永住ビザの身元保証人とは
永住ビザを申請する際には,必ず身元保証人を就けなければなりません。
友人や上司の方になっていただくケースが多いのですが,身元保証人にどのような法的義務があるのか,また身元保証人に関してどのような書類が必要となるかを正しく説明できないと,身元保証人に就くことを断られてしまうこともあります。
そこで本ページでは,永住ビザの身元保証人の責任,どのような人が身元保証人になれるのか,身元保証人に関してどのような書類が必要となるかを中心に,身元保証人についてご説明します。
これから永住ビザの身元保証人をお願いしようと思っている方,永住ビザの身元保証人になって欲しいと依頼を受けた方は必見です!
Index
1.永住ビザの身元保証の内容
永住ビザの申請の際には,身元保証書に身元保証人の署名をして出入国在留管理庁(いわゆる入管のことです。)に提出しなければなりません。
身元保証書には,次のように記載されています。
このように身元保証人は,申請人がこれからも日本で生活するにあたって,日本の法令遵守や公的義務の履行に関する必要な支援を行うことを保証することになります。
以前は,身元保証人は以下の事項を保証することとなっていましたが,2022年6月1日から書式が変わり,身元保証の内容が変更されました。
①滞在費(永住ビザの申請人が日本で滞在するために必要となる経費全般)
②帰国旅費(申請人が万が一,帰国しなければならない際の,帰国のための経費全般)
③法令の遵守(申請人が日本に滞在するにあたり,法律や命令などの社会的規範に違反しないこと)
このように,費用面の保証と法令遵守という以前の内容とは異なり,日本の法律や公的義務に詳しいとは限らない申請人に対して,必要な支援を行うことが保証の内容となりました。
2.永住ビザの身元保証人の責任
「保証人」と聞くと,借金の保証人と同じように捉えられ,身構える方が多いのではないでしょうか。
実は,永住ビザの身元保証人は,想像されるような保証人とは全く性質を異にします。
一般に民事上の保証人は,債務者が債務を履行しない場合に,保証人が債務者に代わって債務を履行する責任を負います。
債権者は保証人に対して債務を履行するように請求権を有し,保証人が任意に履行に応じない場合は,裁判所に訴えて強制的に履行を実現することができます。
いわゆる「肩代わり」のようなイメージをもってもらうとわかりやすいです。
これに対して,永住ビザの身元保証人は,上記のような責任を負いません。
例えば,申請人が住民税を払わない場合において,申請人が身元保証人に対して代わりに払うように請求することはできないことは当然として,出入国在留管理庁や市区町村役場からも身元保証人に対してそのような請求は一切できません。
また,申請人が法律に違反して他人に損害を与えた場合に,裁判所に訴えて強制的に賠償をさせることもできません。
このように,永住ビザの身元保証は,民事上の保証とは大きく性質を異にします。
永住ビザの身元保証は道義的責任といわれており,万が一申請人が困ったときには手助けしますよという約束のようなもので,約束を果たさなかったからといって身元保証人は法的なペナルティは受けないのです。
3.永住ビザの身元保証人になれる人
永住ビザの身元保証人は誰でも良いというわけではなく,いくつかの条件があります。
永住ビザの身元保証人になれるのは,日本人,又は既に永住ビザを取得している外国人(特別永住者の方も含みます。)に限られます。
これは,永住ビザの申請人よりも日本に滞在できる期間が短い場合には,身元保証の内容を果たせない可能性があるため,身元保証人になれる方を申請人よりも長く日本に滞在できる資格がある人物に限定していることがその理由です。
次に,身元保証人には安定的な収入がなければなりません。
もっとも,いくら以上の年収が必要とか,申請人よりも収入が高いことは要件とはされていません。実務上は,かなり緩やかに審査されており,定期的な収入があれば収入の多寡は問題になっていません。
そして,身元保証人についても,納税義務を果たしていることが求められます。
実務上は全ての税種目をチェックしているわけではなく,住民税の滞納が無い限り,納税義務を果たしているものと扱われています。
このように,身元保証人にはいくつかの条件がありますが,それほど高い基準を設定しているものではなく,日本人か永住者の方で,働いている方であれば,特に問題視されることはないと言っていいでしょう。
4.永住ビザにおける身元保証人に関する必要書類
永住ビザを希望するご友人や同僚の方から身元保証人になってほしいとお願いをされた場合において,身元保証人の責任の内容のほかに,どのような書類を用意する必要があるか知りたい方が多いと思います。
身元保証人となる方にご用意いただくのは,身元保証書のほか,身分証のコピーのみです。
身分証のコピーについては,永住者の方であれば,在留カードのコピー,日本人の方であれば,運転免許証等の公的な身分証のコピーで問題ありません。
顔写真付きのものがベストですが,保険証のコピーでも大丈夫です。
必要書類の少なさに拍子抜けされる方もいらっしゃるかもしれませんが,実はこの点も,2022年6月1日に運用が変更された点です。
以前は,身元保証人となる方の①職業を証明する資料(在職証明書等・会社の登記簿謄本など),②住民票,③直近1年分の所得を証明する資料(課税証明書・源泉徴収票の写しなど)が求められていました。
特に所得を証明する資料については,友人や同僚に年収を知られたくない人も多いため,身元保証人を引き受ける足枷になっていたかと思います。
今回の運用変更によって,身元保証人の収入や納税義務は審査対象から除外されたわけではないものの,書類が簡素化されたことから,身元保証人への就任ハードルは少し下がりました。
この点をしっかりご認識いただければ,身元保証のご依頼もスムーズに進むと思います。
5.身元保証人についてよくあるご質問
① 身元保証人が法的責任を負わない根拠は?
いくら法的責任を負いませんと言っても,その根拠を知りたいという慎重な方もいらっしゃいます。
実は具体的に入管法に記載があるわけではないのですが,出入国在留管理庁に問い合わせていただければ,法的責任でなく道義的責任である旨の回答は得られます。
また,出入国在留管理庁のHP 出入国審査・在留審査Q&A の52にも道義的責任という記載がありますのでご確認ください。
② 当社のスタッフが身元保証人を引き受けることができるか?
稀に当社のスタッフに身元保証人になってほしいというお願いをされるお客様がいらっしゃいます。
残念ながら,当社では身元保証人を引き受けるというサービスは承っておりません。
なお,永住ビザの身元保証人は,お金を支払ってお願いする性質のものではなく,日本に定住する外国人をサポートする役割を担いますので,身近な方に身元保証人になっていただくのが適切です。
③ 無職の人に身元保証人となることを依頼してよいか?
無職の方が身元保証人となる場合において,永住ビザの申請が不許可となるリスクが全くないということはできません。
その人以外に身元保証人になってもらうことをお願いできる人がいない場合に永住ビザを諦める必要はないと思いますが,一定の不許可のリスクがある点はご理解ください。
ただし,配偶者ビザの方が永住ビザを申請する場合には,原則として同居されている配偶者の方が身元保証人となる必要があるところ,この場合には,身元保証人となる配偶者の方が専業主婦をされていたとしても,特に問題はないと考えられています。
なお,配偶者ビザの方が永住ビザを申請する場合には,身元保証人となる配偶者の方に関する必要書類が異なりますのでご注意ください。
④ 従業員が永住ビザを取得して会社にメリットはある?
従業員が永住ビザを取得することで,会社にメリットはあるのでしょうか。
従業員が永住ビザを取得することができれば,在留活動の制限がなくなる,また在留期間の制限がなくなることが大きなメリットと言えるでしょう。
さらに言うと,所属している従業員が永住ビザを取得できたということが外国人のコミュニティーで広がり,優秀な外国人材の雇用に繋がったというような話を耳にすることがあります。
このような点を考慮すると,従業員が永住ビザを取得することで会社にも大きなメリットはあると言えるでしょう。
6.永住ビザの身元保証人のまとめ
本ページでは,永住ビザの身元保証人について解説しました。
永住ビザの申請の際には必ず身元保証人を就けなければならず,身元保証人を就けずに申請することはできません。
そのため,永住ビザの申請をしようとする際には,身元保証人を誰に依頼するかを考えておかなければなりません。
できれば,準備を始める前に依頼しておくのが望ましいでしょう。
その際には,正しく身元保証の内容,特に身元保証人の責任を説明できなければ,断られてしまうことも往々にしてあります。
また,お忙しい上司の方に依頼する場合には,必要な書類が少なく手間がかからないという点もお伝えいただいた方がいいでしょう。
もし,依頼した方が身元保証人に就くことを迷っているようでしたら,このコラムを読んでもらってください。
少しでも多くの方が,適切に永住ビザを取得することができれば幸いです。