今井 幸大

医療滞在ビザとは?取得のための要件や流れ,必要書類,同伴者についても解説

医療滞在ビザとは?取得のための要件や流れ,必要書類,同伴者についても解説

ベトナム人女性Aさんは,日本に住んで20年になり,すでに永住ビザを取得しています。Aさんにはベトナムに住む両親がいますが,数年前に父親が肺がんを患い,母親が付きっきりで看病してきました。
しかし,ベトナムの医療機関での治療では限界があり,Aさんは父親に日本で最先端のがん治療を受けさせたいと考えています。
できれば母親も一緒に日本に来てもらって,一緒に看病してもらいたいと考えています。
Aさんの両親が日本に来るためにはどのような方法があるでしょうか。
このような場合に検討すべきビザが医療滞在ビザです。
本ページでは,医療滞在ビザの要件や申請方法などを網羅的に説明します。

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1.医療滞在ビザとは?

医療滞在ビザは,簡単に説明すれば,日本に相当期間滞在して,医療を受けるためのビザです。
医療滞在ビザの許可を得れば,特定活動ビザの在留カードと、医療を受ける目的で日本に滞在できる旨の「指定書」が交付されることになります。

このように,厳密に言えば「医療滞在」という名前のビザはなく,「特定活動」というビザの中に医療滞在目的のビザがあるのです。

なお,ワーキング・ホリデーやインターンシップなど聞きなれたビザも,「特定活動」ビザの一種です。

①医療を受けるための短期滞在ビザについて

日本で医療を受けるためのビザは,実は医療滞在ビザだけではありません。

観光ビザという名前で認識されている方も多いと思いますが,「短期滞在」ビザも治療目的での日本における滞在を認めています。

以下,出入国管理及び難民認定法別表第一の三の「短期滞在」ビザの内容となりますので,ご確認ください。

本邦に短期間滞在して行う観光,保養,スポーツ,親族の訪問,見学,講習又は会合への参加,業務連絡その他これらに類似する活動

このように日本で医療を受けるためのビザには,「医療滞在」ビザと「短期滞在」ビザがあるところ,この2つのビザの主な違いは,日本での在留期間(日本に滞在できる期間)です。

つまり,希望する在留期間が90日を超える場合には「医療滞在」ビザを,90日以内の場合には「短期滞在」ビザを検討することになります。

なお,「短期滞在」ビザには,有効期間内(短期滞在査証発給から3ヶ月)に一度だけ来日可能な1次ビザ(シングルビザ)有効期限内(最大3年)であれば何度でも来日可能な数次ビザ(マルチビザ)があるところ,医療機関が必要と判断した場合には,数次ビザ(1回の滞在期間は最大90日です)を申請できます。

ただし,この数次ビザを申請する際には,医師による「治療予定表」の提出が必要となります。

2.医療滞在ビザの要件

ここまでの説明で,日本での予定する治療期間により,検討すべきビザが異なることをご理解いただけたと思います。

そこで,本チャプターでは,短期滞在ビザよりも要件が厳格な医療滞在ビザの要件を説明します。

まず,医療滞在ビザの根拠となる規定(特定活動告示25号)をご確認ください。

本邦に相当期間滞在して,病院又は診療所に入院し疾病又は傷害について医療を受ける活動および当該入院の前後に当該疾病又は傷害について継続して医療を受ける活動

この規定から医療滞在ビザの要件を読み取ることができるところ,その要件は大きく分けると以下の3つに分解できます。

ア.本邦での活動が「病院又は診療所に入院し疾病又は傷害について医療を受ける活動」,及び「当該入院の前後に当該疾病又は傷害について継続して医療を受ける活動」であること

このように医療滞在ビザの対象になる活動は,病院又は診療所に入院して医療を受ける活動です(前段)。そのため,ホテルや知人宅に滞在して病院に通院するだけでは,医療滞在ビザは許可されません。

また,相当期間入院した後に,継続治療のために退院後も通院を続ける場合には,この退院後の医療を受ける活動も医療滞在ビザの活動に含まれます(後段)。

「継続して医療を受ける活動」とは,入院前・入院中・退院後の一連の医療が連続的・継続的に行われることを意味し,医療の連続性が要求されます。
この医療の連続性は,医師の診断書により判断されます。

例えば,抗がん剤治療のために入院していたケースで,退院後も予後観察のために通院する場合には医療の連続性がありますが,全く関係のない事故で傷害を負って治療を受ける場合には医療の連続性は否定されるでしょう。

「疾病又は傷害」には,出産も含まれます。
そのため,外国人が日本で出産する場合にも,(他の在留資格に該当しない場合には)医療滞在ビザが検討対象になります。

なお,治療を受けるための「短期滞在」ビザの場合には,入院までは求められていませんので,入院を予定していない場合は,短期滞在ビザを検討すべきです。

イ.「本邦に相当期間滞在」すること

「相当期間」とは,90日を超える期間を意味します。
なお,日本での治療に要する期間は,医師の診断書から判断されます。

上述したように,90日以内に治療を終える場合には,「短期滞在」ビザの対象となります。

ウ.日本での滞在費用および治療費を支弁する能力を有すること

こちらが医療滞在ビザの最後の要件となるところ,注意をしていただきたいポイントがあります。

それは,医療滞在ビザで滞在される方は,「国民健康保険」に加入できず,「健康保険の被扶養者」になることもできないという点です。

これは,医療滞在ビザがあくまでも医療のために一時的に日本に滞在することを目的とするものであり,日本に居住することを目的としていないためです。
公的医療保険は居住国で賄うべきというのが,日本の医療保険制度の建前なのです。
なお,一般的には民間医療保険に加入することが多いでしょう。

このように健康保険に加入できず医療費が自己負担にとなるため,医療滞在ビザの要件として,医療費を含む日本での一切の滞在費用を支弁する能力が求められるのです。
ただし,医療滞在ビザを希望する外国人本人に貯蓄等がない場合であっても,親族が滞在費用等を負担できるのであれば,それも滞在費の支弁能力に含まれます。

3.医療滞在同伴者のためのビザとは?

冒頭に例として挙げたAさんの母親のように,医療を受ける方の付き添いをする外国人も,日本に滞在できる可能性があります。

こちらも特定活動ビザとなりますが,ここでは「医療滞在同伴者のためのビザ」と呼ぶこととします。

以下,医療滞在同伴者のためのビザの根拠となる規定(特定活動告示26号)をご確認ください。

「前号(=特定活動告示26条)に掲げる活動を指定されて在留する者の日常生活上の世話をする活動(収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く。)」

「日常生活上の世話をする活動」とは,入院中の身の回りの世話や,入院の前後における病院への送迎,付き添い等を意味します。

対象となる方は,治療を受ける方の親族に限られませんが,親族以外の方が申請する場合には,活動内容との信憑性の観点から,治療を受ける方との関係性が慎重に審査されます。

なお,カッコ書きにあるように,報酬を受けて付添いをすることは対象外の活動になりますので,例えば家政婦さんは医療滞在同伴者のためのビザの対象にはなりません。

4.医療滞在ビザ・医療滞在同伴者のためのビザの必要書類

①医療滞在ビザの必要書類

①日本の病院等が発行した受入れ証明書(入管規定のフォーマットがあります)
②在留中の活動予定を説明する資料
③以下のいずれかで日本滞在に必要な一切の費用を支弁できることを証する資料

(1)病院等への前払金,預託金等の支払済み証明書
(2)民間医療保険の加入証書及び約款の写し(加入している医療保険等により,治療等に要する経費を支弁することが立証されるもの)
(3)預金残高証明書
(4)スポンサーや支援団体等による支払保証書

②の在留中の活動予定を説明する資料として,入管のHPには以下の資料が挙げられています。
・入院先の病院等に関する資料(パンフレット,案内等)
・治療予定表(書式自由)
・入院前あるいは退院後の滞在先を明らかにする資料(書式自由)
※ 滞在場所及び連絡先の記載必要

②医療滞在同伴者のためのビザの必要書類

①在留中の活動予定を説明する資料
※ 滞在日程,滞在場所,連絡先及び医療滞在ビザ希望する方との関係について記載必要
②申請人の在留中の一切の経費の支弁能力を証する文書

5.医療滞在ビザの取得の流れ

本チャプターでは,医療滞在ビザの取得の流れについて,簡単に説明します。

①日本にいる外国人の場合

日本にいる外国人が医療滞在ビザへの変更を希望する場合には,他のビザへの変更の場合と同様に,在留期限内に在留資格変更許可申請を行うことになります。

また,短期滞在ビザで滞在している外国人であっても,入国後の急な事情変更等により,日本の病院に入院して治療を受ける必要がある場合には,医療滞在ビザへの変更許可申請を検討することになります。

なお,治療期間が90日以内の場合には,短期滞在ビザの在留期間更新許可申請を検討すべきです。

②海外にいる外国人の場合

海外にいる外国人が医療滞在ビザを希望する場合には,まず身元保証機関に連絡をして入院する医療機関を確定していただく必要があります。
身元保証機関のリストは,外務省のHPにて公開されています。

そして,身元保証機関から,「医療機関による受診等予定証明書及び身元保証機関による身元保証書」や「滞在予定表」(必要であれば)を発行していただくことになります。

次に,海外にいる外国人が医療滞在ビザを希望する場合には,日本にある入管で在留資格認定証明書交付申請を行うこととなるところ,他のビザの場合と同様に,日本にいる一定の条件を満たす方に「申請代理人」となっていただく必要があります。

医療滞在ビザの申請代理人は,以下の通りです。

① 申請人の入院予定先である病院等の職員
② 日本に居住する申請人(医療滞在ビザを希望する方)の親族

医療滞在同伴者のためのビザの申請代理人は,以下の通りです。

① 医療滞在ビザを希望する方
② ①の入院予定先である病院等の職員又は日本に居住する①の親族

冒頭に例で言えば,「Aさんの父親の医療滞在ビザの申請」及び「Aさんの母親の医療滞在同伴者のためのビザ申請」の申請代理人は,Aさんのほか,Aさんの父親の入院予定先である病院等の職員であれば,なることができます。

次に,在留資格認定証明書が発行されれば,在外公館(海外にある日本大使館または日本領事館)で査証申請を行うことになりますが,その際に「医療機関による受診等予定証明書及び身元保証機関による身元保証書」が必要となります。

6.医療滞在ビザのまとめ

医療滞在のための特定活動ビザで認められる滞在期間は,日本で治療を受ける期間に限られます。治療が終わった後も日本に滞在する,もしくは治療に関係なく日本に滞在するには,老親扶養特定活動ビザが考えられますが,ハードルが高いビザと言われています。
老親扶養特定活動ビザの詳細は、以下のコラムをご確認ください。
>>老親扶養ビザ はコチラ

当社にご依頼をいただき,Aさんのお父様は医療滞在ビザ,お母様は医療滞在同伴者のためのビザを取得できました。しかし,1年間の治療の甲斐なくお父様は日本で亡くなられ,その後,独り身になったお母様は老親扶養特定活動ビザに切り替えました。現在は,Aさんと二人で生活し,余生を日本で暮らされています。

日本は外国人労働者を積極的に受け入れる一方で,その家族に関する法整備はまだまだ遅れています。日本が外国人にとって魅力的な国であり続けるには,外国人家族のケアも欠かすことができないと考えます。

行政書士法人第一綜合事務所では,外国人の方のビザ申請に関するご相談を随時承っています。

英語,中国語,ベトナム語にも対応していますので,お気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

特定行政書士 今井 幸大

・日本行政書士会連合会(登録番号第18080677号)
・東京都行政書士会(会員番号第11843号)
東京都出身。東京オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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