下欄に掲げる活動を除く。)。」 要約しますと,企業内転勤ビザで認められる活動内容とは,同一企業等の内部で外国の事業所から日本の事業所に一定期間転勤して,理系分野(技術)または文系分野に属する業務内容(人文知識),もしくは,通訳・翻訳業務,語学の指導,海外取引業務等(国際業務)を行う場合を指します。 (2)上陸基準省令 企業内転勤ビザを取得するためには,雇用開始後に予定する業務内容が上記の活動内容に合致すること(在留資格該当性)に加え,我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定められている基準に適合することが求められています(上陸基準省令適合性)。 上陸基準省令については,下記のように分類することができます。 ①実務要件 申請に係る転勤の直前に外国にある本店,支店その他の事業所において上記「技術・人文知識・国際業務」の業務に従事している場合で,その期間(企業内転勤の在留資格をもって外国に当該事業所のある公私の機関の日本にある事業所において業務に従事していた期間がある場合には,当該期間を合算した期間)が継続して1年以上あること。 少し読みづらいので要約すると,企業内転勤ビザにいう「転勤」というためには,1年以上,外国にある本店,支店などで,技術・人文知識・国際業務ビザの業務に従事している必要があります。つまり,企業内転勤ビザを取得することを目的として新規雇用しても,1年以上の在籍実績がなければ,日本で企業内転勤ビザは取得することは出来ません。 ②報酬要件 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。 これは技術・人文知識・国際業務ビザの場合と同様の解釈です。端的に記載をすると,同じ会社で同じ業務をする日本人と比較して,報酬が低廉でないことを求めています。 2.企業内転勤のポイント ~「転勤」と認められる範囲は?~ 「転勤」は,日常用語では同一会社内の異動をいうことが多いですが,企業内転勤ビザの「転勤」は,系列企業内の出向等も含まれます。 「系列企業内」とは,財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則第8条にいう「親会社」,「子会社」,及び「関連会社」を指します。単なる業務提携関係の異動では,「転勤」に該当しないことに注意が必要です。 具体的には,次のような関係図における異動の場合には「転勤」に該当することになりますが,他にも細かな要件の検討が必要となりますので,どのケースに該当するかの判断は,専門家を交えて相談されることをお勧めします。 (1)本店・支店間の異動 (2)親会社と子会社間の異動 (3)子会社間等の異動 (4)関連会社への異動   3.企業内転勤ビザの必要書類について 会社の性質や規模毎に4つのカテゴリーに区分されており,必要書類はカテゴリーに応じて異なります。 企業内転勤ビザを申請する場合の必要書類は,以下の法務省ホームページをご覧ください。 (在留資格認定証明書交付申請) http://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/shin_zairyu_nintei10_13.html (在留資格変更許可申請) http://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/shin_henko10_12.html (在留期間更新許可申請) http://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/shin_zairyu_koshin10_13.html 4.今回の事例 それでは,今回の事例について見ていきましょう。 今回の事例では,最終学歴や実務経験を満たさず,これまで取得していた技術・人文知識・国際業務ビザには該当しませんでした。そして,活動内容をお伺いすると,技術カテゴリーに該当する活動であったため,当社で企業内転勤ビザの要件への適合判断を行いました。…

【解決事例】永住許可申請と年収の関係について

1.はじめに 2019年7月1日から,永住許可申請の提出資料として,申請人又は申請人を扶養する方の所得状況を証明する資料として直近5年分の所得証明書の提出が必要となりました。これまでは3年分でよかったものが,5年分になったため,より長期に亘る家計の状況を明らかにする資料を提出することになり,生計の安定性については,これまでより厳しい判断が行われるようになっています。 「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザをお持ちの方は,永住許可申請のハードルが上がっていることや,提出資料が増加していることから,これまで以上に早めに永住許可申請を希望される方が少なくありません。 また,審査が厳しくなったこともあり,これまで許可されていたケースにもかかわらず,永住ビザの申請が不許可になってしまうケースが増加しています。 私共にご相談が寄せられる中で,永住をお考えの方の一番の関心事は,①永住許可の可能性,②永住許可が見込まれる時期,という二つの事項に集約されます。 その中でも,永住許可申請と年収の関係については,特にご質問が多い事項です。ご自身の年収状況によって,永住許可の可能性が下がってしまうことや,また申請を見送るような事例が多く見受けられます。 そこで,今回は永住許可申請と年収の関係について,詳しく解説していきます。 2.永住許可申請をする場合 永住ビザが許可されるためには,どのような要件が定められているでしょうか。入管法には,以下のとおり定めがあります。 (第22条第2項 永住許可) 前項の申請があった場合には,法務大臣は,その者が次の各号に適合し,かつ,その者の永住が日本国の利益に合すると認めたときに限り,これを許可することができる。ただし,その者が日本人,永住許可を受けている者又は特別永住者の配偶者又は子である場合においては,次の各号に適合することを要しない。 一 素行が善良であること。 二 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること。 今回は永住許可申請と年収の関係をピックアップしていますので,他の要件は割愛しますが,年収要件については,「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」とあるのみで,具体的に年収はいくら必要であるとか,貯蓄がいくら以上必要かなどについての具体的な言及は入管法にはありません。 永住許可申請にいう「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」とは,日常生活において公共の負担にならず,その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれることを指します。 この抽象的な規定が,これから永住許可申請をされる方々の悩みになるのは,想像に難くありません。 3.年収について 本項では,永住許可申請の際に必要となる年収をケースに分けて解説していきます。 (1)就労ビザで単身世帯の場合 申請人の方が就労ビザの保有者で,単身世帯である場合には,年収300万円以上が永住審査における一つの指標になっています。もっとも,年収が300万円を超えている場合であっても,ご家族の構成,扶養家族,勤続年数などによっては,必ずしも永住許可が保証されているわけではありません。この点,注意が必要です。 例えば,就労ビザの単身世帯で年収300万円であったとしても,世帯外の扶養家族が4名いる場合には,年収として300万円では不十分として判断される可能性が高いでしょう。また,転職したばかりのケースにあっては,年収300万円以上であっても,就労状況の安定性が低いと評価され,永住ビザの不許可要素となり得ます。 このように様々なケース,考慮すべき事項があるため,一概にいくらの年収があれば大丈夫と断言するのは難しいのですが,就労ビザで単身世帯の場合には,年収300万円を指標に検討するのが一般的です。 (2)就労ビザ+家族滞在ビザの場合 事例のように,ご主人様が就労ビザ,奥様が家族滞在ビザでアルバイトをしているケースについて検討します。例えば,ご主人様の年収が240万円,奥様のアルバイトでの年収が60万円の場合,ご主人様が永住申請をするにあたって,ご主人様の年収と奥様のアルバイト年収を合計して,世帯年収300万円以上と判断してくれるのでしょうか。 この点については,入管局によって,また個別の申請内容によって,判断が分かれるところではありますが,原則的な考えとしては,家族滞在ビザの収入は含めないと判断するのが一般的です。その理由としては,そもそも家族滞在ビザは就労ビザではなく,原則として就労が出来ないビザであると考えられているからです。また,アルバイト収入は安定所得とは言い難いという点もあります。そのため,家族滞在ビザの奥様のアルバイト収入は含めず,ご自身の年収のみで判断してみて下さい。 (3)就労ビザ+就労ビザの場合 夫婦が共に就労ビザ,いわゆる共働き世帯のケースを見ていきましょう。例として,ご主人様の年収が260万,奥様の年収が260万の場合には,永住許可申請の審査においては,世帯の年収で判断してもらえる可能性があります。 なぜなら,上記(2)とは異なりいずれも就労ビザであるため,夫婦で今後も安定した継続収入が見込まれると考えられているからです。そのため,共に就労状況が安定している場合には,永住審査における年収要件はクリアしていると判断して差し支えありません。 注意すべき事項としては,一方配偶者の年収があまりにも低いような場合です。この場合には,就労状況が不安定と判断される可能性があり,世帯の合計年収で見てもらえない可能性があることから,この点には注意を要します。 (4)配偶者ビザの場合 日本人の配偶者等,永住者の配偶者等,定住者のビザは,身分系のビザと言われ,その身分や地位に基づきビザが与えられています。言い換えると,日本との結びつきが強いビザということが出来ます。そのため,上記で見た就労ビザと比較すると,永住許可申請の年収判断においても,有利に解釈がなされています。 具体的にいうと,配偶者が日本人の場合には年収300万円なくとも,実際に永住ビザが許可されています。また,上記(2)は世帯の合計年収では判断されなかったのに対し,配偶者ビザの場合には,パート年収も含めて世帯の合計年収で判断してもらうことが出来ます。 このように,身分系のビザをお持ちの方については,年収要件が就労ビザの場合よりも緩和されているのが大きな特徴です。 (5)まとめ いかがでしたでしょうか。同じ永住許可申請をする場合であっても,お持ちのビザの種類によって判断は異なりますし,また扶養家族の人数,配偶者のビザの種類によっても結論は異なります。 ご相談の中には,海外での所得や貯金額などで独立生計要件を満たしていると考える方もおられますが,その一事をもって永住許可を得るのは難しいです。 なぜなら,永住の年収要件は,あくまでも日本に生活基盤を持つことを前提として,審査されているからです。…

【解決事例】永住ビザと転職との関係について

1.はじめに 永住ビザのお問い合わせをいただく中で,転職歴がある場合には永住ビザの審査上で不利になりますか?というご質問をいただくことがあります。 転職歴のある方(あるいは転職が多い方)が永住ビザの申請を行う場合には, ①転職の時期や回数 ②転職に伴う手続きの履行状況 ③転職後の業務内容と就労ビザとの関係 ④離職期間の長さ ⑤転職による年収の状況等, 様々な内容を検討する必要があります。 そこで,本ページでは転職が永住ビザの審査に与える影響を見ていきたいと思います。 2.転職が多いと永住ビザは取得できない!? 結論から申し上げると,転職をしても永住ビザを取得されている方はたくさんいます。 そのため,転職すると永住ビザが取得できないという訳ではありません。 では,なぜ転職が永住ビザの審査で不利になると思っている方が多いのでしょうか。 その理由として,転職経験がない方に比べて,転職経験がある方の場合,手続きや検討事項が増えることが要因と考えられます。 例えば,上記②転職に伴って行うべき手続きを履行しているかという点について,所属機関等に関する届出(入管法第19条の16)を適正に行っているかを検討する必要があります。 また,社会保険料の納付状況についても,離職をされると,それまで厚生年金に加入されていた方は国民年金に,健康保険は国民健康保険への切り替えが必要になります。そして,再就職した場合には,新しいお勤め先で年金と健康保険の切り替え手続きをすることになります。仮に,これらの手続きに漏れがあると,永住ビザの審査で大きな減点となってしまいます。 このように,転職に伴う手続きでエラーしないように細心の注意を払う必要がありますが,逆を言えば,これらの手続きにエラーがないのであれば,転職をしても永住ビザの審査で不利になることはありません。 そのため,「転職=永住ビザ×」 となるのではなく,「転職手続きエラー=永住ビザ×」とご理解ください。 3.永住ビザを取得するために転職で特に注意すること 以下に記載する内容は,永住ビザの取得を目指す皆さんが,転職時に特にご注意いただきたい事項です。 ・転職の際の手続き忘れには注意! 転職をすると入管への手続き,社会保険の手続き等を履行する必要があります。この点については,離職する会社,転職する会社の顧問行政書士や顧問社労士に確認を取り,手続漏れが無いようにしてください。手続漏れは永住ビザの審査でネガティブに判断されます。 ・転職してからすぐに永住ビザ申請しない! 入管の永住ビザの審査においては,皆さんの就労状況の安定性を確認します。どういう事かというと,永住ビザの審査では永住ビザを取得した後も日本で安定的に生活ができるか否かという点を審査しています。つまり,転職してすぐに永住ビザを申請した場合には,就労状況の安定性を欠いていると判断されてしまう可能性があります。そのため,転職してすぐに永住ビザ申請をするのではなく,就労状況の安定性が確認できる期間を待って永住ビザの申請をすることをお勧めします。 ・離職期間が長い場合には注意! 転職活動を行うため,離職期間がある方はご自身の履歴書を確認してみて下さい。離職期間があまりに長い場合,就労ビザを持っているにも関わらず,入管法で定める活動をしていなかったという事で,永住ビザの審査上,大きな減点になる可能性があります。特に,入管法第22条の4(在留資格の取消し)で定める期間を超過している場合には,注意を要します。 ・転職後の業務内容には注意! 転職の業務内容が前職と異なる場合で,就労資格証明書交付申請を行っていない場合には,注意が必要です。入管法に照らして明らかに業務内容が問題ない場合は良いのですが,就労ビザ活動内容が入管法上,微妙なケースでは注意が必要です。転職後の業務内容に心配がある場合には,専門家に相談するようにしましょう。 ・転職による年収の低下には注意! 転職活動によって働いてない期間があり年収が減少している場合,あるいは転職によって年収が減少してしまった場合には,永住ビザの審査で消極的に判断されてしまう可能性があります。通常,転職はキャリアアップと考えられているところ,年収が減少するのは永住ビザの審査上よくありません。そのため,年収の減少幅が大きい場合には,別途説明を加え,ご自身のキャリアデザイン等を示すことをお勧めします。 4.事例の検討 それでは,ここからは今回の事例の検討をしていきましょう。 Aさんの場合には,就労ビザへ変更してから間もなく5年が経過しますが,その間に何度か転職をしています。 そこで,当社において永住ビザの許可の可能性を検証していきました。 その結果,離職期間が相当期間あり,現職に転職してから3ヶ月ほどしか経っていなかったため,就労状況の安定性に問題がありました。そのため,永住ビザの申請時期を就労状況の安定性が確認できる時期に変更するよう,当社行政書士から提案しました。 また,ある年の所得について,再就職先の会社の手続きの漏れがあったため,修正申告を行い,国税・地方税等の納付を行いました。 その他,転職に伴い発生する契約機関に関する届出,社会保険料については,自身で適切な手続をとっていたため,その他の要件については,特段問題を生じることはありませんでした。 Aさんは永住ビザの申請時期が明確になり,とても安心された様子でした。…

【解決事例】ベトナム人の妻を家族滞在ビザで呼ぶ方法

1.家族滞在ビザとは? 家族滞在ビザとは,「就労可能な在留資格(外交,公用,特定技能1号,技能実習を除く)」,「文化活動」又は「留学(日本語学校など一部の教育機関を除く)」の在留資格をもって日本に在留する外国人の扶養家族を受け入れるために設けられたものです。例えば,就労ビザを取得し,日本の会社で働いている夫が妻および子を扶養している場合に,妻と子が家族滞在ビザを取得することによって,日本で一緒に暮らすことができるようになります。 上記の通り,「扶養」する家族を受け入れることが趣旨であることから,扶養者側の在留資格は就労可能なもの(具体的には「教授」「芸術」「宗教」「報道」「高度専門職」「経営・管理」「法律・会計業務」「医療」「研究」「教育」「技術・人文知識・国際業務」「企業内転勤」「介護」「興行」「技能」「特定技能2号」「文化活動」「留学(基準省令第1号又はロに該当するもの。))に限定されます。また,扶養を受ける者は,資格外活動許可を得ない限り,就労活動を行うことはできないのが特徴です。 そして,「配偶者」は現に婚姻が法律上有効に存続中の方に限られ,離婚した方や内縁の配偶者,外国で有効に成立した同性婚による者は含まれません。「子」には嫡出子の他,養子および認知された非嫡出子が含まれます。成年に達していたとしても,学生の身分であるなど,親の扶養を受けている方は含まれます。なお,配偶者および子以外の家族は,「家族滞在」の在留資格に該当しません。 2.家族滞在ビザの要件 ① 扶養者の在留資格が,「教授」「芸術」「宗教」「報道」「高度専門職」「経営・管理」「法律・会計業務」「医療」「研究」「教育」「技術・人文知識・国際業務」「企業内転勤」「介護」「興行」「技能」「特定技能2号」「文化活動」「留学(基準省令第1号又はロに該当するもの。)のいずれかに該当すること ② 扶養者が扶養の意思と扶養能力を有すること ③ 扶養を受ける側の配偶者または子が現に扶養を受け又は監護養育を受けていると認められること 以上が家族滞在ビザの要件です。 それでは,今回のAさんのケースで,具体的に見ていきましょう。 3.ベトナム人の妻を家族滞在ビザで呼ぶまでの道のり Aさんは,就職したばかりで所得課税証明書も納税証明書も入管に提出することが出来ないという事情があることから,上記2の要件のうち,特に②の扶養能力が問題となります。さらに,Aさんは留学時代にオーバーワークをしてしまっているという問題があります。そこで,まずはその事実が今回の申請にあたり,ベトナム人の妻を家族滞在ビザで呼ぶ際に,どのような影響をもたらすのかについて検討していきましょう。 (1)過去の法律違反が今回の申請に与える影響について ① オーバーワークについて 前提として,留学の在留資格は就労不能の在留資格であり,オーバーワーク(アルバイト時間の制限を超えた場合)は明白な資格外活動許可違反(入管法違反)となります。留学ビザを更新する際や,就労ビザへ変更を申請する場合に,その法令違反を理由に,ビザの更新や変更が不許可になってしまうこともあります。 その結果,留学生活を志半ばで断念せざるを得なくなったり,就職の場合には,企業から内定取り消しになる場合もあることは肝に銘じておいてください。 ② オーバーワークが家族滞在ビザ申請に与える影響について では,Aさんのオーバーワークの事実を前提として,ベトナム人の妻を家族滞在ビザで呼ぶ際に,どのような点に気を付けなければいけないか検討してみましょう。 法律違反の前歴は消えることはないので,オーバーワークに至った経緯を説明すると共に,二度とそのような事態を生じさせないことを明らかにする必要があります。どうして労働時間を超えてしまったのか,今後の再発を防ぐためにどのような対策を練るのかをしっかりと書面で具体的に示すことが重要になります。 (2)家族滞在ビザ取得時の要件「扶養能力」について では次に,Aさんの「扶養能力」の問題について検討していきましょう。 扶養能力については,扶養者の経費支弁能力と認める資産等は扶養能力と認めることとされています。例えば,扶養者が資格外活動許可の範囲内で行った就労活動(いわゆるアルバイト)による預貯金は扶養能力として認められます。また,奨学金も扶養能力として認められる可能性があります。そのため,給付金額および給付期間を明示した奨学金給付に関する証明書があれば,それらも有力な立証資料となります。 では,オーバーワークにより得た金銭で扶養能力を証明することは出来るのでしょうか? そもそもオーバーワークは法律違反であり,厳格な罰則規定が設けられています。法律違反によって得られた収入をもって資金の証明が出来てしまうとしたら,法の趣旨を形骸化してしまう恐れがあると考えられます。 よって,いくら資金の証明ができても,扶養能力としての資産には含まれないと考えられます。 そのため,Aさんがオーバーワークで得た収入は資産に含めることはできません。Aさんの場合には,許可の範囲内で適法に行った就労活動で得た収入,および他の有する資産をもって,扶養能力を証明する必要があります。また,奨学金を受けていた事実があれば,その証明書も立証資料となります。 Aさんの場合,入管法違反という重大なマイナス要素があるため,奥様の家族滞在ビザの許可を取得することは容易ではありません。しかし,過去の在留状況が不良だからといって,今回の申請もまた疑わしいと断定することは妥当性を欠きます。このことは過去の判例でも指摘されています(東京地裁平21.10.16判決「在留資格認定証明書不交付処分取消請求事件」)。 Aさんの場合も,上記の証明を丁寧に行うことで,無事ベトナム人の奥様の家族滞在ビザの許可を取得することができました。 4.ベトナム人の妻を家族滞在ビザで呼ぶ方法のまとめ 今回の事例では,①扶養者の過去の法律違反が今回の在留申請に与える影響,②家族滞在ビザ取得の要件である扶養能力に法律違反によって取得した資産が含まれるか,の2点が問題となりました。 当社に相談が寄せられるものには,このような解決が難しそうな複合的事案が数多くあります。しかし,一見困難に見える問題も,ひとつひとつを丁寧に読み解くことで,これまでも多くの案件について解決に導いてきました。 今回の案件も,他の事務所では家族滞在ビザの許可は難しいと判断された案件です。 ご自身では解決の糸口が見えず,悩まれている方は是非当社までご相談ください。…