フィリピンの二国間協定の誓約事項と受入れフロー
本記事では,フィリピンと日本との間で締結された特定技能の二国間協定について紹介します。
各政府の誓約事項や,フィリピンの特定技能外国人を受入れする際の受入れフローについても解説していますので,最後までご一読ください。
Index
1.特定技能の二国間協定が締結された目的
特定技能の二国間協定は,特定技能外国人の保護を中心とした特定技能制度の健全な運用を目的として,締結されています。
2.フィリピン政府が誓約した重要事項
まずは,二国間協定の中でフィリピン政府が誓約した主な重要事項について紹介します。
- 送り出し機関を厳正に審査
- 日本政府からの報告により送り出し機関への調査実施
- 特定技能制度運用のためのガイドラインの作成
- 日本政府からの情報をフィリピンで公表
〇送り出し機関を厳正に審査
決められた認定基準に則り送出し機関を審査して,基準を満たした送出し機関へのみ運営許可を与えることを誓約しています。
〇日本政府からの報告により送り出し機関への調査実施
日本政府より送出し機関の調査依頼があった場合は,当該送出し機関への調査を実施することが誓約されています。
入管は,特定技能の受入れ機関へも不定期で訪問をして,特定技能外国人から聞き取り調査などを実施します。
その際に,送出し機関からの不正な手数料徴収などが発覚した場合には,調査依頼の対象となり得ます。
受入れ後のトラブルを避けるためにも,特定技能ビザ申請前の事前ガイダンスで不当な扱いの有無などについて確認することが必要です。
〇特定技能制度運用のためのガイドライン作成
特定技能制度と二国間協定の内容を,適正に履行するためのガイドラインを作成することを誓約しています。
また,認定した送出し機関に対して,特定技能外国人の選定が適切に実施されるように指示することも誓約されています。
〇日本政府からの情報をフィリピンで公表
日本政府が実施した改善命令などの情報を,フィリピン国内でも公表することが誓約されています。
3.日本政府が誓約した重要事項
日本政府が誓約している主な重要事項は次の通りです。
- 入管法で特定技能外国人へ補償されている内容の審査
- 必要に応じて登録支援機関に対して指導や許可取り消しの実施
- 受入れ機関の労働基準法の遵守状況について指導・監督
- 日本国内の悪質なブローカーの排除
- フィリピン政府より認定を受けた送り出し機関の公表
- 受入れ機関への改善命令などの情報をフィリピン政府へ報告
〇入管法で特定技能外国人へ補償されている内容の審査
受入れ機関と特定技能外国人との間で締結された雇用契約内容や支援計画書の内容などについて,入管法に沿った内容であるかを審査することが誓約されています。
また,特定技能外国人に対する報酬が同じ職場で就労している日本人と同等以上であることや,離職時の転職支援については,特に重要な審査事項と強調されています。
〇必要に応じて登録支援機関に対して指導や許可取り消しの実施
登録支援機関が適正な支援業務を実施しているか審査して,指導などを行い,悪質な登録支援機関に対しては必要に応じて許可取り消しを行うことが誓約されています。
〇受入れ機関の労働基準法の遵守状況について指導・監督
特定技能ビザの申請時に入管へ提出した雇用条件に従い,労働基準法を遵守した特定技能制度の運用がなされているか監督をして,必要に応じて指導などを行うことが誓約されています。
〇日本国内の悪質なブローカーの排除
特定技能外国人の就職先斡旋に際して,特定技能協議会でも禁止されている引き抜き行為や,不当な紹介手数料を特定技能外国人へ請求することは禁止されています。
また,それらに関わる日本国内の悪質なブローカーを排除することを誓約しています。
〇フィリピン政府より認定を受けた送り出し機関の公表
フィリピン政府より認定された送出し機関の情報を受け取った場合は,日本国内でも情報展開することが誓約されています。
フィリピンの特定技能外国人を受入れする際には,認定された送出し機関を介しての受入れが義務であるため,受入れをする際には,必ず認定された送出し機関の情報を確認することをお勧めします。
なお,フィリピン政府より認定された送出し機関の情報については,入管の公表情報である「フィリピン送出し機関」より確認ができます。
〇受入れ機関への改善命令などの情報をフィリピン政府へ報告
入管が受入れ機関に対して,改善命令などを行った場合は,その情報をフィリピン政府にも報告することが誓約されています。
4.特定技能外国人の受入れフロー(共通)
特定技能外国人を受入れする際のフローを紹介します。
次の①~⑥までのステップは「呼び寄せの場合」と「日本にいるフィリピン人を雇用する場合」で共通になります。
② 駐日フィリピン大使館への書類申請・審査
③ 駐日フィリピン大使館での面接
④ フィリピンの海外雇用庁への登録
⑤ 採用する人材の確保
⑥ 雇用契約の締結
それぞれステップごとに解説して行きます。
① 送り出し機関と受入れ機関の受入れに関する募集取り決め
フィリピンの特定技能外国人を受入れする際には,必ずフィリピン政府より認定を受けた送出し機関を介して受入れする必要があります。
提携する送出し機関を決定した後に,まずは募集活動や雇用に関する受入れ機関と送出し機関双方の権利義務を明確にした「募集取り決め合意書」を締結します。
また,締結した募集取り決め合意書については,日本の公証役場にて公証を受ける必要があります。
② 駐日フィリピン大使館への書類申請・審査
雇用契約書のフォーマット,求人表などを作成して,公証を受けた募集取り決め合意書と併せて,駐日フィリピン大使館へ申請します。
なお,申請は駐日フィリピン大使館(東京)以外にも,大阪にある駐日フィリピン総領事館でも受付けしています。
駐日フィリピン総領事館の管轄地域に本店住所のある受入れ機関からの申請は,駐日フィリピン大使館(東京)で申請することはできない点には注意して下さい。
管轄地域については,駐日フィリピン総領事館のホームページより確認することができます。
③ 駐日フィリピン大使館での面接
②の審査を終えた後に,受入れ機関の代表または委任を受けた職員が,駐日フィリピン大使館また駐日フィリピン総領事館にて労働担当官により面接を受ける必要があります。
なお,面接は英語で実施されるため,通訳者の同席をさせることは認められます。
④ フィリピンの海外雇用庁への登録
申請した書類の審査や面接結果に問題が無ければ,申請書類に認証印が押印され,推薦状と共に受入れ機関へ郵送されます。
受入れ機関は,送出し機関を介してフィリピンの海外雇用庁へ受入れ機関の登録手続きをします。
登録完了後に,再度,送出し機関を介してフィリピンの海外雇用庁の認証印が押印された雇用契約書などの書類が受入れ機関へ返送されます。
この時点で,申請した書類には「駐日フィリピン大使館の認証印」と「フィリピンの海外雇用庁の認証印」が押印されていることになります。
⑤ 採用する人材の確保
フィリピンの海外雇用庁の認証印が押印された書類が到着した後に,人材の採用活動を開始することが認められます。
送出し機関を通じて人材の確保を行い,面接などを経て採用する人材が決定します。
⑥ 雇用契約の締結
採用する人材が決定した後に,通訳者同席の下で雇用条件などを説明して雇用契約を締結します。
5.特定技能外国人の受入れフロー(呼び寄せ)
ここからは,呼び寄せの際の手続きについて紹介をします。
② 在フィリピン日本大使館での手続き
③ 出国前オリエンテーション受講
④ 健康診断の受診
⑤ 海外雇用許可証の取得
⑥ 入国・就労開始
① 特定技能ビザの取得
特定技能ビザに必要な申請書類が揃った段階で,入管へビザ申請をします。
提出した書類に不備などが無ければ,約2ヶ月で特定技能ビザが取得できます。
② 在フィリピン日本大使館での手続き
①で取得した特定技能ビザを,在フィリピン日本大使館に申請することで正式な特定技能ビザを取得することができます。
③ 出国前オリエンテーション受講
特定技能ビザを取得した後に,送出し機関を介して出国前オリエンテーションを予約して,受講する必要があります。
なお,出国前オリエンテーションは半日程度で修了することができます。
④ 健康診断の受診
出国前に健康診断の受診が必要です。
なお,健康診断についても送出し機関を介して実施する必要があります。
⑤ 海外雇用許可証の取得
出国前オリエンテーションの修了後,「出国前オリエンテーションの修了証」と「正式な特定技能ビザ」,「健康診断結果」の3点をフィリピンの海外雇用庁へ申請することで,海外雇用許可証が発行されます。
海外雇用許可証は,フィリピン側で必要な全ての手続きが完了したことの証明となります。
フィリピンを出国する際には,海外雇用許可証の提示が必須です。
⑥ 入国・就労開始
手続きを終えて日本に入国した際には,空港で特定技能ビザ(在留カード)が発行されます。
在留カードの発行日より日本での就労が認められます。
6.特定技能外国人の受入れフロー(日本にいるフィリピン人)
既に日本にいるフィリピン人の手続きを紹介します。
② 就労開始
① 特定技能ビザの取得
雇用契約の締結後,他の必要書類と共に入管へビザの切り替え申請をします。
注意点として,特定技能ビザの申請前に保持していたビザの種類によっても必要書類が変わる点には注意して下さい。
② 就労開始
特定技能ビザが無事に取得できたら特定技能外国人として,就労開始することができます。
なお,フィリピンの特定技能外国人が一時帰国をして日本へ出国する際には,「海外雇用許可証」が必要です。
そのため,一時帰国した際に,海外雇用許可証の取得をする必要があります。
また,海外雇用許可証の有効期限が60日間であるため,有効期限が切れた場合は,日本での受入れ機関や業務内容が同じことなどを条件に,海外雇用許可証の免除申請が可能です。
7.まとめ:フィリピンの二国間協定の誓約事項と受入れフロー
本記事では,フィリピンと日本の間で結ばれた二国間協定の誓約事項や,特定技能ビザ取得の際の手続きフローについて紹介をしました。
紹介したように,フィリピンの特定技能外国人を雇用する際の手続きは,他国と比べても煩雑なため,時間的な余裕をもって準備を始める必要があります。