経営管理ビザの更新が不許可にならない方法
経営管理ビザをもって日本で貿易会社X株式会社を経営しているアメリカ人のAさんは,母国アメリカでも貿易会社を経営しています。X社は第2期目で売上3000万円を計上しましたが,120万円の損失を計上しました。Aさんはアメリカの貿易会社の経営を他の役員に任そうと,後継者への業務の引継ぎのためにこの1年間は日米を行き来し,合計で6ヶ月程度日本を離れていました。
ビザの期限が迫り,Aさんは,経営管理ビザの更新申請を行おうと考えましたが,2期目を赤字決算で終えていること,そして出国日数が多いことから,経営管理ビザの更新が不許可になるのではないかと不安になりました。
本ページでは,事例を交えながら経営管理ビザの更新が不許可にならない方法,経営管理ビザの更新の要件をみていきます。
Index
1.経営管理ビザの更新不許可を防ぐためには
ビザの更新は自分で簡単にできると思っている外国人の方もいらっしゃいますが,経営管理ビザの更新の場合,自身の在留状況の他に,会社の決算状況も審査されます。思わぬ落とし穴に気付かず,経営管理ビザの更新が不許可になってしまったという相談もあります。
経営管理ビザの更新の要件をご理解いただくことで,経営管理ビザの更新不許可のリスクは低減できます。
そこで以下においては,経営管理ビザの更新にあたり,事例を交えながらどのような準備をしなければならないかをご説明したいと思います。
2.経営管理ビザの更新申請では「事業の継続性」が重視される
経営管理ビザは,外国人が日本で事業の経営または管理の活動を行うために与えられるものですから,ビザ更新においては,事業そのものが今後も確実に継続する見込みがあるかどうかが審査されます。なぜなら,事業が継続しなければ,事業の経営・管理を行う活動も継続しないからです。
事業の継続性は,決算状況を中心に判断されます。もっとも,事業活動においては様々な要因で赤字決算となり得るので,経営管理ビザの更新申請の審査においては単年度の決算状況(フロー)だけではなく,貸借状況(ストック)等も含めて総合的に判断されます。
具体的には,直近二期の決算状況に応じて以下のように取り扱われます。
3.直近期末に剰余金がある場合
剰余金とは,資産から負債を引いた額が,資本金を上回っている金額をいいます。資本金は事業を行うために会社に出資された金額ですから,剰余金があるという事は,儲けが出ていることを指します。
直近期末において貸借対照表で剰余金がある場合には,原則として,事業の継続性に問題がないと判断され,原則として経営管理ビザの更新が認められます。
もっとも,剰余金があったとしても,直近期の売上が極端に低い場合は,当該外国人の経営活動が実際に行われていたのか疑義を抱かれてしまいますので,売上が低くなってしまった経緯を説明した説明書を提出すべきでしょう。
4.直近期末に欠損金がある場合
(1)直近期末において債務超過となっていない場合
欠損とは,資産から負債を引いた額が,資本金を下回っている状態を指します。事業を行うために会社に出資された資本を下回ってしまっているということは,事業によって損をしている状況です。
債務超過とは,負債が資産を上回っている状態を指します。会社に出資された資本を食いつぶし,さらに借金をしている状況ですから,一般的には事業存続が危機的な状況と言えます。
直近期末において欠損金を計上したものの,債務超過とはなっていない場合は,欠損を計上した経緯とその改善見込み,また今後の事業計画を提出し,今後の事業の継続性があることを立証しなければなりません。
(2)直近期末において債務超過となってしまったが,直近期前期末では債務超過となっていなかった場合
債務超過となった場合,事業の存続が危ぶまれる状況ですから,事業の継続性は認めがたいといえます。ただ,直近期前期末では債務超過になっていなかった場合,すなわち,債務超過が1年以上継続していない場合であれば,債務超過となってしまった経緯,1年以内に債務超過状況を改善するための事業計画を提出し,事業の継続性があることを合理的に説明することができれば,経営管理ビザの更新が認められる可能性があります。ただし,この場合には,中小企業診断士や公認会計士等の公的資格を有する第三者が債務超過の状況改善の見通しについて評価を行った書面の提出が求められることになります。
(3)2期連続債務超過である場合
債務超過となって1年以上経過しても債務超過の状態から抜け出すことができなかった,すなわち2期連続で債務超過となってしまった場合は,事業を存続させるにあたり非常に厳しい財務状況にあること,また今後の改善が見込まれないと判断され,事業の継続性が原則として否定されます。
2期連続債務超過に陥ってしまった場合には,増資や他の企業による救済の道を探るべきでしょう。
5.経営管理ビザ更新の際に注意しなければならない他のポイント
(1) 事業内容が変わった場合
経営管理ビザの在留資格認定証明書交付申請・在留資格変更許可申請の際に提出した事業計画で示した事業内容と実際の事業内容が大きく変更されている場合があります。事業開始をしたところ,開業当初に想定していた需要を見込めなかったとか,予定していた取引先との交渉が決裂したなど,事業活動には様々な要因で当初予定していた事業を行うことができなくなってしまうこともあります。
当初予定していた事業内容を変更した場合には,経営管理ビザ更新の際に,現在行っている事業内容,事業内容を変更せざるを得なかった経緯,変更した事業についての事業計画などを記載した説明書を提出しましょう。
(2) 事業所を移転した場合
経営管理ビザを取得した後も,事業所の要件を満たしている必要があります。
事業所を移転した場合には,まずは本店移転登記を行い,14日以内に入管に届出を行いましょう。
また,経営管理ビザ更新の際には,本店移転登記後の登記簿謄本のほか,事業所の賃貸借契約書や写真を提出して,事業所としての要件を満たしていることを示しましょう。
(3) 長期間出国していた場合
経営管理ビザを取得した外国人の方で,日本以外の国でも会社を経営していたり,世界規模でビジネスを展開している方は,必然的に海外出張の機会が多くなります。
経営管理ビザを更新するにあたり,何日以上日本にいなければならないといった滞在日数の要件はありませんが,日本滞在期間が短い場合は経営管理ビザの更新の不許可リスクが高まります。なぜなら,経営管理ビザは日本で事業を行うために与えられているビザであり,出国が多いとそもそも事業の経営活動を行っていないのではないかと疑義を抱かれるからです。
そこで,長期間出国している場合は,経営管理ビザの更新申請の際に,長期間出国しなければならなかった理由,今後の日本滞在予定など合理的な理由を説明しなければなりません。
もっとも,インターネットがつながっていればどこでもビジネスができる時代ですから,従業員を雇用しているケースでは,長期間の出国があったとしてもテレビ会議等を利用して経営活動を行っているなど,具体的な経営活動状況を示すことによって,経営管理ビザの更新許可の可能性は高くなるでしょう。
6.今回の事例における対処方法
今回のAさんの事例についてみてみましょう。
Aさんが代表取締役を務めるX社は第2期で120万円の損失を計上しましたが,欠損金は計上しておらず,事業の継続性については,問題ありませんでした。
しかし,長期間日本を出国していたことから経営管理ビザの更新不許可のリスクがありました。
そこで,Aさんが日本を長期間離れなければならなかった経緯を詳細にヒアリングし,Aさんの出国頻度や出国期間を示したうえで,アメリカでAさんが経営している貿易会社についての後継者への業務の引継ぎをしなければならなかった経緯を具体的に説明した経緯説明書を作成し入管に提出しました。
無事にAさんの経営管理ビザの更新は許可され,アメリカでの引継ぎも終えて,現在もAさんは日本で貿易会社を経営されています。
7.経営管理ビザの更新が不許可にならない方法のまとめ
本ページでは,経営管理ビザの更新が不許可にならない方法を経営管理ビザの許可要件と紐づけてご説明してきました。
経営管理ビザの更新申請にあたっての審査においては,事業の継続性が重視されます。もっとも,損失や欠損であるからといって経営管理ビザを更新することができないというわけではありません。欠損を出してしまった経緯や改善見込みを合理的に説明することができれば,経営管理ビザの更新許可を得ることは可能です。
経営管理ビザを取得するには,他のビザに比べて費用も時間もかかります。少しでも不安要素があれば,経営管理ビザの更新の不許可を防ぐためにも,経営管理ビザの申請に精通している行政書士に相談してください。
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