仲野 翔悟

【特定技能ビザの試験内容】全12分野の解説

【特定技能ビザの試験内容】全12分野の解説

就業開始までの期間が技能実習生よりも短期間である点や,転職が可能であることを背景として,今後,特定技能ビザ取得のための試験受験者は増えていくことが予想されます。
また,新型コロナウイルス感染症の影響による規制が緩和されたこともあり,今後,国内外での特定技能試験の受験機会も増えていくことが予想されます。
本記事では,特定技能ビザの取得のための試験について,全12分野それぞれの内容を紹介します。

1. 特定技能ビザの試験

1-1 特定技能ビザ(1号)

特定技能の12分野では,特定技能ビザ(1号)を取得するための,日本語基準と技能基準が設けられており,技能基準については,分野・職種ごとに独自の試験も用意されています。

1-1-1 日本語試験

特定技能ビザ(1号)取得のための日本語能力を証明できる試験は「日本語能力試験」と「国際交流基金日本語基礎テスト」の2つです。
それぞれ,日本語能力試験はN4以上,国際交流基金日本語基礎テストはA2レベル程度の結果が求められます。

日本語能力試験(JLPT) 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
管轄機関 ・国際交流基金
・財団法人日本国際教育支援協会
・国際交流基金
実施日程 毎年7月と12月の計2回 国内外で毎月実施
実施国 日本と海外68か国
※2021年12月実施データ
日本と海外10か国
※2022年10月実施データ
直近の国内試験合格率 N4合格率43.4%
※2021年12月実施データ
A2レベル程度
※総合得点と判定基準で評価のため合否なし
試験方法 多肢選択式 多肢選択式

介護分野に限り,上記の日本語試験に加え,介護日本語評価試験に合格する必要があります。

介護日本語評価試験
管轄機関 厚生労働省
実施日程 国内外で毎月実施
実施国 日本と海外10か国
(ミャンマー,フィリピン,カンボジア,ネパール,インドネシア,モンゴル,タイ,インド,スリランカ,ウズベキスタン)
直近の国内試験合格率 74.5%
※2022年8月実施データ
試験方法 多肢選択式

1-1-2 技能試験

〇介護分野
試験実施回数・実施国がともに多く,学科試験・実技試験ともにコンピューター上で問題に解答する(CBT方式)のため,実質的な実技試験はありません。実施頻度の多さからも,日本政府が介護分野での外国人雇用に尽力していることが伺えます。
試験の実施国が多いため,初めて特定技能外国人として入国したい外国人にとってもチャンスの多い分野と言えるでしょう。

実施日程 国内外で毎月実施
管轄機関 厚生労働省
実施国 日本と海外10か国
(ミャンマー,フィリピン,カンボジア,ネパール,インドネシア,モンゴル,タイ,インド,スリランカ,ウズベキスタン)
直近の国内試験合格率 67.8%
※2022年8月実施データ
試験方法 学科試験:多肢選択式
実技試験:判断等試験

参照:厚生労働省(介護分野における特定技能外国人の受入れについて)

〇ビルクリーニング
試験の実施頻度は多くありませんが,合格率が高く,試験に合格しやすい分野と言えます。

実施日程 国内は年2回程度実施,海外試験は不定期
管轄機関 公益社団法人ビルメンテナンス協会
実施国 日本と海外3か国
(インドネシア,ミャンマー,フィリピン)
直近の国内試験合格率 81.2%
※2022年4月実施データ
試験方法 学科試験:多肢選択式
実技試験:多肢選択式,作業試験式

参照:公益社団法人ビルメンテナンス協会(特定技能)

〇製造業分野(素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野)
国内の試験では,受験者数・合格率ともに一桁の職種も多い印象です。
また,2022年8月30日より,19あった業務区分(職種)が3つのみとなりました。
そのため,たとえば,鋳造の資格をもつ特定技能外国人は,鋳造のみに従事可能でしたが,統合後の業務区分にある職種であれば,技能試験の合格なしで転職・兼業が可能となりました。

業務区分統合の影響もあり,今後,製造業分野での試験受験者は減少することが見込まれます。

新業務区分
➀機械金属加工
・鋳造・鉄工・塗装・ダイカスト・機械加工・電気機器組立て・金属プレス加工・仕上げ・機械検査・工場板金・プラスチック成形・機械保全・鍛造・溶接・工業包装
②電気電子機器組立て
・機械加工・プリント配線板製造・仕上げ・機械検査・プラスチック成形・機械保全・電気機器組立て・電子機器組立て・工業包装
➂金属表面処理
・めっき・アルミニウム陽極酸化処理
実施日程 国内外で年数回実施(職種ごとに異なる)
管轄機関 経済産業省が選定した機関
実施国 日本と海外4か国
(インドネシア,タイ,フィリピン,ネパール)
直近の国内試験合格率 職種ごとに大きく異なる
試験方法 学科試験:〇×式
実技試験:多肢選択式
※溶接職種のみ制作等作業試験も有り

参照:経済産業省(製造分野特定技能1号評価試験)

〇建設分野
2022年8月30日より,建設分野では,製造業分野と同様に業務区分(職種)の統合がなされたため,新業務区分で同じ区分内にある業務へは転職・兼業が可能となりました。

また,これまで認められていなかった作業も含めて技能実習の25職種38作業を含む全ての建設業の作業が特定技能の対象業務となりました。

業務区分の統合に伴い,従前の19あった業務区分(職種)のいずれかの資格をもつ場合, 統合後の業務区分内にある職種であれば,技能試験の合格なしで転職・兼業が可能となりました。

新業務区分
➀土木
・型枠施工・コンクリート圧送・トンネル推進工・建設機械施工・土木・鉄筋施工・とび・海洋土木工
②建築
・型枠施工・左官・コンクリート圧送・屋根ふき・土木・鉄筋施工・鉄筋継手・内装仕上げ・表装・とび・建築大工・建築板金・吹付ウレタン断熱
➂ライフライン・設備
・電気通信・配管・建築板金・保温保冷
実施日程 国内外で年数回実施(職種ごとに異なる)
管轄機関 一般社団法人建設技能人材機構
実施国 日本と海外2か国
(フィリピン,ベトナム)
直近の国内試験合格率 職種ごとに大きく異なる
試験方法 学科試験:〇×式,多肢選択式
実技試験:職種ごとに作業試験,判断試験など

参照:建設技能人材機構(建設分野特定技能1号評価試験情報と申込み)

〇造船・舶用工業分野
国内試験では,試験監督者が受験申請者の希望地へ派遣されて実施されますが,溶接職種のみ,集合試験も実施されています。

実施日程 国内試験は,受験者申請者の希望地で実施。海外は不定期。
管轄機関 一般財団法人日本海事協会
実施国 日本と海外2か国
(フィリピン,インドネシア)
直近の国内試験合格率 100%
※2022年度実施データ(職種未公表)
試験方法 学科試験:〇×式,多肢選択式
実技試験:実技試験:職種ごとに作業試験,判断試験など

参照:一般財団法人日本海事協会(造船・舶用工業分野特定技能1号試験)

〇航空分野
試験実施回数が少なく,航空機整備職種の試験は,モンゴルのみで実施されています。

実施日程 国内外にて不定期実施
管轄機関 公益社団法人日本航空技術協会
実施国 日本と海外2か国
(フィリピン,モンゴル)
直近の国内試験合格率 51.1%
※2022年2月実施データ(空港グランドハンドリング職種)
試験方法 学科試験:〇×式,多肢選択式
実技試験:記述式,多肢選択式

参照:公益社団法人日本航空技術協会(試験案内)

〇宿泊分野
宿泊分野では,2022年7月以降に試験を受験する外国人を対象として,受験料の半額補助が発表されました。そのため,宿泊業の特定技能試験の受験者負担額は,3,850円となりました。

また,円安などの要因による大きなインバウンド需要も見込まれるため,宿泊分野での特定技能外国人の需要はますます高まることが予想されます。

実施日程 国内外にて不定期実施
管轄機関 一般社団法人宿泊業技能試験センター
実施国 海外2か国
(ミャンマー,ネパール,インドネシア)
直近の国内試験合格率 48.56%
※2022年8月実施データ
試験方法 学科試験:〇×式
実技試験:口頭による判断等試験

参照:一般社団法人宿泊業技能試験センター(特定技能測定試験について)

〇農業分野
試験実施回数が多く,実施国も多い分野です。合格率も高水準であるため,試験合格者が多くおり,農業分野での特定技能の要件をみたしても,受入れ機関を見つけられない人材も少なくありません。

実施日程 国内外で毎月実施
管轄機関 一般社団法人全国農業会議所
実施国 日本と海外10か国
(カンボジア,インドネシア,モンゴル,ミャンマー,ネパール,フィリピン,タイ,スリランカ,インド,ウズベキスタン)
直近の国内試験合格率 耕種農業:85.85%
畜産農業:93.47%
※2022年9月実施データ
試験方法 学科試験:多肢選択式
実技試験:多肢選択式

参照:一般社団法人全国農業会議所(農業技能測定試験)

〇漁業分野
試験実施国,実施回数ともに非常に少ない分野です。国外試験もインドネシアでのみ実施されており,漁業分野で就労する特定技能外国人はほとんどがインドネシア人です。

実施日程 国内外で不定期実施
管轄機関 一般社団法人大日本水産会
実施国 日本とインドネシア
直近の国内試験合格率 漁業:84.61%
養殖業:25.92%
※2022年9月実施データ
試験方法 学科試験:真偽式
実技試験:多肢選択式

参照:一般社団法人大日本水産会(在留資格「特定技能」漁業技能測定試験について)

〇飲食料品製造業分野
入管庁より,公表されたデータによると,2022年6月末時点,飲食料品製造業分野で就労している特定技能外国人は,12分野全体の33.9%を占めています。
そのため,国内受験希望者も多く,試験申込を希望しても,応募ができない場合もあり,且つ国内受験者は事前に,「マイページ登録」をして審査を受ける必要があるので,余裕をもって準備する必要があります。

実施日程 国内外で不定期実施
管轄機関 一般社団法人外国人食品産業技能評価機構
実施国 日本と海外2か国
(インドネシア,フィリピン)
直近の国内試験合格率 78.45%
※2021年度実施データ
試験方法 学科試験:三者択一方式
実技試験:三者択一方式

参照:一般社団法人外国人食品産業技能評価機構(特定技能1号技能測定試験)

〇外食分野
外食分野は,従来より,外国人雇用の需要が高い分野ですが,技能実習生2号を良好に修了することで,特定技能ビザ(1号)の技能基準を満たすのが,「医療・福祉施設給食製造職種」の技能実習生のみであるため、試験受検の需要が高い分野です。
国内受験希望者は飲食料品製造業と同様に,事前に「マイページ登録」をして審査を受ける必要があります。

実施日程 国内外で不定期実施
管轄機関 一般社団法人外国人食品産業技能評価機構
実施国 日本と海外6か国
(ネパール,インドネシア,カンボジア,タイ,フィリピン,スリランカ)
直近の国内試験合格率 57.31%
※2021年度実施データ
試験方法 学科試験:三者択一方式
実技試験:三者択一方式

参照:一般社団法人外国人食品産業技能評価機構(特定技能1号技能測定試験)

〇自動車整備分野
開催国が少なく,2022年6月末時点での,特定技能外国人の在留数も1,220名に留まっています。

実施日程 日本とフィリピンで毎月実施
管轄機関 一般社団法人日本自動車整備振興会連合会
実施国 日本とフィリピン
直近の国内試験合格率 71.9%
※2022年4月実施データ
試験方法 学科試験:〇×式
実技試験:判断等試験

参照:一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(特定技能評価試験)

1-2 特定技能ビザ(2号)

現在,特定技能ビザ(2号)の対象分野は,造船・舶用工業分野と建設分野のみですが,将来的には,介護分野を除く,11分野を対象とするという案も議論されています。
※介護分野については,すでに「介護ビザ」という,無期限更新・家族帯同可能なビザがあるため,対象外となります。

しかし,特定技能ビザ(2号)を取得するための試験内容については,詳細が公表されていません。

公表されている,建設分野についての情報では,日本語試験は無く,特定技能2号評価試験,または技能検定1級に合格すれば,特定技能ビザ(2号)取得の権利が得られるとされています。

1-3 特定技能ビザの試験内容のまとめ

本記事では,特定技能ビザを取得するための試験についてご紹介しました。

技能試験に関しては,分野ごとに管轄機関があり,試験実施国,実施日程なども,大きく異なります。

また,特定技能ビザ(2号)が11分野で対象となることが見込まれる中で,今後,日本での無期限就労が可能となることを想定しての国内外の受験者の増加が予想されます。

分野によっては,試験の申込者が多い場合もあるため,今後の試験受験を予定している方は,本記事で紹介した管轄機関のホームページで公表される情報を随時確認していく必要があります。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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