同性婚のパートナーはビザを取得できる?
日本には,日本人の配偶者であれば「日本人の配偶者等ビザ」,永住者の配偶者であれば「永住者の配偶者等ビザ」,技術・人文知識・国際業務ビザや経営・管理ビザを持つ人の配偶者であれば「家族滞在ビザ」というように,日本で暮らすことができる人の配偶者であることにより取得できるビザがあります。
一方で,性に関する価値観は多様化しており、海外では同性婚を法的に認める国や地域があります。
それでは,同性婚をしたパートナーの方は,ビザを取得して日本で暮らすことができるのでしょうか?
本ページでは,同性婚とビザとの関係について説明します。
Index
1.同性婚とは?
同性婚とは,男性と男性,又は女性と女性が結婚することをいいます。
近年では,いわゆる性的マイノリティの人権擁護が世界的に認知され始め,LGBTという言葉も浸透しだしてきています。
また,欧米を中心に,同性婚を法律上認める国も増えています。
2022年現在において,同性婚が認められている国は,アメリカ,カナダ,オーストラリア,ブラジル,フランス,ドイツ,イギリス,スペインなど,30ヶ国以上に上ります。
2019年には台湾がアジアで初めて同性婚の合法化を行ったことが大きな話題となりました。
もっとも,ご存じのとおり,日本では同性婚は認められておりません。
日本国憲法24条1項に「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立」するという規定があるためです。
1-1.法律婚と事実婚
昨今では,特に欧米においては,パートナーとの関係を事実婚で済ませる方が増えています。
事実婚の定義は,様々ですが,一般的には法的な婚姻手続き(法律婚)をしていない状態を指します。
フランスにおけるPACS(民事連帯契約)のように,異性間又は同性間のカップルに法律婚に準じた扱いを認める制度を採用する国もあります。
同性婚の合法化という議論においては,同性間の事実婚ではなく,同性間の法律婚を前提としています。
本ページにおいても,同性婚という用語は同性間の法律婚を意味し,同性間の事実婚やPACSなど法律婚に準じた制度を含みませんので,ご注意ください。
2.同性婚のパートナーのビザ
同性婚のパートナーの方のビザについて,2022年現在における法務省の見解は,以下の通達の通りです。
平成25年10月18日
地方入国管理局長殿
地方入国管理局支局長殿
法務省入国管理局入国在留課長 石岡邦章
同性婚の配偶者に対する入国・在留審査について(通知)
在留資格「家族滞在」,「永住者の配偶者等」等にいう「配偶者」は,我が国の婚姻に関する法令においても有効なものとして取り扱われる婚姻の配偶者であり,外国で有効に成立した婚姻であっても同性婚による配偶者は含まれないところ,本年5月にフランスで「同性婚法」が施行されるなどの近時の諸外国における同性婚に係る法整備の実情等を踏まえ,また,本国で同性婚をしている者について,その者が本国と同様に我が国においても安定的に生活できるよう人道的観点から配慮し,今般,同性婚による配偶者については,原則として,在留資格「特定活動」により入国・在留を認めることとしました。ついては,本国で有効に成立している同性婚の配偶者から,本邦において,その配偶者との同居及び扶養を受けて在留することを希望して「特定活動」の在留資格への変更許可申請がなされた場合は,専決により処分することなく,人道的観点から配慮すべき事情があるとして,意見を付して本省あて請訓願います。なお,管下出張所長へは,貴職から通知願います。
平成25年10月18日管在5357号の通達によれば,入管法上の「配偶者」という言葉には,同性婚は含まれません。
よって,同性婚をしたパートナーの方は,「日本人の配偶者等ビザ」,「永住者の配偶者等ビザ」,「家族滞在ビザ」を取得できません。
しかし,「特定活動ビザ」の取得の余地が認められていますので,以下,2つの場合に分けて解説します。
2-1.外国人同士の同性婚の場合
上記の通達によれば,外国人同士の同性婚の場合において,当該外国人当事者の各本国において婚姻が有効に成立している場合には,一方に在留資格があれば,そのパートナーは「特定活動ビザ」への在留資格変更の可能性があります。
例えば,ドイツ国籍で永住者の女性Aさんとフランス国籍で留学生の女性Bさんの婚姻が両国で有効に成立した場合には,Bさんは「特定活動ビザ」への変更が認められる可能性があります。
少し,細かい話となりますが,「特定活動ビザ」は,あらかじめ告示で定められている「告示特定活動ビザ」と告示では定められていない「告示外特定活動ビザ」に分かれます。
両者の大きな違いは,在留資格認定証明書交付申請(外国にいる方が日本で長期的に暮らす際に一般的に行う申請)が認められるか否かです。
すなわち,告示特定活動であれば,在留資格認定証明書交付申請が認められますが,告示外特定活動であれば,在留資格認定証明書交付申請が認められないため,短期滞在ビザなどで日本に入国してから,「特定活動ビザ」への変更許可申請を行う必要があります。
同性婚のパートナーの方に認められているのは,告示外の「特定活動ビザ」ですので,パートナーの方が外国に居る場合には,その点の注意が必要です。
2-2.外国人と日本人の同性婚の場合
上記の通達は,「本国で有効に成立している同性婚」が対象です。
すなわち,婚姻当事者の一方の本国法が同性婚を認めていない場合には,上記の通達を根拠として「特定活動ビザ」への変更が認められるとは言えないのです。
上記の通り,日本では同性婚は法的に有効な婚姻と認められていません。
よって,日本人と同性婚をしているパートナーの方について,特定活動ビザが認められるか否かは,解釈が分かれるところでした。
もっとも,2022年9月30日,日本人男性とアメリカで結婚したアメリカ国籍の男性が,日本国内で長期のビザが認められないのは不当であるとして国を訴えた事件において,東京地方裁判所は,「外国人同士の同性カップルであれば『特定活動』という在留資格が与えられるのに,外国人と日本人のカップルだと認められないのは,法の下の平等を定めた憲法の趣旨に反する」として,「特定活動ビザを認めなかった日本政府の対応を違法と判断しました。
なお,このアメリカ国籍の男性が求めた「定住者ビザ」への変更の主張については,「現在のところ日本に同性の結婚を認める規定はなく,配偶者と同じような地位や,特別な事情があると考えるのは困難」として認められませんでした。
上記の東京地裁の判決は画期的な判断と言えますが,実務がこのとおりに動くのはまだ先の話です。
最高裁大法廷の違憲判決が出て通達が変更されるまでは,入管実務の運用が変更されることはありません。
したがって,現状ではまだ,外国人と日本人の同性婚において,特定活動ビザは与えられません。
2-3.婚姻当事者双方の本国法が同性婚を認めていない場合
例えば,日本人と中国人の同性間のカップルのように,婚姻当事者双方の本国法が同性婚を認めていない場合については,上記の通達も東京地方裁判所の判決も対象としておりません。
現状では,婚姻当事者の一方の本国法が同性婚を認めない限り,ビザが認められる可能性は低いと思われます。
3.同性婚のパートナーのビザの要件
告示外特定活動ビザは,法律上も告示でも規定されていないため,その許可要件は明確ではありません。
もっとも,在留資格一般に言える要件として,①在留の必要性と②在留の許容性が求められます。
これを踏まえれば,上記の通達では以下の要件が求められていると解釈できます。
(在留の必要性)
② 本邦で婚姻生活を送るに足る生計基盤を有すること
(在留の許容性)
①の要件では,上記で解説したとおり,婚姻当事者の各本国法で有効に同性婚が成立していることが求められます。
長期間同棲をしているものの婚姻はしていないという事実婚の状態では,この要件は満たされません。
また,この「特定活動ビザ」は日本でパートナーとして共同生活を送ることをその活動内容としているので,単に法律上同性婚が成立しているだけでは足りず,実体のあるパートナーとしての関係性があることが求められます。
二人の交際に至る経緯や,親族との交流状況,婚姻に至るまでの経緯等の具体的な証明が求められる点は,「日本人の配偶者等ビザ」などと同じです。
②の要件も,「日本人の配偶者等ビザ」などの同様に,日本で婚姻生活を送るに足りる収入や資産があることが求められます。
この点について詳細は,配偶者ビザ 収入 をご覧ください。
4.同性婚のパートナーのビザ取得のまとめ
平成25年10月18日管在5357号の通達から,同性婚のパートナーの地位は向上しました。
2022年9月30日東京地方裁判所判決のような判断も、今後増えてくるでしょう。
もっとも,在留資格認定証明書交付申請が認められない点,就労制限がある点で,日本人や永住者の異性間の婚姻の場合と比べて,保護は弱いと言えます。
日本ではまだまだ同性婚の議論が欧米ほど進展していませんが,基本的人権に関する問題であるため,近い将来,国民的に議論すべきものと考えます。
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