仲野 翔悟

入管手続きにおける行政書士の役割

外国人と結婚して日本で一緒に生活したい,外国人を雇い入れたいなど,外国人が日本に滞在や移住する場合,通常は入管(正式には 「地方出入国在留管理局 」)にビザ申請をして在留するための許可を得なければなりません。
でも,どんな手続きをしなければいけないのか,誰が手続きをしなければならないのか,どんな書類を提出しなければならないのか…。
国際化が進んでいる日本といえども,皆目見当がつかないという方も少なくないのではないでしょうか。
そのような時には,入管業務の専門家である行政書士に依頼すれば複雑な入管手続きをスムーズに行うことができます。
今回は,入管手続きにおける行政書士の役割に注目してみましょう。
本ページでは,申請取次行政書士の説明をはじめ,入管手続きにおける行政書士の役割を記載しています。

1.行政手続における行政書士の役割

入管手続きにおける行政書士の役割を見ていく前に,まずは行政手続全般における行政書士の役割を見ていきましょう。

行政書士の他に「士業」(さむらいぎょう,しぎょうと言われる○○士と名前のつくもの)と言われる職業には,弁護士,司法書士,税理士などがあります。ざっくり分類すると,弁護士は刑事手続や民事紛争に関する訴訟手続などを,司法書士は不動産や法人に関する登記手続などを,税理士は税に関する手続を業務としています。

では,行政書士はと言うと,「官公署に提出する書類の作成,手続の代理」がその業務とされています(他にも行政書士の権限とされている業務がありますが,ここでは割愛します。)。

つまり行政書士は,役所に提出する書類を作成し,提出する権限があります。
業務独占資格と言って,行政書士以外の者が,他人からお金をもらって役所に提出する書類を作成した場合は,行政書士法違反になります。
そのため,行政書士と弁護士以外の人から,報酬をくれれば入管手続きを引き受けると言われても,それ自体が法律違反になることから,絶対に依頼しないようにしましょう。

行政書士は依頼人に代わって提出書類を作成し提出することによって,難解複雑な行政手続きを迅速かつ円滑に行うことが期待されています。
依頼者にとって便利であることはもちろんですが,行政側にとってもスムーズに手続を進めることができる点でメリットがあります。

つまり,行政書士には,行政機関と申請人の橋渡しをすることによって,両者の利便性を図る役割があるのです。

2.行政書士の独占業務「入管業務」とはどのような手続きか?

入管業務とは,適法に外国人が日本に滞在できるように,在留審査のための書類を作成して地方出入国在留管理局へ提出する業務のことを言います。

具体的には,外国人が日本の企業に就職するための在留資格の変更や,国際結婚をして日本で結婚生活を送る場合の在留資格の申請などが代表例です。

法的に入管業務ができる資格者は,行政書士と弁護士だけです。

3.申請取次行政書士とは?

入管手続きの申請ができる行政書士のことを申請取次行政書士といいます。

申請取次行政書士は,行政書士が所属する都道府県ごとの行政書士会を経由して地方出入国在留管理局長に届け出ることによって登録されます。
届出だけなので行政書士なら誰でも登録できるように思われますが,日本行政書士会連合会が主催する出入国管理に関する研修を受け,さらに効果測定と呼ばれる試験を受けて合格した行政書士のみが登録ができる制度になっています。
有効期間は3年で,更新の度に研修・効果測定を受けることになります。

申請取次行政書士は,めまぐるしく変わる入管法を勉強し,研鑽を積まなければなりません。
これによって,入管業務に必要な知識を行政書士が備えていることを制度上担保しているわけです。

①申請取次行政書士のできる手続き

入管手続きも行政機関の一つですので,行政書士が申請書類を作成し,入管に提出することができます。
どの行政書士でも申請書類を作成することはできるのですが,入管にその書類を提出することができるのは,一部の行政書士に限られています。
それが,申請取次行政書士です。

入管業務を専門にしている行政書士であれば,ほとんどが申請取次行政書士として登録していると思いますが,中には登録していない行政書士の方もおられます(当事務所では,もちろん所属行政書士全員が申請取次行政書士として登録しています。)。

申請取次行政書士でない行政書士に依頼した場合には,申請書類は作成してもらえるのですが,申請をするには自分で入管に行かなければならないということになってしまいますので,相談の際に申請取次行政書士かどうかは確認するようにしましょう。

②申請取次行政書士に依頼するメリット

申請取次行政書士に依頼すると,様々なメリットがあります。
まずは,申請取次行政書士に依頼することにより,申請人である外国人が自ら出入国在留管理局に行く必要がなくなります。
そのため,煩わしい入管手続きの時間を,学業や仕事などに当てることができるのです。
また,日本語がよくわからなくても,申請取次行政書士に依頼することによりスムーズに入管手続きを進めることができます。

4.行政書士は申請人を代理できない!?

では,申請取次行政書士に申請を依頼した場合,依頼を受けた行政書士は申請人の代理人か?と問われると,答えはNOです。
弁護士は訴訟代理人と言われるように,依頼人の代理人となるわけですが,申請取次行政書士は,申請「代理」ではなく,申請「取次」なのです。

代理というのは,代理人が本人に代わって本人のために行為をすることをいい,代理人が行なった行為は本人に効果が及びます。
入管法でも在留資格ごとに申請代理権が定められており,例えば「日本人の配偶者等」の場合は,日本にいる外国人本人の親族と定められています。
海外にいる外国人は,日本にいる親族に申請をお願いできるわけです。
しかし,行政書士は,入管法に代理人として規定されていません。
その点は,誤解が多いので注意してください。

では,取次とはどういうものなのかというと,一言で言うと伝達役です。
申請を行うのはあくまで申請人本人もしくは申請代理人であって,申請取次行政書士はその申請を入管まで運んできた,という位置付けにとどまります。

ちなみに弁護士も申請取次弁護士として登録できるのですが,この場合も代理人ではなく,取次にとどまります。
弁護士であろうが行政書士であろうが,現行入管制度は士業に申請代理権を認めていないのです。

実際上,代理と取次で大きく異なる点は2点あります。

まず,代理の場合は,本人の利益のためであれば代理人が独自で判断して,申請に関する行為,例えば申請を取り下げることができます。
これに対して,取次はあくまで伝達役なので,申請人本人もしくは申請代理人の意思なくして,独自で判断することはできません。

次に異なる点は,申請書の署名です。
代理の場合は,代理人が申請人本人に代わって申請をするわけですから,代理人が申請書に署名します。
これに対して,取次は申請取次行政書士が自分の署名をすることはできませんし,本人や申請代理人に代わって署名を代筆することもできません。

なお,取次者として申請書には記名と職印を押印しますが,これは申請の本質的な部分とはされていません。

5.行政書士が行う入管手続き

外国人が日本に在留するための入管手続きは,出入国在留管理局への申請が必要です。
入管手続きは原則的に日本への在留を希望する外国人が自ら行わなければなりませんが,申請取次行政書士であれば外国人の代わりに申請を行うことが可能です。
申請取次行政書士に申請を依頼をすることにより,外国人自ら出入国在留管理局へ出向かなくてもよくなります。
申請取次行政書士が外国人の代わりに行う入管手続きのための申請は,以下になります。

  • 在留資格認定証明書交付申請
  • 在留資格変更許可申請
  • 在留期間更新許可申請
  • 永住許可申請
  • 在留資格取得許可申請
  • 資格外活動許可申請(学生アルバイトなど)
  • 就労資格証明書交付申請(転職など)
  • 再入国許可申請(海外旅行,一時帰国など)

6.どのような行政書士に入管手続きを依頼するべきか

入管手続きは,外国人の人生をも左右することから,非常に大切な手続きです。
本チャプターでは,どのような行政書士に入管手続きを依頼すべきか,専門家の視点から記載しています。

①入管への申請取次をしてくれる

上記のとおり,行政書士には申請取次資格を保有する行政書士とそうではない行政書士がいます。
時に,入管へ提出する書類のみを作成し,入管への提出はお客様が行うとしている事務所もありますが,入管業務の専門事務所であれば,必ずといって良いほど申請取次を行っています。
そのため,専門性の観点からも,入管手続きは申請取次してくれる行政書士に依頼することをお勧めします。

②入管手続きの実績が十分にある

入管手続きについては,入管法の他,施行規則,省令,ガイドラインなど様々な知見が必要となります。
また,法令等のみならず,入管実務に熟知していることが求められます。
これらの知識は,机上でインプットすることは困難で,入管実務を日々行っていることによって培われるものがほとんどです。
また,入管局によっての取扱いの差異も結構あったりします。
そのため,入管手続きを行政書士に依頼する場合には,入管手続きの実績を重視されることをお勧めします。

③相談の際に“見立て”を明確にしてくれる

本事項も入管手続きの実績があるから実現できることにはなりますが,相談段階で“見立て”を示してくれない行政書士に依頼することはお勧めできません。
単に在留資格の許可可能性だけではなく,不許可の場合にはどのようになるのか,またその際にはどのように対応していくのか,予めリスクマネジメントする能力が入管手続きを行う行政書士には求められます。
少なくとも,不許可の場合には返金して,その後についてはフォローしてくれない行政書士に依頼するべきではありません。

④必要な場合には言語対応してくれる

行政書士が入管手続きを受任する際,ヒアリングは非常に重要です。
近頃は翻訳機等も発達してきてはいますが,やはり細かな事情をお伺いするためには,言語対応が必要なケースもままあります。
また,配偶者ビザなどの事例では,日本人配偶者のみが事情を理解し,外国人の配偶者は申請内容を理解していないようなケースでは,入管からの実態調査の際,誤解を与えてしまいトラブルになることもあります。
入管手続きを専門にしている事務所であれば,通訳会社と連携しているところも多いことから,依頼する行政書士を検討する場合に,言語対応を一つの指標としてみてください。

⑤費用を明確にしてくれる

入管手続きは,一度入管へ申請すればそれで終わりというわけではなく,入管から追加資料の要求を受けることがあります。
この際に都度,追加費用が掛かることでトラブルになっているというお話を耳にします。
そのため,行政書士との契約段階で追加費用の有無についても確認するようにしましょう。

7.入管手続きにおける行政書士の役割のまとめ

申請取次行政書士は代理人ではない,伝達役ということであれば,行政書士に依頼するメリットはないのでは??と思うかもしれません。

しかし,出入国在留管理局に対する入管手続きは他の行政手続きとは一線を画すほど,専門的で複雑な手続きです。
しかも,外国人の入国や在留を認めるかどうかは国に大きな裁量があり,重要な審査基準はほとんどが公開されていません。
闇雲に申請を行うことは,泥沼に足を踏み入れるようなものです。
効果的な資料を提出することと適切な手続きを踏むことが,入管手続きにおいては何よりも重要になります。

当社は創業以来,一貫して入管手続きを専門に行ってまいりました。
申請に少しでも不安がある場合は,お気軽に当社の無料相談をご利用ください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 仲野 翔悟

・日本行政書士会連合会(登録番号第23260654号)
・大阪府行政書士会(会員番号第8637号)
大阪府出身。大阪オフィスに所属し,外国人ビザ申請,永住権取得,国際結婚手続き,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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