冨田 祐貴

【解決事例】経営管理ビザの手続きの流れ

日本の貿易会社に勤める韓国人のAさんは,退職して貿易業を起業したいと考えています。Aさんは,自身で会社を設立し,経営管理ビザを申請しようとインターネットで情報収集を始めました。事業計画書や取引先の資料などが必要という情報がありましたが,これからどのように準備していけばよいのかわからず途方に暮れてしまいました。そこで,Aさんは当社の無料面談にお見えになられました。
外国人が日本で事業を開始しようとする場合,経営管理ビザを取得する必要があります。Aさんは技術・人文知識・国際業務ビザで在留していますので,事業を始めるにはこれを経営管理ビザに変更しなければなりません。本稿では,経営管理ビザの在留資格変更許可申請を事例に,会社設立からビザ申請に至るまでの手続きの流れをご紹介します。その他については,経営管理ビザ 要件 にて詳細をご確認ください。

1.経営管理ビザの申請の流れ

① 会社の本店所在場所となる事業所の確保(個人名義での契約)
② 会社設立手続き
③ 会社設立後,税務署等への開業届出の手続き
④ 事業に必要な営業許可の申請
⑤ 会社の本店所在場所となる事業所について会社名義へ名義変更
⑥ 経営管理ビザ申請書類の準備
⑦ 経営管理ビザの在留資格認定証明書交付申請/在留資格変更許可申請

(1)事業所の確保(個人名義での契約)

経営管理ビザを取得するには,事業主名義(法人形態の場合は法人名義)で事業所を確保することが必要になります。もっとも,会社設立前の段階では,会社そのものがまだありませんので,個人名義でしか事業所を確保することができません。契約したい物件が見つかれば,ひとまず個人名義で契約し,会社設立後に法人名義に変更する旨を賃貸人に伝えておきましょう。

(2)会社設立手続き

会社設立手続きについては,「【事例解決】外国人が起業(会社設立)をする場合に知っておくべき事項」について詳細に記載しておりますので,ご参照ください。

(3)税務署等への開業届出の手続き

会社は設立登記によって成立しますが,事業を開始するには登記をして終わりというわけではありません。設立登記完了後は,遅滞なく税務署,市区町村,都道府県に法人設立の届出を行う必要があります。経営管理ビザ申請にあたり,入管に事業を開始する準備が整っていることを示すため,これらの届出の完了後の書類の写しを提出します。

(4)事業に必要な営業許可の申請

日本で行う事業が宿泊業,飲食業,不動産業,中古商品の輸出販売業など許認可が必要なものであれば,旅館業営業許可,飲食店営業許可,宅地建物取引業免許,古物商許可など必要な許認可を事前に取得してください。

(5)事業所の賃貸借契約の会社名義への変更

(1)のとおり,事業所を個人名義で賃貸借契約を締結しましたので,会社設立登記が完了後,経営管理ビザ申請前までに,賃貸借契約者の賃借人名義を会社名義に変更します。事業所を確保していることを立証するために,賃貸借契約書を提出することになりますが,その名義を会社名義にすることによって,会社が事業所を使用する権原を証明することになります。

(6)経営管理ビザ申請書類の準備

後述する「2.経営管理ビザ申請の必要書類」を準備して,入管に在留資格変更許可申請を行います。審査期間は概ね1ヶ月かかります。
許可の場合は新しい在留カードが交付され,同時に在留期間が決定されます。経営管理ビザの在留期間は,最長で5年で,3年,1年,4月,3月のうちいずれかが付与されます。会社設立をして初めて経営管理ビザを取得する場合,その在留期間は通常,1年の在留期間が付与されます。

2.経営管理ビザ申請の必要書類

経営管理ビザを申請する場合の必要書類については,所属機関(会社形態の場合は会社,個人事業形態の場合は個人)に応じ,カテゴリー1から4に分けて定められています。

カテゴリー1

①日本の証券取引所に上場している企業
②保険業を営む相互会社
③外国の国又は地方公共団体
④日本の国・地方公共団体認可の公益法人
⑤高度専門職省令第1条第1項各号の表の特別加算の項の中欄イ又はロの対象企業(イノベーション創出企業)
⑥一定の条件を満たす企業等

カテゴリー2

前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表中,給与所得の源泉徴収合計表の源泉徴収額が1000万円以上ある団体・個人

カテゴリー3

前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表が提出された団体・個人(カテゴリー2を除く)

カテゴリー4

カテゴリー1から3に該当しない団体・個人

共通する必要書類

① 在留資格変更許可申請書
② 写真(縦4cm×横3cm,3ヶ月以内に撮影されたもの)
③ パスポート及び在留カードの提示

カテゴリー1に該当する機関に所属する場合の必要書類

① 四季報のコピー又は日本の証券取引所に上場していることを証明する書類のコピー
② 主務官庁から設立の許可を受けたことを証明する文書のコピー
③高度専門職省令第1条第1項各号の表の特別加算の項の中欄イ又はロの対象企業(イノベーション創出企業)であることを証明する文書(例えば,補助金交付決定通知書の写し)
④上記「⑥一定の条件を満たす企業等」であることを証明する文書(例えば,認定証等の写し)

カテゴリー2及び3に該当する機関に所属する場合の必要書類

① 前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表のコピー(受付印のあるものの写し)

カテゴリー3及び4の必要書類

① 当該法人の登記事項証明書
※法人登記が完了していないときは,定款その他法人において当該事業を開始しようとしていることを明らかにする書類のコピーを提出してください。
② 定款のコピー
③ 株主名簿のコピー
④ 法人設立届出書のコピー(税務署,市区町村,都道府県に対するもの)
⑤ 事業計画書
⑥ 既に取引先と商談等を開始している場合は,取引先の名刺,合意書など事業を継続的・安定的に行うことができることを補強する資料
⑦ 事業所の賃貸借契約書のコピー(法人名義)
⑧ 事業所の写真
※ビルの外観,入り口,事業所ポスト,看板,事業所内の写真
⑨ ア)資本金が500万円以上の事業の場合
⇒500万円以上の資本金の出所を明らかにする書類
イ) 常勤従業員2人以上勤務する事業の場合
⇒国籍,在留カード番号,給与等を示した従業員名簿等
⑩ 役員報酬を決定した臨時株主総会/社員総会議事録のコピー
⑪ 許認可が必要な事業を行う場合は,許可証や免許証のコピー
※申請時に許可証等の準備ができない場合は,許認可の申請書のコピー
※既存の会社の場合には,上記の書類に加えて以下の書類を提出する必要があります。
① 直近年度の決算書
② 前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表

以上が経営管理ビザの申請における必要最小限の必要書類となりますが,事業を開始するに至るまでの経緯により準備しなければならない書類は異なってきます。また,上記の書類の中でも「500万円以上の資本金の出所を明らかにする書類」及び「事業計画書」は,経営管理ビザを申請するにあたり要となる書類ですので,入念な準備が必要となります。

3.今回の事例における必要書類

今回の事例についてみてみましょう。

Aさんは,株式会社の設立を希望しておりましたので,まずは株式会社の設立手続きから始めました。資本金は500万円,株主も役員もAさんだけの必要最小限の構成にしました。
設立は無事に完了し,次は入管への申請の準備です。新設法人での申請になり,前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表を提出できないケースですので,カテゴリー4に該当する必要書類を全て準備しなければなりませんでした。

法人登記簿謄本,定款,株主名簿等の会社に関する書類,賃貸役契約書等の事業所に関する書類の他,事業内容に関する書類を収集しました。特に事業内容に関する書類については,Aさんに経営経験がなかったため,事業計画を詳細に記載し,計画を裏付ける取引先の資料や契約書を収集しました。この点は,Aさんが貿易会社での勤務経験が活き,たくさんの資料を集めてくれました。
多くの資料を準備して在留資格変更許可申請に臨んだ結果,無事にAさんの経営管理ビザへの変更許可が認められました。

4.最後に

本稿では,会社設立から経営管理ビザの申請に至るまでの手続きの流れについて説明しました。入管局のホームページには経営管理ビザ申請に必要な書類が記載されていますが,そこに記載されている書類だけを提出すれば足りるというものではありません。経営管理ビザを取得するにあたっての要件を把握し,提出する書類でその要件を満たしていることを立証していかなければなりません。また,必要に応じて説明書を作成することも求められます。

当社は経営管理ビザの申請にあたり,お客様1人1人の状況についてヒアリングを行い,その状況に沿った必要書類を検討し,ご提案させていただいております。経営管理ビザの申請にあたりお困りの場合には,まずはご相談ください。

この記事の監修者

行政書士法人第一綜合事務所

行政書士 冨田 祐貴

・日本行政書士会連合会(登録番号第19261319号)
・東京都行政書士会(会員番号第14030号)
兵庫県出身。東京オフィス長として,企業向けのセミナーにも登壇。外国人ビザ申請,国際結婚,帰化許可申請など国際業務を専門としている。

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