経営管理ビザから経営者用の高度専門職ビザがあるのをご存じでしょうか?
日本で会社の経営や管理をするビザといえば「経営・管理」ビザが一般的ですが,この経営管理ビザのパワーアップ版ともいえる経営者用の高度専門職ビザがあることをご存知でしょうか?それが今回解説する「高度専門職(1号ハ)」ビザです。一定の要件をクリアしないと取得できないビザですが,取得できれば,さまざまな優遇措置も用意されています。
当社では,経営管理ビザでビジネスをされている外国人の方から,「高度専門職(1号ハ)」への切り替えについてご相談いただくことも少なくありません。
本コラムでは,経営管理ビザから高度専門職ビザへの変更について,専門行政書士がわかやすく解説していきます。
Index
1.高度専門職とは?
高度専門職とは,特に優れた知識や技能を持っている外国人向けに用意されているビザで,在留期間や活動内容,家族の帯同などでさまざまな優遇措置があります。
優秀な外国人材(=高度外国人材)を積極的に日本へ受け入れることを目的に導入された制度で,学歴や職歴,年収,資格など一定の項目ごとにポイントを設定して,その合計ポイント数が70点以上あると「高度外国人材」として認定され,優遇措置が受けられるようになります。
(1)3つの分類
活動する内容によって,ビザの種類がイ・ロ・ハの3つに分類されています。
3つの活動類型 | このビザが該当する活動 |
①高度学術研究活動 「高度専門職1号(イ)」 |
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う研究,研究の指導又は教育をする活動 ⇒研究所の研究員,大学の教授,専門的な教師など |
②高度専門・技術活動 「高度専門職1号(ロ)」 |
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う自然科学又は人文科学の分野に属する知識又は技術を要する業務に従事する活動 ⇒エンジニア,技術者など一般企業に努めるホワイトカラー層 |
③高度経営・管理活動 「高度専門職1号(ハ)」 |
本邦の公私の機関において事業の経営を行い又は管理に従事する活動 ⇒会社経営者など |
この3つの中で,経営管理ビザと同じく事業の経営や管理を行うものは,「高度専門職1号(ハ)」です。
(2)高度外国人材とは?
平成21年5月に行われた高度人材受入推進会議で,高度外国人について次のように定義づけられました。
『国内の資本・労働とは補完関係にあり,代替することができない良質な人材』であり,『我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに,日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し,我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材』が,高度外国人材ということです。
ざっくりイメージで言い換えると,『日本人を巻き込んで日本経済発展のためにアクティブに働いてくれる優秀な外国人』といったところです。
(3)優遇措置がある
高度専門職には,他のビザと比べて優遇措置が主に7つ用意されています。
①永住許可要件の緩和
②親の帯同の許容
③家事使用人の帯同の許容
④在留期間「5年」の付与
⑤配偶者の就労
⑥複合的な在留活動の許容
⑦入国・在留手続の優先処理
高度専門職ビザについては,別コラム「高度専門職ビザの取得条件とは?」でも解説していますので,ぜひお読みください。
2.経営管理ビザと高度専門職(1号ハ)ビザの違い
経営管理ビザと高度専門職(1号ハ)ビザの違いで最も大きなものは,前述した「優遇措置」の有無です。
比較表にまとめましたのでご覧ください。
経営管理ビザ | 高度専門職ビザ | |
①永住許可要件 | 引き続き10年以上の在留が必要 | 引き続き1年以上の在留でOK |
②親の帯同 | できない | 一定の要件を満たせばできる |
③家事使用人の帯同 | できない | 一定の要件を満たせばできる |
④在留期間 | 最初は「1年」での許可が多い | 最初から最長の「5年」が許可される |
⑤配偶者の就労 | 週28時間以内のアルバイトなら可能 | 一定の分野は時間制限なく可能 |
⑥複合的な活動 | できない | 関連する事業経営活動ならできる |
⑦入国・在留手続き | 他のビザと同じ(優先なし) | 他のビザより優先的に処理される |
高度専門職(1号ハ)ビザのほうが,さまざまな優遇措置があることがお分かりいただけたかと思います。
現在,経営管理ビザで在留している方が,高度専門職ビザへ切り替えることも可能なのでしょうか?
次セクションで解説していきます。
3.経営管理ビザから高度専門職(1号ハ)へ変更するには
ここからは,経営管理ビザから高度専門職(1号ハ)ビザへの変更について解説していきます。
(1)変更するための条件
高度専門職(1号ハ)ビザへ変更するためには,2つの条件をクリアする必要があります。
【条件1】年収が300万円以上あること
【条件2】ポイント計算を行って「70点」以上あること
以下は高度専門職(1号ハ)のポイント計算表です。この表を使って計算してみましょう。
①最終学歴 | 経営管理に関する専門職学位(MBA,MOT)を保有 | 25点 |
博士若しくは修士の学位又は専門職学位 | 20点 | |
大卒又はこれと同等以上の教育(博士,修士を除く) | 10点 | |
複数の分野における2以上の博士若しくは修士の学位又は専門職学位 | 5点 | |
➁従事する業務の実務経験年数 | 10年以上 | 25点 |
7年以上10年未満 | 20点 | |
5年以上7年未満 | 15点 | |
3年以上5年未満 | 10点 | |
③年収 ※300万円未満の場合は70点以上でも高度専門職の対象外になります |
3,000万円以上 | 50点 |
2,500万~3,000万円 | 40点 | |
2,000万~2,500万円 | 30点 | |
1,500万~2,000万円 | 20点 | |
1,000万~1,500万円 | 10点 | |
④地位 | 代表取締役、代表執行役又は代表権のある業務執行社員 | 10点 |
取締役、執行役又は業務執行社員 | 5点 | |
⑤特別加算 活動機関 |
Ⅰ:イノベーション促進支援措置を受けている | 10点 |
Ⅱ:Ⅰに該当する企業であって,中小企業基本法に規定する中小企業者 | 10点 | |
活動機関が中小企業基本法に規定する中小企業者で,試験研究費及び開発費の合計金額が,総収入金額から固定資産若しくは有価証券の譲渡による収入金額を控除した金額(売上高)の3%超 | 5点 | |
⑥特別加算 資格・表彰 |
従事しようとする業務に関連する外国の資格,表彰等で法務大臣が認めるものを保有 | 5点 |
⑦特別加算 日本の大学 |
日本の大学を卒業又は大学院の課程を修了 | 10点 |
⑧特別加算 日本語能力 |
Ⅰ:日本語専攻で外国の大学を卒業又は日本語能力試験N1合格相当 | 15点 |
Ⅱ:日本語能力試験N2合格相当 ※日本の大学を卒業又は大学院の課程を修了及びⅠに該当する者を除く | 10点 | |
⑨特別加算 プロジェクト |
各省が関与する成長分野の先端プロジェクトに従事 | 10点 |
⑩特別加算 卒業大学 ※⑦と重複できます |
以下Ⅰ,Ⅱ,Ⅲのいずれかに該当する大学を卒業 Ⅰ:以下のランキング2つ以上において300位以内の大学 「QS・ワールド・ユニバーシティ・ランキングス(クアクアレリ・シモンズ社(英国)) 「THE・ワールド・ユニバーシティ・ランキングス(タイムズ社(英国)) 「アカデミック・ランキング・オブ・ワールド・ユニバーシティズ(上海交通大学(中国)) Ⅱ:文部科学省が実施するスーパーグローバル大学創成支援事業(トップ型)において,補助金の交付を受けている大学 Ⅲ:外務省が実施するイノベーティブ・アジア事業において,「パートナー校」と して指定を受けている大学 |
10点 | ⑫特別加算 研修の修了 |
外務省が実施するイノベーティブ・アジア事業の一環としてJICAが実施する研修を修了したこと | 5点 |
⑬特別加算 投資 |
本邦の公私の機関において行う貿易その他の事業に1億円以上を投資 | 5点 |
年収が300万円以上あり,ポイント計算結果が70点以上ある場合は,7つの優遇措置が受けられる「高度専門職(1号ハ)」ビザへ変更できる可能性があります!
(2)変更申請に必要な書類
経営管理ビザから高度専門職(1号ハ)ビザへ変更するには,「在留資格変更許可申請」を行います。
現在,経営または管理している会社の規模によって,用意する書類が異なります。
- 在留資格変更許可申請書
- 証明写真(縦4cm×横3cm):1枚
- 高度専門職ポイント計算表
- ポイント計算表の各項目についての疎明資料
①学歴:卒業証書の写しなど
②職歴:職務経歴証明書など
③年収:所得課税証明書や支払い証明書など
④地位:登記事項証明書など
⑤特別加算:補助金交付決定通知書,資格の合格証,研修の修了証など
上記の「共通の必要書類」に加えて,
- 四季報の写し(または各種認定制度で認定されたことがわかるもの)
上記の「共通の必要書類」に加えて,
- 前年度の源泉徴収票等の法定調書合計表
上記の「共通の必要書類」に加えて,
- 前年度の源泉徴収票等の法定調書合計表
- 登記事項証明書
- 事業内容を明らかにする文書
- 事業所の賃貸契約書など
- 決算書など
上記の「共通の必要書類」に加えて,
- 登記事項証明書
- 事業内容を明らかにする文書
- 事業所の賃貸契約書など
- 決算書など
- 給与支払事務所等の開設届の写し
- 直近3か月分の給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書等
実際には,現在の経営管理ビザでどのような活動をされているかによって必要書類が変わります。
4.経営管理ビザから高度専門職(1号ハ)への変更まとめ
経営管理ビザから高度専門職(1号ハ)ビザへの変更について解説してきましたが,いかがでしたか?
在留期間が最長の「5年」になる,最短で1年後に永住申請ができる,親を呼び寄せることができる…など,経営管理ビザにはないメリットがたくさんあります。
当社では,経営管理ビザの新規取得をお手伝いさせていただくお客様が多くいらっしゃいますが,そのなかでも高度専門職(1号ハ)ビザへの切り替える方も少なくありません。これまでの知見と事例を活かして,高度専門職(1号ハ)ビザへの切り替え成功をサポートいたします。ご興味をお持ちの方は,行政書士法人第一綜合事務所の無料相談をぜひ利用ください。