行政書士法人第一綜合事務所

台湾人の帰化申請について

台湾の方は,「中国」と「台湾」を別の国と認識し,自らのアイデンティティーは「台湾人」であるとして,こだわりを持っている方が多い印象を受けます。
また,日本国は台湾を国家として承認していないものの,台湾は日本国内に大使館に代わる機関(台北駐日経済文化代表処)を有するなど独自の体制を構築しており,「中国とは別の外交の主体」であることは明らかです。
この台湾の独自性は,帰化申請においても同様に現れており,中国人のそれとは大きく異なります。
本コラムでは,そんな台湾人の帰化申請の特徴を,中国人を含む他の国籍者の帰化申請と比較しながら解説していきます。

1.台湾人以外の帰化申請(一般論)

台湾人の帰化申請は,本国書類が他の国籍者とは大きく異なります。
まずは,その違いを理解するためにも,他の国籍者が集める一般的な書類をおさらいしておきましょう。

そもそも,帰化申請で必要な書類は大きく2つのカテゴリーに分類されます。

①申請人が日本国へ帰化することに問題がないかを審査するための書類
②日本の戸籍を作成するために必要な,身分事項に関する書類

このうち,国籍によって書類の種類が変わるのは「②身分事項に関する書類」で,一般的には多くの国では次のような書類が必要となります。

  • 国籍証明書(国籍証書)
  • 出生証明書(出生公証書)
  • 死亡証明書(死亡公証書)
  • 結婚証明書(結婚公証書)
  • 離婚証明書(離婚公証書)
  • 家族関係証明書(親族関係公証書)

※()括弧内は中国人の帰化申請における本国書類名
※なお,2021年7月から,「国籍証書」の名称が「領事証明」に変更されました。

法務局はこれらの書類を用いて,身分関係を確定させ,戸籍に記載すべき情報を導き出します。
台湾にも「結婚証明書」という書類は存在しますが,台湾人の帰化申請においては,これらの書類は一切不要です。そして,上記の証明書の代わりに,「戸籍謄本(以下「台湾戸籍」といいます。)」の提出が必要になります。

では早速,次チャプターからは「台湾戸籍」について具体的に解説していきます。

2.台湾人の帰化申請は「台湾戸籍」に注意

台湾人の方はご存知の通り,台湾には戸籍制度が存在します。その他にも,世界的には珍しく印鑑文化が根付いているなど,台湾と日本には,文化的に共通する部分が数多くあります。
これは,かつて台湾が日本の一部であったことに由来し,戦後台湾が日本でなくなった後も,戸籍制度は残り現在まで引き継がれています。
しかし,台湾戸籍は日本の戸籍と全く同じなのかというと,実際はそうではありません。台湾人の方であっても自国の戸籍制度を明確に理解されている方は少なく,あいまいな理解のまま書類取得を進めると,戸籍謄本の取り直しが何度も発生してしまいます。

2-1 全部謄本と部分謄本

まず,台湾戸籍で気をつけなければいけないのが,全部謄本と部分謄本の違いです。
全部謄本は戸籍の「全部分の写し」を,部分謄本は戸籍の「一部分だけの写し」を意味します。帰化申請においては,原則として全部謄本が必要となります。これは,戸籍謄本の提出目的が「身分関係を確定すること」であり,自分の情報だけでなく,親の結婚の情報,兄弟の出生の情報など,申請人を取り巻く全ての情報が必要になるからです。
しかし実際は,すべての場合において全部謄本を取得できる訳ではありません。例えば,前婚相手が戸主となっていた戸籍であれば,戸籍中のすべての情報の写しである全部謄本が取得できず,本人のみの情報が載った部分謄本しか取得できない場合があるようです。
このような場合には,全部謄本→部分謄本の優先順位で戸籍謄本を取得し,法務局にもその旨を説明することになります。ただし,これはあくまで例外であり,原則は全部謄本が必要になるということは覚えておきましょう。

2-2 戸籍同士の繋がり

次に台湾戸籍で注意が必要な点は,「戸籍同士の繋がり」です。
台湾人の帰化申請では,通常,両親の婚姻時からの戸籍謄本の提出を求められます。また,母親が未婚であった場合や,その他担当官が必要であると判断した場合には,「母親の出生時から」など特に指定を受けることもあります。
台湾戸籍は,韓国戸籍や日本の戸籍と同様,婚姻による入籍や新戸籍の編成,その他法改正による電算化などによって,幾重にも重なり,現在の戸籍まで繋がっています。(ちなみに,韓国は戸籍制度の廃止により現在は家族関係登録証明書に移行しています。)
そして,上記の「両親の婚姻時から」や「母親の出生時から」とは,その当時から現在までの,連続した全ての戸籍謄本が必要ということであり,単に1つの戸籍謄本で戸籍の変遷が確認できるわけではありません。

具体例を挙げると,申請人Aさんの両親が結婚した当時の戸籍を「戸籍①」とします。その後Aさんが生まれ,2回の転籍(戸籍②,③)を経て,Aさんは結婚。結婚後は,結婚相手の「戸籍④」に入籍したものの,その後離婚し,現在は自身で新たに編成した「戸籍⑤」に入っているとします。

この場合,おそらく戸籍⑤には,以前入っていた戸籍や,婚姻の情報など,これまでの戸籍の変遷が概ね記載されているはずです。しかし,帰化申請では戸籍①~④に入っていたことが記載された戸籍⑤の謄本1通の提出だけでは不十分で,戸籍①~⑤全ての戸籍謄本が必要になります。

3.台湾人の国籍喪失申請タイミングは帰化許可「前」

次に,台湾人の帰化申請の特徴として,台湾の国籍喪失手続が帰化許可「前」に求められるという点についても解説します。
まず参考として,よく台湾人と比較される中国人の帰化申請では,帰化許可前に国籍喪失の手続は求められません。これは,中国国籍法に,「外国に定住している中国人が外国籍を取得した場合,自動的に中国国籍を喪失する」という内容の規定があるからです。なお,中国人の帰化申請書類の1つである「国籍証書」にもその旨の記載があります。
これに対し,台湾人の帰化申請においては,上述の通り帰化許可がされる直前のタイミングで,担当官から国籍喪失手続き(中華民国籍喪失申請)の指示が入ります。

中華民国籍喪失申請の大まかな流れとしては,まず,台湾の大使館・領事館にあたる台北駐日経済文化代表処に必要書類を提出します。その後書類が台湾内政部へ転送され,申請から2~4ヶ月後に「喪失国籍許可証書」が交付され,これを法務局に提出することで,最終的に日本の帰化許可申請が許可となり,官報にて氏名等が公示されます。

なお,具体的な中華民国籍喪失申請の必要書類については,台北駐日経済文化代表処横浜分処の資料が分りやすいので,そちらのURLを転載いたします。

台北駐日経済文化代表處横浜分處Webサイト「中華民国籍喪失申請に必要な書類について」(https://www.roc-taiwan.org/uploads/sites/54/2018/11/%E5%9B%BD%E7%B1%8D%E5%96%AA%E5%A4%B1.pdf

4.台湾人の帰化申請まとめ

ここまでコラムを読み進めていただきありがとうございます。

本コラムの内容を簡単にまとめますと,
まず,台湾人の帰化申請は,中国人を含むその他の国籍者とは大きく異なります。
特に台湾戸籍は,台湾人の帰化申請を特徴づける大きな要素であるにも関わらず,台湾人でも深い理解を持たない方が多く,帰化申請に必要な全範囲の戸籍謄本を取得することは,想像以上に大変です。その他にも,国籍喪失のタイミングが帰化許可前というのも,比較をされがちな中国人の帰化申請との違いの1つであり,中国の国籍証書と比べると取得ハードルも高いです。

今回,本コラムを読んでいただいている皆様には,台湾人の帰化申請の概要を掴んで頂くため,台湾戸籍に関しての説明は簡単なものに留めました。しかし,実際には翻訳の問題や,戸籍の繋がりの見方の問題など,台湾戸籍には,台湾人の帰化申請を複雑ならしめる要因が沢山あります。

台湾人の帰化申請は,韓国人の帰化申請と並んで本国書類の数が極端に多く,その分行政書士への依頼メリットが大きい国籍であるとも言えます。これから帰化申請をお考えの台湾人の方はもちろん,すでに申請準備を始めているけれど,法務局からの取得指示の意味が分からない,書類不足を何度も指摘されてうんざりという方もぜひ,専門家への相談を検討してみてください。

以上,本コラムが日本国への帰化を希望される台湾人の皆様にとって,有益な情報となれば幸いです。