渡邉 直斗

企業内転勤ビザとは?必要書類や活動内容,許可要件などを解説!

企業内転勤ビザは,企業活動の国際化に対応し,人事異動により外国の事業所から日本の事業所に転勤する外国人を受け入れるために設けられたものです。
同一企業等の内部で外国の事業所から日本の事業所に一定期間転勤して,技術・人文知識・国際業務ビザの活動を行う活動が対象になります。
企業内転勤の理解は,就労ビザの中でも複雑な部類に該当します。
本ページでは,実務上問題となる内容を中心に,企業内転勤ビザについて解説していきます。

1.企業内転勤ビザに該当する範囲は?

(1)企業内転勤ビザにより行うことができる活動内容

企業内転勤ビザにより行うことができる活動内容は,技術・人文知識・国際業務ビザの活動内容と同じです。
転勤者であれば,入管法に定めの無い法定外業務も従事できると勘違いされている方が多い印象ですが,企業内転勤ビザの活動内容には制限があります。

仮に,企業内転勤ビザのルールを知らずに,法定外業務に就かせると,企業は不法就労の罪に問われ,勤務している外国人は,資格外活動罪に問われてしまう可能性があります。
とても重要なことですので,下記コラムをご参照ください。

・知らなかったでは通用しない不法就労助長罪とは?
・法定外活動の際に問われる資格外活動罪とは?

(2)入管法の解説

(2)では,企業内転勤ビザの入管法の規定を,次の(3)では,企業内転勤ビザの上陸許可基準省令の規定をそれぞれ解説していきます。
内容的には,少し難しい内容です。

本邦に本店,支店その他の事業所のある公私の機関の外国にある事業所の職員が本邦にある事業所に期間を定めて転勤して当該事業所において行うこの表の技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動

ア.「本邦に本店,支店その他の事業所のある公私の機関」とは?

民間企業のみならず,公社,独立行政法人およびその他の団体(JETRO,経団連等)が含まれます。
外国の政府関係機関または外国の地方公共団体(地方政府を含みます。)の関係機関も含まれます。
ただし,外国の政府関係機関の場合に当該機関における活動が「外交」または「公用」の在留資格に該当するときは,企業内転勤ビザではなく,外交ビザか公用ビザが付与されることになります。

イ.「転勤」とは?

「転勤」は日常用語では,同一社内の異動を指すことが多いですが,企業内転勤ビザの「転勤」は,系列企業内の出向等も含まれます。
ここでいう「系列企業内」とは,財務諸表等の用語,様式および作成方法に関する規則(以下「財務諸表規則」といいます。)第8条にいう「親会社」,「子会社」,および「関連会社」を意味します。
財務諸表規則第8条の「親会社」,「子会社」,または「関連会社」にあたらない,単なる業務提携関係では,企業内転勤ビザは取得できませんので注意してください。

(3)上陸許可基準省令の解説

企業内転勤ビザは,在留資格該当性に加え,上陸許可基準適合性も求められる在留資格です。
上陸許可基準省令によれば,申請人が次のいずれにも該当していることとされています。

【上陸許可基準省令】
一 申請に係る転勤の直前に外国にある本店,支店その他の事業所において法別表第1の2の表の技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる業務に従事している場合で,その期間(企業内転勤の在留資格をもって外国に当該事業所のある公私の機関の本邦にある事業所において業務に従事していた期間がある場合には,当該期間を合算した期間)が継続して1年以上あること。
二 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。

転勤前の業務は,「技術・人文知識・国際業務」の項の下欄に掲げる業務であれば足り,転勤後,日本において従事する業務と同一または関連する業務であることまでは必要ではありません。

また,申請人が日本の本店,支店その他の事業所に転勤する直前に1年以上継続して勤務していたことが必要です。
ただし,直前の1年以内に外国の事業所等から転勤して日本にある事業所に企業内転勤ビザで在留していた期間がある場合は,その期間を含めることができます。

なお,「技術・人文知識・国際業務」の上陸許可基準で要求される学歴要件や実務要件は要求されていませんので,大卒者でない方や実務経験が浅い方でも企業内転勤ビザの対象になります。

報酬の支払主体については,企業内転勤ビザは「技術・人文知識・国際業務」のように雇用契約の締結主体に限定されません。
例えば,基本給は外国の本社が支払い,それに加えて,日本にある支社が住居費等の生活に伴う各種手当をいくらか補完して支払うという場合でも,その合計額が「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上」であれば,企業内転勤ビザは許可されています。

2.企業内転勤ビザを申請する場合の必要書類

企業内転勤ビザを申請する場合の必要書類は以下のとおりです。
下記に入管のホームページを記載しています。
なお,企業内転勤ビザのカテゴリーは,就労ビザのカテゴリーによって提出書類が変わる!? に記載していますので,ご確認ください。

(在留資格認定証明書交付申請)http://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/shin_zairyu_nintei10_13.html

(在留資格変更許可申請)
http://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/shin_henko10_12.html

(在留期間更新許可申請)
http://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/shin_zairyu_koshin10_13.html

3.企業内転勤ビザQ&A

企業内転勤ビザについて,ご質問の多い事項を以下にまとめています。

Q  入社したばかりの新入社員を外国の親会社から日本にある子会社へ転勤させて,企業内転勤ビザを取得することはできますか?

A 企業内転勤ビザは,申請人が転勤する直前に外国にある本店,支店その他の事業所において1年以上継続して勤務していたことが必要です。
そのため,ご質問のケースでは企業内転勤ビザを取得できませんので,技術・人文知識・国際業務ビザを検討することになります。
なお,技術・人文知識・国際業務ビザの要件は,【技術人文知識国際業務ビザ】 のコラムにに記載していますのでご覧ください。

Q 外国の親会社から日本法人の取締役として,転勤をしてもらうことになっています。この場合,企業内転勤者として企業内転勤ビザを取得すれば良いでしょうか。

A 企業の経営管理活動に主として従事する場合には,企業内転勤ビザではなく,まずは経営・管理ビザの取得を検討することになります。
経営管理活動を主としない場合は,企業内転勤ビザを検討することになります。

Q 転勤の期間は,申請人の生活や会社の状況に応じて決定しようと考えています。企業内転勤ビザの申請時点で,転勤の期間は決定しておく必要があるのでしょうか?

A 企業内転勤ビザは「期間を定めて転勤」することが要件とされています。
そのため,企業内転勤ビザの取得を目指す場合には,申請時に転勤期間を決定しておく必要があります。

Q 企業内転勤ビザを取得するか,技術・人文知識・国際業務ビザを取得するかで迷っています。どのように検討すべきでしょうか。

A 企業内転勤ビザは出資関係などの立証が必要となることから,まずは技術・人文知識・国際業務ビザを検討して,要件に適合しない場合に企業内転勤ビザを検討するのが一般的です。
端的に言うと,難易度と申請までの手間は,企業内転勤ビザ>技術・人文知識・国際業務ビザだからです。
実際,当社にご相談いただいた場合でも上記の基準で判断しますが,企業内転勤ビザ,技術・人文知識・国際業務ビザのいずれにも該当する場合は,下記のような事情も考慮し,検討することをお勧めします。

  ①外国からの招へい人数
  ②継続的な招へいを考えているか否か
  ③日本での滞在予定期間

①外国からの招へい人数が多いのであれば,企業内転勤ビザで検討する方向で考えます。その理由としては,企業内転勤ビザの場合は,技術・人文知識・国際業務ビザの場合と異なり,各申請人の学歴などには左右されません。
そのため,企業内転勤ビザの要件を満たしている場合で,多くの従業員様を転勤させるのであれば,企業内転勤ビザの方がかえって今後の手続きが簡略化できる可能性があります。

②上記①と同趣旨ですが,企業内転勤ビザは一度,出資関係を立証すると,その後の申請については,立証は比較的容易です。
つまり,最初は大変なのですが,継続的に子会社などから転勤をさせる場合には,企業内転勤ビザを計画的に取得する方が良い場合があります。

③招へいされる方の日本での滞在予定期間を考慮します。
企業内転勤ビザについては,期間を定めた転勤という位置づけになるため,今後,日本で長期間勤務を予定しているのであれば,企業内転勤ビザではなく,技術・人文知識・国際業務ビザを取得すべきでしょう。

Q 企業内転勤ビザを取得すれば,専ら単純業務に従事させることができると聞きました。本当でしょうか。

A 間違いです。
企業内転勤ビザの活動内容は,「自然科学の分野に属する技術又は知識」,「人文科学の分野に属する知識」又は「外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性」のうち,少なくともいずれかに該当する活動を主として行う必要があります。
そのため,企業内転勤ビザの場合であっても,専ら単純業務に従事する場合には,法定外業務となり,場合によっては法的責任を問われる可能性がありますのでご注意下さい。

Q 企業内転勤ビザを取得する場合,日本の会社との雇用契約は必要ありませんか。

A 同一法人内での異動であれば,改めて日本の会社と雇用契約を締結する必要はありません。
この点,技術・人文知識・国際業務ビザの場合には,日本の会社との雇用契約が必要となりますので,必ずしも日本の会社と契約を締結する必要がないという点は,企業内転勤ビザの特徴ということができるでしょう。

Q 企業内転勤ビザを持つ従業員から退職の申出がありました。本人からビザの相談をされたのですが,企業内転勤ビザのままで良いのでしょうか。

A 別の会社に転職を希望されるケースについては,企業内転勤ビザのまま日本に在留することはできません。
ご本人様の学歴,経験,有する資格,また転職先での業務内容によっては,就労可能なビザを取得できない可能性もありますので注意して下さい。

Q 企業内転勤ビザを持っていると,同一の法人内であれば,異動は自由にできるのでしょうか。

A 企業内転勤ビザは,外国にある事業所(「A」とします。)から日本の同一企業内(「B」とします)へ転勤させるためのビザです。
そのため,「A」と資本関係のない別会社に異動になった場合には,企業内転勤の要件を満たさなくなります。
したがって,上記のご回答のように,企業内転勤ビザから別のビザへ変更する必要があります。

他方,支店「B」から営業所(「B1」,「B2」とします)に異動になる場合については,以下のようにご理解ください。
「B」単独で,「B1」から「B2」への異動させることは,「更なる転勤」に該当し,企業内転勤ビザの要件を満たさなくなります。
「A」の命令,または「A」及び「B」の命令によって「B1」から「B2」に異動になる場合には,実質は転勤元事業所から転勤する場合と変わらないと判断され,企業内転勤ビザの要件を充足します。

4.企業内転勤ビザのまとめ

企業内転勤ビザは,企業のグローバル化に対応するため,専門技術者等の優秀な人材を,日本の事業所に受け入れるために設けられた就労ビザの一種です。

企業内転勤ビザを取得すると,新たに外国人を雇用する場合に比べ,子会社や関連会社から即戦力となる優秀な社員を迎えることができるため,非常にメリットが大きいです。
また,新たに人材採用する場合と比べると,採用コストも大幅に削減することができます。

このような利点もあり,企業内転勤ビザの需要は高いものの,要件判断が難しい企業内転勤ビザを途中で諦めてしまう企業も少なくない印象です。

私ども行政書士法人第一綜合事務所では,企業内転勤ビザの取得可否,またその後の転勤予定者数に合わせた対応方法,管理方法等をご提案致しております。

企業内転勤ビザは,最初は大変ですが,しかし一度取得すると大いにメリットのあるビザです。
外国から優秀な人材を受け入れたい企業様は,ぜひ企業内転勤ビザの活用を検討してみてください。

企業内転勤ビザについて,ご不明,ご質問がございましたら,行政書士法人第一綜合事務所までお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 渡邉 直斗

・日本行政書士会連合会(登録番号第19260365号)
・大阪府行政書士会(会員番号第7712号)
兵庫県出身。大阪オフィス長として,大学や自治体,企業向けのセミナーにも登壇。外国人ビザ申請,国際結婚,帰化許可申請などの国際業務を専門としている。

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