会社設立を外国人が日本で行う方法
外国人起業家が日本でビジネスを開始しようとする場合,その多くが個人事業ではなく,会社設立を選択します。
ところが,外国人起業家にはビザの問題のみならず,会社設立の条件や必要書類など様々な点で,日本人起業家の場合と異なるハードルがあります。
そこで,本コラムでは外国人起業家が会社設立をする上で,役立つ情報について説明していきます。
Index
1.会社設立で外国人に人気がある株式会社と合同会社の違い
外国人が日本で会社設立する場合,多くの方は株式会社をイメージされるのではないでしょうか。
しかし,実は日本には100を超える法人の種類があります。
もっとも,会社設立の難易度,会社設立後の運営の観点から,多くの方が株式会社か合同会社を選択します。
そこで,本チャプターでは,株式会社と合同会社の違いについて解説していきます。
まずは,以下の表をご覧ください。
株式会社 | 合同会社 | |
会社設立登記の登録免許税 | 資本金の額の1000分の7 (15万円に満たない場合は15万円) |
資本金の額の1000分の7 (6万円に満たない場合は6万円) |
会社設立時の定款認証 | 必要 | 不要 |
最低資本金の額 | 1円以上 | 1円以上 |
払込取扱機関の指定 | 有 | 無 |
出資者の地位 | 発起人が出資額に応じて株主となる。経営者になる必要はない。 | 出資者全員が経営者となる。 |
代表者 | 代表取締役 | 代表社員 |
議決権 | 1株1議決権 | 1人1議決権 |
社会的な認知度 | 高い | 株式会社には劣る |
以下に,株式会社と合同会社の重要な相違点を解説していきます。
会社設立する際には,定款を作成しなければなりません。
定款とは,法人の根本的な規則や決まり事を言います。
株式会社を設立する場合には,公証人役場で認証を受けることによって,作成した定款に法的な効力が発生することになります。
ちなみに,公証人による認証費用は,3万円~5万円です。
他方,合同会社を設立する場合には,定款を作成することは必要ですが,公証人役場での認証は不要です。
資本金は1円以上であれば会社を設立することができますが,外国人起業家の方が経営管理ビザの取得を目指す場合には,資本金はとても重要な論点となります。
詳細は,経営管理ビザの資本金500万円の考え方 にまとめていますので,ご参照ください。
合同会社の会社形態がスタートした当初は,外国人が日本で会社設立する際,株式会社に比べると社会的認知度が劣ることから,合同会社を敬遠することが多かった印象です。
しかし,あの有名なアップルジャパンやアマゾンジャパンも合同会社ということもあり,認知度は鰻上りの状況です。
そのため,株式会社と合同会社の選択において,認知度だけで判断するのではなく,今後の機関設計などを考慮の上,会社設立する法人の種類を検討されることをお勧めします。
その他にも,株式会社の(代表)取締役と合同会社の(代表)社員では,退任方法に違いがあります。
少し難しい話となりますので,株式会社設立と合同会社設立の選択の段階では,株式会社の取締役の方が合同会社の社員よりも退任しやすいという程度の理解で問題ありません。
なお,株式会社も合同会社も事業内容に制限はなく,また法人税,消費税,社会保険等について差異はありませんので,その点もぜひ押さえてください。
2.外国人が日本で会社設立するための流れ
本チャプターでは,外国人が日本で株式会社や合同会社を設立するための大まかな手続の流れについて説明していきます。
(1)基本的事項の決定及び定款の作成
会社設立をしようとして会社に出資する人(お金を出す人)を発起人と呼びます。
発起人は一人でも複数でも構いません。
発起人は,会社の形態,会社の商号,本店所在場所,事業の目的,資本金の額など,設立しようとする会社の基本的な事項を決定します。
そして,発起人が決定した事項をもとに,定款を作成します。
(2)公証人による定款認証
株式会社を設立する場合は,(1)で作成した定款を公証人に認証してもらう必要があります。
他方,合同会社設立の場合には,公証人による定款の認証は不要です。
(3)出資金の払込み
会社を運営するにはお金が必要です。
株式会社設立の場合には,発起人による出資金の払込みは,発起人が定めた銀行口座に行う必要があります。
他方,合同会社設立の場合の出資金の払込みについては,発起人が定めた銀行口座に払い込む方法のほか,代表社員が発起人から出資金を受領して領収書を作成する方法も認められています。
(4)会社設立の登記
必要書類を揃えた上で,本店所在場所(会社の住所のこと)を管轄する法務局に会社設立の登記申請をします。
この会社設立の登記により,会社は法律上成立することになります。
なお,会社設立の登記が完了するまで,法務局の混雑状況にもよりますが,申請してから1週間から10日ほどかかります。
① 会社設立のための必要書類
会社設立の基本的な流れは,ご理解いただけたかと思います。
それでは次に,会社設立のために必要となる書類を見ていきましょう。
設立する会社の役員構成や機関構成により少し異なることはありますが,基本的には以下の書類が必要という認識で問題ありません。
株式会社設立の主な必要書類は,以下のとおりです。
2 定款
3 印鑑届出書(及び代表取締役の印鑑登録証明書)
4 出資金の払込みがあったことを証する書面(※1)
5 発起人の印鑑登録証明書(※2)
6 役員(EX代表取締役)の就任承諾書
7 役員の印鑑登録証明書
※1 代表取締役が作成した払込証明書と出資金の払込みをした通帳の記録を添付するのが一般的です。
※2 公証役場で定款の認証を受けるために必要となります。
合同会社設立の主な必要書類は,以下のとおりです。
2 定款
3 印鑑届出書(及び代表社員の印鑑登録証明書)
4 出資金の払込みがあったことを証する書面(※3)
5 代表社員の就任承諾書
※3 株式会社と異なり,代表社員が作成した出資金領収書でも結構です。
3.外国人が日本で会社設立する場合によくあるご質問
外国人が日本で会社設立する場合によくあるご質問について,以下にまとめていますので,ご覧ください。
① 会社設立のメリットは?
事業を始める際に,会社設立をするか個人事業形態で進めるか,迷われている方も多いのではないでしょうか。
会社設立する場合と個人事業主の場合には,初期費用,税制面,社会的信用の点などで異なります。
会社設立(ex株式会社・合同会社) | 個人事業主 | |
初期費用 | 資本金・登録免許税・収入印紙代など | 0円(開業届のみ) |
税制面 | 法人税 (15%~23.20%) |
所得税 (5%~45%) |
社会的信用 | 高い | 低い |
このように,会社設立の場合には,社会的信用が高いものの,初期費用がかかります。
他方,個人事業主の場合には,社会的信用が会社設立の場合と比べて低いものの,初期費用がかかりません。
また,税に関しては,事業規模が小さければ,個人事業主の方が節税効果は高く,事業規模が大きければ,会社設立の方が節税効果は高くなります。
所得(売上-経費-控除)として700万円~800万円ぐらいが,その分岐点(いわゆる法人化の分岐点)と考えられています。
外国人が「日本人の配偶者等」,「定住者」,「永住者」,「永住者の配偶者等」の在留資格を取得している場合には,日本における活動に制限はありませんので,日本人と同様に,上記の違いにのみ着目して,会社設立か個人事業かの選択が可能です。
もっとも,その他の在留資格の外国人や海外在住の外国人が経営管理ビザを申請する場合には,その多くが個人事業ではなく,会社設立を選択します。
その理由は,個人事業主として経営管理ビザを取得するためには,事業規模の証明の点において会社設立の場合にはない手間がかかるからです。
詳しくは,個人事業主として経営管理ビザを取得する方法 に記載していますのでご参照ください。
② 会社設立は日本に居ないとできない?
実は,これまでの会社設立に関する説明は,会社設立する方が日本人の場合であっても該当します。
外国人特有の問題は,会社設立する外国人が日本に居ない場合に生じます。
まずは,出資金を払い込むことができる銀行口座(=払込取扱機関として認められる銀行口座)を見ていきましょう。
〇 内国銀行の日本国内本支店(例えば,東京銀行の大阪支店)
〇 内国銀行の海外支店(現地法人を除く)(例えば,東京銀行の北京支店)
〇 外国銀行の日本国内支店(例えば,北京銀行の東京支店)
✕ 外国銀行の海外本支店(例えば,北京銀行のボストン支店)
このように会社設立の際の出資金を払い込む銀行口座には,複数の選択肢があります。
もっとも,内国銀行の海外支店の口座は,基本的に大きな会社でなければ作成できないため,通常は日本にある銀行口座が必要となります。
また,多くの銀行において,口座を開設するには日本に住所を有していることが条件とされており,日本で住所を持つには3ヶ月を超える在留期間を付与されて在留する必要があります。
つまり,90日の在留期間が最長となる観光ビザで来日しても,銀行口座を開設することはできないのです。
これだけ聞くと,自身が日本にある銀行口座を持っていない場合には,日本で会社設立ができないと考える方もいるでしょう。
しかし,そのような状況でも会社設立の方法は残されています。
以下,会社設立の際の出資金を払い込むことができる預金通帳の口座名義人を整理しますので,ご覧ください。
1 発起人
2 設立時取締役
※ 発起人による払込金の受領権限の委任が必要です
3 発起人及び設立時取締役の全員が日本国内に住所を有していない場合 = 第三者
※ 発起人による払込金の受領権限の委任が必要です
ここで注目すべきは,発起人は自身の銀行口座だけでなく,設立時取締役や第三者の銀行口座も利用できるという点です。
つまり,日本にある銀行口座を持っていない海外在住の外国人起業家は,実務的には,日本にある銀行口座を持つ『日本在留の協力者』と一緒に会社設立を行うことになります。
なお,共同発起人として日本在住の発起人がいれば,その方の銀行口座の利用も可能です。
ただし,株式会社を設立する場合は,「発起人は必ず出資金の一部を出資しなければならない」というルールがあるので,協力者として発起人となる場合には,協力者もお金を出さなければならない点に注意が必要です。
また,海外在住の外国人が会社設立して経営管理ビザを取得するには,経営管理ビザの要件である事業所を確保してもらうため,及び,経営管理ビザの申請を代理してもらうためにも,『日本在住の協力者』が必要となります。
このように海外在住の外国人投資家は,会社設立のためのみならず,経営管理ビザの取得のためにも,『日本在住の協力者』が必要となるのです。
③ 株式会社設立を中国に居る中国人起業家がする場合の必要書類は?
株式会社設立に必要となる印鑑登録証明書は,3ヶ月を超える在留期間を付与されて日本で住所を持つ者でなければ取得できません。
また,海外在住の外国人起業家に必要となる『日本在住の協力者』には,設立する株式会社の代表取締役となってもらうことが多いです。
そこで,中国に居る中国人起業家Aさんが日本在住の協力者Bさんと共同代表取締役となり株式会社を設立する場合の主な必要書類は,以下のようになります。
2 定款
3 印鑑届出書及びAさんの印鑑公証書
4 出資金を払い込んだ協力者の個人口座の写し
5 発起人となるAさんの印鑑公証書
6 代表取締役となるAさんの就任承諾書
代表取締役となるBさんの就任承諾書
7 代表取締役となるAさんの印鑑公証書
代表取締役となるBさんの印鑑登録証明書
このように,中国人起業家Aさんについては,印鑑登録証明書の代わりに印鑑公証書が必要となります。
④ 株式会社設立をその他の国に居る外国人起業家がする場合の必要書類は?
基本的には③の場合と同じですが,印鑑登録証明書の代わりに,サイン証明書(署名証明書)というものを用意することになります。
サイン証明書とは,サインが本人のものであることについて本国官憲が作成した証明書です。
例えば,ベトナム在住のベトナム人の場合には,ベトナム政府が作成したものが,中国在住のベトナム人の場合には,中国にあるベトナム大使館が作成したものが,これにあたります。
中国在住のベトナム人のサインが本人のものであることについて,中国政府の作成した証明書や中国の公証人が作成した証明書であっても,サイン証明書として認められる可能性はありますが,受理されないリスクがあるため,避けた方が良いでしょう。
4.会社設立を外国人が日本で行う方法のまとめ
様々な選択肢がある中で,会社設立をするかどうか,会社設立をするとして如何なる会社形態を選択するかは,正確にメリットとデメリットを押さえた上で,判断する必要があります。
また,経営管理ビザの取得を希望する外国人起業家は,本ページで説明したように,日本人起業家よりも考慮しなければならない事項が増えます。
本ページを読んで,正しい知識をもって準備を開始してください。
行政書士法人第一綜合事務所では,外国人の方の会社設立業務,入管への経営管理ビザ申請に関するご相談を随時承っています。
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