松原 桃子

【2026年10月5日から】不動産登記の国籍申し出が義務化:帰化申請への影響を解説

【2026年10月5日から】不動産登記の国籍申し出が義務化:帰化申請への影響を解説

日本の不動産市場において、外国籍の方がマイホームを購入したり、投資用マンションを取得したり、あるいは相続によって土地や建物を引き継ぐ機会は年々増加しています。そうした中、不動産手続における重要な法改正が施行されることとなりました。
 
法務省は、2026年10月5日より、不動産の所有権保存登記や所有権移転登記(売買、贈与、相続など)を申請する際、新たに所有者となる個人の「国籍等」を登記所(法務局)へ申し出させることを義務付ける制度の運用を開始しました。
 
ニュースで「外国人による不動産保有の実態を把握するため」「マンション価格高騰や安全保障への懸念から国籍を把握する」といった報じられ方をすると、当事務所にも、在留資格(ビザ)や帰化申請のご相談で訪れる外国人のお客様から不安の声が多く寄せられています。
 
不動産登記の代理申請そのものは司法書士の管轄分野ですが、外国人住民のビザ申請や帰化申請をサポートする行政書士の立場としても、この改正は見過ごせないテーマです。
本コラムでは、「外国人がビザ・帰化の相談に来る事務所」の視点から、今回の制度変更の背景、誤解されがちな実務上のポイント、在留外国人や帰化申請者への具体的な影響について解説します。

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1.制度改正の背景:なぜ今、不動産所有者の「国籍等」を把握するのか?

従来、日本の不動産登記制度において、登記簿(登記事項証明書)に記載される所有者の情報は「氏名」と「住所」のみでした。そのため、国内にどれだけの外国人が不動産を所有しているのか、あるいは海外に住む外国人がどの土地を買収しているのかを公的に一元把握する仕組みが存在しませんでした。

法務省が今回の「国籍等の申し出義務化」に踏み切った背景には、大きく分けて2つの公的な目的が存在します。

(1)国土の適切な利用・管理と不動産市場の実態把握

近年の円安傾向やグローバル投資の活発化に伴い、都心部のアパート・マンションや、リゾート地、森林、水源地などが外国籍の個人や海外投資家によって取得されるケースが急増しています。

これに伴い、市場では「外国人による投機的な短期売買がマンション価格高騰の一因になっているのではないか」という指摘や、安全保障上の観点から「自国の重要な土地や防衛施設周辺の土地が、どの国の人物によって所有されているかを把握すべきだ」という議論が活発化しました。

国としては、「国土の適切な利用および管理の観点から、所有者の国籍情報をデータベースとして正しく把握・分析できるようにする」インフラ整備が必要となったのです。

(2)「国際相続」における準拠法確認と手続きの円滑化

もう一つの重要な目的が、相続登記の円滑化です。

日本国内にある不動産であっても、所有者が外国籍であった場合、その相続手続きには日本の民法ではなく「被相続人(亡くなった方)の本国法」が適用されます(法の適用に関する通則法第36条)。つまり、亡くなった方の国籍によって「誰が法定相続人になり、どのような割合で財産を分けるか」という根本的なルールが変わるのです。

あらかじめ所有者の国籍情報を公的に把握しておくことで、将来的に相続が発生した際に「どの国の法律に基づいて相続手続きを進めるべきか」の初期確認がスムーズになります。これは、近年深刻な社会問題となっている「所有者不明土地問題」や「海外在留者の連絡不通による空き家化」を防ぐためにも、欠かせない施策と位置付けられています。

2.在留外国人が最も気になるプライバシー問題:「登記簿に国籍が公開される」は大きな誤解

この報道が出た際、外国人住民の方々から多く寄せられたのが、「自分がどこの国の人間であるかが、誰でも取得できる登記簿謄本(登記事項証明書)に載ってしまうのか?」というプライバシーに関する懸念でした。

日本で長年生活し、地域社会に溶け込んで暮らしている外国人や、差別・偏見などの不利益を心配される方々にとって、国籍情報が公に晒されるかどうかは切実な問題です。

結論から明確にお伝えしますと、申し出た国籍情報が一般に公開される登記簿謄本に記載されることはありません。

今回の改正で提供された「国籍等」の情報は、法務局が内部で管理する「検索用情報管理ファイル」というシステムにのみ記録される非公開の内部情報です。

  • 登記事項証明書(登記簿謄本)への印字:一切されません
  • 一般第三者による閲覧・開示請求:原則として非公開です

つまり、第三者が手数料を支払って法務局で登記簿謄本を取得したり、インターネットの登記情報提供サービスで確認したりしても、そこに国籍が表示されることはありません。

あくまで行政機関内部で所有者の身分関係を正しく管理し、将来の相続登記や行政間での情報連携(不動産ベース・レジストリ等)に活用するための情報管理システムです。したがって、マイホームを購入したからといって、近所の人や他人に国籍を知られる心配はありませんので、ご安心ください。

3.実務での変更点:不動産取得時に必要となる書類と注意点

では、実際に2026年10月5日以降に不動産を購入したり、相続によって名義変更(所有権移転登記など)を行ったりする場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。

まず知っておくべき重要な点は、「この申し出は外国人に限らず、日本国籍の人も含めた全員が対象になる」という点です。外国人だけを対象にする制度ではなく、新しく所有者になるすべての個人に対して国籍等の情報提供が求められます。

(1)申請書への記載

登記申請書を作成する際、新たに所有者(権利者)となる方の氏名や住所の欄に加えて、国籍を記載する項目が追加されます。

もし申請書に国籍等の記載がない場合、登記官から補正(不備の修正)を求められることになります。任意で省略できるものではなく、必須項目となります。

(2)国籍等を証明する確認書類の提出

国籍等を申し出る際には、その情報が正しいことを証する公的な公文書を添付する必要があります。具体的には、以下のような書類が該当します。

所有者の区分 主な確認書類 実務上の注意点
日本国内に住む外国人(中長期在留者・特別永住者) 国籍・地域が記載された「住民票の写し」 住民票1枚で「住所証明」と「国籍証明」を兼ねることができるため、スムーズです。
在留カードのコピーでも対応可能です。
海外に住む外国人(非居住者・短期滞在者) 本国公証人等の「宣誓供述書」 + パスポートのコピー 日本の住民票がないため、本国の公証人や大使館・領事館で「国籍」を宣誓・認証した公的な書類(および日本語訳文)が必要です。
日本国籍の方 本籍地記載の「住民票の写し」 または 戸籍謄本・抄本 日本人も全員対象です。運転免許証やパスポートなどの公的身分証明書の提示・コピー添付で確認します。

不動産購入や相続の登記手続では、従来から住所証明書として「住民票の写し」を提出することが一般的です。外国人の方であれば「国籍・地域が記載された住民票の写し」を提出することで、追加で特別な書類を取る必要なく、一本化して証明を済ませることができるケースがほとんどです。

通称名を使用されている方へ
不動産売買契約書や住宅ローン審査を通称名で行っている場合、法務局へ提出する国籍証明書(本名表記)との「表記の揺れ」によって登記手続きが停滞するケースがあります。事前に氏名の整合性を確認しておくことが重要です。

4.帰化の申請中や許可後に不動産を買う場合はどうなる?

当事務所に相談に来られる外国人のお客様の中には、「日本の国籍を取得するために帰化許可申請を出している」という方や、「近々マイホームを買う予定だが、帰化申請とどちらを先に進めるべきか悩んでいる」という方が多くいらっしゃいます。

帰化申請を平行して進めている場合、不動産登記における国籍等の申し出に関しては、以下の3つのタイミングと注意点を理解しておく必要があります。

(1)帰化申請「中」に不動産を購入する場合

帰化申請の提出後、法務大臣の許可を待っている審査期間中(約8ヶ月〜1年半)に不動産を取得した場合は、担当の法務局審査官へ速やかに「身分・財産状況の変動」として報告・資料提出する義務があります。無断で購入すると審査に遅れが生じる可能性があるため注意が必要です。なお、この時点での登記上の国籍は「従前の外国籍」で申し出を行います。

(2)不動産取得「後」に帰化が許可された場合

不動産を購入した後に帰化許可が下り、日本国籍を取得した場合はどうなるでしょうか。

官報に告示された時点で日本国籍となりますので、法務局に記録されている「検索用情報管理ファイル」の国籍情報を外国籍から「日本」へ変更するための「単独申出(国籍等変更の申出)」を後から行うことができます。

この変更申し出には登録免許税などの税金はかかりません。

(3)帰化許可申請における不動産情報の整合性

行政書士がサポートする「帰化許可申請」では、申請者や生計を一にする親族が所有する不動産の登記事項証明書や公図、固定資産税の課税証明書などを法務局(居所を管轄する地方法務局の国務課)に提出します。

今回の改正により、法務局内部で「不動産の所有者情報」と「国籍情報」がデータベース上で正しく紐付けられるようになります。これにより、帰化申請時の資産要件や身分関係の確認が、より正確かつスムーズに行われるようになると予想されます。

帰化を検討されている方は、「帰化許可のタイミング」「不動産売買の引き渡し時期」「登記申請のタイミング」の3つをズレなくスケジュール設計することが、無駄な書類取得コストやトラブルを防ぐ鍵となります。

帰化申請「前」に不動産を購入する場合
帰化許可申請では、法務局(国務課)に対して申請者や生計を一にする家族の資産状況を証明する必要があります。不動産を取得した場合は、登記事項証明書、公図、固定資産税の課税・納税証明書などを追加書類として提出します。不動産の所有は「生計要件(日本で安定して生活できる財産があるか)」においてプラスの評価要素となります。

5.外国人住民を支える専門家の役割

今回の不動産登記法規則の改正(国籍等の申し出義務化)は、単に「書類の提出項目がひとつ増えた」という事務的な変更にとどまりません。

日本社会が多文化共生へとシフトする中で、外国人住民の権利と資産を保護しつつ、公的な法秩序や行政管理の信頼性を維持するための重要な制度改革です。

外国人の方々が日本で安心して生活し、就労し、マイホームを購入して事業を広げていく過程では、複雑な法律手続きがいくつも重なり合います。手続きをスムーズに進めるためには、各専門家の職域を正しく理解しておくことが大切です。

専門家の役割

【行政書士の役割】

  • 在留資格(ビザ)の変更・更新手続(就労ビザ、永住者ビザなど)
  • 日本国籍を取得するための「帰化許可申請」の書類作成・面接対策
  • 日本で起業・事業展開するための各種許認可の取得
  • 国籍証明書や宣誓供述書などの外国語翻訳・認証サポート
【司法書士の役割】

  • 不動産を購入・贈与・相続した際の「所有権移転登記」「保存登記」の代理
  • 住宅ローン設定に伴う「抵当権設定登記」の代理
  • 法人の商業登記・役員変更登記の代理

行政書士法人第一綜合事務所は、外国人住民の皆様が日本で法的に安定した地位を築くための「ビザ申請・帰化許可申請」を専門とする行政書士事務所です。 不動産名義変更などの登記手続そのものは司法書士の管轄領域であり、当事務所で登記手続きやその準備・媒介を行うことはございません。

しかし、お客様がマイホームの購入や相続を検討される際、「いつ帰化申請を出すべきか」「帰化の審査中に不動産を取得した場合、法務局へどう報告すべきか」といったスケジュール管理や身分関係の整理は、帰化手続きの成否を大きく左右する重要なポイントです。当事務所では、ビザや帰化という「人生の大きな節目」となる行政手続において、正確な知識と実績に基づき、許可の取得まで責任を持って誠実にサポートいたします。

6.「国籍等の申し出義務化」に関するQ&A

不動産登記における国籍等の申し出義務化について、当事務所に寄せられたご質問に回答します。

Q1. 不動産を購入すれば、在留資格(ビザ)や永住権が取得しやすくなりますか?


A1. いいえ。日本の法律上、不動産を所有していることだけで特定の在留資格(ビザ)が付与されたり、永住許可が下りやすくなったりすることはありません。

ただし、永住許可申請や帰化許可申請において、適切な不動産所有とその財産形成の経緯(住宅ローンの返済状況や固定資産税の適切な納税など)は、「日本で安定した生活を営むことができる資産・技能を有すること(身元・生計要件)」を立証するプラスの要素として機能します。

Q2. 永住権を持っていなくても、外国人は日本の不動産を購入・登記できますか?


A2. はい、可能です。日本の不動産登記法上、所有権を取得・登記するにあたって在留資格の種類や永住権の有無による制限はありません。

ただし、日本の金融機関で住宅ローンを組む際には「永住権の有無」が重要な審査要件となることが一般的です。当事務所では、将来的な住宅ローン借入やマイホーム購入を見据えた「永住許可申請」のご相談も承っております。

Q3. 申し出た自分の国籍情報が登記簿謄本に載って、第三者に見られることはありますか?


A3. いいえ、一切載りません。

今回導入された国籍等の情報は、法務局が内部で管理する「検索用情報管理ファイル」という非公開システムにのみ記録されます。手数料を払って取得する登記事項証明書(登記簿謄本)やネット上の登記情報サービスに印字されることはありませんので、プライバシーは完全に保護されます。

Q4. 帰化申請の「審査中」に不動産を購入した場合、どう対応すればよいですか?


A4. 帰化申請の審査期間中(申請から許可まで)に不動産を取得した場合は、速やかに担当の法務局(国務課)の審査官へ「身分・財産状況の変動」として購入の報告と関係書類(登記事項証明書や売買契約書のコピー等)を提出する必要があります。

なお、この時点での登記申請(司法書士管轄)における国籍は「現在の外国籍」で申し出を行います。帰化の審査に影響が出る場合があるため、必ず事前に帰化申請専門の行政書士へご相談ください。

Q5. 帰化が許可された後、登記簿の国籍情報は勝手に日本に変わりますか?


A5. 自動的には変更されません。

官報に告示されて日本国籍を取得した後は、法務局に対して国籍情報を「外国籍」から「日本」へ変更するための「単独申出(国籍等変更の申出)」を後から任意で行うことができます。この申し出には登録免許税(国税)などの手数料はかかりません。

7.「国籍等の申し出義務化」のまとめ

不動産登記における「国籍等の申し出義務化」は、在留外国人の方々にとって新しい変化の一歩です。

ニュースや制度の変更に接した際、「自分の個人情報がどう扱われるのか」「帰化の手続きに影響しないか」と不安に思われるのは当然のことです。しかし、制度の仕組みを正確に理解し、ご自身の在留資格や帰化申請の状況に合わせて適切に対応すれば、過度に恐れる必要はありません。

行政書士法人第一綜合事務所では、各種ビザ手続きや帰化許可申請のご相談において、最新の法改正や制度変更をふまえた適切なアドバイスを心がけております。

日本での安定した在留資格の取得や、日本国籍への帰化をご検討されている外国籍の方は、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。専門家として皆様の法的手続きをしっかりと支えてまいります。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 松原 桃子

・日本行政書士会連合会(登録番号第24261750号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8991号)
兵庫県出身。大阪オフィスに所属し,日本国籍を取得するための帰化許可申請業務を専門としている。

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