渡邉 直斗

出国命令制度とは?

出国命令制度とは,平成16年の入管法改正に伴い創設された制度で,不法残留者のうち一定の要件を満たす外国人について,入管法に定める退去強制手続きによらず,出国を命ずることが出来る制度です。

出国命令対象者に認定されれば,
①法的に身柄収容をされないこと
②簡易な手続きで出国できること
③上陸拒否期間が1年になること というメリットを享受することが出来ます。

出国命令制度は,不法滞在者の迅速,効率的な出国を促す制度です。
そのため,出国命令対象者に認定されれば,多くのメリットが用意されています。

それでは,下記において出国命令制度の詳細を見ていきましょう。

1.出国命令制度の対象者になるには?

出国命令制度の対象者は,下記の全ての要件を満たす外国人とされています。

①速やかに日本から出国する意思をもって,自ら入国管理官署に出頭したこと。
②不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと。
③入国後に窃盗罪等の所定の罪により懲役又は禁錮に処せられていないこと。
④過去に退去強制されたこと又は出国命令を受けて出国したことがないこと。
⑤速やかに日本から出国することが確実と見込まれること。

(1)①速やかに日本から出国する意思をもって,自ら入国管理官署に出頭したこと。

出国命令制度の対象者の認定を受けるためには,自ら入管に出頭する(出頭申告と言います。)必要があります。したがって,入管や警察から摘発された場合には,出頭申告とは見られず,出国命令制度の対象者になりません。
また,速やかに日本から出国する意思が必要であることから,在留特別許可を求めて出頭申告した場合にも,出国命令制度の対象者とはなりません。

(2)②不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと。

出国命令制度の対象者は,いわゆるオーバーステイで日本に滞在している外国人に限定されています。

具体的には,
・入管法第24条2号の3(在留資格取消後の猶予期間経過)
・入管法第24条4号(在留期間経過)
・入管法第24条6号(特例上陸の期間経過)
・入管法第24条7号(在留資格取得未了の場合の在留期間経過)
のいずれかに該当する場合です。

そのため,不法上陸事案,刑事処分を受けた事案などは出国命令制度の対象にはなりません。

(3)③入国後に窃盗罪等の所定の罪により懲役又は禁錮に処せられていないこと。

日本へ入国後,下記の罪により懲役又は禁錮に処せられた場合には,出国命令制度の対象者にはなりません。

刑法第二編
・第十二章 住居侵入等
・第十六章から第十九章まで 通貨偽造等,文書偽造等,有価証券偽造等,支払用カード電磁的記録不正作出等,印章偽造等
・第二十三章 賭博等
・第二十六章 殺人等
・第二十七章 傷害等
・第三十一章 逮捕及び監禁等
・第三十三章 略取,誘拐及び人身売買等
・第三十六章 窃盗及び強盗等
・第三十七章 詐欺及び恐喝等
・第三十九章 盗品譲受け等

暴力行為等処罰に関する法律第一条、第一条ノ二若しくは第一条ノ三(刑法第二百二十二条又は第二百六十一条に係る部分を除く。)の罪
・第1条 集団的な暴行・脅迫・毀棄
・第1条の2 銃砲等による傷害
・第1条の3 常習的な傷害・暴行・脅迫・毀棄

盗犯等の防止及び処分に関する法律の罪
・第2条 常習特殊窃盗・強盗
・第3条 常習累犯窃盗・強盗
・第4条 常習特殊強盗致傷・強盗強姦

特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律の罪
・第15条 特殊開錠用販売・授与
・第16条 特殊開錠用具所持,指定侵入工具携帯

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の罪
・第2条 危険運転致死傷
・第6条第1項 無免許運転による加重

(4)④過去に退去強制されたこと又は出国命令を受けて出国したことがないこと。

出国命令制度は,身柄の収容を行わず,簡易に出国を認める特例的な制度です。そのため,違法滞在を繰り返している外国人には,出国命令制度の特例は認めないとするのが法の趣旨です。

(5)⑤速やかに日本から出国することが確実と見込まれること。

帰国のために必要なパスポート,帰国費用,交通手段等を確保していることが必要とされています。もっとも,オーバーステイの状態ではパスポートを作れない国もあるようです。そのような場合には,入管から出頭した際に受け取る「出頭確認書」(規則別記71号の2様式)をもって,日本にある領事館において,帰国のためのパスポートを作ることになります。

2.【重要】出国命令制度と在留特別許可の比較

入管に出頭をすると,帰国を希望するか,あるいは在留を希望するかを聞かれます。

日本に残りたい,という一心で正確な情報によることなく,在留希望を選択されている方も多いのではないでしょうか。しかし,在留希望をしたものの在留特別許可を得られなかった場合には,上陸拒否期間が5年になるなど,思わぬ結果を招くことがあります。

出国命令制度,在留特別許可のそれぞれのメリット,デメリット,そして可能性を理解して選択することはとても重要です。

下記において,出国命令制度と在留特別許可のメリット,デメリットを比較しています。
ご参照ください。

出国命令制度 在留特別許可の申出
メリット ①出国命令対象者に認定されたら法的に収容されない
②入管への出頭後,簡易な手続きで出国可能
③上陸拒否期間が5年から1年に短縮される
④自分のスケジュールで出頭,1年後の申請が出来る
①在留特別許可を得られれば継続在留できる
②元の生活環境を維持できる可能性がある
③対象がオーバーステイに限定されない
④摘発,逮捕を受けた場合にも申出ができる
デメリット ⑤1年後の入国が保証されているわけではない
⑥オーバーステイに限定されている
⑦違法滞在のリピーターは利用することが出来ない
⑧継続在留できる可能性はない
⑨出頭時に帰国希望を決める必要がある
⑤解決までの期間が読めずに長期化する可能性がある
⑥入管に長期収容される可能性がある
⑦在留特別許可を得られない場合には,
5年以上の長期の上陸拒否者になる
⑧住民登録がないので病院が実費診療になる
⑨就労することが出来ない
⑩社会的に不安定な立場になってしまう

3.【重要】出国命令制度OR在留特別許可はどのように判断すべき?

オーバーステイの方が入管に出頭した際,帰国希望か在留希望かを決定する必要があります。ここがとても重要な決断ポイントです。

なぜなら,在留希望をした後,在留特別許可が得られる可能性が低いと判断しても,手続きの途中で帰国希望へ変更することは出来ないからです。そのため,入管への出頭段階で,帰国と在留のメリット,デメリット,またそれぞれの可能性を理解しておく必要があります。

他の問題としては,在留特別許可の可能性についての判断です。この判断を行うには,入管法の理解はもとより,帰国した際に再度入国できる可能性,また在留特別許可の可能性などを比較し,専門的な知識をもとに多方面から検討する必要があります。少なくとも,日本人と結婚しているから大丈夫,子どもがいるから大丈夫などと安易に考えないようにして下さい。

専門的な知識を要するこの判断を一般の方が行うのは困難であると考えられます。安全な道を選択するためにも,専門家へご相談されることをお勧めします。

次に,専門家の選び方を記載します。

弁護士か行政書士,いずれに依頼するのが良いかとご質問をいただく事がありますが,入管業務を専門にしているのであれば,いずれの資格者でも問題ありません。重要なのは,入管業務を専門にしているかどうかです。

上記の選択を誤れば,その代償はあまりに大きく,出国命令制度を利用していれば1年の拒否期間で済んだ方が5年の上陸拒否者になってしまうこともあるため,注意が必要です。

4.出国命令制度のまとめ

オーバーステイの方,またご家族にとっては,帰国の道を選ぶのか,継続在留を目指して戦うのかというのは大きな決断です。

上述のとおり,ひとたび判断を誤れば,本来1年で済んだはずの上陸拒否期間が5年になってしまうこともあります。また逆も同じく,在留特別許可を得る可能性が高い場合であったにも関わらず,出国命令制度で帰国する道を選択してしまうこともあるでしょう。

大切なことは,正しい情報を知ること。
まずは,積極的に情報を取りにいくことが重要です。
その際には,インターネットの情報だけではなく,最新の入管実務に精通している専門家の意見も必ず聞くようにして下さい。

オーバーステイの状況を維持することは出来ません。
いずれ違反状態が発覚します。場合によっては逮捕されることもあります。
また,オーバーステイの時間が長くなれば,社会復帰に時間を要することも少なくありません。

入管への出頭をご決断いただく時期は,間違いなく早い方が良いです。
大切な人生の時間を決して無駄にはしないでください。

出国命令制度は,オーバーステイの方々へのいわば恩恵的な措置です。
出国命令対象者に認定されれば,その恩恵を受けることが出来ます。
逮捕,摘発されてからでは,出国命令の対象者になることは出来ません。

出国命令制度の利用を目指す方について,行政書士法人第一綜合事務所では出国命令対象者の認定を目指し,入管への出頭同行,1年後の再来日に向けたビザ申請をあわせてお受けし,多くの方の再入国を実現しています。

最初のご相談は勇気がいると思います。しかし,今であれば色々選択できることもあるはずです。

オーバーステイで悩んでおられる方は,ぜひ勇気を出してご相談してください。
じっくりお話をお伺いし,解決策をご提案させていただきます。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 渡邉 直斗

・日本行政書士会連合会(登録番号第19260365号)
・大阪府行政書士会(会員番号第7712号)
兵庫県出身。大阪オフィス長として,大学や自治体,企業向けのセミナーにも登壇。外国人ビザ申請,国際結婚,帰化許可申請などの国際業務を専門としている。

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