松原 桃子

帰化申請は行政書士に頼むべき?

いざ,自力で帰化申請をしようと決意し,ネットなどで調べると「自分で帰化申請すると,書類を集めたり書いたりするのが大変」と思うのではないでしょうか。
帰化申請手続きにはとにかく時間と手間がかかります。
そこで,本コラムでは帰化申請を自分でするのか? 
行政書士などの専門家に頼むべきなのか? 
そしてコストはいかほどかかるのか?--などについて解説したいと思います。

1.帰化申請とは?

日本への帰化申請とは,外国籍のあなたの母国の国籍を喪失して,「日本人」としての国籍・身分を得るための手続きです。外国籍を持ったまま日本に住み続けるための手続き(永住・就労ビザ等の申請・更新)とは,根拠となる法律も窓口も違います。

ちなみに帰化申請は出入国在留管理庁ではなく,あなたの住所地を管轄する法務局で行います。

2.帰化申請の流れ

外国籍の方の帰化申請に対し,日本政府(法務省)は「帰化の条件を満たしているか」を書類と面接で審査し,帰化の許可・不許可を決めます。
詳しくは,以下のページにまとめていますので,ご参照ください。

>>帰化申請 条件 はコチラ

申請者に十分な知識・情報がないと,必要な資料を勘違いして別の資料を用意したりなどして何度も書類の提出を求められたり,不許可になったりすることがありますので注意が必要です。

3.帰化申請手続きにおける行政書士の役割

「士業」と言われる法律関係の専門職には「弁護士」や「司法書士」などがありますが,中でも「行政書士」は帰化申請のスペシャリストです。

行政書士を一言で表すと,「官公署(=行政)に提出する書類作成のプロ」です。
行政書士はその業務の一つとして,「官公署(行政)に提出する書類の作成とその代理,相談業務」を行う権限があります。

代表的なもので言えば,建設業許可や外国人関連業務,相続など,取り扱える許認可申請等の種類は,1万を超えると言われます。

帰化申請は,官公署への手続きですから,行政書士が専門的に取り扱う事務の一つとなります。
帰化申請手続きは,提出・作成する書類の量が多く,内容も複雑です。
そこで,私達のような行政書士が専門家としてサポートすることで,帰化申請をする申請者の負担が減ることはもちろんのこと,行政側にとっても円滑な事務処理をすることが可能になるのです。

具体的に,帰化申請手続きにおける行政書士の役割について解説しましょう。

①法務局との折衝
まず1つ目の役割として挙げられるのが,法務局との折衝です。
シンプルに言えば,「法務局」という役所に対し,申請者一人で対応すると,たくさん分からないこと,手間がかかることが出て来ます。
書類の抜けや不備があって何度も書類の再提出を命じられ,何度も法務局に足を運んだ挙句,「帰化できません」ということも起こりえます。
審査する行政側(法務局)も,何度も指導を行わなければなりません。

その点,多くの事例を扱っている私達のような行政書士が申請人と法務局の間に入ることで,書類の再提出を求められるなどということが減り,申請人の法務局への訪問回数を最低限まで減らすことができます。
法務局としても,行政書士がサポートすることで,省力化させて帰化手続きを円滑に進めることができます。

②帰化申請人の不安軽減
帰化申請は複雑なため,分からないことがあって当然です。そのため,ご不安になる方も多いでしょう。申請者が帰化申請に不安を覚え,法務局に電話で相談しても,電話ではなかなか個別具体的な質問には答えてくれません。

その点,私たち行政書士は過去の実績から申請者の個別具体的な事情を踏まえたうえでご不安点を解消する「法務局に代わっていつでもご不安点を相談できる心強いパートナー」としての役割も担っています。

簡単に言うと,私たち行政書士は,申請人に寄り添い,帰化許可に向けて伴走する運命共同体として役割を担っています。

③書類収集,各役所対応
帰化申請手続きで最もやっかいなのは書類収集・作成と,それに伴う各役所への対応です。
必要な書類は多岐にわたり,申請者一人では,法務局から求められている書類をどの役所で取得すればよいのか分からなかったり,役所の窓口に行っても取得できなかったり,といったことが本当に多いのです。

行政書士は日本の役所で取得する公文書を申請者に代理して取得することができます。
そして,行政書士が間に入り,役所とのやり取りを行うことで,円滑に意思疎通を図ることができるため,迅速かつ的確な書類収集が可能になるのです。

④書類作成
行政書士の本分は「書類を書く(作成する)」ことです。

帰化申請のためには,以下の書類作成が求められますが,行政書士であれば,動機書以外の帰化申請書類一式をあなたに代わって作成することが出来ます。

  • 帰化許可申請書
  • 親族の概要(日本・外国)
  • 履歴書(その1)
  • 履歴書(その2)
  • 帰化の動機書
  • 生計の概要(その1)
  • 生計の概要(その2)
  • 事業の概要
  • 居宅付近の略図
  • 勤務先の略図

これらの書類は,3で集めた資料を基に,そこから正確に情報を抜き出して記載する必要があります。
帰化申請の書類作成をご自身でする場合,動機書は手書きですが,それ以外はパソコンでの入力が可能です。

しかし,法務局のホームページ上には帰化申請書類のフォーマットのご案内はないため,ご自身でパソコン入力するために申請書通りのフォーマットを作るか,民間の団体が任意でデータ化している最新のデータか分からないフォーマットを利用するしかありません。

一方で,帰化申請を専門とする行政書士事務所の多くは,法務局から入手した最新版の申請書のフォーマットをデータ化して保有しています。また,帰化申請の書類作成のルールを熟知した上で,「申請者のご事情ならこう書いたらよく伝わるのではないか?」ということを踏まえて帰化申請書類一式をデータにて作成します。

「申請人の心情や事情を過不足なく聴き取り,相手に伝わるように読みやすく申請書類を書く」ということは,まさに行政書士の本分である「官公署に提出する書類の作成」に当てはまります。

⑤内容の精査
行政書士は書類の収集・作成の代行を行いますが,それだけではありません。

行政書士は書類の収集・作成のプロセスにおいて常に「この人の帰化申請は許可されるか?そのために何が必要か」という観点から,重要な情報を全て精査しています。
書類を集める段階で,申請者の帰化申請で不利になるおそれのある情報を見つければ事前に警告します。

申請者が無防備に帰化申請に臨む前に,一緒に対策を練ることができるのは,帰化申請を行政書士へ依頼する大きなメリットです。

⑥不許可のリスクを減らす
私ども行政書士法人第一綜合事務所では,上記5で紹介した「書類内容の精査」をはじめ,帰化申請手続きがスムーズに進むような取り組みを積極的に行っています。
その中で最も大切だと感じるのは,相談業務です。

できれば,帰化申請の準備を始める前にご相談ください。

私達は「申請者が帰化の条件を満たしているか」を確認することはもとより,不許可になるリスクに気づけば,予めそれを除去することを目指しています。

4.帰化申請を行政書士へ依頼するメリット・デメリット

①自分で申請する場合の帰化申請全体の流れ
まず,ご自身で帰化申請をすると,申請の受付までどのような流れで手続きが進むのかを確認しておきましょう。

【帰化申請受付までの流れ】
法務局に電話で相談予約

法務局での初回相談(平日訪問)

必要書類の収集(日本の役所,海外の役所)

申請書類の作成(9~10種類)

法務局に電話で書類確認の予約

法務局での書類確認及び修正指示(平日訪問)

追加の資料収集及び作成書類修正

法務局での書類確認及び修正指示(平日訪問)

法務局での受付前点検(平日訪問)

法務局に電話で受付予約

法務局で申請受付(平日訪問)

これは,「帰化申請」の「受付」まで工程です。
「受付」されてから本格的に法務局での審査が始まります。

帰化申請は入管での在留諸申請とは違い,何度も法務局で予約を取り,実際に足を運ばなければなりません。人によっては,10回以上法務局へ行かれた方もいらっしゃいます。
永住許可申請などと比べると,取得しなければならない証明書類が格段に多いことも帰化申請の特徴です。

「私は自分でビザ更新をしてきたから,永住も取れたから」帰化申請も自分でできるだろうと,お考えになるかもしれませんが,帰化申請は入管へのビザ申請とは全く異なる手続きです。

②帰化申請を自分でするデメリット
まず,ご自身で帰化申請した時のデメリットについて説明します。

平日に仕事を休む必要がある
ご自身で帰化申請をする場合は,申請者が法務局に度々足を運ぶ必要があります。
法務局では休日・夜間やお昼休みの時間帯の対応はしていないため,平日に少なくとも半休を取って法務局を訪問しなければなりません。
書類の収集・作成にあたり,分からないことが出て来ても,役所に問い合わせられる時間帯は基本的に平日の日中のみです。

意外とやっかいなのが,必要書類の取り寄せです。
申請者が今住んでおられる場所とは遠く離れた場所,場合によっては海外から郵便で公文書を取り寄せなければなりません。
実務上の細かい作業が山のようにあり,思っている以上に平日に時間を作る必要があるのです。

申請受付までに時間がかかる
そもそも帰化申請には全ての工程に長い時間がかかります。
さらに厄介なのが,帰化申請手続きには「順番待ち」の時間があるということです。

日本への帰化申請をする外国籍の方は年間1万人前後です。
東京や大阪など外国籍の方が多い地域では特に,法務局に帰化申請の初回相談や書類確認の予約を取る段階から,1ヶ月以上待ちということも起こります。

ようやく初回相談や書類確認にこぎつけても,書類の不備等あれば改めて書類を集めて,電話で予約を取って――という作業を繰り返すことになります。
その結果,帰化申請書類が許可受付されるまでの期間が長くなってしまうのです。

精神力を消耗する
法務局の相談員は,残念ながら相談者の全面的な味方ではありません。相談者が必死の思いで揃えた書類も,少しの不備で容赦なくやり直しを告げられます。

「また役所に行かないといけないの?」
「また書き直すの?」
「また仕事を休まないといけないの?」
これを繰り返すと,想像以上に精神力を消耗します。

③帰化申請を自分でするメリット
ご自身で帰化申請するメリットも挙げておきます。
一言で言えば「お金がかからない」ことです。

ご自身で帰化申請する場合でも,書類を集めるための実費(郵便代や交通費など)はかかりますが,行政書士に依頼しなければ当然業務報酬は発生しません。
極力お金をかけたくないと思う方は,ご自分で帰化申請を行った方が安くなるでしょう。

しかし,デメリットの大きさと比較すると,ご自身で申請するメリットはごく僅かです。
「お金がかからない」メリットも,「何度も仕事を休まなければならない」=その間の賃金は発生しない。「面倒だから途中でやめた!」=時間と労力が無駄になる――。などのデメリットを考えると,必ずしも申請者にとって「安上り」とは言えません。

④こんな人は帰化申請を「自分でする」のがおすすめ
帰化申請を自分で行う方がいらっしゃるのも事実です。自分で申請をしても良いと思えるケースをご紹介しましょう。

時間はあるが帰化申請の費用を抑えたい人
専業主婦(夫)やフリーランスの方など,平日でも時間を自由に使える方は,時間的なデメリットはありません。
加えて,何度も役所とやり取りしたり,書類を書き直したり,法務局まで行ったり,するのが苦にならないという方であれば,ご自身で申請をすることに特段問題はないでしょう。

帰化申請の内容がシンプルな人
帰化の条件を問題なく満たしているような方。あるいは家族関係(帰化申請には影響します)がシンプルな方です。
長年会社勤めで,過去に婚姻歴もなく,家族は本国の両親2人だけといったような,シンプルな案件ですと,帰化申請に添付する書類の種類も少なく,比較的スムーズに申請が完了することが見込まれます。
ただし,こういうケースでも,なかなか1回で帰化申請が受付になることはないでしょうが,そういった事情をご理解の上であれば,ご自身で帰化申請にトライしてみても良いかもしれません。

⑤こんな人は帰化申請を「依頼する」のがおすすめ
私達専門家から見て,任せていただいた方がスムーズに帰化許可が出ると予想される場合を紹介します。

仕事が忙しく,平日に時間が取れない人
仕事が忙しく,平日に時間が取れないという方は,帰化申請手続きを行政書士へ依頼することを強くお勧めします。仕事が忙しい方は帰化申請手続きを途中で挫折してしまう場合が多いからです。

実際,当社に帰化申請をご依頼いただいたお客様の中にも,「途中までは自分で申請しようと頑張った。でも仕事が忙しくなり,一度中断してしまうと,やる気が湧いて来ない。そのまま放置状態となった」と言う方が大勢おられます。
ですから,「平日は仕事や家庭の事情で時間を取れない」という方は,初めから行政書士とタッグを組み,確実な帰化申請の手続きを進める方が良いでしょう。

会社役員,個人事業主
会社役員や個人事業主の方も行政書士に帰化申請の手続きを依頼するメリットが大きいと言えます。
その理由は,会社勤め(給与所得者)の方に比べ,会社役員や個人事業主の方は必要な公文書や帰化申請の作成書類の種類が増えてさらに複雑だからです。多くの経営者は「仕事が忙しい人」にも当てはまりますね。

会社役員特有の必要公文書と帰化申請の作成書類を掲載しますので,参考にしてみてください。

  • 履歴事項全部証明書 @法務局
  • 法人税納税証明書(その1,その2,各3年分) @税務署
  • 消費税納税証明書(その1,3年分)@税務署
  • 法人事業税納税証明書(3年分) @県税事務所
  • 法人県民税納税証明書 @県税事務所
  • 法人市民税納税証明書 @市役所
  • 社会保険料納付確認書 @年金事務所
  • 事業の概要 @作成資料

韓国籍,台湾籍の方
日本への帰化のためには,日本の戸籍に記載する身分関係の情報(国籍のある本国書類)を確定し,法務局に提出する必要があります。
本国書類は国籍国によって様々ですが,韓国籍や台湾籍の方は,本国書類の量が圧倒的に多くなります。

なぜなら,日本と同様の「戸籍制度」が過去・現在にある国・地域の方が申請人となる場合,申請人の出生年月日までに作成された全ての戸籍謄本が必要となるからです。そして,申請人の出生年月日までに作成された本国の戸籍謄本を取得するために,特に年齢の高い方は戸籍を何代も遡らねばなりません。そのため,本国書類の量が多くなる傾向にありますし,収集するだけでも,非常に複雑で手間がかかります。
特に韓国籍の方であれば,本国書類の取得は委任状を使用し行政書士に依頼ができるので,専門家に依頼するメリットはより一層大きいと言えます。

5.行政書士へ帰化申請を依頼した場合のコスト

みなさんが気になるのは「行政書士に依頼したらいくらかかるの?」ということでしょう。

日本行政書士連合会が全国の行政書士に対して行った「報酬額統計調査」の最新版(令和2年度)によると,帰化許可申請における報酬は,

・被雇用者(会社勤めなど)
平均は177,500円
※10万円以上20万円未満が最も多く64・2%
・個人事業主及び法人役員
平均は250,667円
※20万円以上30万円未満が最も多く42・1%
・簡易帰化
平均は172,167円
※15万円以上20万円未満が最も多く,33・3%です

帰化申請者のご事情や各々の行政書士によって報酬価格は違いますが,この統計調査で中央値はご確認いただけます。

6.どの行政書士に帰化申請は相談するべき?

行政書士に依頼するコストは安いとは言えません。なるべく安くあげたい。自分の住まいの近くで手軽に利用できる行政書士に頼みたいと思うのは当然です。
ですが,値段と近さだけで行政書士を選ぶことはお勧めできません。

その理由は,帰化申請を専門で扱う行政書士は多くはありません。
日本には5万人以上の行政書士がいます。そして,行政書士は取り扱う許認可申請等の種類は約1万件とも言われています。

幅広い職務領域の中にあって,帰化申請を一度も扱ったことがない行政書士も多いのです。
ですから,帰化申請を考えておられる方にはまず,帰化申請実績が十分にある行政書士がお勧めです。

7,帰化申請は行政書士に頼むべき?のまとめ

ここまで読んでいただき,帰化申請を自分でするメリットとデメリットはイメージできたでしょうか。

「日本への帰化」という目的をスムーズに早く達成するには,自分は帰化の条件を満たしているか。何のためにどのくらいの書類が必要で,いくつの役所が関わっているのか。書類には何を書けばよいか。全部の書類を揃えるのにどれくらいの時間がかかり,自分はその時間を十分に確保できるのか―などといった手続きの全体的な流れとボリュームを知っておくことが必要です。

多くの方は,このような全体像の見通しをつけることそのものが難しいのです。ご自分の時間と労力,実現可能性を考えた上で,行政書士に依頼することのメリットも考えてみてください。

私たちは,帰化の専門家として,自分一人で帰化申請をやろうとして法務局や国内外の役所とのやり取りでくたびれ果てた方々を見て来ました。
行政書士に依頼することでお金はかかりますが,無駄な心労を減らすことができます。

このコラムが,帰化申請を考える外国籍の方の前向きなヒントとなれば幸いです。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

松原 桃子

・令和元年度行政書士試験合格
兵庫県出身。大阪オフィスに所属し,日本国籍を取得するための帰化許可申請業務を専門としている。

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