松原 桃子

ベトナム人の帰化申請

日本に住むベトナム人は10年前と比較すると40万人以上増加しています。
その背景には,留学生や技能実習生,特定技能外国人の増加があります。
本コラムでは,日本国籍取得を目指すベトナム人の方へ向けて,ベトナム人の帰化申請を解説していきます。

1.ベトナム人が帰化申請するとは?

ベトナム人が帰化申請するとは,ベトナム国籍の方が,本人の希望によって,日本の国籍を取得して『日本国民』になることを言います。

帰化をすれば,日本で戸籍を持ち,参政権を持ち,ビザの更新なくずっと日本に住み続けられる等,「日本人」としての権利を得られます。
簡単に言えば「日本人」としての身分を得るのです。

もちろん「日本人になる」ための審査は,無条件に誰にでも許可されるものではありません。「この人は『日本人』になる条件を満たしているか,この先ずっと『日本人』として,日本国民たる義務を果たし,日本で暮らして行く気があるのか」など,いろんな点での審査が日本政府(法務省)によって行われます。

また,日本は二重国籍(二つの国どちらにも国籍があること)を認めていませんから,ベトナム人の方が帰化(日本国籍を取得)するためには,ベトナム国籍の喪失手続きが必要になります。

2.日本に滞在するベトナム人の数

日本の法務省の外局である「出入局在留管理局」が公表している,2022年6月末の日本在留ベトナム人は47万6000人強です。
この数は2020年に初めて韓国人を抜いて以来,1位の中国に次いで2番目の多さです。

国籍・地域別 在留外国人数の推移(上位5か国・地域)グラフ
引用元:出入国在留管理局:国籍・地域別在留外国人の推移

日本に在留するベトナム人の数は,2012年には5万2000人強でした。
しかし,ここ10年で大幅に増加しています。
新型コロナウィルス感染症の影響で2021年には減少に転じましたが,2022年には再び増加に転じ,47万人に伸びています。

それに伴い,日本国籍への帰化を申請するベトナム人の数も増えているようです。
これは法務省が帰化申請を「許可した」外国人の数ですが,2019年から2021年まででベトナム人は①韓国・朝鮮②中国③ブラジルに次いで第4位。
2019年は264人,2020年は301人,2021年は269人です。

国籍別帰化許可者数
2019年 2020年 2021年
1 韓国・朝鮮 4360 韓国・朝鮮 4113 韓国・朝鮮 3564
2 中国 2374 中国 2881 中国 2526
3 ブラジル 383 ブラジル 409 ブラジル 444
4 ベトナム 264 ベトナム 301 ベトナム 269

引用元:法務省民事局 国籍別帰化許可者数

帰化許可申請は日本に引き続き5年在留という住所要件が原則定められています。
2017年頃から日本に在留するベトナム人が多く増えたことを見ると,今後もベトナム人の帰化許可申請は増加すると考えられます。

3.ベトナム人の帰化申請の流れ

帰化申請手続きの流れは,どの国でもだいたい同じです。
各国の法律によって異なるのは,その方がもともと持っている国籍の喪失手続きのタイミングです。

帰化制度の建付けとしては,その方がちゃんと日本国籍を取得できたと分かってから,自国の国籍を喪失する手続きをするのが一般的です。
韓国は帰化許可後,中国は官報公告後~身分証明書発行前,といった具合です。

しかし,ベトナムは韓国や中国と違って帰化許可処分前に国籍喪失手続きをすることが一般的です。

ベトナム国側から見ると,一定の条件下で二重国籍が認められます。
もっとも,日本の国籍法が二重国籍を認めていないことから,帰化申請のためには必ず国籍放棄をしなければなりません。

そのため,日本国籍取得の前に国籍放棄の手続きをすることになります。

上記を踏まえて,ベトナム人の帰化申請の全体の流れを見ていきましょう。
おおまかな手続きの流れは以下の通りです。

帰化申請受付までの流れ

4.ベトナム人の本国書類(一般)

上記のように,外国人の帰化申請に必要な書類はたくさんあります。
申請する方の国籍によって,法務局に提出する書類は異なります。

まずは,外国人の帰化申請で一般的に本国から取り寄せなければならない書類を以下に挙げます。

  • 国籍証明書
  • 出生証明書
  • 親族関係証明書
  • 両親の結婚証明書(申請人が既婚者の場合は本人の結婚証明書も必要)

ベトナム人が帰化申請するためには,上記に対応する書類の全てを本国の政府機関から取得することになります。

ベトナム人の帰化申請手続きで本国から取り寄せる必要がある書類は,以下となります。

  • 国籍証明書
  • 本人および兄弟姉妹の出生証明書
  • 本人および両親の結婚証明書
  • 母親からの申述書
  • 戸籍簿

ただし,帰化申請をされる方の状況や法務局によっては,必要書類が異なることがあります。
帰化を申請する方が日本で生まれた場合などは,上記通りの書類が取得できない場合があり,別途対応が必要になります。

そのため,上記はあくまで参考程度としてご覧ください。

5.ベトナム人の本国書類(難民)

ベトナム人の帰化申請には,もう一つ特殊な事情があります。
それは,「難民」と呼ばれる枠があることです。

1975年,ベトナム・ラオス・カンボジアのいわゆる「インドシナ3国」で,国家の体制が社会主義に変わりました。
その時,その国に住んでいては経済面で制限されたり,迫害の対象になったりするかもしれないと危険を感じた人々が「難民」として国外に脱出しました。
その中の一部は,いわゆる「ポートピープル」と言って,文字通り小さな船に乗って国外に逃れました。

現在日本に住むベトナム人の中には,この時の脱出先に日本を選んだ難民の方やその子孫がいらっしゃいます。

そのため,ベトナム本国でベトナム国籍者でない扱いを受けている可能性や,両親の関係からベトナム国籍の手続きを行っていない可能性があるため,本国書類が取得できない可能性があります。

そこで,基本的にはパスポートや国籍証明書の代わりとなる書類が必要となります。
各種書類の代替となる書類は以下となります。

  • パスポートがない→再入国許可書
  • 国籍証明書がない→定住経歴証明書
  • 出生証明書がない→出生地国(日本で生まれた場合は日本)政府機関発行の出生証明書
    ※ベトナム出国後に出生した場合

もちろん,慌ただしくベトナムを出国した方でも「この書類だけは持って来た」と言う方もおられるでしょうから,ケースバイケースです。
ベトナム出国時に自分の「出生証明書」や「婚姻証明書」は持って来たという方も中にはいらっしゃいます。

本国から持ってきた書類が手元にある方で,かつ,二度と手に入れることが出来ない性質の書類であれば,法務局と交渉し,その旨を説明したうえで,原本還付に応じてくれる場合もあります。

このように,「難民」として来日された方の帰化申請手続きは,通常の手続きで日本に入国された方とは異なります。
ご両親からの申述書などを記載してもらい,本国書類の代わりに提出するケースも帰化申請の実務ではあります。

そのため,自分や親が難民で日本に来たからといって,帰化申請を諦める必要は全くありません。
弊社では,ベトナム人の難民の方の帰化許可の事例も多数ありますので,お困りの方は一度ご相談ください。

6.ベトナム人の帰化申請の小ネタ

上記の他にベトナム人のお客様の帰化申請をサポートする際に,注意が必要な小ネタをご紹介します。

①ベトナム本国の書類について

本国書類について,ベトナムでは同じ種類の書類でも2種類あります。

1つは,一生に一度しか発行出来ない書類。
もう1つは,再取得可能な書類です。

帰化申請においては,本国書類は原本の提出が原則です。

しかし,原本を提出してしまうと再取得できない書類もあります。
そのため,誤って一生に一度しか発行出来ない書類を法務局に提出してしまわないように,本国の住所地を管轄する人民委員会に再取得可能か事前にご確認頂く事をお勧めします。

②翻訳は全て日本語で行う必要があります

日本にあるベトナム大使館や領事館は,日本語への翻訳サービスを提供しています。
しかし,こちらに翻訳を依頼した場合,人物名についてはアルファベット表記のまま納品されます。

化申請に添付する翻訳文は人名や地名も含め全てカタカナに変換する必要がありますので,ご自身で翻訳をする方も,この点にはご注意ください。

③帰化許可後の名前を決める必要があります

日本には「戸籍制度」があります。
基本的に帰化申請の提出書面に記載した名前を名乗ることになります。
そのため,帰化申請の前に決めておかねばなりません。

ベトナム語による表記をそのまま帰化許可後の氏名として使用することはできません。
カタカナ・ひらがな・漢字の表記の組み合わせで「日本で名乗る名前」を考えておく必要があります。

なお,ベトナムと異なり,日本は「夫婦同姓」です。
そのため,夫婦で日本国籍を取得した場合には,夫婦で同じ苗字を名乗る必要がある点には注意をしてください。

④出生地は病院名ではなく住所を記載してください

ベトナム出生証明書の出生地欄には生まれた病院名のみが記載されていることが多いです。しかし,帰化申請書にそのまま病院名を記載してはいけません。
そのため,帰化申請書には病院の所在地を調べて,生まれた病院の所在地を記載するように気を付けましょう。

在日ベトナム領事館,大使館,難民事業本部を活用する

ベトナム人の帰化申請にあたり,必要な書類を集めるのは大変な労力です。
特に,既に日本に住んでおられるベトナム人の方は,直接にベトナム本国の役所とやり取りする前に,在日のベトナム領事館・大使館に相談・申請することで得られる書類もあります。
そのため,在日のベトナム領事館・大使館に相談するのも労力を削減させるための有効な手段となります。

また,上記に挙げた難民枠の子孫の方であれば,「公益財団法人アジア福祉教育財団」の難民事業本部が,インドシナ難民とその子孫が日本で自立・定住していくための支援をしています。
こういった機関に相談するのも一つの方法です。

何もかも一人でしようと思わず,活用できる相談窓口は有効に利用してください。

7.ベトナム人の帰化申請まとめ

本ページでは,ベトナム人の方の帰化申請について見てきました。

ベトナム人の帰化申請について簡単にまとめると,

  • ベトナム人の国籍放棄のタイミングは,帰化の許可が出る前です。
  • ベトナムの法律で,国籍放棄が出来ないことがあります。該当していれば日本国籍は取得できませんので,必ず事前の確認が必要になります。
  • 本国から取り寄せる書類については,ベトナムだから特別に難しいということはありません。
  • ベトナムの場合は「難民」の方やその子孫(日本で生まれた方)などの場合にイレギュラーなことが発生することはあります。しかし,難民・難民の子孫だからといって帰化ができないわけではありません。

上記の特徴を前もってしっかり理解していれば,帰化手続きを進められる可能性が高いです。

しかし,ベトナムに限らず,一般的に帰化申請手続きは書類の量も多く,申請前から許可に至るまでの期間も長いです。帰化申請を一人で行うのは想像以上にハードです。

私達は国際業務に専門特化している行政書士法人です。
ベトナム人のスタッフも在籍していることから,ベトナム語でのご相談も可能です。
帰化申請をお考えの方はぜひ一度,行政書士法人第一綜合事務所の無料相談をご利用ください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

松原 桃子

・令和元年度行政書士試験合格
兵庫県出身。大阪オフィスに所属し,日本国籍を取得するための帰化許可申請業務を専門としている。

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