冨田 祐貴

経営管理ビザの資本金500万円の考え方

経営管理ビザの資本金500万円の考え方

経営管理ビザは,経営活動や管理業務に従事するために設けられた就労ビザの一種です。
その名のとおり,経営者が取得するビザとして,ご存じの方も多いのではないでしょうか。

経営管理ビザの取得を目指す方から,よくご質問を受けるのは資本金です。
今回は,経営管理ビザの資本金について,実務的な観点から記載しています。
なお,本ページでは,株式会社を前提に記載しています。

経営管理ビザの資本金については,正確な理解がないため,せっかくのアイデアや経営手腕を発揮できていない方も少なからずいると耳にします。
経営管理ビザの資本金500万円の考え方を理解し,憂いなく経営者として次のステージを目指してください。

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1.経営管理ビザを取得するには資本金500万円を出資する必要がある?

当社にご相談に来られる方の多くは,「経営管理ビザを取得するには,自らが資本金の500万円を出資する必要がある。」と考えておられます。

確かに,2015年4月1日以前は,経営活動を行う事業に対し,外国人又は外国法人の出資がなければ,投資経営ビザ(現経営管理ビザ)は取得できませんでした。
しかし,日本企業において,事業の経営活動や管理活動を行う外国人を広く迎え入れることができるよう,2014年に入管法が改正され,2015年4月1日からは,経営活動を行う事業に対し,外国人又は外国法人の出資がなくても,ビザを取得できるようになったのです。

そのため,たとえご自身で資本金500万円の出資をしていない場合であっても,入管法に適合しないということはありません。
この点,非常に誤解が多い点ですので,注意してください。

では,どのようなケースでも資本金の出資がなくても経営管理ビザを取得できるのでしょうか。
例えば,資本金の出資をすることなく,友人が作った会社の経営に参画できるのか考えてみましょう。

経営管理ビザがスタートした頃は,資本金の出資がなくても,代表取締役や取締役などの執行機関に就けばビザが取得できるという誤解があり,名ばかり代表取締役の経営管理ビザの申請が,かなり多くあったと聞いています。
当初は,親を呼びたい,友人を呼びたいなどで,既存会社の代表取締役に就任させるような事例が散見されました。

しかし,経営管理ビザでは,代表取締役や取締役という名目を求めているのではなく,実質的に経営に参画していることを求めています。
つまり,事業の運営に関する重要事項の決定,業務執行など,その会社の意思決定に関与している必要があるのです。

次に,そもそも経営経験がない人を経営者として招へいすることができるか,ということについて解説します。

経営管理ビザでは,経営経験は要件としていません。
したがって,留学生であっても,就労ビザの方であっても,経営活動を行うことを目的として経営管理ビザは取得できるのです。

しかし,友人の作った会社に経営者として招へいする場合,通常,その経営者に何らかの実績があり,その経営者を招へいすることが会社にとってのメリットがあるはずです。
そのため,何らの実績なく,会社にとっての利益が明らかでない場合には,申請人が経営活動を行う信憑性に疑義があると判断され,経営管理ビザの入管審査をクリアするのは困難とご理解ください。

ここまでのお話をまとめると,

  • 経営管理ビザを取得するためには,ご自身で500万円の資本金出資は不要
  • 会社の意思決定に参画していないと判断される場合には,経営管理ビザの取得は困難
  • 経営者として経営管理ビザを取得するためには,経営経験は不問ただし,経営活動を行う信憑性に疑義があると判断されるような場合には,経営管理ビザは取得できない

ということになります。

2.出資金の500万円は借りたお金でも経営管理ビザの取得は可能?

結論からいうと,資本金の500万円は自ら準備したものだけではなく,借り受けたお金でも経営管理ビザを取得することは可能です。

もっとも,見せ金のような形では経営管理ビザの取得はできませんし,仮に入管が気づかずビザを取得できたとしても,申請内容が虚偽として,後に問題になっているケースが多々あります。

出資金の500万円を借り受けて経営管理ビザを取得する際には,

  • 実態に即した契約書や借り受けの事実がある
  • 生計維持が問題にならないような返済計画が立てられている
  • 500万円を貸した人の資金の出どころが証明できる(後ほど3で記載します)

が特に重要になります。

仮に,出資金の500万円を「もらった」場合には,贈与税が課税されますので,その旨もご認識ください。

3.新株予約権の発行により調達した500万円でも経営管理ビザの取得は可能?

令和6年3月,経営管理ビザのガイドラインがアップデートされ,新株予約権の発行による払込金によって集められた500万円でも一定の条件が整えば,経営管理ビザの資本金要件に適合するようになりました。

そこで,まず新株予約権についてご説明いたします。

新株予約権を簡単に説明すると,以下のようになります。
「あらかじめ定められた条件で、会社から株式の交付を受けることができる権利」

上記は 以下のようにも言い換えられます。
「一定の期間内であれば,企業が事前に決めた価格で株式を買うことができる権利」

具体例を紹介します。

現在,株価が1株:1万8,000円のA株式会社があったとします。
株式市場でA株式会社の株式を1株買うと,1万8,000円で買うことになります。

しかし,A株式会社が新株予約権として「行使価格:2万0000円/1株 行使期間:1年」という条件のもと,1,000円で販売していたとします。

この場合,投資家はまず1,000円で新株予約権を購入します。
そして,時間が経過してA株式会社の株価が変動したとします。

株式会社の株価が25000円になった場合
新株予約権の権利を行使して,A株式会社の株式を2万0,000円で購入します。新株予約権の際に払った1,000円を差し引いても,4,000円得をして,A株式会社の株式を取得することが出来ます。
株式会社の株価が1万5,000円になった場合
新株予約権の権利を行使するよりも,株式市場で購入したほうがお得なため,新株予約権の権利を放棄します。そうすることで,新株予約権の購入した時の1,000円のみで損失を抑えることが出来ます。

そのため,新株予約権を取得している方は、株価が行使価格を上回った時点で権利行使を行い,株式を取得後すぐさま売却すれば利益が出るため、お得に株式を取得できます。
なお、新株予約権の権利行使の有無は投資家の判断に委ねられるので、株価の下落時は行使せずに放棄することができます。

上記から分かるように,新株予約権とは,「投資家の判断によっては,通常よりも有利に株式を取得することが出来る権利」とも言えます。

この新株予約権については,ストックオプションとして使われることが昨今多いです。

ストックオプションとは,自社の役員や従業員に付与される新株予約権のことで,給料や賞与のタイミングで従業員に新株予約権を付与して,社員の意欲を高めるため制度です。

新株予約権を付与された社員は,会社の株価が上がることで,新株予約権の権利を行使したタイミングで大きな利益が得られます。そのため,従業員は業績向上意欲が高まり、結果として会社へ貢献してくれるようになるのです。

他にも,新株予約権は資金調達や買収防衛策のために,利用されたりします。

なお,日本においては株式会社と特例有限会社が、新株予約権を発行することができます

上記説明を踏まえて,経営管理ビザのガイドライン改定に戻ります。
今回,経営管理ビザのガイドラインで規定されている新株予約権の発行による払込金は,大きく2点の条件が規定されています。

(1)新株予約権の発行によって払い込まれた、返済義務のない払込金であること
(2)上記(1)の払込金について、将来、新株予約権が権利行使されることで払込資本となる場合及び権利行使されずに失効し利益となる場合のいずれであっても、資本金として計上することとしていること

また、上記に係る提出資料としては、以下の書類等が必要となります。

① 新株予約権の発行にあたり締結された投資契約書(J-KISS型新株予約権契約書など)
② 上記①の締結によって実際に払い込まれた額を証明する資料(通帳の写し若しくは取引明細書の写し)
③ 上記①の締結によって実際に払い込まれた額のうち、上陸基準省令「経営・管理」の項の第2号ロの「500万円」として計上して申請しようとする額について、将来、新株予約権が権利行使された際に資本金として計上することの誓約書等

条件(1)や(2)については,新株予約権を購入するときの契約書や誓約書等に条件を盛り込み,立証していくことになります。

J-KISS=日本の大手法務系法律事務所の弁護士等の協力を元に設計,開発された投資契約書のひな型(テンプレート)です。無償で公開されており,だれでも自由にダウンロードが可能で,必要に応じて修正をすることも可能です。

なお,今回の新株予約権はあくまでも有償のみに定められていることに注意です。新株予約権が行使された時の株式価値の合計が500万円ではなく,投資家が新株予約権を購入するために,払い込まれた金額が500万円です。

また,会社が新株予約権を発行する場合、株主総会の決議や新株予約権の割当日から2週間以内に新株予約権の発行を変更登記しなければなりません。手続きが不安な場合には、お早めに弊社にお問い合わせくださいませ。提携の司法書士と連携し,お客様に合った提案をさせて頂きます。

上述の通り,経営管理ビザに必要な資本金500万円を自分一人で用意できない場合,また貸してくれる先がない場合,これからは新株予約権を通じて投資してくれた500万円で経営管理ビザの資本金要件をクリアすることが出来るようになりました。

4.経営管理ビザで資本金が問題になるケース

ここからは,経営管理ビザで資本金が問題になるケースをみていきましょう。

①500万円形成の理由がオーバーワーク

本事例は,留学生に生じる問題点です。

留学生は原則アルバイトが禁止されており,アルバイトをするためには,資格外活動許可を取得しなければなりません。
また,資格外活動許可を取得した場合であっても,学業に支障がないよう,留学生のアルバイト時間は原則週28時間に制限されています。

このルールを破って,アルバイトの給与収入で出資金の500万円を準備したケースでは,経営管理ビザが許可されない可能性が高くなります。

なぜなら,違法に形成した出資金については,入管審査で不適正と判断されるからです。
本内容については,留学ビザから経営管理ビザへの変更方法を行政書士が解説!  において詳しく記載していますので,ご参照ください。

②過去の年収からみて500万円の形成過程が不自然

本事例は,就労ビザから経営管理ビザへ変更する際の問題点です。

例えば,就労ビザを持って,ある企業において年収240万円で1年間勤務していたとしましょう。
1年の勤務経験の後,就労ビザから経営管理ビザへ変更しようとする場合,「資本金の500万円は働いたお金を貯蓄して形成した。」とすることはできるでしょうか。

もうお分かりかと思いますが,このようなケースは不自然ですね。
なぜなら,年収240万円×1年間ですから,500万円は貯金できません。
そのため,このようなケースでは,1年間の勤務での貯金額と,残りの500万円に満たない部分の具体的な形成方法を示すことが重要になります。

その他の関連事項については,就労ビザから経営管理ビザへの変更方法を行政書士が解説 において詳細を記載しています。
ご参照ください。

③500万円の資本金の形成方法が立証できない

経営管理ビザにおける資本金について,実務上,最も問題となる点です。

どういうことかというと,資本金の500万円はある。
しかし,500万円の形成方法が立証できないケースです。

マネーロンダリング防止の観点や,見せ金を排除する観点から,500万円の出どころについても,入管では審査されます。
つまり,出資金の500万円をどのように準備したのか立証する必要があり,仮に立証できない場合には経営管理ビザが取得できません。

実際の入管審査では,500万円の形成過程について,例えば所得証明書などを提出し,形成過程を明らかにする必要があります。
入管の審査は,書面審査が行われています。
したがって,実態はあっても書面で立証できないケースについては,経営管理ビザの取得は困難になるとご理解ください。

5.経営管理ビザの出資金500万円の考え方のまとめ

本ページでは,経営管理ビザで特にご質問の多い,出資金500万円の考え方について記載してきました。

経営管理ビザは,数ある就労ビザの中でも最難関のビザと言われています。
経営管理ビザが難しいと言われる理由の一つに,横断的な理解が必要とされていることがあげられます。
また,本ページでご説明したとおり,単に出資金を準備できれば良いのではなく,派生する論点も数多くあるのが特徴です。

しかし,上記で記載したとおり,正しい理解のもと申請の準備を進めれば,決して取得することが不可能なビザではありません。

仮に,正確な知識がなく経営管理ビザの準備を進めて不許可になってしまうと,会社の設立費用や事務所の保証金,賃貸料が無駄になるだけではなく,取引予定先からの信用を失うことにも繋がりかねません。

行政書士法人第一綜合事務所では,経営管理ビザの不許可を未然に防ぐため,会社設立前にコンサルティングをおこなっています。
全体を俯瞰してご提案しておりますので,お客様には安心して事業の準備をしていただくことができます。

確実な経営管理ビザの取得を目指す方は,ぜひ会社設立前に当社までお問い合わせください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 冨田 祐貴

・日本行政書士会連合会(登録番号第19261319号)
・東京都行政書士会(会員番号第14030号)
兵庫県出身。東京オフィス長として,企業向けのセミナーにも登壇。外国人ビザ申請,国際結婚,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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