松原 桃子

フィリピン人の帰化申請で必要な本国書類の特殊性

帰化申請は,日本国籍を取得する手続のことを言いますが,つまりそれは,「戸籍」を作成するということでもあります。

この「戸籍」とは,「人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもので,日本国民について編製され,日本国籍をも公証する唯一の制度」となっています。
こちらの定義をよりかみ砕いて説明すると,戸籍とは,その人物が日本国民として,いつ・どこで・誰との間に生まれた子なのか,誰と結婚・離婚をしたか,子供はいるかといった親族関係の登録制度のことを言います。

この親族関係を確定する上で,申請人の国籍国の書類(以下,「本国書類」と言います。)は必ず必要であり,一部の例外を除き,本国書類が揃えられなければ帰化申請を進めることが出来ません。

今回は,本国書類が少し特殊なフィリピン人の帰化申請にフォーカスして,詳しく解説していきます。

1. フィリピン人の帰化申請で必要となる書類

先に述べた通り,帰化申請は「戸籍」を作成する手続きであり,「戸籍」を作成するためには,申請人の親族関係を確定させる必要があります。
そして,親族関係を確定させるためには,必ず本国書類が必要となります。

では,どのような本国書類に基づいて親族関係を確定させるのでしょうか。

日本であれば,戸籍制度を採用しているため,「戸籍謄本」を取得すれば,親族関係を一度に確認することが出来ます。

しかし,世界中を見渡した場合,戸籍制度を採用している国は,現在は日本と台湾のみであり,その他の国では,複数の本国書類を収集し,総合的に判断することにより親族関係を確定させることになります。

そして,国籍に関係なく,親族関係を確定するためには一般的に次のような本国書類が必要となります。
なお,各法務局(の担当者)によって考え方が異なるので,場合によっては必要と言われる本国書類が増えるケースがあるので,ご注意下さい。

申請人自身が独身(未婚)のケース

  • 国籍証明書(申請人自身の分)
  • 出生証明書(申請人+兄弟姉妹の分)
  • 両親の結婚証明書
  • 家族関係証明書

もっとも,フィリピン人の場合,上記のうち国籍証明書と家族関係証明書が存在しません。
そのため,他の国籍者とは違う証明書が必要となり,具体的には,次の本国書類が必要になります。

申請人自身が独身(未婚)のケース

  • 有効期限の残っているパスポート
  • 出生証明書(申請人+兄弟姉妹の分)
    ※申請人分はアポスティーユ認証済のもの
  • 両親の結婚証明書

では,詳しくは次章にて説明していきます。

2. フィリピン人の帰化申請で必要となる本国書類の特殊性

フィリピン人が帰化申請をするうえで諸外国の方と違う点は,大きく分けて2つあります。

1つは,フィリピンの本国書類は,よほど古い書類でない限り,原則として,特定の行政機関が発行した書類が求められるということ。もう1つは,国籍証明書が存在しないということです。

以下,それぞれの点について解説します。

①フィリピン人の帰化申請で必要となる本国書類が発行される行政機関

一般的に,外国人の方が帰化申請をする場合,国籍証明書のように大使館や領事館から発行されるものを除き,日本でいうところの県や市から発行された証明書を提出することで足ります。
しかし,フィリピン人が帰化申請をする場合,基本的には,特定の行政機関から発行された書類の提出を求められます。

ここでいう特定の行政機関とは,フィリピン統計局=PSA(Philippine Statistics Authority)のことです。

PSAは,2013年9月よりフィリピン人の各証明書を発行する正当な権限を有する行政機関としての役割を担っています。
過去に,配偶者ビザ申請のために,PSA発行の結婚証明書を取得した方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
一部のPSA発行の書類は,オンラインでも申請することが可能なので,諸外国に比べ,本国にいらっしゃる親族に書類取得を手伝ってもらう機会を減らすことも出来ます。

※PSAデリバリーサービス参照:https://www.psaserbilis.com.ph/#!

ちなみに,帰化申請では原則的に,先に述べたPSA発行の書類が必要です。
しかし,場合によってはPSA設立以前に別の行政機関から発行された本国書類をお持ち方いらっしゃることと思います。

その場合,過去に法務局が扱ったことのある書類であれば,帰化申請の受付書類としてもらえるケースも在りますので,一度,法務局に確認するのもよいかもしれません。

②フィリピン人の帰化申請で必要となる国籍証明書の特殊性

フィリピンには「国籍証明書」という書類が存在しません。

そのため,国籍証明書は取得せずに,それ以外の本国書類を集めれば十分ではないかと考える方もいらっしゃるでしょう。

しかし結論から言うと,その他書類を集めればよいのではなく,国籍証明書に代わる書類が必要となります。

では,具体的にはどのような書類が必要となるのでしょうか。

実はフィリピンの場合,マレーシアのように国籍証明書の代わりになる書類があるわけではなく(参考:マレーシア人の帰化申請で必要な国籍証明書の特殊性について),「アポスティーユ認証済のPSA発行出生証明書」+「有効なパスポート」の2種類をもって国籍証明書の代わりとされます。

まず,出生証明書は,PSA発行のものであるだけではなく,フィリピン外務省でアポスティーユ認証を受けたものでなければなりません。

アポスティーユ認証について簡単に説明すると,本来であればフィリピンの本国書類を日本に提出する場合,日本の行政機関は,その本国書類が本当に権限のあるフィリピンの行政機関から発行された書類かどうか,その場で確認することが出来ず,フィリピンの政府機関に問い合せをして確認する必要があります。

しかし,日本とフィリピンのようなハーグ条約加盟国間では,アポスティーユが付いていることをもって,その書類が権限のある本国機関から発行された正式な本国書類として取り扱うことが可能となり,日本の行政機関がフィリピンの行政機関に問い合わせることなく,その場で本国書類を正式な書類として処理できるというものです。

次にパスポートについて,フィリピン以外の国であれば,帰化申請時点でパスポートが有効である必要はありませんが,フィリピンの場合はパスポートが国籍証明としての役割の一部を担うことから,現在有効のパスポートでなければなりません。
そのため,有効期限の切れたパスポートをお持ちの方は,パスポートの再発行手続きを行う必要があります。

なお,パスポートの再発行処理はフィリピン本国で行われるため,お手元に届くのに最長で2ヶ月ほどかかるケースもあります。
パスポートの有効期限が切れている方は,最初にパスポートの発行手続きを済ませ,それから,その他の書類収集を進めるように心がけましょう。

③フィリピン人の帰化申請で必要となる家族関係証明書に代わる書類

家族関係証明書が発行されない国では,申述書を代替書類として提出するのが一般的です。
申述書とは,申請人が申請人の両親の子どもで間違いない,ということを両親が手書きで作成する書類を言います。

申述書の内容は各法務局で若干違うため,事前に確認する必要がありますが,どの法務局でも,申述書が送られてきたときに使用された国際郵送の封筒を申述書と併せて提出するように案内されます。
そのため,国際郵送の封筒も捨てずに保管しておくことを覚えておいてください。

3.まとめ

今回は,フィリピン人の帰化申請で必要となる一般的な書類と本国書類の特殊性にフォーカスしてご説明しましたが,いかがだったでしょうか。

基本的には,今回ご説明した本国書類を集めることが出来れば,帰化申請で必要となる本国書類として十分なはずですが,法務局によって案内される本国書類は変わります。
実際,当事務所の本社がある大阪には帰化申請を取り扱う法務局が複数ありますが,担当者の考え方の違いにより,案内された本国書類が異なったケースもあります。
当社では,法務局と相談し,お客様個人のケースに合った本国書類をご案内させていただきます。

行政書士法人第一綜合事務所は,初回相談を無料で行っております。
電話・対面・オンラインでの面談など,様々な方法でお客様のご相談にご対応させていただきますので,帰化申請でお困りのお客様はお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 松原 桃子

・日本行政書士会連合会(登録番号第24261750号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8991号)
兵庫県出身。大阪オフィスに所属し,日本国籍を取得するための帰化許可申請業務を専門としている。

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