老親扶養ビザで親を呼ぶ方法
親を心配するのは万国共通。
その心配は,親が高齢になるにつれて高くなってくるものです。
本ページでは,ご相談の多い老親扶養ビザについて解説していきます。
Index
1.老親扶養ビザとは?
老親扶養ビザとは,高齢で身寄りのない親を日本に呼び寄せ,一緒に生活していくためのビザのことを言います。
日本で生活していると,本国の親が病気や怪我など何かあったとしても,すぐに駆けつけることは困難です。人間誰しも年を重ねることにより体に不調が出てまいります。それが自分の親であればなおのこと心配になるでしょう。
そこで,本国で生活する親を日本に呼び寄せ,長期的に日本での生活することを可能にするビザが老親扶養ビザと呼ばれるものです。
2.老親扶養ビザの取得が難しい理由
老親扶養ビザは,他のビザと比べると難易度が非常に高いと言われています。
なぜなら,入管法には親を呼ぶビザが定められていないからです。
人道上の理由などで,例外的に親の呼び寄せの際に認められているのが本ページでご紹介をする老親扶養ビザです。
ところで,老親扶養ビザは特定活動ビザに分類されます。
老親扶養ビザ,という名称のビザが実際にあるわけではありません。
特定活動と言うビザは,他のビザと異なり活動内容を法務大臣の指定に委ねているため,法務大臣の判断で在留を認めるかどうかが決定されます。
そして,この特定活動ビザは2種類あり,法務大臣があらかじめ活動を想定している“特定活動告示”と,あらかじめ活動を想定していない”告示外特定活動”に分類されます。
特定活動告示の例としては,ワーキングホリデーやインターンシップなどが代表的で,「告示」と言われるためその一覧があります。
しかし,老親扶養ビザは,告示外特定活動に該当し,「告示」の「外」にあるビザで,入管法に規定されていないのです。
特定活動告示
しかし,入管法に規定されていない場合には,一切ビザを取得できないかというと,実はそういう訳ではありません。
個々の事情を鑑みて,日本で在留が必要な外国人に対しては,告示されていないビザであってもビザが取得できるケースはあるのです。
つまり,入管法に規定されていないケースであっても,法務大臣が人道上その他の特別の事情により特に在留を認める場合には,ビザの許可を得るケースがあるということです。
それでは以下,老親扶養ビザについて法務大臣が人道上その他の特別の事情により特に在留を認める場合の要件について見ていきましょう。
なお,高度専門職1号または2号の在留資格で在留する方は,7歳未満の子どもの世話をしてもらうために親を呼び寄せることがきるという優遇措置がありますが,親の体調を心配されて呼び寄せを希望される方からすると,高度専門職の取得や子供の年齢制限などが設けられており,万人に開かれた広き門とは言えない状況です。
高度専門職ビザの優遇措置については,以下のページを参照してください。
>>高度専門職ビザ 条件 はコチラ
3.老親扶養ビザの実務上の要件
老親扶養ビザは,どのようなケースで認められているのでしょうか。
ここで,老親扶養ビザの実務上の要件をご紹介します。
② 本国および第三国に身寄りがないこと
③ 子どもが本国で生活することが困難であること
④ 扶養する子の世帯に扶養能力があること
①から③は,日本で生活する必要性と言い換えることができます。
個別に分けて必要性を考えると,
①番は「本当に親は一人で生活できないのか」
②番は「他の親族では親の面倒を見られないのか」
③番は「親が日本に来る必要があるのか」
と言うことです。
老親扶養ビザの申請では,このような事項について十分な必要性を主張,立証していくことが許可に向けて重要となります。
さらに深く見ていくと,親を日本に呼びたいと考えている方の在留期間が1年の状態で親を呼ぶ場合は③の立証が重要になってきます。
日本にいる方が重要な仕事や役職であることを示し,「親の住む国へ行けない」「日本国内でないとできない」ということを強く立証しないと日本に定着性がないという評価を受けます。
この点,比較すると永住ビザや帰化している方は日本での定着性が評価されやすいということになります。
④は日本で生活する許容性と言うことを意味します。
老親扶養ビザが認められるためには,親に自活能力がないことが条件になるわけですから,親が日本に住むことになった場合,その生活費は当然扶養する子が負担しなければなりません。
扶養する子は現在の世帯人数に一人増えた場合に,生計を維持できる収入がなければなりません。
また,扶養能力は金銭だけではなく、実際に一緒にいる時間も判断材料とされています。
親が一人で生活できず日本に呼び寄せるのに,来日後,子は仕事で長時間家を空けていれば有事の際に駆けつけることができません。
さらに全体の要件以外に老親扶養ビザで重要なポイントとなるのが,日本に呼ぶ際の親の年齢です。
以前は,65歳以上であれば老親扶養ビザの許可の可能性はありましたが,高齢化・医療の高度化が進み,65歳以上になっても働く方が多くなるにつれて,基準年齢が上がってきました。
そのため現在の実務では,70歳未満の場合は,病を抱えていて働くことができないなどの特別な事情がない限り,老親扶養ビザの許可の可能性は厳しいと言わざるを得ません。
4.老親扶養ビザのよくある質問
A:本国にご両親がそろっている状況では,先に説明した②(本国および第三国に身寄りがないこと)に該当しません。
そのため,ご両親二人で協力すれば生活ができてしまう状態では,老親扶養ビザの取得は難しいと言わざるを得ない状況です。
なお,許可ハードルは通常より高いケースにはなりますが,ご両親の健康状態によっては、老親扶養ビザの許可が認められた例もあります。
A:日本で経済的に安定的な基盤を有していたとしても,その事実だけをもって人道的な配慮が必要と言うのは難しいです。
特に親が本国にて一人で生活できている状況にあると,老親扶養ビザで呼ぶことは困難です。
A: 70歳未満の場合に,一切認められないとは断言できませんが,非常に厳しいのが現状です。その他事情を総合的に判断する必要がありますので,一度当社へご相談ください。
A:この病気なら老親扶養ビザは許可されるという基準はありません。
過去の事例を参考にすると,高血圧や関節痛など加齢によるものだけでは,老親扶養ビザの取得にあたり自活できないという評価を得ることは難しいです。
A:本国に親とそのご兄弟がいる場合,ご兄弟があなたの親を扶養できるのかという検証は必要です。
もっともその多くは,ご高齢の親の兄弟なので同じくご高齢の場合が多く,親のご兄弟に持病があり,老老介護すらできない現状がほとんどです。
老親扶養ビザの申請の際には,そのよう事情があるのであればきちんと立証していく必要があります。
A:老親扶養ビザは,親が一人で生活できないという理由での呼び寄せとなります。
にも関わらず,老親扶養ビザの申請が不許可になったからと言って,日本で事業を展開するというのは信ぴょう性に欠けます。
真に経営活動を行うためであれば問題はありませんが,ご質問の例では現実的ではないケースが多いため,経営・管理ビザの申請はお勧めできません。
5.老親扶養ビザの解決事例
当社で取得した老親扶養ビザについて,3つの事例をご紹介させていただきます。
日本で結婚し,現在は帰化をして日本人となったAさんからのお問い合わせでした。
お話を聞くとAさんのお母さんは現在72歳,健康状態を理由にお仕事はしておらず,また,数年前にご主人が他界され,本国に他の身寄りが居ないとのことです。
Aさんの心配は,お母さんが有事の際に駆けつけるのにも時間がかかることでした。
要件の部分で説明した③(子どもが本国で生活することが困難であること)はAさんが帰化をしていたので,日本への定着性の立証は困難ではなかったのですが,①(親に自活能力がないこと)の立証に特に力を入れた案件です。
人間だれしも年を重ねると体のどこかに不調が出てくるものです。
それを客観的な資料に基づいて主張,立証していきました。
最終的には一人での生活ができないという評価を入管からもらい,Aさんのお母さんは老親扶養ビザの許可を無事取得することができました。
Bさんは日本でお仕事をしながら日本人の方と結婚し,その後お子さんも生まれ,家族そろって日本で暮らしていました。
本国にはお父さんとお父さんの兄弟がいるのみで,介護を頼める人はいない状況でした。
話を伺うと,お父さんは二年前に奥様を亡くされ現在76歳。難病を抱えていることから,近くでお父さんの面倒を見たいというのがBさんの願いでした。
Bさんのお父さんは患った難病を理由に現地でも入退院を繰り返しており,その時の資料も現地から取得して頂きました。
また,今後どのように病状が変化していくかを示すため,同一病名の患者さんの経過や病状も参考資料として入管に提出し,Bさんのお父さん一人での生活が困難であることを強く立証していきました。
その甲斐あり,Bさんのお父さんは老親扶養ビザの許可がもらえ,現在は日本で一緒に生活することができています。
他の方と同様,Cさんのお母さんも遠方に住まわれ,それを心配する子心から連絡を頂きました。
83歳のCさんのお母さんの具合が悪くなったのは,二年前にご主人を亡くされてから。
孤独から物忘れが激しくなり,次第にATMのパスワードを思い出せなくなるほど,記憶力が悪くなっていきました。
私たちにお話いただいた時には処方された飲み薬を間違えて服用してしまう,とても危険な状況で,そんなお母さんをCさんは仕事と子育ての傍ら5時間以上の時差がある中,面倒を見ていました。
Cさんのお母さんに兄妹はいましたが,皆さん本国以外の国外に住んでおり,かつ年齢も90歳近くと,とても介護をお願いすることはできません。
必然的に頼れるのはCさんのみという状況でした。
今回は身寄りのないことやお母さんの持病も立証しましたが,Cさんがお母さんのいる本国に渡航できることも考えられることから,Cさんの仕事の関係上それが難しい旨も主張・立証しました。
加えて,Cさんは研究者であったことからその役職の重要性,Cさんの出国が日本国の発展に与える影響を職場の上司やその道の権威から協力をもらい,お母さんの入国の必要性と共に入管へ提出しました。
そして,無事に老親扶養ビザの許可を得ることができました。
老親扶養ビザは親子のみの立証だけではなく,周りにいる人たちの力も時には重要ということを感じた案件となりました。
Aさんは日本に25年以上住んでいて,現在は日本人の奥様とお子さんの3人で暮らしています。2001年には永住ビザも取得しました。
Aさんのお母さんが体調不良で病院にて受診したところ,心臓に疾患があることがわかりました。治療のために毎日決まった薬を服用し,食事管理も行う必要がありましたが,80歳と高齢であり,一人ですべてをこなすことはできない状況でした。
本国にはAさんのお父さんとお姉さんが暮らしていますが,お母さんの介護ができない状況でした。
話を伺ってみると,お母さんとお父さんは数年前に性格の不一致で離婚していて,お父さんは介護が必要な状態だったため,Aさんのお姉さんがお父さんを引取り,お母さんは一人で暮らしていました。お姉さんはお母さんが住む実家から350kmも離れた遠方で,車で通うにも往復10時間かかってしまいます。お父さんの介護もしながら,お母さんのもとに通って介護するのはとても現実的ではありません。
Aさんのお母さんは,「本国に身寄りがある」ケースとなりますが,事実として身寄りがあったとしても,実質的には身寄りがないのと同じ状況であることを,資料にまとめて丁寧に立証しました。
本国に頼れる身寄りが実質的にいないことが認められ,Aさんのお母さんは無事に老親扶養ビザを取得することができました。
永住者のEさんは,日本人のご主人と二人で日本に暮らしていましたが,本国のご両親ともに介護が必要になり,日本へ呼び寄せて一緒に暮らしたいというご相談をいただきました。
ご両親の状況を伺ってみると,お父さんには腎臓結石があり自力ではほとんど歩くことができない状態で,お母さんは重度の認知症を患い,コミュニケーションを取ることも難しく,常時介護が必要な状態でした。
Eさんは三人兄弟で,お姉さんは日本に,お兄さんは本国でそれぞれ暮らしていました。Eさんもお姉さんも日本で家庭を持ち長らく暮らしています。
本国でご両親の面倒を見ることができるとすれば,唯一本国で暮らすお兄さんしかいないのですが,お兄さんには多額の借金があり,それが原因で離婚。現在は自己破産して居所も定まっていない不安定な状況でした。お兄さんにはご両親を扶養できる経済力がなく,本国の介護施設は日本のように充実しておらず,費用だけ工面して施設に入所してもらうのも現実的ではありませんでした。
Eさんご家族がご両親と同居して常時介護する以外に,現実的な選択肢がない状況でした。
申請では,ご両親の病状と常時介護が必要な理由について丁寧に説明しました。また, 本国に住むEさんのお兄さんについては,資産状況がわかる資料を本国から取り寄せ,ご両親を扶養できる状況にないことを立証していきました。一方で,Eさんご夫妻であれば十分に扶養能力があること,ご両親を在宅介護するうえで必要な設備が整っていること,EさんとEさんのご主人も介護の資格を持っていることなども併せて立証することで,Eさんのご両親は老親扶養ビザの許可をもらうことができました。
最後に,実際に老親扶養ビザが認められた場合には,上記でご説明したとおり特定活動の在留資格が付与され,パスポートには以下のような指定書が貼付されます。
※画像は,実際に弊社で取得した老親扶養ビザの写真です。
6.老親扶養ビザのまとめ
本ページでは,老親扶養ビザのポイントを弊社でお手伝いしたことのある事例を交えてご説明させていただきました。
実務上の要件でご説明させていただいた通り,親を呼び寄せるための老親扶養ビザは明確な要件がなく,法務大臣の広い裁量にゆだねられているため,実務上でも非常に難易度の高いビザと位置付けられています。
お父様・お母様へ最高の親孝行として,安心して生活できる環境を送ることができるのが老親扶養ビザです。
皆さんの抱える心配が,本ページを通して少しでも軽減し,解決の糸口となれば大変嬉しいです。
老親扶養ビザのご相談は無料で行っていますので,お気軽に行政書士法人第一綜合事務所までお問い合わせください。