関西大学
国際部教授 池田佳子 先生
グローバル化の時代を切り拓く,
外国人留学生の可能性を伸ばす環境が
次代で輝く大学のブランド力に。
PROFILE
関西大学国際部教授。2006年,ハワイ大学にてPh.Dを取得。トロント大学,名古屋大学で教鞭をとり,2015年よりより現職。専門は,国際教育,英語および日本語教育,会話分析。学校の枠を超え,産官学金地が連携する「CARES-Osaka」や,産官学民が連携した「SUCCESS-Osaka」などのプロジェクトにも参加。外国人留学生と社会をつなぐ活動にも精力的に取り組む。
アカデミックな分野においても,急速にグローバル化が進んでいます。
数多くの大学が,その潮流に対応しようとさまざまな取り組みに乗り出す中で,ひときわ注目を集める取り組みを展開し続ける大学があります。
それが,関西大学です。今回は,その取り組みの中心的人物として舵をとり,国際部の教授を務める池田佳子先生にお話をお伺いしました。どのような思いを持ち,外国人留学生の拡充に取り組みながら未来のビジョンを描いているのでしょうか。
外国人留学生に情熱を込める
関西大学としての思い
- 若松:
- 外国人留学生の方々に対する,関西大学の取り組みや考え方にとても興味がありました。一方で,それだけ力を注ぐということは大変な面も多い中で,何を原動力として取り組みを続けておられるのか。その思いを知りたくて,今回はお話をお伺いする機会をいただきました。
- 池田先生:
- こちらこそ,よろしくお願いします。原動力という意味では,大学の新たな役割として“学修の場所”から“未来を創る場所”としての価値を磨きたいという思いがあります。
- 若松:
- 大学として新しい価値を作っていこうと?
- 池田先生:
- そうなんです。わざわざ母国を離れて留学をする訳ですから,「関西大学で学んで良かった」と思ってもらえるような学修機会を用意するのは基本。学びやすい。深く学べる。日本だからこそ学べた。それをキーワードに授業などを行うのが“学修の場所”としての価値です。
- 若松:
- その上で新たな価値を築きたいということですね。
- 池田先生:
- えぇ。例えば,日本の大学で学んだ学生が母国に帰ったり別の国で就職したりすることって往々にしてありますよね?そう考えると,グローバルな視点が重要だと思っているんです。日本独自の企業ルールや企業マナーだけに固執せず,海外の企業でも役立つような教育を行うこと。
- 若松:
- 世界で生き抜く力を教えると。
- 池田先生:
- はい。それに加えて言えば,今だけ通用する知識や教養を伝える教育から,将来を見通した教育が必要だと考えています。例えば,色々な数値や見解が出ていますが,10年先か20年先には,今ある職業の65%は無くなると言われています。
- 若松:
- AI化や自動化の影響で職業のカタチが変わると言われていますよね。
- 池田先生:
- そう考えると,今だけ通用する教育は,将来的に無くなるかもしれない職業の型にハメることになってしまいかねない。だからこそ,次の時代を生き抜けるというか,普遍的な力強さを培える教育が必要だと思っています。
- 若松:
- それが,“未来を創る場所”としての価値なのですね。
- 池田先生:
- せっかく関西大学に来て出会った外国人留学生の方々が,ちゃんと未来を描けるような環境にしたい。その強い思いが,大きな原動力になっています。
大学の枠を越えて,
力強いサポート体制を築く
- 若松:
- “外国人留学生の未来を見通した教育”というのは本当に素晴らしいと思います。池田先生は,海外の大学や教育施設と深いつながりがあるからこそ,広い視点で将来的に必要な教育が見えるのでしょうね。
- 池田先生:
- ありがとうございます。その思いをもっと具体的に実現しようという思いから,大学以外の機関と連携する活動にも積極的に取り組んでいますよ。
- 若松:
- 関西大学が幹事校になって,色々なプロジェクトを展開されていますよね。特に,留学生が卒業した後,日本で就職した際の定着率を高めようと取り組んでいる「CARES-Osaka」は,何かと注目を集めていますね。
- 池田先生:
- この取り組みは,どれだけ優れた教育の場所や働きがいを得られる就職先があっても,地域とのつながりが希薄だとどうしても日本での定着率が低下してしまう。その課題を解決しようという思いから立ち上がりました。産・官・学・金(金融)・地(地域)が「大阪=第二のふるさと」の創生をめざして組織したコンソーシアムです。
- 若松:
- 自分が暮らす地域に愛着をもってもらうということですよね。
- 池田先生:
- そうです。“地域に愛着を持とう”という言葉を具体的に言うと,地域や地域の人々の魅力に触れたり,外国人材にその地域に暮らす必然性を感じてもらったりといった意味です。北海道のニセコ町で良い例があります。ワーキングホリデーや旅行で数多くの外国人旅行者が訪れるという環境を活かして,インバウンドビジネスを地域の方が興したのです。すると,町が活性化してきたので,当然地域の方は海外からの旅行者を大歓迎。不可欠な存在になって良い関係性を作ることができたのです。
- 若松:
- なるほど。その土地で暮らす“使命”というか“意味”を見出だせるようにする訳ですね。
- 池田先生:
- あと,就職面のサポートにおいては「SUCCESS-Osaka」というプロジェクトに取り組んでいます。
- 若松:
- 高度外国人材のキャリアサポートを行う取り組みですね。
- 池田先生:
- はい。専門分野においては優れた能力を発揮するにも関わらず,日本企業のマインドセットに対応できないなどが理由で離職してしまうことが問題としてありました。
- 若松:
- まさに,異文化の壁に阻まれてせっかくの人材価値を活かしきれなかったのですね。
- 池田先生:
- そこで,内定時や就職後の相談サポートや,コミュニケーションスキルの向上をめざす機会などを用意して,離職リスクを減らそうという取り組みです。
- 若松:
- 国籍が違ってもうまく関係性を作れるサポートを行うのですね。
- 池田先生:
- 実際,そうしたサポートを行うことで自然と関係性が醸成されていきます。ある時,日本の企業と外国人材の交流会を開いたことがあるんです。最初は,いかにも外国の方と接しているというぎこちない雰囲気で始まります。
- 若松:
- 外国の方と接する経験が少ないとそうなりますよね。
- 池田先生:
- それが,お茶を飲みながらじっくりとお話を進めていくうちに,互いのパーソナリティーを理解して,名前で呼び合い,最後は連絡先まで交換する。その前段として互いの文化や考えを理解する教育を行うことで,このように自然と良い関係性が育まれるのです。
- 若松:
- なるほど。「CARES-Osaka」や「SUCCESS-Osaka」の活動を通して,まさしく池田先生がおっしゃる“未来を創る場所”としての価値に磨きをかけているのですね。
外国人留学生が輝く場所こそ,
次代に求める大学のブランド力に
- 若松:
- お話を聞いていると,外国人留学生の方々が卒業後も活躍できる環境作りに取り組むことは,大学全体の価値向上にもつながるように思いました。
- 池田先生:
- まったくその通りだと思います。近年の動きを見ていると,中国や東南アジアも留学生にとって魅力的な取り組みを始めています。特に最近は,マレーシアが注目を集めています。欧米にある大学の分校化が進んでいるのですよ。マレーシアの大学で学びながら,連携大学の学位をとれる。さらには,授業料は欧米留学に比べても格段に安い。
- 若松:
- それは,魅力的ですね。
- 池田先生:
- そうした動きが活発になる中で,「この大学に留学すれば,未来もしっかりと描ける」という価値は,海外の学生に響く大学独自のブランド力になると思っています。同時に,外国人留学生の方々だけではなく,日本の学生にとってもその価値は意味があるように感じています。
- 若松:
- 外国人留学生の方々と交流の機会が増えることの価値ですよね?
- 池田先生:
- そうです。日本と海外の学生が触れ合って,精神が摩耗するような経験をしてほしいと。
- 若松:
- 文化の壁に向き合う経験をしてほしい?
- 池田先生:
- えぇ。今,日本と海外の学生をオンラインでつないで,互いが協力してひとつの課題を解決しようという授業に取り組んでいます。国籍が違うと,ルールや考え方も違う。
その中で,ひとつの課題を解決していくのは色々な困難が伴うのです。 - 若松:
- 日本では当たり前だと思っていても海外の人にとってはそうじゃないというのは,社会に出てからも遭遇する問題です。
- 池田先生:
- 細かい部分で言えば,どれくらいの頻度でメールをチェックするのか。期日をちゃんと守るか。それに,海外の方は割とハッキリと意見を言ったり,相手の弱点を指摘したりする。その中で,泣いてしまう日本の学生もいるほどです。
- 若松:
- まさに,精神が摩耗する経験ですね(笑)。
- 池田先生:
- 本当にそうなんです。ただ,社会に出れば,海外の方を相手にビジネスの場面で契約をすることもあれば,国際結婚でパートナーと暮らしを共に作っていく場面もあるでしょう。その時に役立つ授業に取り組めるのは,大学の価値につながるはずです。
- 若松:
- まったくその通りだと思います。留学生1人を受け入れるだけで,その学びの価値を生み出すのですから。
- 池田先生:
- 長期であれ短期であれ,外国人学生と接する機会を増やして,日本人学生に国際感覚を培ってもらう。一方で,外国人学生は日本的な文化やコミュニケーション力を磨いて,日本企業で活躍できる人材に成長していく。そうした環境を整備すれば,大学のブランド価値も自ずと高まっていくと思うのです。
- 若松:
- 外国人留学生の方々の可能性を伸ばす環境作りは,日本の学生はもちろん,大学にとっての得難い価値を創造することにもつながるのですね。
さらなる飛躍を期待して
新たな取り組みにも一歩ずつ
- 池田先生:
- 私が,授業や色々なプロジェクトを通して実現しようとしている,外国人留学生の方々の未来を描ける環境作りは,第一綜合事務所さんとの出会いが良い刺激になってより先鋭化したように思っています。
- 若松:
- どのような部分でそう感じられたのですか?
- 池田先生:
- 留学生のビザ取得に関して,書類を作成する事務作業という認識では無かったですよね?卒業した後の進路や将来設計まで考慮した上で,それにふさわしい手続きを行うというか。例えるなら,ファイナンシャルプランナーみたいなイメージでした。
- 若松:
- ありがとうございます(笑)。やはり,人生に大きく関わる分岐点ですからね。
- 池田先生:
- 家族のことをはじめ,教育や老後まで,未来に向けた総合的な資産運用を相談する感じです。決して,一時的な相談ではなく末永くお付き合いをするような。その姿勢が私たちの思いと上手く合致して,さまざまな取り組みが活性化したように感じます。
- 若松:
- 私も池田先生と同じように,関西大学さんとお付き合いをさせていただくようになって,色々と刺激を受けました。
- 池田先生:
- 何が一番,印象的でした?
- 若松:
- やはり,もともと関西大学さんは積極的に外国人留学生の方の受け入れをされていたので,法的な意味でもビザ取得に関わるプロセスも丁寧で慎重に進められていた印象です。それだけ外国人留学生の方に対して熱い思いをお持ちであることにとても影響を受けました。
- 池田先生:
- その影響で,若松さんの中で何か変化があったのですか?
- 若松:
- 大いにありました。ひとつは,そうした外国人留学生の方々に対する思いや,将来まで見通した教育の姿勢を見習って,これまでとは違う動きも積極的に行うようになっています。
- 池田先生:
- どんな取り組みですか?
- 若松:
- 例えば,外国人社員に対する理解を深めるために,社内での勉強会を行ったり,母語で相談できるサポート体制を作ったり。ビザ取得の後も,ちゃんとその場所で輝けるような取り組みを行っています。
- 池田先生:
- それは,素晴らしい取り組みだと思います。
- 若松:
- あと,企業が面接後に採用を検討してからビザの手続きを行うのですが,その時点で初めて取得ができないと判明することがあるのです。これは,企業はもとより外国人材にとって大きなリスクが伴います。だからこそ,面接の段階から参加し,そうしたリスクを未然に防ぐ取り組みも行う予定です。
- 池田先生:
- ちゃんと人生設計まで見越した対応ができる訳ですね。逆に,外国人材の活用などで,たくさんの企業様とお付き合いがある若松さんから見て,今後私たちが取り組むべきことなどはありますか?
- 若松:
- やはり,2019年3月に「高度人材ポイント制」も改正されたので,高度専門職をこれまで以上に獲得してほしいと思いますね。
関西大学さんは,指定校のリストにも入っていますので,ぜひとも取り組んでほしいです。 - 池田先生:
- そうですね。これから高度専門職に対する意識を高めながら,若松さんや各方面の専門家に相談を重ねながら,一歩ずつ獲得に向けて動き出したいと思います。
- 若松:
- 学校の活性化や魅力を高めることにも結実するはずです。そのときは,ぜひご協力をさせてください。今日は,いろいろなお話をお聞かせいただきましてありがとうございました。
(取材・文 橋本未来 / 撮影 吉村竜也 取材日:2020年1月8日)