德永 武道

【解決事例】永住許可申請と年収の関係について

【解決事例】永住許可申請と年収の関係について

来日して5年目の中国人のAさんは,技術・人文知識・国際業務のビザで日本のメーカーで営業を担当しています。2年前に転職をしたことで,給与が下がり,一昨年の収入は260万円,昨年の収入は350万円でした。Aさんは中国人の奥様Bさんと4年前に結婚しましたが,子どもはいません。Bさんはもともと就労ビザを持っていましたが,結婚を機に家族滞在ビザに変更し,結婚後はパートで月7万円程度の収入を得ています。

Aさんは永住許可申請を考えていますが,一昨年に転職があったことから一時的に年収が減少していることを心配しています。一昨年の転職による年収減少をカバーするため,Aさんは中国人の奥様Bさんのパート収入を合わせて今回の永住審査における生計の安定性を判断してもらいたいと考えていますが,果たしてどのように判断されるのでしょうか。

そこで今回は,永住許可申請と年収の関係について詳しく見ていきます。

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1.はじめに

2019年7月1日から,永住許可申請の提出資料として,申請人又は申請人を扶養する方の所得状況を証明する資料として直近5年分の所得証明書の提出が必要となりました。これまでは3年分でよかったものが,5年分になったため,より長期に亘る家計の状況を明らかにする資料を提出することになり,生計の安定性については,これまでより厳しい判断が行われるようになっています。

「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザをお持ちの方は,永住許可申請のハードルが上がっていることや,提出資料が増加していることから,これまで以上に早めに永住許可申請を希望される方が少なくありません。

また,審査が厳しくなったこともあり,これまで許可されていたケースにもかかわらず,永住ビザの申請が不許可になってしまうケースが増加しています。

私共にご相談が寄せられる中で,永住をお考えの方の一番の関心事は,①永住許可の可能性,②永住許可が見込まれる時期,という二つの事項に集約されます。
その中でも,永住許可申請と年収の関係については,特にご質問が多い事項です。ご自身の年収状況によって,永住許可の可能性が下がってしまうことや,また申請を見送るような事例が多く見受けられます。

そこで,今回は永住許可申請と年収の関係について,詳しく解説していきます。

2.永住許可申請をする場合

永住ビザが許可されるためには,どのような要件が定められているでしょうか。入管法には,以下のとおり定めがあります。

(第22条第2項 永住許可)
前項の申請があった場合には,法務大臣は,その者が次の各号に適合し,かつ,その者の永住が日本国の利益に合すると認めたときに限り,これを許可することができる。ただし,その者が日本人,永住許可を受けている者又は特別永住者の配偶者又は子である場合においては,次の各号に適合することを要しない。
一 素行が善良であること。
二 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること。

今回は永住許可申請と年収の関係をピックアップしていますので,他の要件は割愛しますが,年収要件については,「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」とあるのみで,具体的に年収はいくら必要であるとか,貯蓄がいくら以上必要かなどについての具体的な言及は入管法にはありません。

永住許可申請にいう「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」とは,日常生活において公共の負担にならず,その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれることを指します。
この抽象的な規定が,これから永住許可申請をされる方々の悩みになるのは,想像に難くありません。

3.年収について

本項では,永住許可申請の際に必要となる年収をケースに分けて解説していきます。

(1)就労ビザで単身世帯の場合

申請人の方が就労ビザの保有者で,単身世帯である場合には,年収300万円以上が永住審査における一つの指標になっています。もっとも,年収が300万円を超えている場合であっても,ご家族の構成,扶養家族,勤続年数などによっては,必ずしも永住許可が保証されているわけではありません。この点,注意が必要です。

例えば,就労ビザの単身世帯で年収300万円であったとしても,世帯外の扶養家族が4名いる場合には,年収として300万円では不十分として判断される可能性が高いでしょう。また,転職したばかりのケースにあっては,年収300万円以上であっても,就労状況の安定性が低いと評価され,永住ビザの不許可要素となり得ます。

このように様々なケース,考慮すべき事項があるため,一概にいくらの年収があれば大丈夫と断言するのは難しいのですが,就労ビザで単身世帯の場合には,年収300万円を指標に検討するのが一般的です。

(2)就労ビザ+家族滞在ビザの場合

事例のように,ご主人様が就労ビザ,奥様が家族滞在ビザでアルバイトをしているケースについて検討します。例えば,ご主人様の年収が240万円,奥様のアルバイトでの年収が60万円の場合,ご主人様が永住申請をするにあたって,ご主人様の年収と奥様のアルバイト年収を合計して,世帯年収300万円以上と判断してくれるのでしょうか。

この点については,入管局によって,また個別の申請内容によって,判断が分かれるところではありますが,原則的な考えとしては,家族滞在ビザの収入は含めないと判断するのが一般的です。その理由としては,そもそも家族滞在ビザは就労ビザではなく,原則として就労が出来ないビザであると考えられているからです。また,アルバイト収入は安定所得とは言い難いという点もあります。そのため,家族滞在ビザの奥様のアルバイト収入は含めず,ご自身の年収のみで判断してみて下さい。

(3)就労ビザ+就労ビザの場合

夫婦が共に就労ビザ,いわゆる共働き世帯のケースを見ていきましょう。例として,ご主人様の年収が260万,奥様の年収が260万の場合には,永住許可申請の審査においては,世帯の年収で判断してもらえる可能性があります。

なぜなら,上記(2)とは異なりいずれも就労ビザであるため,夫婦で今後も安定した継続収入が見込まれると考えられているからです。そのため,共に就労状況が安定している場合には,永住審査における年収要件はクリアしていると判断して差し支えありません。

注意すべき事項としては,一方配偶者の年収があまりにも低いような場合です。この場合には,就労状況が不安定と判断される可能性があり,世帯の合計年収で見てもらえない可能性があることから,この点には注意を要します。

(4)配偶者ビザの場合

日本人の配偶者等,永住者の配偶者等,定住者のビザは,身分系のビザと言われ,その身分や地位に基づきビザが与えられています。言い換えると,日本との結びつきが強いビザということが出来ます。そのため,上記で見た就労ビザと比較すると,永住許可申請の年収判断においても,有利に解釈がなされています。

具体的にいうと,配偶者が日本人の場合には年収300万円なくとも,実際に永住ビザが許可されています。また,上記(2)は世帯の合計年収では判断されなかったのに対し,配偶者ビザの場合には,パート年収も含めて世帯の合計年収で判断してもらうことが出来ます。

このように,身分系のビザをお持ちの方については,年収要件が就労ビザの場合よりも緩和されているのが大きな特徴です。

(5)まとめ

いかがでしたでしょうか。同じ永住許可申請をする場合であっても,お持ちのビザの種類によって判断は異なりますし,また扶養家族の人数,配偶者のビザの種類によっても結論は異なります。

ご相談の中には,海外での所得や貯金額などで独立生計要件を満たしていると考える方もおられますが,その一事をもって永住許可を得るのは難しいです。
なぜなら,永住の年収要件は,あくまでも日本に生活基盤を持つことを前提として,審査されているからです。

本ページで全ての事例を記載するのは困難ですが,永住ビザを希望される方については,ご自身の年収状況を予め確認されることをお勧めします。

4.事例の検討

本事例においては,Aさんが「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を,Bさんが「家族滞在」の在留資格を有しています。上記3(2)で見たように,就労ビザの場合には,家族滞在ビザの収入を加えて判断することは出来ません。
また転職期間を理由として,年収が下がっている年度があるため,独立生計要件を満たすか否かが微妙な案件です。

そこで,当社が行った本事例での対応としては,
①これまで5年間の収入状況を立証
②5年間の稼働で形成した貯金の立証
③1ヶ月の生活状況報告書の作成
④転職による年収の上昇,就労の安定性を説明した文書の作成
などを行いました。

その結果,Aさんは無事に永住ビザを得ることが出来ました。

5.おわりに

本稿をご覧の方の中には,今回取り上げた事例においては300万円の年収がないため,永住ビザの許可は難しいのでは,と思われた方もいらっしゃるかと思います。

永住ビザの審査において,年収300万円以上と一つの基準をお示ししましたが,必ずしも年収300万円以上でないと永住ビザは許可されないわけではありません。
永住ビザは,総合的な審査がなされるため,今後日本で安定的な生計を維持できるのであれば,永住ビザの許可の見込みはあります。

そこで重要になってくるのが,生活基盤,生計維持能力の立証です。

今回の事例では,
①これまで5年の収入状況を立証
②5年間の稼働で形成した貯金の立証
③1ヶ月の生活状況報告書の作成
④転職による年収の上昇,就労の安定性を説明した文書の作成
をもって,生活基盤,生計維持能力の立証を行いました。

このように,仮に基準年収に及ばない場合であっても,その不足が僅差であれば,今後の安定的な生活状況を立証することで,永住許可の可能性があることをご理解いただければ幸いです。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 德永 武道

・日本行政書士会連合会(登録番号第23082840号)
・東京都行政書士会(会員番号第14958号)
千葉県出身。東京オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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