仲野 翔悟

特定技能ビザ「建設業」受入れ機関の要件と業務区分

特定技能ビザ「建設業」受入れ機関の要件と業務区分

建設業は,過酷な業務内容などの理由もあり,日本人の定着率が低いことでも知られる業界です。
そのため,東京オリンピックの開催前には,急激な労働者需要に対応するため「外国人建設就労者受入事業」として,外国人雇用の要件緩和などの政策が実施され,労働者不足に対応してきました。
本記事では,人手不足が深刻な建設業での外国人雇用を認める「特定技能ビザ」について,受け入れ機関が満たす必要のある要件や,特定技能外国人が従事可能な業務区分を中心にご紹介します。
建設業で,特定技能外国人を雇用する際に参考にして頂ける内容ですので,ぜひ最後までお付き合いください。

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1. 建設業での特定技能ビザ取得状況

まずは,建設業での特定技能ビザ取得状況について紹介します。

2019年に特定技能制度が施行された際には,建設業にて5年間で4万人の特定技能外国人の雇用が見込まれていました。
しかし,2021年9月末時点のデータを見ると,建設業で就労している特定技能外国人の数は3,745名のみで,当初発表された見込み数とは大きな乖離があります。

建設業の特定技能外国人数は,日本にいる特定技能外国人の全体数の約10%を占めているため,建設業での受入れのみが遅れているわけではありませんが,特定技能の他分野と同様に今後も受入れが加速していくことが予想できます。

2. 従事可能な業務区分「技能実習の職種と比較」

建設業では,特定技能外国人が従事可能な業務が18種類に分類されています。

次の表では,技能実習と特定技能それぞれの制度で従事可能な業務を紹介しています。

技能実習 特定技能
職種 作業 業務区分
建築板金 ダクト板金作業 建築板金
内外装板金作業
建築大工 大工工事作業 建築大工
型枠施工 型枠工事作業 型枠施工
鉄筋施工 鉄筋組立て作業 鉄筋施工
とび とび作業 とび
かわらぶき かわらぶき作業 屋根ふき
左官 左官作業 左官
配管 建築配管作業 配管
プラント配管作業
熱絶縁施工 保温保冷工事作業 保温保冷
内装仕上げ施工 プラスチック系床仕上げ工事作業 内装仕上げ/表装
カーペット系床仕上げ工事作業
鋼製下地工事作業
ボード仕上げ工事作業
カーテン工事作業
表装 壁装作業
コンクリート圧送施工 コンクリート圧送工事作業 コンクリート圧送
建設機械施工 押土・整地作業 建設機械施工
積込み作業
掘削作業
締固め作業
  トンネル推進工
土工
電気通信
鉄筋継手
吹付ウレタン断熱
海洋土木工

上記表にて,「特定技能の業務区分」に対応している「技能実習の職種・作業」の技能実習2号を良好に修了した外国人は,特定技能ビザの取得要件を満たすため,特定技能1号の評価試験の受験は免除されます。

他方で,例えば「建築板金・ダクト板金作業」の技能実習2号を良好に修了した外国人が,特定技能外国人として建築大工の業務への従事を希望する場合は,特定技能1号評価試験の合格が必要となります。

また,建設業では,技能実習に職種・作業の無い6つの業務区分があるため,特定技能外国人として,これらの業務への従事を希望する場合は,業務区分ごとに設置された特定技能1号評価試験の合格が必須となります。

3.受入れ機関の要件

建設業で特定技能外国人を受入れする際には,通常行う入管への特定技能ビザ申請以外に,国土交通省による「受入計画の審査」を受ける必要があります。

受入れ計画について,特に審査される項目は次の7つです。

①建設業法第3条の許可
②建設キャリアアップシステムへの登録
③特定技能外国人受入事業実施法人への加入
④特定技能外国人への報酬要件
⑤契約上の重要事項の書面での事前説明
⑥特定技能外国人の講習への参加
⑦受入れ機関への巡回指導

それぞれ見ていきましょう。

3-1建設業法第3条の許可

特定技能外国人を受入れする機関は,「建設業法第3条の許可」を取得していることが必要です。

建設業法第3条の許可は,「軽微な建設工事」のみを請け負う場合を除き,全ての建設業者に取得が求められている許可です。

なお,軽微な建設工事とは,受託する工事1件の請負金額が,建築一式工事の場合には1,500万円未満,延べ面積が150平方メートル未満または,建築一式工事以外の建設工事の場合には,500万円未満の木造住宅の工事のことを指します。

3-2建設キャリアアップシステムへの登録

特定技能外国人を雇用する受入れ機関と,特定技能外国人のそれぞれが建設キャリアアッ
プシステムに登録する必要があります。

建設キャリアアップシステムとは,労働者が取得した資格,講習の受講歴,社会保険加入状況,現場の就業履歴などを業界横断的に登録・蓄積する仕組みで,労働者の処遇改善を目的として開発されたシステムです。

2019年より運用が開始され,特定技能外国人に限らず,建設業の労働者全員が登録することを目標としています。
登録した労働者には,カードが発行され,建設現場に入場する際にも専用の機械でカードの情報を読み取り,就労状況がシステム上で管理されます。

なお,受入れ機関と特定技能外国人が建設キャリアアップシステムに登録するべきタイミングは次のとおりです。

〇受入れ機関
国土交通省へ特定技能外国人の受入れ計画を申請する前までに登録が必要。

〇特定技能外国人
・国内にいる人材
入管へ特定技能ビザの申請をする前までに登録が必要。
・海外にいる人材
入国後,1ヶ月以内に登録が必要。
※国土交通省に建設キャリアアップカードの写しを提出する必要があります。

3-3特定技能外国人受入事業実施法人への加入

特定技能外国人を受入れするためには,国内唯一の特定技能外国人受入事業実施法人である,一般社団法人建設技能人材機構(JAC)への加入が必要です。

JACは,建設業の特定技能外国人,その他の外国人材の適正な受入れや,労働者の権利保護に関する活動を行い建設業の健全化を目的として設立されており,次の7つを主な活動としています。

〇建設分野における外国人材の適正かつ円滑な受入れの実現に向けた行動規範の策定及び当該規範の適正な運用
〇建設分野における外国人材が有する能力を有効に発揮できる環境の整備に関する事業
〇建設分野特定技能外国人の受入れに関する事業
〇建設分野特定技能外国人に対する職業紹介事業
〇建設技能者の技能評価その他の建設技能者の確保等に関する事業
〇建設技能者の確保等に関する調査研究
〇その他本機構の目的を達成するために必要な事業

参照:建設人材機構(一般社団法人建設技能人材機構JACについて)

受入れ機関がJACへ加入する方法は次の2つのみです。

①正会員団体の会員になる
JACの正会員団体の会員となることで,直接JACの会員とならなくても特定技能外国人の受入れが認められます。
正会員団体の情報については,「建設技能人材機構(JAC)入会のご案内」をご確認下さい。

なお,正会員団体の会員となるためには,各団体が定める会費が発生するため,入会を検討する前に各団体へ確認をする必要があります。

②JACの賛助会員になる
JACの賛助会員となることで,特定技能外国人の受入れが認められます。
賛助会員は,会費として毎年24万円をJACへ支払う必要があります。

また,JACへの加入に発生する費用以外にも,特定技能外国人の受入れにあたり,「受入れ負担金」の支払いも必要となります。

支払い義務のある受入れ負担金の詳細は次の表のとおりです。

特定技能外国人の種類 受入れ負担金額(1名/月額)
海外試験合格者
(JACが指定する海外教育訓練を受ける場合)
20,000円
海外試験合格者
(JACが指定する海外教育訓練を受けない場合)
15,000円
国内試験合格者 13,750円
試験免除者(技能実習2号修了者等) 12,500円

参照:建設技能人材機構(会費等について)

3-4特定技能外国人への報酬要件

特定技能外国人への報酬は,同等の技能をもつ日本人労働者と同等以上の報酬額且つ,技能習熟度に応じて昇給を行う契約をすることが求められます。

上記は,入管への特定技能ビザ申請時にも確認される重要事項のため,受入れの際には外国人という理由で賃金差が無いように注意して下さい。

3-5契約上の重要事項の書面での事前説明

雇用契約を締結する際には,雇用契約内容について,特定技能外国人が十分に理解することができる言語で書面を交付して説明することが求められます。

雇用契約内容についての双方同意の証明として,受入れ機関の押印・特定技能外国人の署名をした母国語併記の雇用契約書と雇用条件書の写しを,国土交通省へ提出する必要があります。

なお,確認が必要な項目を網羅した母国語併記の雇用契約書と雇用条件書の参考書式については,「在留資格「特定技能」に関する参考様式(新様式)」よりダウンロードできます。

3-6特定技能外国人の講習への参加

特定技能外国人の受入れ開始後3ヶ月以内に,一般社団法人国際建設技能振興機構(FITS)が主催する「建設特定技能受入後講習」を特定技能外国人に受講させる義務があります。

講習の目的は,認められている権利,受入れや保護の仕組みを特定技能外国人へ理解させることです。

特定技能外国人の多い国の言語を中心として,9ヶ国の言語での実施に加え,その他の言語にも個別対応で実施しています。

3-7受入れ機関への巡回指導

特定技能外国人の受入れ後に,一般社団法人国際建設技能振興機構(FITS)より巡回指導実施の要請があった場合は受入れをする義務があります。

特定技能外国人の受入れ後は,国土交通省より認証された受入れ計画の履行状況について,FITSが受入れ機関を巡回指導することがあるため,巡回指導を受けた際には履行状況の説明ができるよう適正に制度の運用をすることが求められます。

なお,FITSは希望する受入れ機関を対象に,国土交通省への受入れ計画申請前の「事前巡回指導」を実施しており,事前巡回指導の際に立ち合いをした特定技能外国人は講習受講が免除されます。

加えて,事前巡回時に事前ガイダンスの実施(有償)を申し込むことで,入管法でも規定されている特定技能外国人への事前ガイダンスの実施を,FITSに依頼することができます。

4.特定技能(2号)ビザの取得要件

建設業で特定技能(2号)ビザを取得するための要件としては,次の2点が公表されています。

〇試験要件
それぞれの業務区分で設置された「建設分野特定技能2号評価試験」または「技能検定1級」いずれかの合格。

〇実務要件
建設現場において複数名の建設労働者を指導しながら作業に従事し,工程を管理した実務経験。

なお,特定技能(2号)ビザについては,未だに運用が開始されていないため,制度の動向については,入管庁のホームページなどから最新の情報を入手して行く必要があります。

5.まとめ: 特定技能ビザ「建設業」受入れ機関の要件と業務内容

本記事では,建設業にて特定技能外国人を雇用する際に必要な,受入れ機関の要件や業務区分を中心にご紹介しました。

特定技能の他分野と比べて,受入れ機関の満たすべき要件が多いため,特定技能外国人を雇用する際には,余裕をもって準備を進めることが肝心です。

今後,建設業は特定技能(2号)ビザも増えてくることが想定されます。
特定技能ビザについてのご質問は,行政書士法人第一綜合事務所までお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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